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チームのためのウェットウェア・エンジニアリング

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はじめに

リファクタリング・ウェットウェアという名著があります。
ウェットウェアとは、脳というハードウェア、あるいはその上で動いているソフトウェアを示している言葉ですが、ソフトウェアをリファクタリングすることでコンピュータができる仕事が最適化できるように、人間の行動も最適化できるというのはとてもいいな、と思った記憶があります。
個人の性格や才能のような変えられないもしくは変えにくいと思っていたものが、なんとかできるものだというように考え方をシフトできたのはエンジニアとしてやっていくうえでとても役に立ってきました。成長というほど大袈裟ではなく、思い立ったらすぐに変えられるというのは心理的なハードルも低く、行動に移すことに抵抗がありません。

また一方で、ある程度、経験を積んでくるとリーダーやマネージャーとしての役割を期待されるようになります。特に自分は、転職して拠点の立ち上げ時期に最年長者として合流したタイミングが大きくそれを意識するきっかけになりました。

5人程度だったチームの規模が3倍に増えていく過程で、自分がどう振る舞うかだけでなく、チームがどうなるべきか、そのために周囲にどう動いてもらうか、また周囲をどう巻き込んでいくかといった課題に直面するようになった時、あらためて、チームが人間、つまりウェットウェアが集まった集合体だということを意識しました。
リファクタリング・ウェットウェアでは自分自身など、主に個人に多くの記述が割かれていたので、チームや組織をどのように「エンジニアリング」1するかという観点で気が付いたことを書いていきたいと思っています。

心の準備

完璧にこだわらない

シリコンコンピュータにも当然ハードウェア、ソフトウェアに由来するバグはありますが、バイオコンピュータである人間というハードウェアの方が、(生きていくために)はるかに余計な仕事が必要である関係上、意図しない動作を引き起こしやすいといえます。勝手に行われる入力も多ければ、記憶媒体としては欠落や改変が勝手に行われ、それらが互いに絡み合ったとても複雑なルールで動いています。同じ入力を与え(たと思ってい)ても、必ず同じ結果が得られるとはかぎりません。特にリファクタリング・ウェットウェアにも書かれていたように、コンテキスト≒状況の影響は、簡単に結果をひっくりかえしてきます。
そんな計算通り動かないウェットウェアが、さらに集合体となってチームとして共同するわけですので、いつもいつもうまくいくわけがありません。失敗は最初から起こりうる学びとして織り込んでおくべきですし、チームの全員が変わる必要はそもそもないという前提で考えておく方が、自分にとっても周囲にとっても不幸な結果を回避できます。

時間は惜しみなく使う

完璧を求めないということは、持続的に改善し続けるというスタンスになります。試行錯誤を繰り返すことになるので、そのために一番必要なリソースは時間です。時間がないというのは、人間の判断力や忍耐力をいとも容易く奪っていくので、まず時間がかかるものだという覚悟こそが必要になります。
正直なところ、自分は子どもができてからこの事実に気がつきました。親子という多くの時間を共有した近しい間柄でさえ、ひとりの人間の行動に影響を与えるのは簡単なことでないことを日々感じています。ましてや独立した大人の行動に影響をあたえるのは非常に難易度が高いと感じています。

人間の行動が変わるとは

人間の行動が変わる仕組み

人の行動が変わることを、行動変容といいます。
行動変容は一般的には少しずつ段階を経ていくことが「無関心期」「関心期」「準備期」「実行期」「維持期」という、5つのステージで定義して考えられています。
もともとは健診・保健指導の分野から導かれたモデルですが、さまざまな行動に応用されています。
元々の保健指導の場合は、対象者が状況や改善の必要性を理解したうえで、問題の機序を理解して、改善活動を自ら選択して、さらにその結果が成果に結びつくように支援することが重要であると定義されています。
これをそのまま持ってこようとすると正直重たすぎるので、完璧にこだわらず、ある程度のエッセンスだけ取り入れたいと思います。

自分自身で選びとってもらうことが重要

大前提として、こちらの指示や依頼通りに動いてもらうということは目的としていません。
短期的にはそれが必要なシーンが出てくる場合もありますが、リーダーやマネージャーがそこにこだわると、あっという間にキャパシティオーバーになって破綻するのが目に見えています。またメンバーの主体性が低下したり、お互いの感情的なすれちがいや衝突の原因にもなります。
なので、あくまでチームのメンバーや、チームに関係するステークホルダーといった対象自身が、目的や必要な行動を理解して行動したり、その行動を維持してもらう必要があります。

