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タイムゾーン呪いの書

Last updated at Posted at 2018-02-06

コメント欄で「Software Design 誌 (2018/12) に寄稿した内容や修正などをこちらの記事にも適用したい」と言ったあと、やるやる詐欺でずっと放置していましたが、三年近く経ってようやく 2021年 7月に大幅に改訂し、同時に Zenn に引っ越すことにしました。

なにやら長くなりすぎたので三部構成になっています。

この Qiita 版は、しばらく (最低一年は) 改訂前のまま残しておきます。


タイムゾーンの存在はほぼ全ての人が知っていると思います。ソフトウェア・エンジニアなら多くの方が、自分の得意な言語で、タイムゾーンが関わるなにかしらのコードを書いたことがあるでしょう。ですが、日本に住んで日本の仕事をしていると国内時差もなく1 夏時間もない2 日本標準時 (Japan Standard Time) のみでおよそ事が足りることもあって、このタイムゾーンという厄介な概念について成り立ちから実装上の注意まで解説した日本語の文書は、残念ながらあまり見つかりません。

本記事は、タイムゾーンを扱おうとすると常につきまとう逃げられない「呪い」、筆者がタイムゾーンに苦しんだ恨み3 を、ソフトウェア・エンジニアリングの視点から闇に踏み込んで記述し、この呪いからの適切な逃げ方、呪いを受けつつも真っ向から立ち向かうための戦い方について、筆者の主観から紹介したいと思います。

参考実装として、各種言語・ライブラリの中で今のところ (筆者が知る限り) 最も正面から日付・時刻とタイムゾーンの問題に立ち向かった Java (8以降) の JSR 310: Date and Time API をときどき参照します。

記事中に情報の不足や誤りなどを発見されましたら4 ぜひ編集リクエストをお送りください。各言語における実装についても、コメントや別の記事などでの情報提供をお待ちしております。5 一部 Wikipedia を参照しながら記述していますが、日本語版の Wikipedia には英語版との食い違いがあるようです。そのような場合は、基本的には英語版の方を信用するようにしています。 6

時差とタイムゾーン

「午後1時って言ったらまあ昼くらいだよね」という認識をみんなで共有したいのであれば、地球に住んでいる限り「時差」から逃げることはできません。7

とは言え、例えば「その地点で太陽が南中する時刻をその地点の正午とする」なんていう定義にしてしまうと、極端に言えば東西方向に一歩歩くだけでわずかに時差が発生してしまうことになります。そんなことでは法律・商業・社会などいろいろな事情で不便なので、地理的に近い一定の地域では同じ時刻を使うことにしています。その時刻系をその地域の「標準時」と呼び、同じ標準時を使うその地域を「タイムゾーン」と呼んでいます。 (例: 日本全体というタイムゾーンで使われる標準時が日本標準時)

後述する「夏時間」は「標準時」とは別の時刻系として定義されます。 8 また、「タイムゾーン」という用語は、厳密には共通の「標準時」を持つ地域と定義され、「夏時間」にはよらないようです。 9

タイムゾーンの境界は、一般的には国境や国内の政治的境界に準じています。その方が便利だということもありますが、なによりも、そもそもタイムゾーンや標準時というのは国際的に条約などで取り決められているわけではなく、国や地域がそれぞれ「自分のところのこの地域はこの時刻でやるぜ!」と宣言しているだけだ、ということもあります。10

ちなみに、ほとんどのタイムゾーン同士は1時間ずつの差ですが、多くのメジャーなタイムゾーンから30分差や15分差のようなタイムゾーンも一部に存在します。 (例: オーストラリア中部標準時ネパール標準時など)

タイムゾーンの基準: GMT? UTC? UT? 11

世界中で時刻について話をするには、なんらかの基準が必要です。国際的には、有名なイギリスのグリニッジ標準時 (Greenwich Mean Time, GMT) が最初に基準として使われました。ただ GMT は実際の地理的な場所と天文観測をもとにした定義なので、地球の自転速度のふらつきなどにより、物理的に厳密な時間とズレが生じてしまいます。12

