動機
数値解析予報の海面更正気圧をプロットすることがよくあるわけだけれど、陸上特に大陸の標高が高いところではどうしてもガタガタした模様がでてしまう。もうちょっと細かく言うと盆地に地表面付近の低温なんかがあると局所的高気圧(逆に高温なら低気圧)が生じるわけだが、あんまりそれは見たくないわけですね。
そもそも海面更正気圧をプロットするのは風の分布を把握する目的がある(高潮なんかがあるので気圧が要らないとは言えないけれど)。
であれば、風から逆算した気圧にあたるものを見ればよいのではないか。
地衡風であれば
まず地衡風の関係は次である
\frac{1}{\rho} \begin{pmatrix}\partial_x \\ \partial_y\end{pmatrix} p
=
f
\begin{pmatrix} 0 & -1 \\ 1 & 0\end{pmatrix}
\begin{pmatrix} u \\ v\end{pmatrix}
=
f \begin{pmatrix} -v \\ u\end{pmatrix}
これに $\rho$ をかけてから左右両辺に div をとる(∇・をかける)と
\begin{pmatrix}\partial_x \\ \partial_y\end{pmatrix} \cdot
\begin{pmatrix}\partial_x \\ \partial_y\end{pmatrix} p
=
f \begin{pmatrix}\partial_x \\ \partial_y\end{pmatrix} \cdot
\begin{pmatrix} -\rho v \\ \rho u\end{pmatrix}
\left( \partial_x^2 + \partial_y^2 \right) p
=
f \left[ \partial_y (\rho u) - \partial_x (\rho v) \right]
これはポアソン方程式であるから、密度をかけた風速の渦度っぽいものに緩和法かけると p が逆算される。はずである。
実際にやってみると
こういう残念なことが起こる
- 中緯度で発生途上の低気圧などまるっと消えてしまうものがある
- 熱帯低気圧や深い低気圧がどんどん浅くなる
これではちょっと使えない。なぜそうなるかというと、
- 大陸上など低気圧にはほとんど渦なしの収束場になっているものがある
- 熱帯低気圧は傾度風平衡しており、地衡流を前提として風速場だけから気圧傾度を逆算すると過小評価になる
地衡風プラス境界層摩擦の考慮
そこまでわかったので、地衡風の式から一歩立ち戻って運動方程式で考え直そう。
実際には地表風は地衡風から30度程度ズレた向きになることが多いとされる。地表面との摩擦が理由であると説明される。
\partial_t
\begin{pmatrix}u \\ v\end{pmatrix}
=
-
\frac{1}{\rho} \begin{pmatrix}\partial_x \\ \partial_y\end{pmatrix} p
+
f
\begin{pmatrix} 0 & -1 \\ 1 & 0\end{pmatrix}
\begin{pmatrix} u \\ v\end{pmatrix}
-
N \begin{pmatrix} u \\ v\end{pmatrix}
これで左辺の加速度と右辺の摩擦($N$ の項)を無視すると地衡風となる。
摩擦は無視しないで加速度を無視すると、右辺の3項(気圧傾度力・コリオリ力・摩擦力)がバランスする絵になる。
このバランスで等圧線と風速がなす角が30度とすれば $N=0.5f$ となるはずであるので、$N$ をチューニングするにあたって大きさの目安となる。
さて各項に $\rho$ をかけてから div をとると
\begin{pmatrix}\partial_x \\ \partial_y\end{pmatrix} p
=
-
\partial_t \begin{pmatrix}\rho u \\ \rho v\end{pmatrix}
+
\rho f
\begin{pmatrix} 0 & -1 \\ 1 & 0\end{pmatrix}
\begin{pmatrix} \rho u \\ \rho v\end{pmatrix}
-
\rho N \begin{pmatrix}\rho u \\ \rho v\end{pmatrix}
\left(\partial_x^2+\partial_y^2\right)p
=
-\partial_t \left[\partial_x(\rho u)+\partial_y(\rho v)\right]
+f \left[-\partial_x(\rho v)+\partial_y(\rho u)\right]
-N \left[\partial_x(\rho u)+\partial_y(\rho v)\right]
シンボリックに書けばこういうこと。
\triangle p = \partial_t{\rm div}(\rho{\bf u})
+f {\bf k}\cdot{\rm rot}(\rho{\bf u}) - N{\rm div}(\rho{\bf u})
加速度項 $\partial_t{\rm div}(\rho{\bf u})$ を無視して $\rho$ は定数とみなせば、$p$ についての単なるポアソン方程式である。数値予報モデルの出力の海面更正気圧 $p_{\rm model}$ を初期値として緩和法で解ける。
なるべくならこれで走ってしまいたいのであるが、まあやってみるとさすがに雑すぎた。
傾度風の考慮
加速度項を無視して解くと、傾度風つまり熱帯低気圧や深い低気圧など、等圧線の曲率半径が小さくなっているところではうまくいかない。低気圧が浅くなってしまう。
この問題への方策は3つ考えられる。
- ポアソン方程式は解くのだが、問題が起こっている地域で右辺をまるっと $\triangle p_{\rm model}$ で置き換える
- 風の場から低気圧の渦を見出して、傾度風の遠心力項を見繕って加速度項を置き換える
- 緩和法に細工して、反復間の修正量を $p_{\rm model}$ に近づくように調整する
これらの方法には向き不向きがあるので結局3つ併用することでようやく天気図っぽくなったというのが現状。
- ポアソン方程式の右辺置き換えは、風速一定以上をトリガとするのが妥当と思われるが、しばしば低気圧中心や南西側で風が弱い
- 加速度項の置き換えは強力だが、渦が扁平な場合など検出が難しいし、暴走して偽の熱帯低気圧を作ることがあるのも怖い
- 上記いずれについても、気圧傾度の形状は現実的になっても全体がドリフトしていくのを止められないことがしばしばあり、低気圧の中心気圧が注目されるので拙い