はじめに
「xx社が減損損失を計上」みたいなニュースを目にすることがたまにある。一般的に減損は「良くないこと」と考えられがちだけど、実はそうとも限らないケースもあるということを、減損全般の説明を交えてしていきたいと思ンゴ。
ちなみに細かい話にはなるけど、減損の対象には固定資産、有価証券、のれんがあって、今回は固定資産の減損について話をしていく(有価証券とのれんの減損についてはそこまで詳しくないシンよ)
減損とは?
用語の整理
減損
減損は「固定資産の収益性の低下により、投資額の回収が見込めなくなった状態」をいうらしい。
B/Sに計上されている資産の評価額を財務諸表の利用者がみるとき、少なくもその評価額を上回るキャッシュがその資産の使用によってもらたされると期待すると考えられる。けどビジネスの環境の変化などで将来得られるキャッシュが資産の評価額を下回ることが分かった場合、過大計上になってしまうから、「回収できる分にまで減額して、差額を損失計上しましょう。」というのが減損の意義ということらしい。
でもこの定義が実は厄介。減損会計ではこの定義に必ずしも当てはまらないケースも対象になるからで、そういうケースについて考えるのがこの記事の核心だったりする。
減損会計
日本の会計基準やグローバルな会計基準で定められている減損についての具体的な会計ルールと、それに従って行われる会計的な処理をさす。
- ASBJの「固定資産の減損に係る会計基準」
- ISABの「IAS 36 Impairment of Assets」
etc...
減損損失
減損会計のルールに照らすと減損を財務諸表に反映しなればならないということが分かった場合に損益計算書(以下P/L)に計上する費用のこと(ここでいう費用とは、P/Lにおけるマイナス項目という広義の意味)
使用価値
固定資産の使用と使用後の処分によって生じる将来キャッシュフロー(以下、将来CF)の割引現在価値合計。
例えば資産Aについて1年後使用により100、2年後使用による100と売却による100の将来CFが見込まれ、割引率を5%とすると、
使用価値 = 100/(1.05)^1 + 200/(1.05)^2
と算出される。文字通り資産の使用という視点でみた資産の価値を意味する。キャッシュは貨幣の時間価値を考慮する必要があるので、単純合計ではなく現在価値に割り引いてから合算する。
正味売却価額
資産の時価から処分費用見込み額を引いた金額。つまり「今資産を売ったらいくらか」ということ。
回収可能価額
使用価値と使用価値のいずれか高いほうの金額。
小難しい話が続いているのでいったん休憩
ぱーーーーーーーーーーお!!!
現行の減損会計はどんなものか
用語が分かったところで、設例を使って日本のルールとグローバルなルールがどうなっているかをみていくンゴ。
日本のルール(日本基準)
①減損の兆候があるかを判定
全ての固定資産について減損の認識を判定するのではなく、まずは「減損の兆候」なるものがあるかを判定する手順になっている。この判定をクリアしなかった資産については減損の認識の判定は行わない。
日本のルールでは、減損の兆候の例として以下の事象が挙げられている。
- 資産が使用されている営業活動から生じる損益またはCFが継続してマイナスになっている
- 資産が使用されている範囲または方法について、当該資産の回収可能価額を著しく低下させる変化が生じた
- 資産が使用されている事業に関連して、経営環境が著しく悪化した
- 資産の市場価格が著しく下落した
②減損の認識の判定
減損の兆候がみられる資産については、減損の認識の判定に進む。
資産の使用によって生み出される将来CFと、耐用年数終了時に資産の売却によって得られる正味収入(売却価額から売却費用を引いた額)の合計(将来CF合計)と資産の簿価を比べて、簿価が将来CF合計を上回る場合に減損を認識する。
簿価 - 将来CF合計 > 0
⇒減損を認識
③減損の測定
減損が認識されたら、減損損失の額を決める。減損損失は、簿価から回収可能価額を引いた値と定められている。
減損損失 = 簿価 - 回収可能価額
設例-1)
A社は前期首に機械Aを購入した。取得原価は1,000万円で、減価償却は耐用年数10年、残存価額0円の定額法で
