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Engineering ManagerAdvent Calendar 2021

Day 18

エンジニアリングマネージャに捧ぐ、積ん読を切り崩すための読書法

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この記事は「Enginnering Manager Advent Calendar 2021」18日目の記事です。

読書法なので、エンジニアの方にも役立てていただけると思います。

EMは読むべき本が多い問題

エンジニアリングマネージャ(EM)は非常に学ぶべき領域が広い専門職です。

昨年は、その幅広い専門領域の体系化を試みました。

また、一昨年のアドベントカレンダーでは、@hirokidaichi さんがEMに求められる知識体系として、このような図を示しておられました。

knowledge_base_hiroki.png

この専門領域の幅広さに伴って、同時に発生してくるのが読書時間が足りないという問題です。
専門領域の幅広さとは、すなわち職責の広さ、ひいては労働時間の長さと学習時間の短さであり、必要な読書量の多さであるからです。

また、(これはEMに限ったことではありませんが)読書量が多くなってくると、昔読んだ本の内容を忘れるという問題も起こってきます。

この記事では、これらの問題に対処するため、私(@expajp )が現在行っている読書法を紹介します。

個々の手法はポピュラーなものですが、それらをフレームワークの形でまとめたという点で、どなたかのお役に立てれば幸いです。
今後も改善は続けていくため、色んな方からコメントいただけると嬉しいです。

TL; DR

  • 読む本を厳選して量を減らし、
  • 優先順位付けで目移りするのを防ぎ、
  • 最初に全体像をつかむことでスループットと理解の効率を上げ、
  • マインドマップで全体像への理解と記憶への定着を促し、
  • 読書メモを検索可能にすることで必要になった際の再読を容易にする

どんな読書を対象にした読書法か

読書と一口にいっても、本はさまざま、その読み方もさまざまです。

コトバンクの「読書」の記事を調べてみると、

世界大百科事典 第2版「読書」の解説

どくしょ【読書】

本を読むことの意義や目的はさまざまであるが,大別すれば教養を高めるため,知識・情報をとり入れるため,そして娯楽のためという三つに分類することができる。しかし,これらは明確に区別しえない場合も多い。1

とあります。

読書法というと「本なんて好きに読めばいいじゃない」という声がどこかから聞こえてきそうです。それは全くその通りなのですが、「情報を得るために読書をする場合」に限定すると、これを効率よく行う技術は存在します。

そんなわけで、本記事では「教養のための読書」「娯楽のための読書」を無視して、「情報のための読書」に限定して お話しします。

読書法で解決すべき問題

「情報のための読書」を大量にするにあたって、我々の目の前に立ちはだかっている問題を具体化すると、例えば以下のようになるのではないでしょうか。

  • 読むべき本が多すぎる
  • 読むべき本に分厚い本が多いので、読むのに時間がかかる
  • 読んだ本の内容を忘れる
  • 読み終わっても全体像が把握できていない

読書法によってこれらを解決するからには、正確な情報を素早く大量に得て、それらを随時取り出せるようにするようなものでなくてはなりません。

要は「速読しつつ精読して記憶に残す」という矛盾した要求を叶えなくてはならないのですが、どのようにすればよいのでしょうか。

読書法の概要

これから紹介する読書法では、上記の問題を以下のように解決していきます。

  • 読む本を厳選して優先度を明確にする
    • 「読むべき本が多すぎる」に対応
  • 概要の把握→全体の構造の把握→精読 と段階的に読む
    • この流れの途中で本をさらに厳選するので「読むべき本が多すぎる」に対応
    • 概要の把握だけする本を増やして「読むのに時間がかかる」に対応
    • 漫然と通読するのを避けることで「読み終わっても全体像が把握できていない」に対応
    • 内容を複数回反芻することで記憶に残りやすくし、「読んだ本の内容を忘れる」に対応
  • 読書メモを検索できる形で残す
    • 反芻しても忘れるのは忘れるので、情報を必要なときに取り出せるようにすることで「読んだ本の内容を忘れる」に対応

