#はじめに
最近はコンサルタントだけではなく、エンジニアの方もスライドを作って発表する機会が多くなってきました。
私もMeetUpやブログ等で様々なスライドを見る機会があります。人が作ったスライドを見るのは本当に楽しい。特に社外の人が作ったスライドは、私や私の会社の流儀と違うので、非常に面白い。参考になるっていうより、面白い。どうも私は「スライドヲタ」のようです。
いつも楽しませて頂いてるので、たまには私の作ったスライドを、解説とともに公開しようと思います。
私は元コンサルタント(今はチームリーダー的な、いわゆる上流工程のエンジニア)です。会社の研修や、コンサルティングのプロジェクトの中でスライド作成のスキルを得て来ました。この記事ではコンサルタントによるスライドについて作成のコツを紹介します。そして、LT(ライトニング・トーク)への応用について述べます。
#スライドの使用目的
スライドの使用目的は様々ですが、例えば下記の3つにまとめられると思います。この記事でまず私が書くのは「成果物としてのスライド」についてです。その後、LT用のスライドへの応用について述べます。
- 成果物としてのスライド
- コンサルティングサービスの結果を顧客に提出するためのもの
- スライド一式で「相互に排他的な項目」による「完全な全体集合」であることが求められる
- トーク用
- 講演、LTなどで、今話している内容についてリマインドするためのもの
- キャッチーでコンパクトなテキスト・ビジュアルが求められる
- ディスカッション用
- ディスカッションを円滑に進めるためのもの
- もっともシンプルなものはアジェンダ
このスライドは何に使ったか?
サンプルに使ったスライドは、アイドルをテーマとしたMeet Upで発表に用いたものです。
アイドル愛好家(ドルオタ)にとって、贔屓のメンバー(推しメン)の卒業への対応は最重要の課題です。
これに対し私がどのように対応したか、そこから導かれるソリューションは何か、について説明しました。
#スライドの構成
コンサルティング・サービスの成果物は次の3つの要素で構成されるのが一般的です。今回のスライドもこれに沿って構成しています。順に説明していきます。
- Facts
- Findings
- Recommendations
Facts
ここでは顧客(このスライドでは私自身)の現状について述べます。顧客は何らかの課題があってコンサルティング・サービスを受けるわけですから、その課題を中心に事実を列挙します。
実際のサービスでは、顧客にわかりやすく説明するため、階層化したり、時系列で並べたり、何らかの構造化を行います。構造化により、認識すべき事実が漏れていないかを確認することもできます。
このスライドの場合は、「推しメンの卒業によるショック」と「その後の経過」について述べています。
スライドのタイトルを「茉夏は2014年3月23日卒業」として重要な事実を延べ、本文ではその事実に関する私の心象を箇条書きしています。サポートする画像を追加しました。スライドでは説明していませんが、向田茉夏は、名古屋を拠点とするアイドルグループSKE48の元メンバーです。
もう一枚、「失意のまま2015年の夏を迎える」というタイトルのスライドを追加し、その後の経過を記載しています。ここで書かれた「事実」はこの後のRecommendationに繋がる「事実」です。事実を列挙するのは重要ですが、それでは話が進まないのも事実なので、Recommendationに繋がるFactを抽出するのがポイントです。そのためにコンサルタントはチーム内でディスカッションをします。
実際には、FactとFindingの間を行ったり来たりした結果として、重要なFactを書くことが多いです。
Findings
「失意のまま2015年の夏を迎える」のスライドの中に、「「まなつぅ~」と叫ぶ」という事実が書かれています。これが気づきに繋がりました。
「気づき」のスライドの中で、「「まなつぅ~」と叫んだら、気持ちよかった」と書いてあります。これはFactなのがFindingなのか少し微妙なのですが、ストーリーライン上スムーズになるので、Findingに入れました。
(レビューアーに突っ込まれるので、なんらか理由付けしておくのが大事です。)
気持ちよかった理由を分析すると、「要は、「まなつぅ~」と叫びたかった」、「推す理由を知ったら、気が楽になった」となり、内容をまとめて「現場で叫ぶことが、私にとっては最高のソリューション」としました。
さて、SKE48のファンでない方には、このロジックがさっぱり分からないと思います。それはコンテクストの共有ができていないからです。すべてを丁寧に説明したとして、「そんなことわかってる。いちいち書くな。」と言われる可能性があります。説明しきれるものではなかったり、間違った説明をして突っ込まれることもあります。業界慣行やテクニカルターム等、お客様とコンテクストを共有し、適切な記載レベルを把握することが重要です。
Recommendations
「現場で叫ぶことが、私にとっては最高のソリューション」をBefore/Afterで表現しました。その変化のため、「Root Causeへの気づき」という要素が必要ですと述べています。
Before/Afterはシンプル且つ効果的な表現です。大抵のことがこれで片付きます。社内やLightning Talk向けのスライドとしては、大抵の場合、これがあればOKだと思います。
