この記事を書こうと思った理由
弊ラボでは博士課程に進学する学生がほとんどおらず, 先生方も学生が博士課程に進学することを半ば諦めていたため, ラボ内で博士課程に関する情報を集めることが困難でした. その上, 普通に過ごしているうえでは博士課程は闇といった情報ばかりが入ってくるためネガティブな印象を持ちやすい環境でした。
その上で今回私は博士課程に進学するという決断をしたため, 何を調べ何を考えたのか記しておきたいと思います。
以下, 基本的には情報工の分野であること(特に機械学習界隈)を前提にしている部分も多くあるためご注意ください。また, まだ博士課程にも入っておらず就職もしたことがない大したこと無いやつが書いているポエムだということも念頭において読んで頂けると大変有り難いです。
しかしながら、この記事が今後どなたかの決断の一助になることを願っています。
筆者スペック
地方国立大の情報工学研究科に所属する修士2年です。専門は機械学習(ベイズ最適化など)で論文は筆頭著者で1本, 第2著者で1本(2本ともトップカンファに提出しリジェクトくらい修正中), 材料系のデータへの実応用論文がジャーナルに採択されました。
研究室に入ってからは頑張って勉強しているつもりですが, 学士3年までは遊び呆けており情報工学に関する知識は皆無とまでは言わないまでも非常によろしくないレベルでしか持ち合わせていません。
一応, 修士1年時点で希望の企業に機械学習系の職種で内定を頂いており、内定先に不満がなかったということは明記しておきます。
博士進学を考え始めた理由
自分の目標としては、機械学習に携わりながら企業で働いていきたいという思いがありました。
流行りに乗って多くの大学でデータサイエンス学部やらなにやらが乱立されている現状を考えると、機械学習に関する人材が今後右肩上がりに増えていくことは想像に難くありません。きっと, 自分より何かしらのスキル(ビジネス, プログラミング, 数学, etc...)で秀でている人も増えていくことでしょう。そういった人材と数年後比較されたときに自分は何かしらの武器を持っていないと生きていけないことは明確です。
現在私がアピールできるスキルは機械学習に関するものしかありませんが、私のレベルで機械学習をやれる人材なんていくらでも出てくるはずです。そうなったときに、このような中途半端なレベルで社会に出て自分は本当に後悔しないのかと悩み始めました。
同時期に、研究室内で博士をポジティブに考えている学生と博士課程に関して話す機会があり、一度博士進学についてメリット・デメリットや経済的な問題などきちんと調べなければならないと考え始めました
最終的な結論と感想
この後長々と書いていくので最終的に博士に行きたいと思った時に確認するべきと思うことだけまとめておきます。
- 博士に進むことに価値を見いだせるか
- より良い就職ができそう
- アカデミックポストに就きたい
- 何かしらのスキルが身につくと思う
- 研究がしたい!
- etc.
- 3年間モチベーションを保って研究できる環境か
- モチベさえあればきっとなんとかなる(って先生が言っていた)
- 博士をちゃんと卒業できると思うか
- 大学によって卒業要件(ジャーナルn本等)は違うため確認しておくべき
- 明文化されておらず教授に確認しないとわからない場合もある
- 経済的な問題を最低限解決できそうか
- 後述するが何かしらの収入源が無ければ正直厳しい
以上が問題なさそうであるならば博士進学を前向きに考えてもよいのではないでしょうか。
私の周りには家族も含め博士進学についてネガティブなことを言う人は一人もいませんでした。流石に内定先の人事の方には引き止められましたが最終的には応援して頂いた上でご相談にまでのって頂き本当に感謝しています。
私はやはり20代のこの時期に研究に没頭できるということは、3年間お金を払って様々なリスクを負ってでも得るべき価値のある経験だと考えています。(経済面の問題はシステムとして解決されるべきだとも思いますが)
またネット上にはネガティブな意見も溢れていますが、多くの場合大昔の話かまったく別分野の話です。きちんと参考になると思われる情報源を自分で探して判断されることをお勧めします。
参考にしたサイトなど
リサーチ・アシスタント(RA)等のサイトは毎年更新されるためきちんと自分で調べることをおすすめします。
-
博士課程の誤解と真実 ー進学に向けて、両親を説得した資料をもとにー
- 他分野ですがきちんとお金の話などもきちんとまとまっていて非常に参考になります.