一言でまとめると

全体像の把握を優先して徐々に解像度を上げるように読むことで、1冊あたりにかかる時間を短くし、良書のみを精読する

というものです。

読書法を図にしました

それでは、具体的な手法の解説に移ります。まずは、こちらの図をご覧ください。

読書法の図.png

ここからは、

  • 本を選ぶ
  • 優先順位をつける
  • 読書メモの準備をする
  • 本の内容を点検する
  • マインドマップを作成する
  • 本を精読する

のそれぞれについて詳しく説明していきます。

本を選ぶ

読書法の本をいくつか読んでいると、「悪書を読まない」ことの大切さが繰り返し強調されています。

例えば、加藤周一「読書術」では、

はやく読もうと、おそく読もうと、どうせ小さな図書館の千分の一を読むことさえ容易ではない。したがって、「本を読まない法」は「本を読む法」よりは、はるかに大切かもしれません。2

とあり、読書法の本といえばで真っ先に挙がる名著、ショウペンハウエル「読書について」では、

読書に際しての心がけとしては、読まずにすます技術が非常に重要である。

(中略)

良書を読むための条件は、悪書を読まぬことである。人生は短く、時間と力には限りがあるからである。3

とあります。

悪書を選ばないために

それではどのように悪書を避ければよいのでしょうか。
悪書を避けることすなわち良書を選び取ることですから、良書の条件を考えてみましょう。

情報を得るための読書をするにあたって大事なのは、第一に「情報が信頼できること」です。
著者の個人的な経験をあたかも真実であるかのように書かれた本が世の中には溢れています。客観性が担保されていなければなりません。

第二に大事なこととしては、「自分の疑問を解決できること」です。
的外れな本を選んでしまったがばかりに、自分の判断がズレた情報に引きずられてしまうケース4はままあります。例えば、大人向けの筋トレ本の内容を無理に子供にやらせたら怪我します。

このケースでは本自体に罪はないので「悪書」という言い方は微妙なのですが、読む人間が的外れな期待を抱いてしまうと真摯に書かれた本でも悪書にはなりうるのです。

ところで、情報が信頼できるかどうかは本の中身を見ずともある程度わかります(後述)。しかし、自分の疑問を解決できるかどうか、これは中身を見ないとわかりません。

ですから、選書のプロセスはこのようになります。

情報が信頼できそうな本をいくつか挙げる→書店で本の中身をざっと調べてみる

情報が信頼できそうな本をいくつか挙げる

本の中身を見ずに情報が信頼できるかどうかを調査するには、以下の方法を使っています。

自分では見ていないのですから、「信頼できる他人」の選書を頼りにする、という手段がメインです。

  • 著者・訳者を見る
  • 信頼できる人の選書リストを探す
  • 書評を読む

著者・訳者を見る

この記事を読んでいる人が情報を得るために読む本といえば技術書でしょう。

技術書は、当該技術の作者や、技術者コミュニティで活躍している方の本が良書であることが多いです。
作者本人または第一人者が書いているのですから、信頼性は抜群です。

このことは周知の事実なのですが、初心者の方へのアドバイスとして見ることが意外と少ない5ため、書いておきます。

また、第一人者による著書だけでなく、それらの方々による訳書も押さえておきましょう。

訳書とは、いわば第一人者による究極の選書です。
実際にその技術を使っている方が、多大な時間と労力をかけてでも「日本に紹介したい」という意志を持っているわけですからね。

信頼できる人の選書リストを探す

訳書ほどではないにしろ、第一人者やテック企業による選書も信頼できる本といえるでしょう。

この手のリストは探せば無数にありますが、自分の観測範囲での例を2つほど挙げておきます。

書評を読む

欲しい情報が書いてある本が上記から見つかりそうになければ、Web上の書評をアテにするしかありません。

自分は、主に以下のサイトを参考にしています。いずれもメジャーなサイトなのでご存知の方が多いと思います。

これらWeb上の書評を見る際に注意するのは、星の数を参考にしないということです。

  • Amazonでは配送トラブルが原因で低評価にしている人がいる
  • 「欲しい情報が得られなかった」と低評価にしている人がいる
  • 特に理由も書かずに低評価にしている人がいる

