こんにちは。fursichです。
普段はフリーランスのバックエンドエンジニアとしてグロービスのサービス開発に参加させていただいています。
例年この季節はマニアックな技術解説を書いていたりするのですが、今回は毛色を変えて、チームで行った「模擬ユーザーインタビュー」について紹介していきたいと思います。
想定する対象
- 顧客の声を開発にフィードバックさせたいデザイナーやプロダクトオーナー、エンジニアなど
- インタビューやヒアリングをした経験があり、下記のような悩みを抱えている方
- 用意した質問は聞くことができるが、肝心なことが聞き出せてない気がする
- ユーザーの本音、インサイトをつかめない
- 顧客から感じているニーズを言語化してチームに伝えることが難しい
なぜユーザーインタビュー?
僕たちのチームでは、主に企業向けの新規サービスを開発しています。
新規プロダクト開発では多くの議論や迷いがおこるものですが、幸い営業担当者の頑張りもあって、ユーザー企業や見込み顧客にヒアリングをさせていただく機会があります。
数多くのインタビューを繰り返していく中で、「思ったよりうまく聞き出せなかった」、「聞きだせたつもりだったけど、不明点が残っていて議論が進展しなかった」・・といった課題が見えてきました。
インタビュースキルをブラッシュアップすることで、チームとしての仮説の精度をあげ、方向性への納得感を高めていくことでサービス開発を加速できるのでは?
ということで、デザイナーやBizサイドと一緒に実践的なワークショップをすることになりました。
お前はなんなの?
・・・ですよね。はい。
実は開発者になる以前のキャリアで、外資系の広告代理店でストラテジックプランニングという部門のヘッドをしておりました。
メーカーのブランドマネージャーだったり、日本法人や海外本社のマーケティング部署・調査部門の方々に、日本のユーザーの特徴について説明したり、商品開発時に消費者ニーズを探ったり、ブランドにかかわる問題があれば一緒に調査していくことが重要な仕事の1つになります。社員教育ということで、社内や顧客企業の若手マーケターなどを対象に基本的な考え方や技術を教えるということもあります。
デジタルサービスと消費財の違いはあれど、ユーザーインタビューから発見を得るという意味で、共通の技法や知識について伝えられることがあるかもしれない・・ということで、僭越ながらセンセイ役を仰せつかりました。
今日はその模擬インタビューの流れと、そこから得た気づきを共有したいと思います。
やったこと
参加者同士で模擬インタビューをします(時間の関係で1on1形式のデプスインタビューを各30分程度としました)
具体的な流れは以下のようになります。
1. ブリーフィング
事前に実在するサービスや企業における「仮想のプロジェクト」を設定します。
そのプロジェクトにおいて、解決したい課題をまとめたリサーチブリーフと言われる資料を用意します。
例えばざっくりいうとこんなことです。(もちろん実際はもっと長い)
「XXXという化粧品ブランドが20代の働く女性向けのファンを増やすために新たなサービスを開発したいが、そこには先行のYYYというサービスがすでにシェアを伸ばしている。そこで、競合サービスがターゲット女性の心をつかんでいる理由や価値を調べるとともに、まだ満たされていないニーズ領域をさぐりたい」
調査といっても、すでにプロタイプや制作物があって「A/B案どちらがいいのかを」ぶつけていく改善フェーズと、「そもそも何を作ればいいのかわからない」「なぜ問題が起っているのかがわからない」という探索型のフェーズがあると思います。
今回はまず商品の価値を探ったり、この商品が満たすべき根源的なニーズをさぐる、という探索型の課題を設定しました。
ブリーフには背景、調査目的、調査対象、調査項目、手法などの項目が並べられています。
インタビューで聞き出されるであろう内容と矛盾があってはならないので、ブリーフを作成する際にはマーケット状況を調べて、一定のリアリティを持たせます。
これを人数分です。(ここが一番大変)
また、本来は調査設計が決まってから対象者を絞り込むのですが、今回は対象者を全員にまんべんなくやってもらう関係上、インタビュー対象者も事前に設定しています。
2. インタビュー設計
参加者には自分の受けたブリーフに基づいて、30分ほどのインタビューを設計してもらいます。
バイアスを避けるために、対象者は調査テーマについては知らされていません(本人への事前ヒアリングなども禁止)
具体的にはインタビューフロー、ディスカッションガイドなどと呼ばれる会話のガイドラインを作成してもらいます。
ぶっつけ本番はさすがにキツイので、調査設計を作成した時点で何度かレビューを行い、ブラッシュアップをします。
(余談ですが、外部の調査会社にインタビューを依頼する際は、設計やフローの時点でつっこんだやり取りが行われ、目的と調査内容とのすり合わせを行います)
3. インタビュー実技
まずインタビュー会場に話しやすい環境を作ります。
会場というと会議室のようなものをイメージしがちですが、たとえば子供相手だと子供目線で話せるマットの上だったり、サッカー部員たちと話す時は芝生の上だったり、コンテクストに応じて相手が話し易い環境をつくれればそれがいいと思います。
今回はオープンに話せるチーム同士だったこともあり、広い会議室に全員が入り、ホワイトボードで簡易的に周囲を囲った「会場」を設定しました。
終了後は、インタビュアーから自分が設定した事前のテーマの説明、それに対するサマリーを発表してもらいます。
その結論に対して、「それってつまりこのサービスとしてはAとBのどっちでいけばいい、ということなの?」「もしかしたらXという解釈もあると思うんだけどそこはどう考えるの?」という質疑が入ります。
最後に、対象者を含む全員から、気づいたことや感想をフィードバックするという形をとりました。
これに気をつけるとインタビューの質が上がるTIPS4つ
フィードバックをしている中で、共通して見られるパターンがあるように思いました。
以下に、みなさんのインタビューでも気をつけるといいかもしれないことを列挙してみます。
もう一段、食い下がってみる
質問の回答をただ拾って終わると、アクショナブルでない結果に終わることが多々あります。
「アクショナブルではない」とは、具体的にビジネスや開発で行動を起こすことができないタイプの「使えない」結果のことです。
これを防ぐ一つのコツは、とくに*否定的に終わった回答にもう一段仮定の質問をたたみ掛けてみるということです。
具体的にたとえると・・
Q: なぜスタバではなくコンビニコーヒーを利用するのですか?
