江口晋太朗です。
この記事は、Civic Tech (シビックテック)をテーマにした、「Civic Tech Advent Calendar」企画の3日目のための原稿です。他の記事は
http://qiita.com/advent-calendar/2013/civictech
の一覧から見れるようになっており、日ごとに記事が増えていく予定です。
#21世紀型の都市が持つべき7つの戦略
Advent Calenderということなので、軽めな感じで書きながら、色んな視点からCivic Techについてみなさんと書き紡いでいければと思っています。
さて、海外でCivic Techに関連したウェブメディアとして、Goverment Technologyというサイトがあります。海外のCivic Techの事例やオープンデータの動き、オープンガバメントの事例など、さまざまなものが紹介されたりしています。その中で、Code for AmericaのAbhi Nemani氏(co-director)が10月に寄稿したものがありました。詳細は、原文を読んでもらえればと思うのですが、内容として、「7 Tactics for 21st-Century Cities(21世紀型の都市が持つべき7つの戦略) 」と題した内容でした。5年目を迎えるCode for Americaが活動してきた中で、これまで10以上の自治体と関わりながら、地域課題と向き合ってきた彼らが考える、これからの都市のあり方についての提言、といった内容でした。
見出しを中心に紹介しつつ、内容についてのコメントをしていきながら、ブログを書いていってみたいと思います。
#1. CREATE A SPACE TO EXPERIMENT. (実験ができる空間を作れ)
さまざまな人が集まる場所でトライ・アンド・エラーをし、そこから新しいチャレンジをしていくための場所が、都市には必要です。東京を例にすると、都市の余白が存在せず、ほとんどの人はお店やカフェといった既成の場所に収まりがちです。しかし、公園といった誰の所有でもない公共的な場所を通じて、色んな人が集える場所があることから、新しいものは生まれるのかもしれません。そういう意味では、東京はあまりにニューヨークなどと比べてふらっと立ち寄れる公園はたしかに少ない。ちょっとした憩いの空間や、多用な人たちが集まれる場所から、クリエイティブなものは生まれてくるのではないでしょうか。
#2. USE GOOD DATA FOR BETTER DECISIONS.(最適な決定のために、良いデータを使おう)
オープンガバメントの流れの中には、オープンデータも含まれています。オープンデータとは、広く公開し誰でも自由に使えるようにし、営利非営利問わずに使えるデータのことを指します。気象データや人口統計などの統計情報、行政期間が保有する地理空間情報や防災・減災情報などの公共データを、利用しやすい形で公開することがまさにそれでしょう。
そうした膨大なデータが、行政府の中には多く眠っています。そうしたデータを有効活用することで、ビジネス創発が見込まれるという研究発表も生まれています。しかし、ビジネスだけではなく、普段の生活においてデータを活用することで生活が豊かになったりすることも大切な視点です。さらには、行政府の政治的判断においても、こうした統計データを活用し、より効率的で効果の高い行政判断をすることが求められます。
地域の資源を活用し、市民や民間企業主導で地域の問題を解決していくボトムアップ型の社会を目指すためにも、どのようにデータを活用するのかを市民や民間企業自らが見出すことで、より地域を良くする判断材料として、データを使うことを前提とした社会にしていくことだと考えられます。
#3. DESIGN FOR/WITH CITIZENS.(市民のために、市民とともにデザインすること)
イギリス政府は、オープンデータの活用としても有名ですが、同時にデザインの視点でも有名な国です。その中でも、「サービスデザイン」という視点がいま求められています。サービスデザインとは、製品やサービス単体だけに注力するのではなく、サービス全体のデザイン設計を行ない、デザイナーがクリエイティブとイノベイティブを組み合わせていき、デザインシンキングなどのデザインの手法を取り入れながら、ユーザー視点からサービスを便利で欲しいと思うものにするだけでなく、企業も利益を出す仕組みを構築し多くの価値を生み出す方法と考えられています。(サービスデザインの具体的な話は、『THIS IS SERVICE DESIGN THINKING. Basics - Tools - Cases ー 領域横断的アプローチによるビジネスモデルの設計』に詳しい)
実際、イギリスではサービスデザインを使った教育の質向上や糖尿病や失業減少のためのプロジェクトがあり、イギリス政府は、すべてのデジタルサービスをサービスデザインにもとづいたマニュアルの基準を満たすべきという指針を発表するような動きも見せています。(詳細はGovernment Digital Service
Design Principlesを参照)どんなサービスも、それを使う人の視点にたち、よりよいユーザ体験を作ることが求められています。そして、それは公共サービスであっても同様です。そのためにも、サービスの設計段階からさまざまなUXの手法を通じたサービス設計を行うことが、企業だけでなく行政府も考えないといけない時代になっているのだと思います。
#4. DON’T BE AN ISLAND.(ガラパゴス化に陥るな!)