のを見たことがないでしょうか?星の数は本の評価としては解像度が低すぎるため、参考にしないほうが良いです。

実際に読んだ方のレビューコメントをできるだけたくさん読んで、情報の信頼性を判断しましょう。

書店で中身をざっと調べてみる

前節で、無数にある本の中から「情報が信頼できそうな本」が数冊に絞り込めたと思います。

ここからは、書店や図書館に足を運び、本を実際に自分の目で見て「情報が信頼できるか」「自分の疑問を解決できるか」を判断します。

情報が信頼できるか判断する

情報の信頼性は、再現性を第三者が確認しているか、もしくはできるかによって担保されます。

「再現性を確認できる手順が記載されていること」は論文査読における重要な要素です。これは、裏を返せば学術研究ベースの情報が最も信頼できるということです。

参考文献がきちんと記載され、それが学術研究ベースのもの(論文や専門書)が中心であることを確認しましょう。
参考文献があっても、元を当たってみるとただの個人の意見だったということもありますので、参考文献があることすなわち信頼性が高いことにはならないのには注意してください(もちろんないよりはマシ)。

一方で、技術書の場合はコードを手元で実行してちゃんと動けば再現性の確認は自分でできるわけですから、学術研究ベースである必要はありません。

書店でコードの実行はできませんが、著者がなるべくコードを記載しているか、という「姿勢」は判断できます。

自分の疑問を解決できるかを判断する

もうひとつ、見るべき点はここです。

挙げた本で解決したい問題はなんなのか再考し、できるだけ言語化しておけば迷うことが少ないと思います。

疑問がぼんやりしている場合は、とりあえず目次を開いて一番興味が惹かれた箇所を読んでみて、もっと読みたいと思えたかどうかで判断してみてください。
読みたいと思えるということは、きっと自分の知りたい情報が書かれているのだと思います。


ここまで見ていってクリアする本はかなり少ないため、読む本をかなり絞り込むことができます。

優先順位をつける

特定の本を読むと決めたら、優先順位付けをします。

優先順位付けをすることで、複数の本に目移りするのを防ぐことができます。

これについては「本の内容を点検する」のあとで改めて解説します。

読書メモの準備をする

本を読む際には、読書メモを取りましょう。

「読書法の概要」にも挙げたとおり、この記事でメモを取る第一の目的は「本の内容を検索できる形にする」ことにあります。
しかし、一方で、読書メモには本の理解度を上げ、記憶に残りやすくするという効果があります。
読書の効果を最大限にするため、ぜひやってみてください

読書メモに使うツール

ところで、読書メモはどのようなツールで取るのが良いのでしょうか?

ちなみに、手書きは検索できないためNGです。電子的な手段を使いましょう。

ツールの必要条件

ツールの話題を始めてしまうと話が尽きないのですが、最低限、以下のような条件を満たすツールならば良いと思います。

  • 書いた内容を検索できる
  • ある程度、構造的な文章が書ける
    • 章立てや箇条書き
    • MarkdownがサポートされていればとりあえずOK
  • 外部公開をしない
    • 外部公開に伴うリスクに気を遣わず書けるようにする

ツールの例

自分は esa.io に個人wikiを立てて使っています。

ScrapboxやOneNoteも良さそうですが、使ったことがないのでここでは書きません。他にも良いツールがあったら教えて下さい。

本の内容を点検する

本を優先順位の高い方から読み始めます。といっても、最初から順番に通読していくわけではありません。情報を得るための本は全部読む必要はないのです

他方、本の全体像を知っていなくては、その本が必要になったタイミングでそのことを認識できません。
そのため、まずは「その本になにが書かれているか」を確かめ、概要を読書メモに残します。

こうしておくことで、

  • 内容を大づかみすることで精読する本を選別できる
  • 特定の情報が必要になったときに読書メモを検索すれば本を取り出せる

メリットがあります。

点検読書

「その本になにが書かれているか」を知るためには、「本を読む本」に書かれている「点検読書」という技法が有効6です。

点検読書とは、「系統立てて拾い読みする」技術である。書物の表面を点検し、その限りでわかるすべてを学ぶことである。
(中略)
問題は、「その本は何について書いたものであるか」ということである。具体的には、「この本はどのように構成されているか」、「どのような部分に分けられるか」という問題を検討することである。

