0
0

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?

あなたの気配を感じます:突然振り向くキューピー人形

Posted at

はじめに

それはただのキューピー人形だった。
柔らかい樹脂でできた、小さくて丸い目の人形。
机の上に置いておけば、誰もが「かわいいね」と笑って通り過ぎる──
はずだった。

でもその人形は、
人の気配を感じ取って、突然こちらを振り向く

高専の実習で「自由制作」という時間が与えられたとき、
僕はなぜか「首が回る人形を作ろう」と思い立った。

モーターを仕込み、センサーで人の存在を感知し、
振り向くことで“意思”のようなものを持たせたかった。

今思えば、実用性は皆無。
けれど、そこにはたしかに“自分の手で動く仕掛けを作った”という確かな体験があった。

この記事は、そんなちょっと不穏で、でも真剣だった技術の記録です。

目次

  • きっかけ
  • 設計構成
    • イメージ図
    • 使用部品(主な構成)
    • 仕込み構造(テキスト疑似図)
  • 問題と現実
  • 動きの描写
  • あとがき
  • おわりに

きっかけ:なぜ振り向かせたのか

昔から、ホラーっぽい仕掛けには妙に惹かれるところがあった。
動かないはずのものが、突然こちらを向く──そんな演出ができたら面白いんじゃないか。

そう考えたとき、まず頭に浮かんだのが「人形の首を回す」というアイデアだった。
ただ置いてあるだけの人形が、人の気配に反応してこちらを振り向く。
想像しただけでちょっとゾッとするし、ちゃんと作れたらインパクトも強い。

問題は素材だった。
あまり大きくなく、加工がしやすくて、首と胴体が別れていて、見た目も多少“愛嬌”があるもの。

そうして探してたどり着いたのが──キューピー人形。

通販で見つけた、全長十数センチほどのキューピーを1体購入。
価格は確か3,000円ほど。高専生の懐事情にはやや重たかったが、
中が空洞な構造で、モーターや配線を仕込むにはちょうど良さそうだった。

可愛さと不気味さの中間にあるような表情。
その人形がこちらを向く様子を想像しながら、構成のイメージを固めていった。

設計構成:あなたを“見る”仕組み

このキューピー人形の首振り装置は、3人チームでのグループ制作だった。
とはいえ、アイデアの発案や素材の選定、そして首を180°回して振り向かせるという設計の軸は、僕が主導して進めていた。

イメージ図

使用部品(主な構成)

  • サーボモーター(180°回転)
    首の回転動作を担う。180°まで回せるタイプを使用し、人形の首が“真後ろ”を向く動作を狙った。

  • 赤外線センサー
    人の接近を検知するために設置。一定距離内に人が入ると、出力をONにする。

  • PICマイコン
    センサー入力を読み取り、サーボ制御信号を出す中心的な制御装置。A/D変換の必要性を後で痛感することになる。

  • 押しボタンスイッチ(代替入力用)
    センサー動作が断念された後、手動トリガーとして使用された。

  • 粘土・補強材
    サーボを人形の体内に固定するために使用。内部が空洞な人形に、安定した機械構成を実現するための工夫。

仕込み構造(テキスト疑似図)

┌──────────────────────────┐
│ キューピー人形(中空)     │
├──────────────────────────┤
│ ● 首:サーボモーター直結   │
│ ● 胴体内:粘土で固定&配線 │
│ ● センサー or ボタン入力  │
│ ● PICで制御信号出力    │
└──────────────────────────┘

この構成によって、「人が近づくと自動で首を180°振り向かせる」という構想は一応、形にはなった。

もちろん、実際には理想通りにはいかないのだけれど──

問題と現実:未熟さが招いた仕様破綻

理屈の上では、センサーで人を検知し、サーボで首を回すだけのシンプルな仕組みだった。
しかし、現実の回路設計はそんなに甘くなかった。

問題は、赤外線センサーの出力がアナログ信号だったことにあった。
信号値を適切に読み取るには、A/D変換(アナログ→デジタル)処理が必要。
けれど、当時の僕はその前提を完全に見落としていた。

使用していたPICマイコンにはA/D変換機能自体はあった。
だが、設定と実装の知識が足りず、センサーの値を正確に扱うことができなかった。

結果、
「人の接近を検知して自動で振り向く人形」ではなく、
「ボタンを押している間だけ首が回る人形」になってしまった。

それでも、サーボモーターによって人形の首が180°グイッと回る様子は、
じゅうぶんに不気味だった。

しかもボタンを押し続けている間、サーボはずっと力を込めて首を回し続ける。
動作音、表情、動きの滑らかさ──
どこを取っても「なにかがおかしい」と思わせるだけの説得力があった。

動きの描写:その動作は愛らしさと無縁だった

完成したキューピー人形は、見た目こそ市販のかわいらしい姿そのままだった。
丸い目、ちょっと口を開けたような表情、小さな手足。
机の上に飾っておけば、何も知らない人は「癒しグッズかな」と思ったかもしれない。

だが、首が“動く”だけで印象は一変する。

それもただ動くだけではない。
ボタンを押すと、グイッと180°、首だけが無理矢理振り向くのだ。

体はそのまま、首だけが後ろを向く──
その姿を見た人たちは、まず一瞬無言になって、そして笑う。
「あー、やっちゃってるな」と。

音もそれなりにうるさい。
サーボの動作音が「ギギギ……」と唸り、回転が止まると、
人形の顔はこちらをじっと見ている。

本来「かわいい」を演出するための造形が、
動き方ひとつで不気味さに変わる。
そのギャップこそ、この作品が持つ最大の魅力だったのかもしれない。

あとがき:それでも作ってよかった

この人形は、結局、展示や発表の場で誰かに使われることもなく、
最終的には学校の研究室に寄贈して、僕の手元を離れた。

センサーは思ったように動かず、想定した仕様は達成できなかった。
それでも、実際にモノを動かすために必要なことの多さと難しさを、
肌で感じられた制作だった。

サーボの制御、センサーの仕様、配線の工夫、
そして「人形に中身を仕込む」という構造設計の発想。

それらを一つひとつ手探りで組み上げていった経験は、
間違いなく今の僕を形作る土台のひとつになっている。

今あらためて考えると、
「人の気配を感じて振り向く人形」なんて、どう見ても実用性はゼロだ。

だけど、“意味があるかどうか”より、“面白いかどうか”を優先した制作というのは、
技術者として原点に近い経験だったように思う。

振り向くたびに少し笑えて、ちょっと怖くて、
でもどこか憎めないあの人形を、僕は今でもよく覚えている。

おわりに

この人形の制作を通じて得たものは、完成品そのものよりも、
「技術を通じてちょっとだけ現実を歪める感覚」だった。

首が回る、ただそれだけの仕掛け。
でも、それを人形に仕込むだけで、周囲の空気がわずかに変わる。
笑いが起きたり、引かれたり、「なんでそんなものを…」と問い返されたり。

技術って、本来そういう“ちょっと異常なもの”と手を結びやすい性質があると思う。
だからこそ、ホラーとか、違和感とか、不穏なものと相性がいい。

あのときの僕が作りたかったのは、
「何か目的があるもの」ではなくて、
**ただ“面白がられる異物”**だったのかもしれない。

もしこれを読んで、
「それ自分もやってみたい」「くだらないけど最高」
なんて思ってもらえたら、それが何よりの成果です。

0
0
0

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
0
0

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?