行っている。今期末に機械Aについて減損の兆候がみられたため、減損の認識を判定することとなった。
機械Aの将来CFは、残存する8年の耐用年数の各年につき110万円で、
使用後の処分収入は210円万、処分費用は10万円と予測される。また使用価値算定に用いる割引率は3%が
適切とし、正味売却価額は500万円とする。
簿価は
1,000 - {(1,000 - 0) / 10} * 2 = 800
割引前将来CFの合計は
110 * 8 + (210 - 10) = 1,080
よって
簿価 < 割引前将来CF
のため、減損は認識されない。
設例-2)
設例-1の機械Aについて、減損の認識を判定する基礎となる将来CFは残存する8年の耐用年数の各年につき90円万
で、あとの条件は設例-1と同様。
簿価は設例-1)と同じく800円。割引前将来CFの合計は
90 * 8 + (210 - 10) = 920
よって
簿価 < 割引前将来CF
のため、減損は認識されない。
設例-3)
設例-1の機械Aについて、減損の認識を判定する基礎となる将来CFは残存する8年の耐用年数の各年につき60円万
で、あとの条件は設例-1と同様。
簿価は設例-1)と同様。割引前将来CFの合計は
60 * 8 + (210 - 10) = 680
よって
簿価 > 割引前将来CF
のため、減損が認識される。
次に測定。使用価値は
60/(1.03)^1 + 60/(1.03)^2 + ... + {60+(210-10)}/(1.03)^8 ≒ 579
よって
使用価値 > 正味売却価額
のため回収可能価額は579円となる。簿価から回収可能価額を引いて
800 - 579 = 221
となるため、減損処理の仕訳は以下となる。
借方 | 貸方 |
---|---|
減損損失 221 | 機械A 221 |
グローバルなルール( IFRS)
①減損の兆候があるかを判定
グローバルなルールでも、まずは減損の兆候があるかを判断するのはも日本のルールと同じなんだけども、ルールで挙げられている減損の兆候の内容が異なる。
- 企業外部の情報
- ・資産の市場価値の著しい下落
- ・経営環境の著しい悪化
- ・市場金利の上昇
- ・純資産の帳簿価額が時価総額を上回っている
- 企業内部の情報
- ・資産の物理的損傷
- ・資産の陳腐化、遊休化など
- ・資産の経営損益の著しい悪化
②減損の認識の判定と測定
日本のルールでは、認識は割引前将来CF、測定は回収可能価額と別の指標を用いているのに対して、グローバルなルールでは回収可能価額という同じ指標を使うため、認識と測定を同時に行うことになる。
簿価 - 回収可能価額 > 0
⇒減損を認識
減損損失 = 簿価 - 回収可能価額
設例-1)※日本のルールと同じ設例
A社は前期首に機械Aを購入した。取得原価は1,000万円で、減価償却は耐用年数10年、残存価額0円の定額法で
行っている。今期末に機械Aについて減損の兆候がみられたため、減損の認識を判定することとなった。
機械Aの将来キャッシュフロー(以後将来CF)は、残存する8年の耐用年数の各年につき110万円で、
使用後の処分収入は210円万、処分費用は10万円と予測される。また使用価値算定に用いる割引率は3%が
適切とし、正味売却価額は500万円とする。
簿価は
1,000 - {(1,000 - 0) / 10} * 2 = 800
使用価値は
110/(1.03)^1 + 110/(1.03)^2 + ... + {110+(210-10)}/(1.03)^8 ≒ 930
よって
使用価値 > 正味売却価額
のため回収可能価額は930。
よって
簿価 < 回収可能価額
のため、減損は認識されない。
設例-2)※日本のルールと同じ設例
設例-1の機械Aについて、減損の認識を判定する基礎となる将来CFは残存する8年の耐用年数の各年につき90円万
で、あとの条件は設例-1と同様。
簿価は設例-1)と同じく800円。使用価値は
90/(1.03)^1 + 90/(1.03)^2 + ... + {90+(210-10)}/(1.03)^8 ≒ 790
よって
使用価値 > 正味売却価額
のため回収可能価額は790。
よって
簿価 > 回収可能価額
のため、減損が認識される。
