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BitcoinAdvent Calendar 2014

Day 23

外部不経済の行方

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ビットコインのようなproof-of-work型の分散システムは、計算資源への過剰投資が発生し、その意味で必ず外部不経済が発生することが知られています。経済学における外部不経済とは、事業者の経済活動に対して、事業者以外が支払っているコストが限界費用を押し上げる効果のことです。例えば、公害を撒き散らす企業があったとして、環境への悪影響を顧みず商品を製造して売る場合、製品の価格に環境配慮のコストは織り込まれません。このように、売り手と買い手が負担しないコストを外部が負担している場合に、外部性という言葉を使います。経済学者のピグー(1877-1959)は、適切な法規制をかけ、環境に負荷をかけない形で製品を市場に出し、その分のコストを価格に織り込めば、外部不経済を回避できるとしました。もし、ビットコインが外部不経済を内包するのであれば、事業者が負担していないコストで、限界費用を押し上げるメカニズムがあることを指摘する必要があります。

さて、半年以上前の2014年4月21日に発行された日経ビジネスで、「国家に突きつけられた挑戦状」という副題を付けたビットコインの特集が組まれました。その中で、ビットコインの懐疑派と推進派の意見の対立軸が列挙され、マイニングによる環境への影響が取り上げられました。

懐疑派 ビットコインの採掘(マイニング)はいつか破綻する。電力消費も大きく、地球環境への負荷が大きい。
推進派 計算量は需給で調整されるため、持続可能だ。既存の非効率な銀行システムに比べ、環境負荷も小さい。

銀行と分散型システムのどちらがより効率的な決済機能を提供しているかは、通常だと、取引手数料を比較することで決着します。より効率的な事業者の取引手数料がより安くなるからです。しかし、ビットコインは、新規コイン発掘競争と取引認証を一体化しているため、この比較方法は公平ではありません。そこで、電気代などの資源消費と発掘されるコインの期待値がバランスすると仮定した上で、マイニング産業の総収入を計算します。それを取引件数で割ることで、1取引当たりの資源消費量を導き、これを銀行の取引手数料と比較してみることにします。以下は、2014年12月22日時点での概算です。

ビットコインの時価 1BTC当たり300〜400ドル
発掘コイン数 1回当たり25BTC
発掘競争回数 1日当たり144回
取引件数 1日当たり9万件
マイニング産業の総収入 時価×発掘コイン数×発掘競争回数=108〜144万ドル/日
資源消費量 総収入÷取引件数=12〜16ドル/件

計算結果から、1取引当たり1200円から1600円程度の資源消費が発生しているということがわかります。これは日本からの海外送金の典型的な取引手数料である4000円と比べてやや安い程度の水準です。という訳で、現状では、既存の銀行決済システムがビットコインよりも非効率だと一刀両断することはできません。また、ビットコインの約9万件の取引の中には、ミキシングサービスのような匿名性を高めるだけの送金処理などが含まれており、実質的な経済活動に寄与する取引の実数について正確なところはわかりません。送金するユーザの立場から見れば、取引手数料がほぼ無料のビットコインはありがたい存在ですが、ビットコインシステム自体が効率的だと主張するためには、クレジットカード並みの1日1億件程度の取引件数が必要になってくるでしょう。マイニング産業の総収入の変動なしで、この取引件数を達成したならば、無駄な計算で資源の浪費をしているという非難の幾分かは緩和されるのではないでしょうか。

ここで、もう一つの論点である計算量の話に移ります。計算量が需給で調整され、採掘が持続可能であるというビットコイン推進派の主張には概ね同意できます。ただし、2016年の6〜8月頃にコインの供給量が半減すると見られており、その際、ビットコインの価格上昇のタイミングに遅れが生じると、採算が悪化したマイナーが多数退場してしまう可能性があることは知っておく必要があるでしょう。それから、計算量の歴史的推移を論じた資料として、イングランド銀行が発行する2014年9月の論文を挙げておきます。7ページ目に、1アドレス当たりの計算量がログスケールでプロットされており、ほぼ一貫して計算量が増大していく様子を確認できます。専用採掘機の技術革新のスピードが速く、ビットコイン経済圏がまだ発展途上であることを考慮すると、この図から計算資源への過剰投資という結論を導き出すのは難しいと言えます。

proof-of-work型の分散システムにおいて、計算資源への過剰投資が発生するメカニズムは次のようなものです。まず、あるマイナーが限界収入の増大を狙って計算資源に投資します。他のマイナーも同様に計算資源に投資するため、全体の計算量が有意に増大し、最終的にdifficultyを上昇させ、限界費用の増大を齎します。各マイナーは、自分の投資が他のマイナーにとっての外部不経済の要因になることを考慮しないので、マイニング産業全体としては計算資源への過剰投資になってしまいます。これが、各マイナーが負担しないコストで限界費用を押し上げるメカニズムです。この理論を、歴史を刻み始めたばかりのビットコイン経済圏に適用するのは不可能ではないかというのが、私の意見です。

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