はじめに
AWSクラウドへのリフト化を提示する際、要件定義を進める上でお客様への説明や、既存環境の運用(設計)担当者との認識共有のために、EC2を用いたAWS環境でのアーキテクチャ図を作成いたします。
AWSに理解のある方との認識共有では前述の図のみで十分ですが、以下の理由によりギャップ埋めのための説明を一段階踏む必要があると考えております。
①AWSはインフラ基盤のサービスであり、既存環境の置き換えを提供できることをお客様に納得していただくこと
②オンプレミス機器特有の名称(外部ストレージなど)に関する、現行環境の運用担当者-AWSのソリューションアーキテクト担当者間での認識合わせ
こちらの課題を解決する一手法として、実際に稼働している基盤機器類がどのAWSサービスに該当しているか、図示することなど考えられます。
用語について ※本記事では下記内容を示しているとご認識ください
・AWS環境:AWSクラウドに構築されたサービス群
・オンプレミス環境:データセンターに構築された環境
そこで本記事では、データセンターにホスティングされている一般的な基盤機器類を記したラック図より、AWSのアーキテクチャ図への落とし込みと対応するサービス類の考察をします。
またお客様がどちらの環境を選択する場合でも選択するための根拠は必須となりますので、リフト化というスコープに終始したAWS環境とオンプレミス環境それぞれの長所を述べております。
※発言の一切は個人の見解であり、所属する組織とは関係ありません。
オンプレミス環境とAWS環境の比較
AWSの技術者を対象として記事を書いておりますので、オンプレミス環境のラック図について説明した後に構成図の比較を行います。
オンプレミス環境について
リファレンス構成として活用できるよう、一般的なオンプレミス環境の設置機器類を記載しました。ただし、各基盤機器が持つ役割をより細かくAWSサービスと対比させるため、HCIを利用しない3Tier構成を採用しております。
また現実に即し重量の大きい機器下のユニットへと配置することや、オペレータが直接操作する機器類を中央付近に配置することとします。
なお、対応させるAWSサービスのアイコンに応じ色付けしております。
構成図の対比
前提条件
・AWS環境:東京リージョン、シングルZAにて表現
※マルチAZ、マルチリージョン構成など、AWSインフラとして提供されているサービスは可能な限り利用することを推奨
・オンプレミス環境:前述(オンプレミス環境について)のとおり
機器・サービス単位の比較
NW機器類・サーバ機器類・ストレージ機器類に分類し下記2点に基づく図表と考察を記載します。
①基盤機器-AWSサービスの対比と、置換えた機能について
②それぞれの環境で享受できるメリットについて
NW機器類
ラック内のサーバ類がアップリンク接続する際に通過する機器を対象としており、AWSサービスの特徴は下記となります。
・ELBなど独立したサービスのほか、VPCやサブネット構築時に内包されているサービスが比較的多いこと
・一部の機能を利用しない場合は対応するサービスを構成しないことで対応できること (例)NAPT機能の廃止 → NAT Gatewayの削除
お客様の観点より享受できるメリットは以下が挙げられます。
・AWS環境:ゼロトラスト・ネットワークの導入をアピールできること
・オンプレミス環境:保守業者を変えずに既存踏襲が可能であること
サーバ機器類
ラック内のサーバ類と、コンソール接続時に利用する機器を対象としており、AWSサービスの特徴は下記となります。
・リフト化であるためサーバはEC2に置き換えとなること
・コンソール接続について、リモートログインのみ可能でありユーザの権限管理も主要な要素に含まれること
お客様の観点より享受できるメリットは以下が挙げられます。
・AWS環境:サーバリソースの追加・削除が容易であり、機能検証の実施も早まる期待が持てること
・オンプレミス環境:既存踏襲の構築が可能であり、サービスに関するトラブル時のノウハウがそのまま流用できる可能性が高いこと
ストレージ機器類
顧客データの保管に利用する機器を対象としており、AWSサービスの特徴は下記となります。
・S3のオブジェクトストレージを、システムから独立したデータ保管環境を利用できること
お客様の観点より享受できるメリットは以下が挙げられます。
・AWS環境:遠隔地へのデータ転送やデータレイク、DHWの構築など中~大規模な設計が容易であること
・オンプレミス環境:LTOテープなど物理的なデータ保管が容易であること
まとめ
クラウドリフトというスコープに閉じた場合でも各々設計・構築段階での特長を持っており、お客様に対してのみでなく技術者間での認識合わせも大切であることを述べられたと考えております。
〇AWS環境の特長
・各々のサービスに付随する機能を利用することで、トレンドとなっている設計を実現できること
・地域的・機能的な大規模設計の実現や機能単位で利用の可否を選択が容易であること
〇オンプレミス環境の特長
・既存踏襲という最大の強みを生かすことができること
・特定の機能に特化した設計を行う場合に適していること
なお、クラウドリフトはあくまでお客様から理解を得るための過程であり、AWSサービスの利点を活用できている段階ではないです。
以降の過程で7Rを例とした複数ある移行内容の説明や、AWS強みを補強するクラウドシフトの提案を行っていく必要があります。
最後に
本記事に記載した比較図の作成・説明は付加価値的な内容であり、競合のいる状況下(パブリッククラウド間での比較検討段階など)で、AWSのSAとして心理的安心感をお客様へと与えたい場合に有効であると考えております。
また今後、AWS環境とオンプレミス環境では保守価格含めコストの嵩む部分が異なると考えられるため、価格の比較を考察します。
なお本記事の執筆にあたりご助言くださった皆様、誠にありがとうございました。
以上となります。