A: 値段が安い方がいいので
ここで終わってしまうと、調査分析に書くことは「値段が高いため購買意向が低かった」くらいです。
仮にスタバの調査だとして、これがわかったとて何ができるわけでもありません。(おそらく100円になることはない)
ここでもう少し仮定の質問を入れて食い下がってみると、本音が得られるかもしれません。
Q: ではスタバがもしコンビニコーヒーと同じ値段だったらどうしますか?買いますか?
ここで、もし対象者が
「あ、同じだったらスタバ買いますね。でもちょっと特別感がなくなって嫌かもしれない」
と言ったなら、この人はスタバには特別感・プレミアム感を感じているが、日常的に飲むコーヒーではないと感じていることがわかります。これは値段だけではなく、イメージ(レレバンシー)の問題があるのかもしれません。
「うーん。でもコンビニだとタバコを買って外で一服できるじゃないですか。コーヒーだけ安くてもちょっと・・」
と言っていたら、この人がリラックス目的で求めていたものは実はタバコであって、コーヒーはその付随物、という背景があるかもしれません。この場合は、この人を振り向かせようという努力はあまり意味がなさそうです(値段を下げなくて良かった!)
本当にしりたい内容は2つにしぼる
最初の設計時点でほとんどの人が時間オーバーをしそうになっていました。
30分調査では、各種説明やラポール形成といったウォーミングアップ作業に5-10分弱は取られます。(グループインタビューならもう少し伸びる)
細かい質問は別として、調査で確認することができるテーマは30分ならたかだか2つくらいになります。
実際の調査であっても、通常1on1なら1.5時間くらいが限界でしょう。調査対象が疲れてくると回答の精度がどんどん落ちていくため、長い調査は後半かなり雑な回答になることも予想されます。つまり、調査とは言っても探れるテーマはたかだか5・6個が限界です。
自分たちが本当に知りたいことは何か?ということを掘り下げておくのはもちろんのこと、下調べや事前調査をすることで仮説の精度を上げておき、相手に聞いてみなくてはわからないテーマをなるべく絞り込んでおくのも大事だと思います。
総論ではなく、個別の具体例を数多く聞き出す
こちらは手早く一般的な結論を得たいので、ついつい総論を聞いてしまいますが、具体例を得た方が答えてもらいやすく、かつ両者の話の内容が「同じこと」をさしていることがわかりやすいため生産的です。
とくに行動を伴わないような思考や概念、イメージの連想については総論でもいいのですが、こと「行動」については具体的なエピソードを1つでもいいので聞き出して、その話をアンカーにおくのがいいと思います。
たとえば、「恋愛」と聞いて思い浮かぶことは何ですか?という質問は、思考や連想についての質問なので総論でも答えやすいですが、「あなたの恋愛がうまくいかない原因は何ですか?」という話は、抽象的な話になり、インタビュアーが勝手に解釈してしまう余地の多い話になりそうです。こういう場合は個別の失敗エピソードを1つずつ掘り出すのがいいでしょう。
行動の記憶を聞き出す時は、対象者の順序に合わせる
たとえば子供の目撃談を聴取することをイメージしてもらうといいのですが、人が記憶について話しやすい順番として、時系列に話すのが一番楽です。
我々は聞きたいテーマに関係ある瞬間だけをピンポイントで取り出したくなるのですが、過去の行動を知りたい時はまず少し前から時系列でヒアリングを進めるのがいいと思います。
「ふんふん、それから・・・?」「それで何をしたの?」「そのあと何がおきた?」
さらにポイントポイントで、と5W1Hを掘り下げるといいでしょう。
「それはどうして?」「そのときどう思ってたの?」「それは誰から聞いたの?」
できれば話が散逸しないように、紙やホワイトボードに時系列のグラフを描いてもらい、お互いに指差しをしながら会話をメモしていくのはとても使えるテクニックです。
まとめ
インタビュー技術は、どうしても経験による暗黙知の要素が多いものです。
とはいえ時は金なりの開発現場において「場数をふもう」という話は現実的ではなく、シミュレーションは上達への近道になるのでおすすめです!