次に測定。簿価から回収可能価額を引いて
800 - 790 = 10
のため、となるため、減損処理の仕訳は以下となる。
借方 | 貸方 |
---|---|
減損損失 10 | 機械A 10 |
設例-3)※日本のルールと同じ設例
設例-1の機械Aについて、減損の認識を判定する基礎となる将来CFは残存する8年の耐用年数の各年につき60円万
で、あとの条件は設例-1と同様。
簿価は設例-1)と同じく800円。使用価値は
60/(1.03)^1 + 60/(1.03)^2 + ... + {60+(210-10)}/(1.03)^8 ≒ 579
よって
使用価値 > 正味売却価額
のため回収可能価額は579。
よって
簿価 > 回収可能価額
のため、減損が認識される。
次に測定。簿価から回収可能価額を引いて
800 - 579 = 221
のため、となるため、減損処理の仕訳は以下となる。
借方 | 貸方 |
---|---|
減損損失 221 | 機械A 221 |
日本のルールとグローバルなルールの違いについて
設例からみた違い
日本のルールとグローバルなルールについて、認識と測定で用いる指標と、各設例で減損が認識されたかをまとめると以下のようになる。
設例-2)で日本のルールとグローバルなルールで結果が異なるのは、認識で用いている指標が違うからだ。
グローバルなルールの認識で用いられる回収可能価額とは、使用価値と正味売却価額のいずれか高い金額のことだったが、継続的に事業で使用することで投資資金を回収していくことが見込まれる固定資産の場合、通常は使用価値のほうが高くなるらしい(正味売却価額のほうが高ければ使用せず売却してしまうはずだからという説明がよくされる)。
なので回収可能価額は使用価値と読み替えられるんだけども、これは日本のルールの認識で用いられている割引前将来CF合計を現在価値に割り引いたものだから、必ず
回収可能価額(使用価値) < 割引前将来CF
となる。
ここで、減損の認識では簿価が回収可能価額や割引前将来CFより上回っているかを判定するのだったから、認識の指標に(使用価値と比べると相対的に値の大きい)割引前将来CFを用いる日本のルールのほうが認識の判定が厳しいといえることになる。設例-2)で、グローバルなルールの減損が認識されて、日本のルールでは認識されないのはそういうことンゴ。
※減損の戻入れについてはこの記事とはあまり関連性がないため割愛する。有識者ゴメン。
本題:「減損=投資額の回収の不能」は本当か
日本の基準とグローバルの基準で減損会計の制度がどうなっているのかが分かったところで、いよいよ本題に入るンゴ。
記事の最初で、減損は「固定資産の収益性の低下により、投資額の完全な回収が見込めなくなった状態」をいうと紹介したけども、これは本当にそうなんだろうか。
解説
ここで再び設例を考えてみる。
設例-4)
A社は6年前(0期)に機械Aを購入した。取得原価は1,000万円で、減価償却は耐用年数10年、
残存価額0円の定額法で行っている。今期(6期)末に機械Aについて減損の兆候がみられたため、
減損の認識を判定することとなった。機械Aの将来CFは0期に255万円で、その後耐用年数まで
毎年25万円ずつ低減していく(=255万円、230万円…)。使用後の処分収入と処分費用はいずれも
0万円と予測される。また使用価値算定に用いる割引率は3%が適切とし、正味売却価額は200万円
とする。A社は会計にグローバルなルールを適用している。
まずこのケースにおける使用価値の推移を考えてみる。
0期:255/(1.03)^1 + 230/(1.03)^2 + ... + 30/(1.03)^10
1期:230/(1.03)^1 + 205/(1.03)^2 + ... + 30/(1.03)^9
・・・
・・・
という具合の計算になる。こうして計算した各年度の使用価値(Value in UseでVUと略す)と簿価(Book ValueでBVと略す)の推移をグラフ化すると以下のようになる。
すでに紹介したけども、通常使用価値は正味売却価額よりも高いため、使用価値=回収可能価額と置き換えてよいのだった。
そうすると、今期(6期)においては
簿価 > 回収可能価額
となるため、グローバルなルールを適用するA社の機械Aは減損損失が認識されることになる。