現在の基準として使われている協定世界時 (Coordinated Universal Time, UTC) は、天文観測によらず原子時計を元にした国際原子時 (Temps Atomique International (仏語), TAI) で厳密な1秒を刻みながらも、時折うるう秒を挿入することで常に天文観測による時刻系との差が0.9秒を超えないように調整を続けている時刻系です。

情報通信分野では一般的に GMT と UTC は同等のものとして扱われます。世界時 (Universal Time, UT) も、天文観測による時刻系として GMT と同様に使われます。

固定オフセット

同じ時刻系、またその時刻系を使う地域を、一般的には UTC からの差で表現します。例えば現代の日本標準時は UTC から9時間早いので "UTC+9""UTC+09:00" または単に "+09:00" などと表します。この "+09:00" のような、地域によらない同じ時刻系全体のことも、便宜的に「タイムゾーン」と呼ぶことがあります。13

地域を表すタイムゾーンと、地域によらず時刻系全体を表すタイムゾーンを区別する一般的な言葉は無いようです。14 本記事では JSR 310 を参考に、前者を「地域ベース (region-based) タイムゾーン」と、後者を「固定オフセット (fixed offsets)」と呼ぶことにします。具体的には java.time.ZoneIdjava.time.ZoneOffset を参照してください。

タイムゾーンの遷移 (切り替わり)

ある地域ベースタイムゾーンのオフセットは、様々な理由によって別のオフセットに切り替わることがあります。代表的なものが夏時間です。

夏時間

地域間の単なる時差だけでも大変なのに、それ以上に世界を混沌に陥れているのが「夏時間15」です。普通は明るいうちに仕事を終えて余暇時間を長く過ごせるように実施されるので、ある地域が夏時間に切り替わるとき、その地域では少し16 時刻が進みます。

日本は夏時間に縁が薄いので、切り替わりで具体的に何が起こるのかは知らない方もいるかもしれません。なかなかアクロバティックで、夏時間に切り替わるときはいきなり時刻が吹っ飛びます。

例えば2017年のアメリカ合衆国の場合は3月12日 (日) に夏時間に切り替わりました。17 そのタイミングは、切り替わる前の時刻でいう午前2時。この日の午前1時59分59秒から1秒経ったと思ったら、午前3時0分0秒になっていました。カリフォルニア州を例に、オフセットを付けて1秒ごとに並べると以下のようになります。

カリフォルニア州時刻 オフセット
2017-03-12 01:59:58 太平洋時間 -08:00
2017-03-12 01:59:59 太平洋時間 -08:00
2017-03-12 03:00:00 太平洋夏時間 -07:00
2017-03-12 03:00:01 太平洋夏時間 -07:00

夏時間から戻るときはさらにトリッキーで、見た目は同じ時刻を二度経験することになります。再びカリフォルニア州を例に取ると、時刻は以下のように動きました。

カリフォルニア州時刻 オフセット
2017-11-05 01:00:00 太平洋夏時間 -07:00
2017-11-05 01:00:01 太平洋夏時間 -07:00
2017-11-05 01:59:58 太平洋夏時間 -07:00
2017-11-05 01:59:59 太平洋夏時間 -07:00
2017-11-05 01:00:00 太平洋時間 -08:00
2017-11-05 01:00:01 太平洋時間 -08:00

ちなみに2018年の日本では夏時間は採用されていませんが、第二次世界大戦直後の一時期に夏時間が実施されたことがあります。また、現代ではどの国でも夏時間に切り替わったら一年のうちに戻りますが、イギリスでは第二次世界大戦中に夏時間に切り替わったまま戻らず、翌年に二重に夏時間に切り替わった18 ことがあります。

夏時間以外の切り替わり

夏時間以外にも、国や地域の政治的決定によって地域の時刻系が切り替わることがあります。

例えば2011年の年末には、サモア独立国の標準時が "-11:00" から "+13:00" に切り替わりました。この切り替わりは12月29日の終わりがそのまま12月31日の始まりに続く形で行われ、サモアでは2011年12月30日がまるまる存在しなかったことになりました。