さらにもう一つ。「それはどういう種類の本か、――小説か、歴史か、科学論文か」という問題もある7

詳しくは「本を読む本」そのものを参照してほしいのですが、点検読書では上記の

  • この本はどのように構成されているか
  • どのような部分に分けられるか
  • どういう種類の本か

また、

  • なにがどのように詳しく述べられているか8

という質問に答えることを目的にしています。これらの質問は「その本に何が書かれているか」を詳細化したものです。

この技法は汎用的なもので、「情報を得るための読書」をする本のほとんどに有効だと思われます。
例外は事典とハンズオン系の本くらいでしょう。

点検読書を進める

見出しや各章・節・項9の結びを中心に本を行ったり来たりしながら、点検読書を進めます。

個人的な経験上、最初の30分がかなりしんどいです。

「内容を全く知らない本を無理やり要約しようとしている」という作業をしているのですから、当たり前です。我慢して進めましょう。

全く知らない分野を学ぶときは内容の予想、いわば認知制約が働きにくい10ので知っている分野に知識を付け足すよりもストレスが貯まりますし、そもそも人間は知らないことに不安を覚えるようにできています。

全体像の把握が進むと、徐々に楽しくなってきます。

時短に躍起になりすぎない

点検読書は新書1冊1時間程度で終わります11が、このとき気をつけているのはあまり時短に躍起になりすぎないということです。

点検中に興味を惹かれた箇所があればそのまま読み進めてしまってOKにしていますし、面白いなと思ったら点検をやめて通読してしまうこともあります。

点検読書は機能的に読む手法で小説などとは全く違う読み方ですが、せっかくの読書ですから楽しめないともったいないですし続かないです。

点検読書を終えたら

点検読書を終えたら「このまま本棚に戻す」「マインドマップを作成する」「精読」から、その本をどうするか決めます12

ここで一旦点検読書は終わりで、次の本に移ります。

点検読書用の読書メモテンプレ

ここまで書いてきた点検読書のフローを都度思い出さなくて良いように、また、内容だけでなく都度感想や調べたことを記入できるように、以下のような読書メモテンプレートを用意しています。

点検読書はこれに書き込む形で進めています。

# 点検読書or通読
## どのように構成されているか

## どのような部分に分けられるか

## 全体として何に関する本か
* 伝えているのは、テクノロジー・ノウハウ・スキル・エッセイのどれか

## 何がどのように詳しく述べられているか

# 読書メモ
## この本は、自分にとって精読する価値があると思ったか?
* 精読しなくてよいか、マインドマップを作るか、細かく要約するか

## 感想

esa.io は記事テンプレを設定できる機能があるので、それを利用して作った記事の編集画面を開いたまま読書を進めています。

ちなみに、こういう流し読みをするのに電子書籍は不便なので、基本的に技術書は紙派です。

電子書籍はそもそも通読するためのフォーマットなので、漫画や小説、エッセイなんかの通読を前提とした書籍は電子、それ以外は紙、と使い分けています。

物理本の置き場所の問題は……誰かなんとかしてください。

改めて「優先順位をつける」の説明

「点検読書」について知ったところで、改めて「優先順位付け」について説明しましょう。

本は、

読む本を決める→点検読書→本棚orマインドマップ作成or通読or精読

のように流れていくので、この流れをそのまま反映したカンバンボードをTrelloなどで作り、各カラムをそれぞれの読み方のバックログとして運用します。

1つのバックログに「【点検】技術書A」「【精読】技術書B」のように一列に並べるのもありだと思いますが、このようにしていないのは、点検に使っている時間とマインドマップや精読に使っている時間が異なる13、という個人的な理由です。

自分はtodoistを長く使っていて、最近カンバンボードの機能ができたので、こちらを使っています。

kanban.png

カンバンボードの使い方

読むと決めた本はとりあえず「点検読書」のカラムに放り込んで優先度を付け、点検読書が終わったら都度適切なカラムに移します(本棚に戻す場合は「完了」にしてボードから消します)。

