この記事はLITALICO Engineers Advent Calendar 2024 シリーズ1の12月20日の記事です。
はじめに
自己紹介
はじめまして、LITALICOの榎本です。
普段はCQO(Chief Quality Officer/最高品質責任者)という仕事をしています。
また、LITALICO研究所という社内研究機関の所長として研究プロジェクト等のマネジメントをしています。
LITALICO研究所については、サイトを見てみてください。
プライベートでは「みんなのアクセス」という任意団体を立ち上げて、さまざまなアクセシビリティについて考えるトークシリーズをやっています。
この記事について
記事の目的
社内ポータルサイトの作成や運用を任されている人が、どのようなことを考えて業務に携わればよいかのヒントを提供します。
「社内ポータルサイトってどうやってつくるの?なにから考えたらいいの?」
「いまある社内ポータルサイトがいまいち使いづらくってどこから改善したらいいかわからない」という方に対して直接的なヒントを与えられると思います。
書くこと
- 社内ポータルサイトで”あるある”の問題点・アンチパターン
- 社内ポータルサイトを改善していく過程で取り組んだこと
- 情報アクセシビリティの観点
書かないこと
- LITALICOの社内ポータルサイトの詳細の構造
対象読者
- 社内ポータルサイト制作にかかわる方
- 業務プロセスにおけるルール作りにかかわる方
- アクセシビリティに関心のある方
問題意識
「僕がwikiの取りまとめをやります」
と、全社のポータルサイトを担当していた方にお伝えして、今年の夏から社内ポータルサイトの運用改善に着手しました。
(ちなみに社内では「wiki」と呼んでいますが、厳密なwiki1の定義からすると外れるので、便宜的にこの記事では「ポータルサイト」と呼びます。)
LITALICOは、様々な事業群を有している会社です。
事業部ごとに従業員向けのポータルサイトを作りメンテナンスしているのと、コーポレート組織(人事・労務、総務、ITサポート、法務など)の情報をまとめているポータルサイトと、すべてあわせると約30個のポータルサイトがあります。
個数自体は本質的な問題ではないものの、当時感じていた問題意識は下記のようなものでした。
- 情報が探せない、見当たらない
- 調べたいことが当該ポータルサイトでは見当たらない(別のポータルサイトにある)
- 提示されている情報が分かりづらい、理解しづらい
- 上記の結果、検索効率が悪く非効率
記事を読んでいる社内ポータルサイト類を整備している方々も、多かれ少なかれ当てはまるものがあるのではないでしょうか。
こういった問題意識と、自分の部署のミッションや大事にしていることの掛け合わせて、自分で担当した方が良いとおもい提案に至りました。
下記のように、「顧客への良いサービスの提供」から逆算したときに、「従業員の仕事のしやすさ」は大事な要素の一つであると考え、さらに、そのためには、情報アクセシビリティは無視できないと考えました。
アクセシビリティは、様々な文脈において様々な意味合いで用いられることがあります。
いまの文脈では、情報アクセシビリティとは 「社内情報の検索や取得のしやすさ」 という意味合いで用いています。
前提
取り組み内容の具体に入る前に、前提を示します。
- 社内ポータルサイトの数:約30個
- 社内ポータルサイトを構築しているシステム:
- Googleサイト(大半の部署はこれ)
- Googleスプレッドシート
- Notion
- Figma
- 社内ポータルサイトの種類:
- 全社員対象のコーポレート系のもの(人事・労務、総務、ITサポート、法務など)
- 特定事業部社員対象の事業部系のもの
- 特定職種社員向けのプロダクト開発系もの(プロダクトマネージャー、エンジニア、デザイナ、マーケター)
- 社内ポータルサイト運用担当者人数(以下、「担当者」):約70名
やったこと
前述の問題意識のもと行ったことを列挙します。
- 現存する社内ポータルサイトをすべて列挙し把握
- 担当者の横断的な連携の委員会の作成と周知
- 担当者とやりとりするためのチャットスペース作成
- 担当者への実態調査とヒアリング
- 社内ポータルサイトの具体的な改善
- 社内ポータルサイト作りにまつわる「学びの場」の開催
1~4は約1ヶ月行い、5は開始時点から継続的に複数案件を実施、6は1回開催しました。
以下、かいつまんで説明します。
1. 現存する社内ポータルサイトをすべて列挙し把握
スプレッドシートにて、部署名、ポータルサイトURL、担当者、閲覧権限範囲を項目として、自分が調べられる範囲で埋めていき、その後、各部署の人にヌケモレがないかを確認いただきました。
2. 担当者の横断的な連携の委員会の作成と周知
社内では「wikiアクセシビリティ向上委員会WAC(Wiki Accessibility Committe)」と呼称し、1で整理した担当者の方々を指名してお知らせしました。
3. 担当者とやりとりするためのチャットスペース作成
GoogleChatでWACのチャットスペースを作り、取り組みの詳細を示した資料と、それを説明した動画を展開して目を通していただくようにお伝えしました。