インターネットも含めて、いまや世界のさまざまな都市や地域が情報インフラによってネットワーク化されています。また、日本も含めて行政府はどこもベースの仕組みは同じであり、効率化を求める意味でもできるだけ仕組みはシェアしながら、細部をローカライズする意識を持つことが大切なのではと思います。
実は、自治体で一つの事例を作ればオープンマインドになれば一気にヨコ展開できる可能性が大きいとも言えます。だからこそ、オープンマインドをもち、できるだけ隣の自治体の良い所や仕組みを共有することで、よりスピーディに仕組みをアップデートすることができるのです。だからこそ、自治体はガラパゴス化するのではなく、ベースの仕組みやノウハウをもっと共有し、その余ったリソースの上で、ローカライズや独自の課題解決などのユニークさに力を入れるべきなのです。
#5. TAP INTO THE COMMUNITY’S CAPACITY.(コミュニティの力を借りよう)
ライフスタイルの多様化などによって、もはや行政府だけですべてを賄うことができない時代となっています。私たち市民は、これまでは行政府にお任せにしていればなんとか地域の問題解決ができたかもしれませんが、そうは言えない時代とも言えます。そして、そのことは私たち市民が自覚するだけではなく、行政府の中の人たちも、自分たちですべてを賄おうという意識から脱却しなければいけません。
往々にして、行政府の人たちはマジメな人たちが多く、そして使命感や責任感に駆られています。私もかつて公務員でしたが、公務員の多くはそうした意識を持った人は少なくありません。しかし、その責任感から、なかなか助けを求めることが苦手だったりして、すべてを抱え込もうとしがちです。そうした重荷を開放し、一緒になって地域の解決のために働きかけようとするマインドシフトが大事だったります。
強いリーダーシップを持って行政府を担おうとするのではなく、広く市民の力を借りながら、市民の力を120%引き出すようなファシリテーターのような役割が、政治家や自治体の人たちにも求められています。そして、最後の形の仕上げや決定を行い、協働意識を持って地域を良くしていく。そうした、コミュニティの力を借りながら動くことが大切なのです。
#6. BIAS TOWARD OPEN.(オープンであることを受け入れること)
これまで、行政府がどのように動いているのかが見えづらいものでした。しかし、これからの時代に対応した変革を作っていくためには、オープンイノベーションを促進していかなければいけません。そのためには、オープンにできるものは積極的にオープンにし、そしてデジタルをベースにデータ活用を前提とした社会へと移行することが大切です。そのために、何をオープンにしていくかという「オープンポリシー」をしっかりと制定し、市民に対して納得のいく仕組みづくりをすることによって、協働を図ることができます。そして、オープンデータ化を促進したオープンガバメントであることが当たり前な意識になるように、動いていくことが必要なのです。
#7. TAKE TECH SERIOUSLY.(テクノロジーについて真剣に考え、活用していくこと)
これまで、テクノロジーやIT業界などの一部のものしか必要のないものだと考えてきました。しかし、PCが普及し、そしてスマートフォンが一般化してきている現在、そして5年後には今以上に一般化する社会を迎えているいま、もはや「テクノロジー」という言葉自体が誰もがテクノロジーだと気づかないくらいに当たり前なものとなってきます。
同時に、テクノロジーは一つのツールであり、手段なのです。そして、ツールを良くも悪くも使うのは、私たち次第なのです。一般化したものがどのように使われるか、それは、その地域やその国自体の民度が問われているとも言えると私は思います。
だからこそ、「テクノロジー」という言葉やツールを敬遠するのではなく、使うことを前提とした社会であると認識し、どういう風に活用し社会に活かしていくかを誰もが考えていくことが大切なのです。これこそが、まさにCivic Techの本質であり、改めてテクノロジーというものではなく、私たちの暮らしや地域、そして社会や国全体に対して、どのようにテクノロジーを使っていくのかを、真剣に考えていく時代なのです。
さまざまなITスタートアップが生まれてきている中、日本でも今後はCivic Startup、Civic Entrepreneursが生まれてくるような仕組みづくりをしていくことが、必要なのではないでしょうか。
#Civic Hackerへとマインドシフトすること
Civic Tech を使う人たちのことを、Civic Hackerとも呼ばれています。しかし、「Hacker」という名前がついていますが、必ずしもコードやプログラミングができる必要性もないと、私は思います。
ツールをどのように活用していくかを考えるアイディアを持っていたり、よりそのツールが使われやすいようにデザインしたり、サービス設計を行うサービスデザインの視点を持ったデザイナーも、ある意味でCivic Hackerと呼べると思います。
そして、ガバメントと呼ばれる言葉は、もともとは行政府は私たち市民が作った仕組みであり、私たちの権利を拡張した仕組みであると考えるとすると、私たちそのものが仕組みを作る存在とも言えます。つまり、ガバメントという言葉の中には、「セルフガバメント(自治)」という言葉が内包されているとも言えるのです。
そして、地域や社会というのは、自分も含めたさまざまな人たちと協働していくことが求められるものでもあります。つまり、Civic Hackerという存在は、私たち自身で、私たち同士で地域に対して働きかけることが大事なのです。そのためには、DIWO(Do It With Others)やDIO(Do It Ourself)の精神、つまり、協働の精神を持ち、クリエイティブな考えの中で、社会に対してアップデートしていくように働きかけることなのかもしれません。
根底にあるのは、私たちがどのように暮らしていき、どのように地域に対して行動していくかを持つようなマインドを持つかなのです。そうした意味では、21世紀型の都市づくりにおいては、いかに協働の精神を持つかというマインドシフトが求められてる時代とも言えるのかもしれません。