-
返さなくていい給付型奨学金をくれる団体
- 詳しくは所属大学の奨学金情報や学務課等で確認してください
-
博士学生の生活費について
- 博士の学生の方のサイトで税金などのことも書いているので参考になります
- 博士にもなればもう学生気分ではいられないので税金ぐらい勉強しようと思いました
-
Andrew Ng氏によるAI分野に関するキャリアについて
- 和訳記事はこちら
- どれぐらい有名な人か正直知らないのだが, 言っていることは参考になった気がする
-
データ分析界隈でのキャリアについてのnote記事
- やはり未成熟な業界ではモデルとなるキャリアがないので自分で考えましょうというお話
- 奨学金とか(基本は大学で調べてください)
他にもいろいろ調べましたが基本的には(私のこの記事も含め)個人の感想の域を出ません。
卒業に向け考えた選択肢
以下考えた選択肢と私が思いつく限りのメリットとデメリット及び所感をまとめます。
同一大学での博士進学
メリット
- どのような環境なのか把握できている
- 3年間思う存分研究できる
- (卒業できれば)博士と名刺に書ける!
デメリット
- 経済的な問題
- 3年後の就職不安
- 同じ環境に6年身を置くことで視野が狭まる可能性
所感
最終的に自分はこれを選んだわけですが、万人がこれを選ぶべきとは到底思えません。デメリットをなんとかできる目処がたった上で、メリットが魅力的に思える方は良いのではと思います。
私はデメリットを(すごく楽観的にですが)なんとかできそうで、かつ今の研究をより深める方向で3年間研究をしたいと感じたためこの選択肢を取りました。
弊ラボの研究員さんや内定先の博士の方などにお話を伺いましたが、博士では理論寄りと応用寄りの研究どちらかをすることになると思われます. 最近では応用よりの研究は企業でできるため, 応用寄りの研究をしたいと思っている方も博士に行く理由は薄いと思います。
別の大学での博士進学
メリット
- 新しい環境で研究にチャレンジできる
- 3年間思う存分研究できる
- (卒業できれば)博士と名刺に書ける!
デメリット
- 経済的な問題
- 3年後の就職不安
- 現在と同じ研究を続けられない可能性
- 学外から相性のいい指導教員を見つける必要
所感
外部に信頼できる指導教員が見つかり, そこでやりたい研究があるのなら良い選択肢だと思います。また、研究内容ではなく泊のある大学の博士号が欲しいという動機であるならば、自分の満足の行く大学を探すと良いのではないかと思います。ただ、個人的には大学の名前よりも指導教員・研究員・学生との相性などを重要視すべきだと思います。私は外部とのコネクションがなく似た研究をしている研究室が思いつかなかったこともあり同じ大学で進学することにしました。
就職
メリット
- お金が稼げる
- ビジネス上での機械学習応用の経験が積める
デメリット
- 博士行かなかったことを後悔する可能性
所感
デメリットも無いようなものですし、内定先に不満がないのなら選んで当然とも思えます。私の場合就職を選ばなかった理由は、数年後の自分が後悔しそうだと感じたことが一番大きく、次点で今身につけるべきスキルは博士で得られるものだと考えたことです。
社会人ドクターを目指し就職
メリット
- 経済的には現実的に博士号が狙える
- お金が稼げる
- ビジネス上での機械学習応用の経験が積める
デメリット
- 制度のある企業でなければ難しい
- 研究時間は限られる
- 結婚等考えているなら難しいかも
所感
現実的なように見えて意外と超えるべきハードルは多い気がしています。社会人ドクターを推奨する制度のある企業でなければそもそも難しいですし、もし結婚等考えていれば大事な方の説得も必要になるでしょう。また、推奨している企業でも多くの場合平日1日だけ研究に当てても良いという制度のため、働きながらプライベートの時間を削りに削って研究する必要があります。もちろん経済面のサポートは非常に大きいため心強さもあると思います。
私は思う存分研究できる環境で博士に進みたかったことや、内定先にそういった制度がなかったため諦めました。企業に制度があるならば、十分に価値のある選択肢だと思います。
