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GRIB第2版符号表3.2「地球の形状」について

Last updated at Posted at 2022-03-15

要点

  • WMO の GRIB 第2版には、多くの場合第3節に1オクテットで「地球の形状」を表現する欄がある
  • 「地球の形状」欄が設けられた目的(あるいは値の利用法)は明らかでない。定義済み符号の中には、参照座標系を表現するものも、数値予報モデルの記述もある。つまり、この欄の情報が何かの目的に使えないから誤りだということができない状況
  • 各符号についてその意味を検討した

はじめに

GRIB 第2版で、第3節に普通のテンプレートを使っている場合、オクテット15で符号表3.2によって定義される「地球の形状」を記述することができます。結論から言ってしまうと、この情報に気を留めるべき局面は(日本では)ほとんどないはずですが、まあそうはいっても欄がある以上気になりますよね。

そもそも経緯度の意味、というか実際の地球上の地点たちと経緯度座標を結びつける写像は、座標参照系 coordinate reference system といいますが、地球をあらわす回転楕円体の形状を与えるだけでは足りず、地球にその地球楕円体をどのように結び付けるかがあって初めて確定します。なのだけれど1998年創業当初のGRIB第2版は、なぜか地球形状だけを記載することにしてしまった。正直当時のWMO専門家たちが何を考えていたのかは僕にもわかりません。あとになって、次のような脚注2がつけられました。符号8以降の追加が議論されだした頃です。

(2) With respect to the Code figures 0, 1, 3, 6, and 7, coordinates can only be unambiguously interpreted, if the coordinate reference system, in which they are embedded, is known. Therefore, defining the shape of the Earth alone without coordinate system axis origins is ambiguous. Generally, the prime meridian defined in the geodetic system WGS84 can be safely assumed to be the longitudinal origin. However, because these code figures do not specify the longitudinal origin explicitly, it is suggested to contact the originating center, if high precision coordinates are needed in order to obtain the precise details of the coordinate system used.

それによって、この欄は座標参照系を与えることに、後付けの意義として決められたわけですね。同じ地点でも座標参照系が異なるといくらか異なる座標値(経緯度)になるわけですが、そのどれかを指定することになったわけです。

後付けだなんて品のないことをなぜ言うかというと、符号 0, 1, 6, 8 では地球を球としているわけですが、それは数値予報モデルの方程式系の構成上で地球を球と近似しているだけで、地点の経緯度を決める回転楕円体として球を使っている(=地心緯度を使っている)わけではありません。

なので、この欄自体の意義について混乱した状態にあると言わざるを得ません。

世界のどこの国でも観測点の経緯度はその国で普通の(楕円体ベースの)測地系で決められています。たとえば東京は楕円体ベースの普通の緯度は 35.692 度ですけど地心緯度なら 35.510 度です。東京の観測値をモデル内の 35.510 度の場所にあるかのように同化することは、気象庁ではしていませんし、全世界のことまでは断言できませんがそんなことは聞いたことがないし、まずやらないでしょう。なぜかというと、コリオリの力を計算するときに使う緯度は、地心緯度(地球中心からどっちに所在するか)ではなく、普通の緯度(当該地点の鉛直線が地軸となす角)だからです。

幸い、日本気象庁が作るGRIBデータは、ほとんどの場合、データ内部の水平座標系が経緯度です。この場合、地球形状の情報を使わなくても各格子点の経緯度を得ることができます。それを日本の測量法で定める測地系(世界標準の WGS84 系としても実用上差はありません)経緯度だと思って使えばよいのです。

符号詳解

0: Earth assumed spherical with radius = 6 367 470.0 m

上記脚注2対象。地球半径 6367.470 km は、緯度45度の子午線曲率半径、または長半径 $a$ と短半径 $b$ の単純平均 $(a + b)/2$ ではないかと思われます。典型的な楕円体について一通り計算してみると、IAU1965楕円体について $(a+b)/2 = 6367.4675~{\rm km}$ なのが一番近いです。いずれにしても脚注2により経緯度は WGS84 のものだと推定されます。ここで示された地球半径は、数値予報モデルの記述にすぎないと考えてよいです。

1: Earth assumed spherical with radius specified (in m) by data producer

上記脚注2対象。半径は自由に指定できますが、この地球半径は数値予報モデルの記述にすぎないと考えてよいです。脚注2により経緯度は WGS84 のものだと推定されます。