またこういって知見を共有して勘所を言語化する機会があったのは、僕にとってもありがたいことでした。
とくに改善を感じたのは以下の通りです。
自分の話し方のくせ・傾向がわかる
たとえばはっきり主張を伝えられる自信家タイプだと、話が脱線しそうになっても、うまくレールに戻して時間内に会話を進め切る力が強いという長所があります。一方で自分の思い込みから、知らず知らずのうちに相手を自分の望ましい方向に誘導してしまっているかもしれません。
逆に優しく控えめなタイプだと、相手のセンシティブな話や曖昧な話を引き出すことが上手ということが強みになりますが、逆に相手が聞かれたくなさそうな本音の部分にズバッと切り込むのは得意ではないかもしれません。
どちらがいいということはなく、正しく自分の傾向を知ることで、うまくインタビューをコントロールすることができるようになります。
自分一人ではこの辺の陥りがちな罠に気づきにくいものですが、周囲のフィードバックがあることで癖に気づくことができるのがメリットだと思いました。
会話の「プランB」を用意する習慣が身につく
たとえば、インタビュアーをしていて怖いことの一つに、「全然違う流れに脱線して、会話を戻せなくなった」「想定外の反応だったので、頭が真っ白になった」ということがあります。
これは反射神経の問題に感じられますが、実はほとんどのケースは事前に簡単な検討をすることで対応することができます。
今回は僕がインタビューフローで想定されているやり取りに対して、「もしかしてこういう答えもあると思うのだけど、その時はどうする?」といった投げかけをすることで、別の可能性を考えるということをやってみました。
インタビュー当日は実際に想定外の流れも頻発したのですが、みんながかなり落ち着いて会話をハンドリングできているように思いました。
複数のシナリオを準備するための勘所を身に着ける意味でも、この試みが多少なりとも役に立ったかなと思いました。
調査におけるPDCAの回し方がわかる
調査におけるニワトリ・タマゴ問題のような話ですが、ユーザーを深く見ていくためには、まず調査対象を絞ったり、ある程度の前提仮説を絞ることが必要です。そのためには、そもそもユーザー全体がどういうそうセグメントに別れているのかという知識が必要です。そのためには、ターゲットユーザー層の行動や思考、商品との関わりなどを調査しなければなりません。
つまり、調査一発でユーザーについて知りたかったことが全てわかることはまれで、調査設計→実査→分析→設計の修正→・・・と繰り返していくことで、ターゲット理解の精度が高まってくるものです。
今回は略式ながらこのサイクルを一周回してもらうことで、今後自走していくためのベースができたかなと思っています。
今後について
上で書いたような収穫が多かった反面、企画側としてはいくつかの課題も感じました。
とくに感じたのはブリーフィングまわりです。
今回は、想定している対象者ごとに、深い話が聞けそうなジャンル・商品を設定して、そこでマーケットの状況に合わせた架空のプロジェクトを設定しました。本人には聞けないので、その人がどんなカテゴリーに詳しそうか、どんな商品・ブランドを愛用していそうか・・・というのはマーケターとしてのカンですw(だいたいあたった)
おかげで対象者にしか知り得ない面白いエピソードがたくさん掘り出せて楽しい課題にはなったと思うのですが、なにしろブリーフの準備が大変でした。しかもターゲットに依存するテーマなので、使い回しが効かないという悲しいハナシもあります。
なので、もし今後これをやるとしたら、テーマを緩めて万人が答えられるようなテーマを選ぶのがオススメです。
たとえば、仕事やキャリア観、理想の老後、人生観・結婚観、健康・・などなどです。
注意点としては、「ただ人生観を聞いておわり」になってしまうと、実戦ではあまり役に立たない調査になってしまうかもしれません。
そこで、なんでもいいので関連するサービスや商品をつくっている、という設定だけはつくるのがいいかもしれません。
たとえば転職サイトやマッチングアプリの新規開発(いまさらですが・・)としてもいいですし、はたまた「シニア向けのシェアハウス」みたいな突拍子のない課題も良さそうです。
あと困ったら食品・飲料まわりはいいかもしれません。食べ物は大体の人が好きだったりするので。
参考文献
最近の質的調査手法のリフレッシャーとして以下の文献に目を通しました。
マーケティング・インタビュー―問題解決のヒントを「聞き出す」技術
* インタビュー時の会話の運び方などの暗黙知になりがちな細かなテクニックが言語化されています
The Qualitative Interview in Marketing and Consumer Research: Paradigmatic Approaches and Guideline
* 近年の歴史と手法をめぐる二大潮流についてよくまとまっていました。概念のリフレッシャーとして読みました
マーケティングリサーチとデータ分析の基本
* 著者はネット調査会社の本部長ということで、主に定量調査向きでした
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上でご紹介したように、僕の所属している新規開発チームは、bizやデザイナー、開発の垣根を越境したりされたり、壁を作ることなくワイワイと、でもとっても真剣にSaaSの開発をやっています。
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