優先順位は随時並び替えを行います。理由もなく気分次第で並び替えることもあります。

優先順位付けのメリット

積ん読をカンバンに変えることで、積ん読が「整理されてない未消化タスクの山」から「整理された消化待ちタスクの列」に変わります。
これによって「あれも読まなきゃこれも読まなきゃ」という気持ちが静まり、落ち着いて読書を進められます。

気持ちの問題とはいえ、時間がかかる本に取り組んでいるときにこの手の焦りはノイズとなるので、大事な工程です。

マインドマップを作成する

点検読書をした際、「全体像をもう少し詳しく知っておきたい」と思った場合に、「マインドマップ」のカラムにカンバンを移動します。
点検読書の時点で「精読したほうが良いかも」と思っていても、とりあえず作ってみましょう。

マインドマップとは、こういうものです。

Guru_Mindmap.jpg14

マインドマップは思考全般に使えるツールで、考えていることを視覚化して図で表す。「脳の万能ナイフ」と評されるマインドマップは、あらゆる認知機能に応用でき、記憶、創造性、学習の3分野でとくに大きな効果を発揮する15

この工程では、点検読書で一度大づかみした本で語られている話題のそれぞれについて、さらに掘り下げを行います。ただし、それでも部分部分を精読しつつ全体に目を通すだけに留め、全部を細かく読むことはしません。

マインドマップを選ぶメリットは以下の通りです。

  • 本をマインドマップとして自ら再構成することで、本の構造を把握できる
  • 紙一枚にまとめることで、全体像の把握がしやすくなる
  • 離れた場所に書かれていることの繋がりがわかりやすくなる
  • 記憶に残りやすくなる

マインドマップの作り方のポイント

マインドマップをどのように作るか、というのは様々な書籍やWeb上の記事で解説が行われていますので、詳しくは割愛します14。本記事では作成時に気をつけているポイントのみを記すことにします。

マインドマップによる読書メモを作成する場合のポイントは、読書メモと同じく、読んだり作ったりしながら気付いたことを随時書きこんでいくことです。

図にすることと気付いたことを書き込むことの重要性

自分の思考や着想をアウトプットすることを認知科学では「外化」といいます16が、図による外化が創造性、すなわちひらめきを促す事例が複数報告されています。

そして、マインドマップで本の内容を図解することで、この創造性を促すことができます。

もう少し詳しく言うと、文章というひとつづきの情報の順序に影響されず、視覚的に情報どうしを結びつけることができます。そして、視覚的なチャンネルを通して本をより多様な角度から見直すことができるようになり、本から情報を生み出すことができるようになります17

こうして生み出した情報、つまり自分で気付いたことを書き込んでいくことで、マインドマップがただ既存の情報をまとめただけのものでなくなります。オリジナルのものになるのです。

「マインドマップを作成する」というプロセスを挟むことで、読書が受動的なものでなく能動的なものになります。

マインドマップ作成を終えたら

大抵の本はそこで本棚に戻します。

「さらに細かく読みたい」と思ったら、カンバンを「精読」に移してください。

本を精読する

点検読書とマインドマップ作成を経て、「全編細かく読みたい」と思った本だけに精読を行います。

ここで初めて本を全部読むわけ18ですが、精読までやる本は非常に少ないことがご理解いただけるかと思います。

精読には非常に時間がかかります。平日の空き時間と休日を捧げても平気で数ヶ月かかるレベルです。

例えば、以前に自分が「アジャイルな見積もりと計画づくり」19を精読した際は、3ヶ月かかりました。良い本だったので後悔はありませんが、厳選しましょう、ということです。

精読の進め方

精読は、

  • 点検読書、マインドマップ作成を済ませる
  • 本を最初から読んでいき、項のある本は項、ない本は意味的にひとかたまりの単位で一文で要約し、箇条書きにしていく
  • 要約しながら、自分の意見や関連して調べたことを書き込んでいく