2: Earth assumed oblate spheroid with size as determined by IAU in 1965 (major axis = 6 378 160.0 m, minor axis = 6 356 775.0 m, f = 1/297.0)

IAU 1965 楕円体というのですが、よせばいいのにパラメタを挙げたら間違っていて正しくは f = 1/298.25 です。GRIB データを生産しうる国の中では、オーストラリアの古い測地系 AGD 1966 が IAU 楕円体に基づくという話を聞いたことがありますが、この符号をもった GRIB の解釈にあたりその測地系を仮定していいとまでは断定できません。これは困った子です。

3: Earth assumed oblate spheroid with major and minor axes specified (in km) by data producer

上記脚注2対象。楕円体は自由に指定できるのですが、楕円体を指定したからと言って参照座標系を指定したことにはなりません。いずれにしても脚注2により経緯度は WGS84 のものだと推定されるので、実用上は問題ないでしょう。

4: Earth assumed oblate spheroid as defined in IAG-GRS80 model (major axis = 6 378 137.0 m, minor axis = 6 356 752.314 m, f = 1/298.257 222 101)

GRS80 楕円体と WGS84 で用いる楕円体はほとんど同じものです。ここで地球の形をあえて GRS80 楕円体というからには、同楕円体に基づく測地系なのでしょう。どの国の測地系かはわかりません。うるさいことをいうと日本の測量法施行令も GRS80 楕円体を指定しているのでその仲間に入ります。しかし実際問題として、 GRS80 に基づくモダンな測地系であれば、WGS84 と同一とみなしても、気象データについて実用上問題ないです。

5: Earth assumed represented by WGS-84 (as used by ICAO since 1998)

地理情報屋さんからみれば一番安心できると思います。かなり以前から ICAO は経緯度データの参照座標系の統一に(WMO と比べれば)熱心です。たとえば滑走路が思った場所になければ生死にかかわりますから、航空界の関心はまずは地点の位置にかかわるものです。そうであれば要するに GPS の経緯度をそのまま使いましたというような意味になります。
逆に、この符号が示された数値予報データのもととなったモデルの方程式系はどんな地球を想定しているか、それはまったくわかりません。わからなくてよいと思いますけど。

6: Earth assumed spherical with radius of 6 371 229.0 m

上記脚注2対象。6371.229 km は、Hayford 1910/International 1924 楕円体の三軸平均 $(2a+b)/3$ に一致します。まあだからといってそれを使った測地系(たとえばED50)による経緯度が使われているというわけではなく、脚注2により経緯度は WGS84 のものだと推定されます。

7: Earth assumed oblate spheroid with major or minor axes specified (in m) by data producer

上記脚注2対象。符号3と同様ですね。

8: Earth model assumed spherical with radius of 6 371 200 m, but the horizontal datum of the resulting latitude/longitude field is the WGS-84 reference frame

符号6と類似します。 6371.2 km という数値は、上記 Hayford 楕円体の 6371.229 km の丸めの桁が異なるだけだと思います。他の楕円体はもっと小さいのです。

9: Earth represented by the Ordnance Survey Great Britain 1936 Datum, using the Airy 1830 Spheroid, the Greenwich meridian as 0 longitude, and the Newlyn datum as mean sea level, 0 height

この符号だけは制定経緯を知っています。本当に英国が領域モデルの経緯度が OSGB 測地系の経緯度であることを表現したいと言ってきたのです。なのでそういうことです。

10: Earth model assumed WGS84 with corrected geomagnetic coordinates (latitude and longitude) defined by Gustafsson et al., 1992

すみません地磁気座標のことは知りません。

11: Sun assumed spherical with radius = 695,990,000 m (Allen, C.W., 1976 Astrophysical Quantities (3rd Ed.; London: Athlone) and Stonyhurst latitude and longitude system with origin at the intersection of the solar central meridian (as seen from Earth) and the solar equator (Thompson, W, Coordinate systems for solar image data, A&A 449, 791–803 (2006))

すみません太陽面のことは知りません。

12-191: 保留

192-254: 地域的使用のために保留

255: missing

見たことはありませんが、あまり役に立たない欄なので、missing (通報式の公定訳では「欠測」だが「欠損値」と思ってほしい)が活用されても良いかもしれませんね。

情報源

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