$$
\newcommand{\bm}[1]{\boldsymbol{#1}}
\newcommand{\jiko}[1]{\bm{\dot{#1}}}
\newcommand{\pt}[0]{\partial}
$$
電磁気学の最初に学ぶ電界の計算
電界を求める際,クーロンの法則やガウスの法則を用いる方法がありますね.クーロンの法則を使えば,
\bm{E}(\bm{r})=\cfrac{1}{4\pi\epsilon} \int_{V'} \rho(\bm{r}) \cfrac{ (\bm{r}-\bm{r'}) }{ |\bm{r}-\bm{r'}| } dV
により計算できるでしょう.しかし,この積分は容易ではありませんね.そこで,電荷(密度)$\rho$に空間的な対称性があれば,ガウスの法則を使って
\oint_S \bm{E} \cdot \bm{n} dS
= \cfrac{1}{\epsilon} \int_V \rho dV
と計算できます.そう,対称性があれば...
ポテンシャルを用いた電界の求め方
上で述べたように,直接,電界を求めるのは骨が折れます.一般には,電磁界が作り出すポテンシャルを介して電磁界を求める方法が用いられます.ここでは,時間変動のない静電界を考えます.
今,場所によらず均一な静電界$\bm{E}$
$$
\bm{E} = (E_x,~E_y,~E_z) \tag{1}
$$
において,$q=1~$[C]の電荷を置きます.この電荷は電界$\bm{E}$からクーロン力$\bm{F}$を受けます.
$$
\bm{F} = \left. q \bm{E} \right|_{q=1}
$$
このクーロン力に逆らって,電荷を原点$O$から$\bm{r}=(x,y,z)$の点Pまで動かすときに必要な仕事$V$は
\begin{align}
V
= - \bm{F} \cdot \bm{r}
&= \left. -q\bm{E} \cdot \bm{r} \right|_{q=1} \\
&= - \bm{E} \cdot \bm{r} \\
&= - E_x x - E_y y - E_z z \tag{2}
\end{align}
ですね(均一電界を仮定しているので積分は不要).この仕事$V$を電位といっています.
式(2)の両辺を$x,y,z$で偏微分すると,次のようになります.
$$
\cfrac{\pt V}{\pt x}= -E_x,~~~~
\cfrac{\pt V}{\pt y}= -E_y,~~~~
\cfrac{\pt V}{\pt z}= -E_z
$$
これを式(1)に放り込むと,静電界$\bm{E}$は次のように表現できます.
$$
\bm{E}
= (E_x,~E_y,~E_z)
= - \left(
\cfrac{\pt V}{\pt x},~~
\cfrac{\pt V}{\pt y},~~
\cfrac{\pt V}{\pt z}
\right)
= -\nabla V~~\left(\because
\nabla \equiv
\left(
\cfrac{\pt}{\pt x},~~
\cfrac{\pt}{\pt y},~~
\cfrac{\pt}{\pt z}
\right)
\right)
\tag{3}
$$
つまり,1)観測点の電位$V$が分かれば,2)その点の電界$\bm{E}$は$V$の勾配から求められます.この$V$をスカラーポテンシャルと呼んでいます.
電位の求め方(ポアソン方程式とラプラス方程式)
では,電位$V$はどのように求められるのでしょう.結論から言えば,ポアソン方程式やラプラス方程式から求められます.そのため、これらの方程式を求めてみます。電束密度に関するガウスの法則および電束密度と電界の関係は次のように与えられますね.
\begin{eqnarray}
\begin{cases}
\nabla \cdot \bm{D} =\rho \\
\bm{D} = \epsilon \bm{E}
\end{cases}
\end{eqnarray}
これらから,次の関係が得られます.
$$
\nabla \cdot \bm{E} = \cfrac{\rho}{\epsilon}
$$
ここで,電界は式(3)より$\bm{E}=-\nabla V$と与えられますので,
$$
\nabla \cdot \bm{E}
= \nabla \cdot (-\nabla V)
= \cfrac{\rho}{\epsilon}
~~\rightarrow ~~
\nabla^2 V = - \cfrac{\rho}{\epsilon}
\tag{4}
$$
これをポアソン方程式と言います.もし,観測地点に電荷がなければ$\rho=0$より
$$
\nabla^2 V = 0
$$
となります.
\begin{eqnarray}
\begin{cases}
\nabla^2 V = - \cfrac{\rho}{\epsilon} &(ポアソン方程式) \\
\nabla^2 V = 0 &(ラプラス方程式)
\end{cases}
\end{eqnarray}
ポアソン方程式(の解)は,電荷密度$\rho$の体積$V$が,距離$r$だけ離れた点に作る電位$V$を表しています.
ここまでの静電界の求め方ををまとめると図のようになります.
制約条件
この記事では電磁界が時間変動しない,静電界を考えています.このことはファラデーの電磁誘導の法則において磁界の時間変動を表す右辺が0となるため
$$
\nabla \times \bm{E} = - \cfrac{\pt \bm{B}}{\pt t}
~~\rightarrow ~~
\nabla \times \bm{E} = \bm{0} \tag{5}
$$
のような渦無し場となります。これに,式(3)の関係である$\bm{E}=-\nabla V$を放り込むと
$$
\nabla \times \bm{E} = \nabla \times (-\nabla V) = \bm{0}
~~\rightarrow ~~
\nabla \times \nabla V = \bm{0}
$$
となります.ベクトル解析によると,この関係は常に成立します.したがって,$\nabla \times \bm{E}=\bm{0}~$の場合にのみ$\bm{E}=-\nabla V$から$\bm{E}$を求めることができる,という制約がついてきます.
ポアソン方程式の具体例
図ように,一様に帯電した十分に広く厚さ$L$の板があり,これを2枚の接地(アース)した導体電極で挟みます(アースした部分の電位は0 V).板内の一様な電荷密度を$\rho$として,1)板内電位を求めよ.
解) 前述のポアソン方程式
$$
\nabla^2 V
= - \cfrac{\rho}{\epsilon}
\qquad\left(
\nabla^2 = \cfrac{\partial}{\partial x}
- \cfrac{\partial}{\partial y}
- \cfrac{\partial}{\partial z}
\right)
\tag{再掲4}
$$
の解を適用して,電位$V$を考えます.今,十分に広い板を考えていることから,電位$V$は$x$方向にのみ変化しているとします.このとき,ポアソン方程式は次のようになりますね.
$$
\cfrac{\partial^2 V}{\partial x^2} = - \cfrac{\rho}{\epsilon}
$$
両辺を$x$で2回積分すれば,次の関係を得ます.
$$
V = \cfrac{1}{2\epsilon} \rho x^2 + C_1 x + C_2
$$
任意定数$C_1,~C_2$を決定するために境界条件を考えます.極板の両端は接地していることから,$V(x=0,L)=0~V$となります.そのため,
$$
C_2=0,~~C_1=\cfrac{1}{2\epsilon} \rho L
$$
となり,最終的に電位の分布は次のようになります.
$$
V= \cfrac{\rho}{2 \epsilon} x (L-x)
$$