旋衡風平衡する低気圧の風速分布について考える。前回はこちら。
旋衡風平衡の式
旋衡風バランスしている場合、気圧場 $p(r)$ と風速場 $V(r)$ はともに半径 $r$ の関数であって、次の関係になる。
\frac{dp(r)}{dr} = \rho \frac{V(r)^2}{r}
問題は $V(r)$ にどのような形を仮定するかである。
実際にみられるものは多様である。たとえば台風の風速分布についていえば 100km よりかなり近い所に風速の最大があることが知られている。そこに向かって気圧傾度は高まっていく。
逆のパターンとしては、温帯低気圧で鍋底状構造がみられることがある。中心から数百キロ離れたところに風速の最大があって、中心付近の気圧傾度は緩い。
実は今回の問題ではそこまでは解像しようがない。風速分布は経緯度1.25度格子で与えられるだけだし、気圧のポアソン方程式も同じ格子上で解かれることになる。
気圧傾度一定モデル
多様な低気圧形状のひとつの折衷として、気圧傾度一定を考える。
\frac{d}{dr}p(r) = {\rm const.}
いちおう風速分布をチェックすると $r$ の平方根に比例する。
V(r) = \sqrt{\frac{1}{\rho}\frac{dp}{dr}} \sqrt{r}
単位の扱いなど面倒だな、と感じられるが、実はあまり心配いらなくて、気圧の二回微分にすればなんのことはないゼロである。
\frac{d^2}{dr^2}p = 0
つまり、気圧傾度一様モデルを想定するのであれば、わざわざポアソン方程式の修正量のために遠心力項を計算することはないわけである。
風速一様モデル(中心付近で使えないことを確認)
考えるのがめんどくさいので風速一定はどうだろうか。
V(r) = {\rm const.}
気圧の二回微分をみると、周縁部では $r\to\infty \Rightarrow d^2p/dr^2 \to 0 $ なことは一応もっともらしいが、中心 $r=0$ では無限大になる。
\frac{d^2}{dr^2}p(r) = -\rho V^2 \frac{1}{r^2}
積分したほうがわかりやすい。中心では気圧はマイナス無限大である。使えない。
p = \rho V^2 \ln r
ランキン渦モデル
中心付近では負の気圧を防ぐために $r\to 0 \Rightarrow V\to 0$ であってほしいし、周縁部では $r\to\infty \Rightarrow V \to 0$ であってほしい。
これにかなう簡素な関数形がランキン渦である。
ウィキペディアと違えて $r$ の次数を強調して書くと:
V(r) = \left\{ \begin{matrix}
(V_\max r_\max^{-1})r & \text{if } 0\le r<r_\max \\
(V_\max r_\max)r^{-1} & \text{if } r_\max<r
\end{matrix} \right.
ここで最大風速 $V_\max$ が半径 $r_\max$ で現れる。
\frac{d^2}{dr^2}p = \left\{\begin{matrix}
\rho V_\max^2r_\max^{-2} & \text{if } 0\le r<r_\max \\
-3\rho V_\max^2r_\max^2 r^{-4} & \text{if } r_\max<r
\end{matrix}\right.
p = \left\{\begin{matrix}
\frac{1}{2} \rho V_\max^2r_\max^{-2}r^2+p_0 & \text{if } 0\le r<r_\max \\
-\frac{1}{2} \rho V_\max^2r_\max^2 r^{-2} + p_\infty & \text{if } r_\max<r
\end{matrix}\right.
積分定数は $p_0$, $p_\infty$ であるが、$r=r_\max$ の気圧が等しい制約があるので次の関係が知れる。
p_\infty - p_0 = \rho V_\max^2
つまり手順としては
- 半径と渦方向風速の関係を調べる
- 最大風速 $V_\max$ と最大風速半径 $r_\max$ が知れる
- 気圧データもあれば $p_\infty - p_0$ をみて、 $V_\max$ が過大であれば修正する