次のスライドでは、課題の解決に至るロードマップを、マトリクス形式で書いています。
このスライドでは「在宅から現場へ」ということをキー・メッセージにしていますが、それに加えて「単推し・箱押し」という分析軸を加えて、より現実的なロードマップを提示しています。
本来ですと、「単推し・箱押し」の軸を説明するために必要な、Facts、Findingsが必要になります。恐らく実際の作業ですと、ここでFact収集に立ち返ってFindingをもう一度検討することになると思います。
LTへの応用
スライドを作るにあたって、まず考えるべきは枚数です。経験上、1枚のスライドをちゃんと説明するには最低でも3分は必要です。できれば5分は確保してください。これより少ないと、スライドをパッパとめくるだけになってしまい、何だかあわただしいだけで終わってしまいます。
自己紹介が必要な場合がありますから、5分の持ち時間だったら1枚が限度です。10分だったら2枚、15分だったら3枚という感じです。
できれば最後に一枚、「やってみた感想」みたいなのを箇条書きで入れてください。これは案外重要で、整理されていないけれども重要なメッセージを伝えたり、リアリティを強化したりできます。
スライドが1枚の場合、もっとも効果的なのはBefore/Afterの図です。サンプルを書いてみます。
ここでは、RTCというプロジェクト管理ツールを導入した例を書いてみます。
- スライドの一番上にタイトルを書きます。ここには結論を一言で書きます。発表の時は最初にこれを読み上げてください。
- 次に、このスライドで話したいことの要点を書きます。この部分をヘッドラインと呼びます。何十枚もスライドを書くときは、ここをパラパラと読んだだけでアウトラインが理解できる状態になっているのがベストです。発表の時は、タイトルの次にこれを読み上げてください。LTの冒頭は緊張したりしてうまく話せない場合があります。スライドに書いておくと、読んでいる間に落ち着きます。
- 次が本文です。本文はヘッドラインを詳細化した内容になっているのがベストですが、LTや社内の勉強会ではそこまで精緻になっている必要はないと思います。
- 本文に入ったら、BeforeとAfterの状態を順次説明しましょう。タイトルとヘッドラインで話の流れはできているので、ざっくばらんに話していけばいいと思います。
さて、発表の持ち時間が10分だったときは、もう一枚スライドを追加することになります。どうすればいいでしょうか。
- 選択肢の一つは、Before/Afterの図を詳細化すること。特にエンジニア向けのLTの場合は、これが有益だと思います。恐らく、Howの共有がLTの主眼でしょうから、例えば、次のようなことを書くといいでしょう。
- RTCとは何か
- どういう構成か
- 導入スケジュール
- どういう体制で導入したか
- もう一つは、今後どうするかという、前向きな話を書くのがいいと思います。特にマネジメント向けには。例えばこんな具合です。
ここでは、マトリックスという手法を使えばいいと思います。RTCの自チームへの導入がうまくいった現状があって、今後どうするかという方向性を考えれば、「自チーム-関係者」という軸は有益な候補になると思います。他には、RTCの適用範囲を増やす、だとか、RTCのAPIを使って他のシステムと連携するとか、幾つか軸が考えられると思います。
話は逸れますが、マトリックスって意味の無いセルが必ず発生してしまうんですよ。この例だと左上のセル。多分、優秀なコンサルタントだったらうまく埋めるのでしょうけど、LTの場合はそこまでする必要はないと思います。×印でも付けときましょう。
もし、持ち時間が15分の場合は、Before/After -> 詳細 -> 今後の展開 の3スライドにすればいいと思います。
最後に、「やってみた感想」、「得られた知見」、「良かったところ・悪かったところ」のスライドを追加しましょう。箇条書きで充分です。こんな感じです。
Before/Afterが「良かったところ」に当ると思うので、「悪かったところ」を中心に書くといいと思います。特に凝ったことはせず、箇条書きで充分です。
#箇条書き最高!
色々と書いてきましたが、一番最高なのは箇条書きです。箇条書きも立派な「構造」なのです。Before/Afterとマトリックスという構造を紹介しましたが、そんなもの作らずとも箇条書きですませられるのなら、それが一番です。
私は外資系企業に勤務しているので、欧米の方が作ったスライドを見ることがありますが、ほとんど箇条書きです。さらにいうと設計書の類もほとんど箇条書きです。箇条書きだとそれっぽくないという理由で、不必要な図式化を求められた時は、「欧米だと箇条書きが中心です」と切り返しましょう。
#最後に
私のように「成果物としてのスライド」を作成する場合でも、顧客によるレビューをかねてプレゼンテーションを行うのが一般的です。プレゼンテーションを行うに当って重要なことはいくつもありますが、私が言いたいのは「聴衆の反応を気にするな」ということです。
大抵の場合、聴衆は無反応です。反応が無いことにあせりを感じ、声を張り上げたり、同じことを何度も話すのは厳禁です。淡々と話して大丈夫です。淡々と話せるように、最低限の内容はスライドに書いておきましょう。