世界共通の「時間軸上の一点」を表す

世界各地で「時刻」には差がありますが、それでも時間軸は一本であり、その時間軸上の一点は世界中で同時に訪れます。19 例えば、日本の2017年7月1日 午後3時0分0秒とイギリスの2017年7月1日 午前7時0分0秒は、時間軸上では同じ一点です。それぞれの国や地域の中ではそれぞれの時刻を使っていればあまり問題ありませんが、タイムゾーンをまたぐ場合、特にソフトウェアやインターネットが関わる仕組みの中では、地域によらない時間軸を扱う必要性が高くなります。

UTC という基準があるので要は UTC 時間でその時間軸を表現すればいいのですが、せっかく時間はどこでも平等に流れているのに19 いちいち年月日時分秒を計算するのは無駄だらけです。

そこで20 情報通信分野で一般的に使われているのが、いわゆる UNIX 時間 (Unix time, POSIX time, epoch time) です。単一の整数として UTC の1970年1月1日 0時0分0秒からの経過時間 (UNIX 時間という場合は主に経過秒数) で時間軸上の点を表現しています。

この UNIX 時間がわかっていれば、任意のタイムゾーンにおける時刻を未来まで含めて簡単に算出することができるはず、ですが、一つだけ問題があります。前述したうるう秒です。うるう秒は実測とのズレを埋めるための仕組みなので、未来の何年にうるう秒が挿入されるかは、実測からの予測を信頼できる数年先までしかわかりません。これでは未来の時刻を計算することができません。

そこで UNIX 時間は「経過時間」としての厳密さを捨てて普段の利便性の方を優先し、うるう秒を無視してしまうことになっています。例えば最近では UTC 時間の2016年12月31日 23時59分59秒と2017年1月1日 0時0分0秒の間にうるう秒が挿入されましたが、このとき UNIX 時間の 1483142400 は2秒間続き、以下のように遷移しました。

UTC 時間 UNIX 時間
2016-12-31 23:59:59 1483142399
2016-12-31 23:59:60 1483142400
2017-01-01 00:00:00 1483142400
2017-01-01 00:00:01 1483142401

技術的な標準・規格

(TODO: IATA, Microsoft)

tz database

タイムゾーンに関する、ソフトウェア・エンジニアにとって最も標準的なデータが tz database (Wikipedia) でしょう。 "Asia/Tokyo""Europe/London" のようなタイムゾーンの名前は、この tz database のものです。

tz database のタイムゾーンは "/" の前の最初の部分に大陸名・海洋名を用い、続いて、典型的にはそのタイムゾーン内の著名な都市名・島名をその代表として名付けられています。21 国名は基本的に使われません。22 "America/Indiana/Indianapolis" のように3要素で構成されるタイムゾーンも少数ながら存在します。

tz database はボランティアによってメンテナンスされています。タイムゾーンの情報は意外なほど頻繁に変わっており、年に数回は新しい版の tz database がリリースされます。先のサモア独立国のように政治的理由からオフセットが変わる場合、夏時間制度を新しく導入する場合・取りやめる場合、国や地域の境界線に変化があった場合など、様々な理由があります。もちろん、登録されたデータに間違いが見つかることもあります。23

tz database は、特に1970年1月1日以降の全ての変更、夏時間などのあらかじめ定められた切り替わりのルール、うるう秒の情報まで様々な情報を含むことを目標にメンテナンスが続けられています。新しい版は OS や JRE などの処理系、ライブラリなどのメンテナによって更新が取り入れられ、それらを組み込んだアップデートとしてそれぞれ世界中に配信されています。

ちなみに、前述のサモア標準時の変更が tz database に適用されたのは、実際に標準時が変わる2011年12月のわずか4ヶ月前のことでした。

1970年1月1日以前の情報もある程度は含まれていますが、暦の違い、歴史資料の問題などもあって、完全に正確なものにしようとはそもそも考えられていないようです。24 特に、個別のタイムゾーン名は「1970 年以降に区別する必要のあるタイムゾーン」のみを定義する、という方針らしいです。例えばブラジルのサンパウロを含む一部地域で 1963 年に実施された夏時間を表すために "America/Sao_Paulo" の新設が提案されたことがありますが、この方針により却下されています

3文字/4文字の略称

"JST": Jerusalem Standard Time?

日本標準時 (Japan Standard Time) は、しばしば "JST" と略されているのを見かけます。しかし tz database を眺めてみると、実際には以下のように Jerusalem Standard Time を "JST" とするコメントも見つかります。

# JST  Jerusalem Standard Time [Danny Braniss, Hebrew University]
# JST (Japan Standard Time) has been used since 1888-01-01 00:00 (JST).

