この記事はリンク情報システムの「TechConnect!2022年2月」のリレー記事です。
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6日目らしいです。西洋的には悪魔の数字ですね。頑張りました。許してください。
Webサーバー神話大系
〇
汝にかかわりなきことを語るなかれ
しからずんば汝は好まざることを聞くならん
〇
・倦怠
この冬、私は杉並の自宅でそこそこ懊悩していた。アドベントカレンダーの記事執筆を依頼されたはいいものの、次に何を題材に書くべきかわからなかったのである。アドベントカレンダーの記事執筆を依頼されたのは去年のクリスマス前後だった。それから今まで何を考えるわけでもなく、怠惰の代名詞に昇り詰めようかと言わんばかりに怠惰に怠惰を重ね、現在の私に至る。倦怠という言葉を使うのが憚られるこのご時世だが、私の今の状態は何をしたわけでもないのに倦怠であった。何故こうなるまで放っておいたのだ。責任者に問いただす必要がある。責任者はどこか。
兎にも角にも記事を書かなければならない。書かずんば「記事書けますって言うだけ阿呆」と罵られること必至だ。自分に貼られるラベルの文字列を気にする私は、以前執筆した記事の模倣でどうにかこの場を凌ぐことにした。
・聖なる怠け者の業務
それはある日の午後のことであった。私は脳味噌が溶けそうなほどの眠気で、ほぼほぼ白目を剥きながらも懸命にディスプレイとにらめっこをしていた。「もう少しでこの仏頂面のディスプレイを笑わせられるぞ」と思ったその時、業務で使用しているチャットアプリの通知音が鳴った。確認したところお客様から「○○画面、色々な場所で確認する想定なのでC#アプリ化せずにWebブラウザから観られるようになりませんか。」とチャットが飛んできていた。
ここまで書いて私の手は止まった。最近読んだ小説の中に出てきた出版業界で働く人物はこう言う。「処女作が評判になった新人作家は新たな境地に踏み出すのが怖くなり、自ら前作の二番煎じに終始してしまいがち」であると。前作が社内でそこそこウケた私には刺さる言葉であった。
そもそもウケているのは内容が伴ったうえでの森見登美彦氏的な語りであり、内容が伴っていないのに森見登美彦氏の力に頼るのはお門違いである。私はWebサーバーについて面白おかしく且つ正しい情報を最後までかける自信を無くし、早々に筆を折った。
バグの中
・エンジニアに問われた保守員の話
さようでございます。あの画面を見つけたのは、私に違いありません。私は今朝いつも通り現場に出社し、プログラムに問題が起きていないか点検をしていました。するとあるPCの画面に、あのエラーポップアップが表示されていたのでございます。PCがあった処でございますか?それは細太のケーブルが入り混じった、人気のない現場端に置かれている操作卓でございます。
エラーポップアップは、PCがスリープモードに入っている裏で、デスクトップ中央に表示されておりました。それ以外には何も表示されていません。ゴミ箱も空になっていたようです。
ここまで書いて私の手は止まった。芥川龍之介氏の「藪の中」を模して「バグの中」なるヘンテコミステリー短編を書こうと思っていた私が阿呆だった。何しろゴールが見えない。努力をしたところで方向性が定まらなければ徒労である。
そもそもこの保守員、見つけた人や場所のことは教えてくれるのに肝心のバグの内容や発生日時を教えてくれていない。つべこべ言わずログを寄越せ。それで大概の問題は解決する。しかし操作内容やエラー内容をログ出力しない不届き者もこの世には存在するんだよな。その可能性を加味し、この保守員は自分の見た情報を事細かに伝えてくれているのではないか。ああ、保守員も大変だなぁ。私は自分の書いた物語に辟易疲弊し、早々に筆を折った。
二〇二二年
・第1部
一月の晴れた寒い日だった。時計は十四時を打っている。私のExcelマクロは不快なエラーを避けようと、分岐に入って問題箇所をログに残し、素早く処理を飛ばした。処理を飛ばしたといっても、VBAにはContinueがないのでGoTo文を使ってしまうのは防ぎようがない。
オフィス内は飲み残したコーヒーとぼろぼろになった古紙の匂いがした。突き当りの壁に屋内に展示するには大きすぎる白黒刷りのコピー用紙が画鋲で止めてある。描かれているのは横幅が一メートル以上もあろうかという巨大な上司の顔。そしてその顔の下には**”ビッグ・ブラザーがあなたのExcelをみている”**というキャプションが付いていた。
ここまで書いて私の手は止まった。ジョージ・オーウェル氏の「一九八四年」の内容に託けて「VBAで業務改善を目論むもExcel手計算原理主義者に淘汰される」というディストピア短編を書こうと目論んだが、テーマがあまりにSF過ぎる。Excel手計算原理主義者などという奴らが表れてみろ、業務改善など見込めない。この2022年にExcel手計算が至高だというものがいるのであれば手を挙げるがよい。私が直々に鉄槌を下す。そんな輩はExcelを使うな。しかしそんな輩が生まれるほどExcelをいまいち上手く使いこなせない人々が一定数いるのだろう。作業マニュアルを作ればいいのに。私は自分の考えたSF設定に憤慨し、早々に筆を折った。
評価
・異論のある上層部の採点
社会人生活と言えば極彩色、極彩色と言えば社会人生活、と形容の呼応関係は成立している。西暦二〇二二年現在では未だ果たされていないが、広辞苑に載る日も遠くはあるまい。しかしそれは、全ての社会人が極彩色を望むということを意味しているわけではない。例えば、業務にも趣味にも色恋沙汰にも、とにかくありとあらゆる活力に興味を示さず灰色を好む人間というのもいるし、それは俺の知る範囲でさえ少なくない。けど、それって随分寂しい生き方だよな。
日の落ちかけたオフィスで、旧友の
ここまで書いて私の手は止まった。今年の直木賞を受賞したことで話題の米澤穂信氏の処女作「氷菓」に託けて「何のとりえもない主人公がバグの状態から内容を推察し、炎上プロジェクトを救う」という青春短編を書こうと目論んだが、一段落目を書いたところで私の眼には涙が浮かび、"旧友の"と書いて旧友の名が誰一人思い浮かばなかった時点で号泣していた。そもそもこのコロナ禍でテレワークをしている身には、会話メインの推理モノという構造自体が難しかった。私は自分で考えたパロディに一人涙し、早々に筆を折った。
この記事を通して分かること
・ちゃんと勉強しないと、いざ誰かに教えようとしたときに言葉にできないよ。
・操作ログやエラーログはちゃんと出力しておかないと、後々自分が後悔するし他の人にも迷惑がかかる場合があるよ。
・誰でも作業が円滑に進むようにマニュアルやツールを残すのが善行だよ。
・自己肯定できるよう、様々なことに挑戦しよう。
・万策尽きる前に手を打とう。万策尽きた結果がこれだよ。
※フィクションです。
私が書いた話は私自身の経験ではない。すなわちフィクションである。安心してほしい。その前提で以下を読んでほしい。
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