というプロセスで進めます。要約はもちろん読書メモに書き込んでいきます。

例えば、「エンジニアリング組織論への招待」20第1章の最初の2節を要約した結果はこんな感じです。

## 思考のリファクタリング
* **エンジニアリングの本質とは情報を生み出すこと**である
    * エンジニアリングは実現の科学であり、実現とは不確実性を減らしていくことである
    * 不確実性(=エントロピー)を減らしていくこととは、情報を得ることである
    * 不確実性の発生源は、未来(環境不確実性)と他人(通信不確実性)である
* 人間には論理的思考ができない瞬間がある
    * 事実の認知が歪んでいるときと、感情に判断が引きずられるとき
    * 認知の歪みはパターン化されており、それを知ることで事実をありのままに捉えることを助ける
    * 感情に判断が引きずられるのは怒りによる場合が多く、怒りを感じるのはアイデンティティを攻撃されたときで、アイデンティティの範囲に自覚的になり、それを「悲しみ」として相手に伝えることで攻撃を防ぐことができる
    * 論理的思考ができない瞬間がある以上、問題解決より問題認知のほうが難しい

なぜ自分の言葉で要約するか

こちらの精読は「独学大全」の「刻読」21と「段落要約」22のあいだの手法です。

「刻読」は順に読みながら気になったところに印をつけ、印をつけたところを抜書きしてコメントをつける手法、
「段落要約」は段落ごとに自分の言葉で要約していく手法ですが、
これらを組み合わせて、「段落より少し大きな単位で要約し、気になったところにコメントをつける」という手法として使っています。

「独学大全」の「段落要約」の章にはこんな記述があります。

要約を作ることは、それほど簡単な作業ではない。当然ながら、段落の内容を要約するには、自分の言葉で表現できるまで内容を理解しなければならない。理解が不十分なところ、納得できない箇所で、要約作りは行き詰まる。これを自分の能力の不足と思うべきではない。自然に読み飛ばしている時には気付かなかった、自分の理解の「濃淡」があからさまになっただけだ。23

「要約」というプロセスを経てはじめて、一度通読した本をわかった気になっていた自分に気付くことができます。その気付きによって、自らにアンラーニングを促すことができるのです。

余談ですが、「テキストを自分の言葉で短く表す」という手法は大学院生の時代に准教授の先生に教わったもので、それを自分にあった形で読書に使ったことでこのような精読法になりました24

これをやりきったときに出来上がる読書メモは「本を自分の言葉で語り直したもの」になっています。
それを紡ぐ過程で本を自分の血肉にできるのはもちろん、自分の語彙に基づいたものになっているので検索に引っかかりやすくなっているはずです。

精読の弱点

時間をかけてテキストに向き合う精読ですが、どうしても目の前のテキストに集中する性質上、全体像がわからなくなるというという側面があります。

精読が終わったら、読書メモを眺めながら再度マインドマップを作成するとこの問題を克服できます。

全体を読まずにマインドマップを作成した場合と比べて解像度が格段に上がっているため、遥かに豊かなマインドマップが得られるはずです。

マインドマップを作る過程で気付いたことも、都度読書メモに書き込んでおきましょう。

最後に、本を批評する

ここまでやったら、本を批評します。

「本を読む本」では、著者の知識不足・論理の破綻・不完全な説明を明らかにする25と書かれていますが、批評する心理的ハードルが高い場合は、単なる感想を書く程度でも良いと思います。

大事なのは「自分を著者と対等の立場に置き、誤りを指摘したり、意見の異なる部分について反論したりしても構わない26という姿勢を持つことです。

本を書く人もあくまで同じ人間であり、本に誤りがあることもあります。
また、「情報を得るための読書」といっても、人の書いたものですから少なからず書いた人の主観も含まれます。

「学びて思わざれば則ち罔し」というように、どんなに良い本でもあくまで相対化して、自分の意見を持つことは大事です27

「本を読む本」には批評をする際の視点だけでなく批評のエチケットも書かれていますので、都度ご参照ください。

まとめ

読書法の図.png

この読書法は、

  • 読む本を厳選して量を減らし、
  • 優先順位付けで目移りするのを防ぎ、
  • 最初に全体像をつかむことでスループットと理解の効率を上げ、
  • マインドマップで全体像への理解と記憶への定着を促し、
  • 読書メモを検索可能にすることで必要になった際の再読を容易にする

