はじめに
HTTPやTLSといったプロトコルの仕様は、IETFの各ワーキンググループで議論されRFCとして発行されます。
IETFの会合はオフラインで年3回行われており、誰でも無料でリモート参加することができます。ちょうど、大詰めであるTLS 1.3や、去年より始まったQUICの標準化の議論はたいへん盛り上がってるので興味を持っている人も多いでしょう。その他にも100以上のワーキンググループのセッションがあり、IPv6やTCP、HTTPやNTPやACME、BGPやOSPFの議論・改善も続いておりますし、仕様そのもの以外にもセキュリティーやどのように新しいプロトコルに移行していくかなど本当に様々な議論が行われます。
この記事では、来週(現地時間3/26-3/31)からシカゴで開催される IETF98 に向けてリモート参加について記述します。
参加登録
IETF98のページの Register より参加登録を行います。特に難しいところは無いかと思います。
- 氏名や電話番号・住所を入力します
-
Registration Type
として、Remote Participan
を選択してください -
T-Shirt Size
、リモート参加だとTシャツはもらえません -
Subscribe to the IETF 98 mailing list?
、参加者メーリングリストです。スケジュールの変更なども流れてきますが、概ね現地参加者の情報交換に使用されます。
Submit Registration
ボタンを押すと確認画面になり、そのまま進むと入力したメールアドレスにSubmit Registration
というメールが届きます。
リモート参加の場合は以上になります。
初参加者向けに、IETFの組織や標準化、そのたポリシーなどを説明するnewcomers向けのページがあります(有志の方によって翻訳がされています PDF)。目を通しておくと、突然知らないキーワードが出てくるといったことも少なくなるでしょう。
Agendaを確認する
ミーティングにリモート参加する前に、各ワーキンググループのミーティング時間と、Agendaを確認しておきましょう。自分が興味がありそうなワーキンググループを一から探すのは少々難しいとは思いますが、前回のIETF97のスライドや各ワーキンググループのページも見てみると良いでしょう。
IETF 98 meeting agendaより、各ワーキンググループの開催時間と、Agenda(議論する内容)について確認できます。現地時間表記になっておりますので、朝一の9:00は日本時間だと23:00からになるかと思います。
次にAgendaの中身です。例えばTLSワーキンググループのAgendaを見てみましょう
Administrivia (5min)
Document Status (5min)
TLS1.3 (30min)
https://datatracker.ietf.org/doc/draft-ietf-tls-tls13/
https://github.com/tlswg/tls13-spec
DTLS1.3 (30min)
https://datatracker.ietf.org/doc/draft-rescorla-tls-dtls13/
A DANE Record and DNSSEC Authentication Change Extension for TLS (15min)
https://github.com/tlswg/dnssec-chain-extension
https://datatracker.ietf.org/doc/draft-ietf-tls-dnssec-chain-extension/
Certificate Compression (15min)
https://datatracker.ietf.org/doc/draft-ghedini-tls-certificate-compression/
細かい議論内容は記述されないことが多いです。殆どの場合、今議論されている仕様のみが書かれます。仕様の議論と合わせて、実装者からのフィードバックや統計情報などの調査結果が発表されることもあります。
特に今回初めて議論される仕様以外は、Issueの議論がメインになります。前回のTLS1.3に関するスライドを見ると、Issueの議論がひたすら続いてることが確認できるかと思います。
その為、予備知識として仕様自体と、いま議論されているIssueを確認しておくことが好ましいかと思います。QUIC、HTTPbis、TLSワーキンググループはそれぞれGithubでIssue管理しておりますので、確認しやすいかと思います。
また、各ドラフトは大きく分けてワーキンググループに採用されている「ワーキンググループドラフト」と、誰でも提出できる「個人ドラフト」があります。殆どは、個人ドラフトから議論をへてワーキンググループドラフトとなります。
draft-ietf で始まるものがワーキンググループドラフト、draft-のあとに著者名が続くものが個人ドラフトになります。
- draft-ghedini-tls-certificate-compression : 個人ドラフト
- draft-ietf-tls-dnssec-chain-extension : ワーキンググループドラフト
さらに、ドラフトには版数があり、draft-ietf-tls-tls13-19
のように最後の-19
が0から始まり19回更新されてることを示します。ワーキンググループドラフトでありこの版数が進むほど議論が重ねられている事がわかります。
リモート参加する
IETFのリモート参加ではMeetechoというサービスを利用しています(一部界隈で「みてちょ」と呼ばれてます)。今現在は、まだIETF98のページは動作しておりませんが、URL一覧はIETF 98 meeting agendaもしくはIETF98 Meetechoのページより確認できます。
リモート参加の画面は、チャット・スライド映像・スピーカーの映像が流れています。チェアから許可された場合はリモートよりマイクで発言することもできますが、機会は少ないでしょう。機械トラブルなどで音声が聞こえない場合などはチャットにて呼びかけると解決してもらえるでしょう。
リモート参加について特に注意点はありませんが、IETFのミーティングで重要なハムについて説明します。
IETGでの標準化はラフコンセンサス(Rough Consensus)を得て進められます。ドラフトを次の段階に進める際や、議論が分かれた場合に会場内のラフコンセンサスを得ます。具体的にはハムと呼ばれ、Yes or Noで参加者がそれぞれハミングをします(実際には、「ン~」と言う感じです)。ちょうど拍手の大きさなどで賛意を示すのに似てますが、誰が賛意を示しているかわからないようになっています。
チェアがどちらでコンセンサスが得られたか発言しますが、大変残念なことにリモート参加ですとこのハムの音はよく聞こえず、どれくらいの差がついたのかは体感できません。
最後に発表資料は、materialsに貼られることがありますが、全てではないので注意です。各ワーキンググループのMLで共有されていることもあるので確認すると良いでしょう。
リモートを終えた後に
標準化はメーリングリスト上でまだまだ議論が続きます。ミーティング中に決まったことなどが、再度メーリングリスト上で延々と議論されることもあります。是非各ワーキンググループのメーリングリストを見てみましょう。ミーティングの議事録も後日共有されます。
各ワーキングルームのメーリングリストはこちらのより確認できます。過去のものもWebより見れます。
#最後に
IETFのリモート参加は無料かつ誰でも可能ですので、この記事にて見てみようという人が増えれば幸いです。また、オフラインでの参加については言及しませんでしたが、BarBofや様々な交流がありリモート参加にはない標準化に欠かせない重要性があります。
最後に、まだまだ議論の内容は難しい部分があるとは思いますし、日本語の資料は多いとはいえません。ワーキンググループも沢山あり個人一人では議論を追うことも大変です、願わくば各ワーキンググループや仕様の記事が増えますように。