内容(What, Why)が正しいだけでは足りない

ただ、ここで残念なことに、正しいだけでは人は動いてくれないという現実があります。元となった健康分野で考えれば、よくわかると思います。身体に良いこと、悪いことをいくら理解していても、行動にうつしたり、習慣を変えることは難しいですよね。
人間の思考や行動には慣性が働いているので、そこを変えるためには大きなエネルギーが必要であり、そのためには理解だけでなく、納得という感情面の力を借りる必要があります。リファクタリング・ウェットウェアにあてはめるなら人間のLモード(思考)だけでなく、Rモード(感覚)に働きかける、というかたちでしょうか。

何に納得するかは相手やチームによって違う

では、納得を得るためにはどうすればよいでしょうか。ここには絶対的な正解はなく、いろいろな手段を試してみるしかありません。

  • 誰から伝えるか(Who)
  • どんな状況、タイミングで伝えるか(When, Where)
  • どのように伝えるか(How)
  • 情報に触れる回数を増やす
  • 行動や実績で示す
  • 事例を示す
  • 環境や仕組みを整える

情報を正確に伝える

正確に、というのは難しい表現です。さっそく矛盾するようですが、特に多数を対象とした場合、正確さよりも伝わりやすさが大事な局面はあります。
もちろん事実は事実としてきちんと提示する必要がありますが、伝えるという観点で考えた時、正確さよりも伝わりやすさが大事な局面はどうしても出てきます。事実に対してではなく、伝えたい内容に対して正確にといったほうが近いかもしれません。
コンテクストを問わずあらゆるシーンで絶対的に正しいものはそうそうありません。状況に応じて伝えたいメッセージを絞る覚悟も必要です。ちょっと感覚的な話になりますが、この情報を正確に伝えるというのは、使っているのが自然言語である日本語というだけで、実は美しいソースコードを書くのと似ています。

感情をふんわりと共有する

理解に対して、納得は感情面からの働きかけです。両者は似ているようで、決定的に違うことがいくつかあります。そのひとつは速度です。
感情が追いつかないという表現もありますよね。雑談の効能だったり、アイスブレイクやチームビルディングといった活動が注目される理由のひとつはここにありますが、特別なことでなく日常でも意識できる内容がいろいろあります。表情とか声のトーンとか意識しはじめるとこの分野はおそらくキリがないですが、行動としてすぐできる内容でも効果が大きいものがいろいろあります。

  • 話しかけられた時に体を相手に向ける
  • 視線をあわせるまたは外す
  • 腕を組む足を組むなどの防御姿勢をとらない

Slackのようなビジネスチャットならスタンプをつかったり雑談チャンネルをつくったり、オンラインミーティングでもミーティングの終了時に手をふってみたり、ツールが変われば工夫する内容もかわってきますが、感情を共有するという点を忘れると必ずどこかでしくじります。行動してもらうために情報は必要条件ですが、それだけでは人類にはハードルが高すぎます。感情という十分条件を満たしてようやくスタートラインに立てます。

チームの外に働きかける

環境や仕組みを整えるのはハードルの高い行動ですが、特にチームの外部に対して働きかけて整えてもらうのは面倒ですし、できればやりたくないものです。
地方拠点としての活動のなかでは特に、本社のいろいろなチームや他の拠点との関係性というのは難しかったり面倒なものですが、環境や仕組みという大きな効果が得られるものを整えるためには避けては通れません。
中長期的に見ると、ここをサボるとたいてい痛い目をみるということがわかっているので、リーダーやマネージャーに与えられている責任や権限のうちの何割かはこうした外部への働きかけのためにあると思っています。
とはいえやることに変わりがあるわけではないので、情報と感情の両面から外部との入出力を行うことを愚直に継続するのが結局近道なのではないかと思います。
「対象者が状況や改善の必要性を理解したうえで、問題の機序を理解して、改善活動を自ら選択してもらう」という点では、対象者がチームのメンバーかどうかは関係なく、使用できるツールやリソースが異なるだけです。

おわりに

いろいろと書いてますが、自分が常にこれらを実践できているかというと、そんなわけはありません。
やってはみたものの意識し続けるのは難しく続けられていないものだったり、忙しさやメンバーの優しさに甘えて怠けてしまっているものなど、できていないことだらけです。
それでも、どこかで誰かがチームを改善していくヒントになれば幸いです。

また今年はひとつのチャレンジとしてPasonaTechアドベントカレンダーという形をとってみました。こういった活動もチームや組織のウェットウェアに働きかける一環になればいいな、と思っています。忙しい年の瀬のなか参加してくださった@hananaさん、@ponwinkさん、@natsutanさん、@dafukuiさん、@sshuvさん、@nosuke505さん、ありがとうございました。

参考

  1. 余談ですがあとウェットウェア・ハッキングとか、ソーシャル・エンジニアリングとか、割と用語的に悪い印象や意味が付加されてしまいがちなので悩ましい。

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