という5つの手法に支えられています。

これをすべて実践すれば、増大した読書量にある程度は応えられるのではないかと思います。

結び

本記事では自分が実践している読書法を紹介してきましたが、すべてこの型通りに行っているわけでも、すべての手法を厳密に運用しているわけでもありません。

大事なのは読書を楽しむことなので、もし「この読書法を採用したい」と思っているありがたい方がいらっしゃっても、手法に縛られずにご自分にあった方法に自由にアレンジしてお使いください。

効果のある手法があったら @expajp に教えて下さいね。

また、「エンジニアリングマネージャに捧ぐ」と銘打った割には、もう一つの読書、すなわちソースコードリーディングについては本記事では語っていません。

コードを読む量が足りてないのは個人的には課題に思っているところですので、こちらは来年以降取り組んで行きたいと思います。
もし良い手法を見つけられたら記事にしますので、期待せずにお待ちください。

お読みいただきありがとうございました。

  1. 読書とは - コトバンク, https://kotobank.jp/word/%E8%AA%AD%E6%9B%B8-582612 (2021/12/05閲覧)

  2. 加藤周一(1962; 文庫: 2000), 「読書術」, 岩波現代文庫, pp.98

  3. Arthur Schopenhauer(1851), Parerga und Paralipomena(抜粋および訳:斎藤忍随(1960; 改版: 1983), 読書について 他二篇, 岩波文庫, pp.133-134)

  4. 最初に「この本は正しい」と思い込んでしまったがために、それに引きずられてしまう、一種の確証バイアスです

  5. 作者や第一人者の本が直接薦められているケースは多いですが、本の選び方として「こういう人の本が信頼できるよ」とアドバイスされていることは少ない気がします(肌感)

  6. 似たような話が「知的生産の技術」(梅棹忠夫(1969), 岩波新書)にもありました

  7. M. J. Adler, C. V. Doren(1940), HOW TO READ A BOOK, SIMON AND SCHUSTER, INC.(訳:外山滋比古, 槇未知子(1978; 文庫版: 1997), 本を読む本, 講談社学術文庫, pp.28-29)

  8. 前掲書「本を読む本」, pp.54

  9. 章・節・項の見出しの構造については見出し - Wikipedia を参照

  10. 稲垣佳世子, 波多野誼余夫(1989), 「人はいかに学ぶか 日常的認知の世界」, 中公新書, pp.138

  11. もちろん本の分量や難易度による

  12. あまり多くはないですが、読み物として面白い場合は通読するパターンもあります

  13. 平日の出勤前に1時間程度点検の時間を取り、休日の予定のない日にマインドマップ作成や精読をやっています

  14. CC BY-SA 3.0, File:Guru Mindmap.jpg - Wikimedia Commons 2

  15. Tony Buzan(2010), THE MIND MAP BOOK, Educational Publishers LLP(訳:近田美季子(2013), 新版 ザ・マインドマップ, ダイヤモンド社, pp.52)

  16. 阿部慶賀(2019), 「創造性はどこからくるか 潜在処理、外的資源、身体性から考える」, 共立出版, pp.61

  17. 前掲書「創造性はどこからくるか」, pp.78。本書では複雑な文章題に言及している箇所を「本」に置き換えて考えた

  18. 本の一部のみ精読するのもアリなので必ずしもそうではない

  19. Mike Cohn(2006), Agile Estimating and Planning, Pearson Education, Inc.(訳:安井力, 角谷信太郎(2009), 「アジャイルな見積りと計画づくり 価値あるソフトウェアを育てる概念と技法」, マイナビ出版)

  20. 広木大地(2018), 「エンジニアリング組織論への招待」, 技術評論社

  21. 読書猿(2020), 「独学大全」, ダイヤモンド社, pp.512

  22. 前掲書「独学大全」, pp.522

  23. 前掲書「独学大全」, pp.525

  24. つまり、「独学大全」の2つの手法の組み合わせになったのは偶然

  25. 前掲書「本を読む本」, pp.173-174

  26. ちなみにこれが、非公開で読書メモを取る大きな理由です。「反論しても構わない」という姿勢については、賛否あると思うので

  27. 偉そうなことを書いておきながら、自分はこれがとても苦手です

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