ここで注目すべきなのは、将来CFの見積もりは当初と変わらず、資産取得時の回収可能価額が取得原価(0期の簿価=取得原価)を上回っているという意味で採算が取れる投資であることには変わらないにも関わらず、将来CFの流入が耐用年数の初期にかたよっているために減損が認識されてしまったということンゴ。
なぜこういうことが考えられるのかというと、減損の会計基準ではあくまで今期から耐用年数までの将来CFの合計と簿価を比べているからで、過年度のCFも勘案して投資期間を通しての回収可能価額を計算して取得原価と比べた場合、当初の見積もりと変わらなかった、もしくは下方修正されるけども依然として回収可能価額のほうが取得原価を上回っていた、というケースもありうる(図の0期のVUが少しBV方向に下がるイメージ)。特にグローバルなルールでは設例を交えて確認した通り、減損の認識に割引前将来CFではなく回収可能価額を用いる分日本のルールよりも減損が認識されやすいのだった。
根本的な問題
このようなケースの場合、減価償却方法として定額法を選択するべきではなかったという話になってくる。減価償却はPL的な観点でいうと正しい期間利益を算出するためにする会計処理なので、将来CFの流入が初期に偏っているのであれば、設例の資産Aは「初期の収益に多く貢献している=価値の費消が初期に多い」という事実を反映させるため、発生主義と費用収益対応の原則にのっとって定率法や級数法など初期に減価償却費が多くなる償却方法にするべきンゴよね。試しに下の図のように減価償却方法を級数法にしてみると、耐用年数を通して簿価が回収可能価額を上回ることはない。
設例-4)のような減損とは何なのか
設例-4)のようなケースの減損が何を意味するかなんてない。将来CFが当初の予測通りなのであれば、耐用年数までの通算の利益も変わらないので、そうである以上減価償却の前倒し計上みたいな性質でしかなくなってくる。減損を認識した場合の耐用年数を通しての簿価のカーブは下の表の紫線のようになる。
これを見ると分かるように、減損損失を計上すると、来期以降の簿価の減り方が緩やかになる。つまり減価償却費の負担が少なくなるので、ビッグバス(費用、損失のたぐいを一度に計上することで、来期以降利益がV字回復しているように見せる会計テクニック)と似ている。
場合分け
ここで場合分けして整理しておく。
-
将来CFの予測に変化はなかった設例-4)のような場合
⇒単にルールに沿って減損の会計処理をしているだけ。通算の利益にも変化はないので悲観的に
なる必要なし。減価償却の方法が適切とはいえない時点で詰んでるから減損してもしな
くても正直どっちでもいい。 -
将来CFの収入が減る見込みだが、投資期間全体を通してはまだ採算が取れる場合
⇒投資の回収が不能とはいえないけども収益性の低下とはいえるし、アラートを発信す
るのは悪いことではないので損失計上することに意味はありそう。 -
将来CFの収入が減る見込みで、投資期間全体で計算しなおすと採算割れになる
⇒ちゃんと(?)減損しちゃってる。簿価が過大計上なのは明らかなので回収可能価額
まで減額することに大変意味がある。
ラスボスはお前だ
こうしてみると気になるのは「本当に設例-4)のようなケースがあるのかどうか」ということ。なぜかというと、減損会計では減損の認識の判定に先立って、減損の兆候を判定しているからだ。減損を認識した資産は全て減損の兆候が確認された資産なので、少なくとも将来CFの流入が減る見込みにはなっているのではないか、ということンゴね。
これに関しては正直どうなのか判断できないのだが、例えばグローバルなルールでの減損の兆候の例をもう一度見てみると、「経営環境の著しい悪化」、「資産の陳腐化」など定性的なものもある。また「資産の市場価値の著しい下落」というのも挙げられているが、これに関しても一時的に供給過剰になっただけということもあるかもしれない。
いずれにせよ「減損の兆候がある場合、将来CFの予測は必ず下方修正されるものなのか」という点がポイントになってくる。
減損の兆候よ、ラスボスはお前だ。
こればっかりは経理や監査の実務を経験したことのない自分には分からない。もしかしたらそういった実務家でさえも容易ではないのかもしれない。知らんけど。