また、各部署の担当者の方々と切り出したチャットスペースを作りました。
4. 担当者への実態調査とヒアリング
担当者に対してアンケートフォームを用いた実態調査を行ったのと、ヒアリングを実施しました。
実態調査の結果やインサイトについては、後述します。
5. 社内ポータルサイトの具体的な改善
3と少しかぶる形で具体的な改善が必要な案件を複数個、スタートさせました。
案件ごとに、下記の項目を整理して関係部署と議論しました。
- 修正前後の変更点
- ページの構成(ページ、サブページ、見出し、小見出し)の変更点
- 実装イメージ
6. 社内ポータルサイト作りにまつわる「学びの場」の開催
WACのチャットスペースで、学びの場を気軽な気持ちで企画してみました。
学びの場の企画コンテンツとしては、下記のようなものにしました。
- レクチャー(Googleサイトの細かい仕様とか実用的なTipsの共有)
- 困りごと相談会(事前に書いてくださった困りごとへの榎本なりのアンサーを提示)
- ベストプラクティス発表(担当者がつくっているポータルサイトの良い点を発表してもらう)
実態調査結果
前述の実態調査を少しだけ紹介します。
調査では、更新にかかる工数、頻度、負担感を定量的に尋ねつつ、困りごとを定性的に書いてもらいました。
また、困りごとをトピックごとにグルーピングして、困りごとマップを作りました。
マップにある通り、様々な困りごとが複数の原因によってもたらされているという様子が浮かび上がりました。
大きな課題は、業務効率の悪化です。
そして、その課題をもたらす要因は、「情報が古く、誤っており、役立たない」「担当部署の問い合わせ増加」「知りたいことが知れない・解決しない・役立たないと思われる」ということだと考えました。
さらに、それらの要因につながる原因群たちが図の通りさまざま存在します。
その中でインサイトがあったことを紹介します。
それは、ポータルサイトの情報探索に関することです。
- 情報探索において、Googleサイトだけでなく、Googleドライブ検索を用いる
- ファイルやフォルダは、古くなっても公開範囲を非公開にしていないことが多い
こういった状態によって、調べた情報が誤っていたり、矛盾する複数の情報に行き着いたりするという事態に陥ります。
さらにそういうことが続くと、そもそも調べるモチベーションが下がって、ポータルサイトで検索しなくなります。
どうしてもポータルサイトの見た目、情報構造などの方に目が行きがちだったのですが、ユーザー(=従業員)目線に立つと、「検索」起点でポータルサイトに期待しているということがわかりました。
このようにして、困りごとの整理をしたうえで、大きなテーマを2つ設定しました。
- 更新ルール・ファイル管理ルールの設定と徹底
- 視認性、UIUX向上の手だて
1点目は、そもそも更新する際のルールを統一的に設定することもそうですし、前述した検索に引っかかる情報自体の更新ルールも対象となります。地味な話としては、PDFデータを更新する際には名前をつけて新しく生成するのではなく、版管理機能を用いて上書きすること、などです。
2点目は、ページのフォーマット化・フォーマットの適用、ユーザー(=従業員)目線にたった情報設計、ページ間の相互リンクの設計(当該ページで問題解決できなくても関連ページに誘導)、などを指しています。
この大きなテーマを優先度に従って実装しながら、個別の改善案件を進めていくということを行っています。
情報アクセシビリティの観点
課題認識や実態調査を情報アクセシビリティの観点から考察してみます。
情報アクセシビリティは、冒頭で言及した通り、「社内情報の検索や取得のしやすさ」 という意味合いです。
現時点で、大事だと考えている観点と、具体的な実現アイディアを列挙します。
-
ユーザー目線で設計する
- 用語の説明を明示する
- 業務知識がうすい前提で説明文章を書く
- 調べそうなキーワードを散りばめる
-
認知するハードル・認知負荷に考慮する
- ページの共通フォーマットをつくる
- 文字装飾の種類は限りなく減らす
- フォントサイズの種類は限りなく減らす
-
代替手段を用意する
- ページ間相互リンクの動線を設置して、情報探索行動で解決できないことを減らす
- 資料のURLリンクだけでなく抜粋画像を貼り付ける
こういった観点を深めていって、更にアクセシブルな社内ポータルサイトにしていきます。
おわりに
ここまで、今年の夏からはじめた取り組みの内容をかいつまんで説明してきました。
社内ポータルサイト運用担当者のヒントになれば幸いです。
最後に、今掲げている「あるべき姿」を紹介いたします。
社内ポータルサイトでこういった姿を実現することで、よりよいサービスを追求することにもっと時間をさけるようになり、ビジョン「障害のない社会をつくる」の実現を加速していきたいと思います。
それでは、Happy Holidays!
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ウィキ(wiki)とは、不特定多数のユーザーが共同してウェブブラウザから直接コンテンツを編集するシステム、またはそれを採用したウェブサイトです。参照:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%82%AD ↩