博士進学のデメリットについて
上記のデメリットについてどう考えているのかまとめておきたいと思います。
同じ環境に6年身を置くことで視野が狭まる可能性
これはもちろん危惧はありますが、自分の行動次第で解決できる問題だと思います。
今はSNSもありますし、積極的に他分野の方とのコミュニケーション等を取っていけばそう頭でっかちになることは無いと思います。
3年後の就職不安
これもこと情報工の分野に限ればそこまで深刻な問題だとは思っていません。もしアカデミックポストにつきたいと考えているのであれば狭き門かもしれませんが、民間であれば十分に就職先はあると思います。文科省の資料を見ると, 文系は軒並みひどい有様ですが工学系は70%は超えているようですし, 全体を見ても改善傾向も見られる感じです. 実際に博士のための採用枠を設ける企業も最近は多いですし、、情報工かつAI分野に関して博士を取ったならば就職先に困るということは相当人格に問題がなければ大丈夫でしょう(きっと)。博士の就職で一番のネックは年齢と実務経験の少なさ(と柔軟性がないと思われること)だと思いますが、それを自覚した上で有意義に3年を過ごしていきたいと考えています.
経済的な問題
これは最も切実な問題だと思います。親からの援助がないとして、生活費(家賃・ガス代・光熱費・水道代・通信費・食費・雑費)が多めに見積もって12万程かかるとすると年間144万円の支出になります。
私の大学は授業料が年間54万円程かかりますので、合計年間で200万円ほどは必要です。ただし、国立大であれば多くの場合半額もしくは全額免除を狙っていけるのではないかと思います。自分が免除を狙えるかどうかは恐らく大学に免除のモデルケース等あると思いますので, 学務課に確認しましょう.
また、もし所得が103万円を超す場合などには基本的に扶養を外れることになると思いますので追加で税金などが年間50万円程かかります。この場合, 授業料は全額免除が取れるものとしてやはり年間200万円ほど必要です。
博士が狙っていける収入源は多くの場合以下のものだと思われます。
- 大学のRA
- 研究室のRA
- 日本学術振興会特別研究員(いわゆるDC1 or DC2) 月々税抜20万
- 非常に競争が激しい為何かしらの業績が無いと難しいと思われます
- その代わり履歴書にも書ける研究員になれるらしいです
- DC1は1年から3年間もらうもの, DC2は2年時以降から2年間もらうものです
- DC1はM2の春頃に申し込みがあるため、それ以降に進学を決めた場合申し込みできません...
- バイトや他の奨学金との併用禁止には気をつけましょう(併願はOK)
- 理研RA 月々16万8千(税込み)
- 理研の受け入れ研究室等であれば申し込みできます
- こちらも競争は激しいらしいです
- 基本1年ごとに更新があるらしいです
- 産総研RA
- 詳しく知りません!
- 日本学生支援機構奨学金 最大で月々12万2千
- 博士は受給者の内45%が全額もしくは半額免除を受けられる
- 免除内定制度もあり内定すれば給料も同然です
- その他奨学金(給付型が望ましい)
- これは出身・大学等で大きく変わるのできちんと確認しましょう
DC・理研RA・産総研RAを取れれば安泰です. きちんと扶養から外れて授業料の免除申請をすれば日々人間らしい生活ができるはずです。
以上のものが取れなかった場合, 給付型奨学金や日本学生支援機構の免除内定が取れた場合も給付額によりますがだいぶ安泰だと思われます.
問題は上記が1つも取れない場合, 大学と研究室のRAと日本学生支援機構の奨学金(借金)で生活することになります. 自分も最悪の場合このパターンになるわけですが, 幸いRAをある程度くれると言っていただいているので楽観的に構えている次第です.博士まで行ってバイトをする気はさらさらないので今から頑張ってお給料を貰えるよう研究をしていく所存です.
まとめ
博士進学も結構悪くないと思うので、行こうとは言いませんが是非皆様ご検討を