3文字4文字のタイムゾーン略称は一見使いやすいのですが、このように、実は一意に特定できるものではありません。このことから、少なくともソフトウェアに再度読み込ませる可能性のあるデータを出力するのに "JST" のような略称を用いるのはできるだけ避けましょう。日本では動いていたのに、国外のお客さんがついてから、なんかデータがおかしくなり始めた、みたいな地獄が待っています。

詳しくは後述しますが、出力の際は多くの場合 "+09:00" などの固定オフセットを用いるのがいいでしょう。どうしても地域ベースのタイムゾーン名を使わなければならない場合も、少なくとも "Asia/Tokyo" などの tz database 名を使いましょう。既に "JST" などを用いたデータが生成されてしまっている場合は、データ処理プロセスのできるだけ初期のステージのうちに変換しましょう。

不幸にしてこのような略称を入力しなければならない際は、諦めて決め打ちで読み込むしかありません。世界で使われている多くの略称を収集し、その中から「"JST""Asia/Tokyo" として読み込むよ」などと、仕様を明確にしておきましょう。

JSR 310 の java.util.TimeZone においても、「互換性のために残してはあるけど非推奨だよ」と明確に記述されています。 java.time.ZoneId においては、標準ではサポートされず、略称と tz database 名の対応を後から追加する仕組みが導入されています。

これらの略称は、文脈が明らかな対人コミュニケーションにおいてのみ用いるのがいいでしょう。

"EST", "EDT", "CST", "CDT", "MST", "MDT", "PST", "PDT"

Ruby の Time.strptime に見られるように、アメリカ合衆国の一部略称のみ標準で解釈できるようになっている処理系があります。これは RFC 2822 などに、これらの略称が標準として含まれていることに由来するようです。

ただし、それでもこれらの略称の使用はできるだけ避けるべきです。夏時間などの扱いに処理系による違いが見られるからです。

例えば Ruby の Time.strptime は RFC に則って "PST" を常に "-08:00" として扱い、逆に "PDT" は常に "-07:00" として扱います。これは、例えば夏時間期間である "2017-07-01 12:34:56""PST" を付けた場合でも同様で "2017-07-01 12:34:56 -08:00" として解釈されます。

しかし、例えば JSR 310 の前身である Joda-Time では少し事情が異なります。org.joda.time.DateTimeUtils#getDefaultTimeZoneNames は、例えば "PST", "PDT" をともに "America/Los_Angeles" に対応させます。どうやら org.joda.time.format.DateTimeFormat.forPattern では間接的にこの getDefaultTimeZoneNames が使われているようで25、このため Ruby の Time.strptime や RFC とは異なり "2017-07-01 12:34:56 PST""2017-07-01 12:34:56 -07:00" として解釈されます。

Military time zones

主に米軍で使われているタイムゾーン表現で、地域によらない固定オフセットに対応します。 "A""Z" までの大文字アルファベット ("J" のみ不使用) を "-12:00" から "+12:00" まで 1 時間おきに 25 個のオフセットに割り当てています。 (Wikipedia:en)

"Z" の一文字で "UTC"/"GMT" を指す表現は見たことがある人が多いと思いますが、ここから来ています。

これらも "PST" などと同様に RFC 2822 に標準として含まれています。こちらは一意に定まる固定オフセット表現なので「避けるべき」というほどではありません。が、有名な "Z" 以外は一般的に知られているとは言い難いので、出力の際にわざわざ選ぶようなものでもないでしょう。 Military time zone では UTC から30分差や15分差のタイムゾーンを表現できない、という問題もあります。

おまけ: 昔の日付・時刻

(TODO: 少なくともグレゴリオ暦、ユリウス暦、先発グレゴリオ暦については書いておきたいのですが、力尽きたのでひとまず現状で公開しています)

実装の話

Java #0: JRE と tz database

tz database の説明で「tz database は年に数回は新しい版がリリースされます」と紹介しました。 Java の場合は Java Runtime Environment (JRE) にコンパイル済みの tz database が付属する形になっています。 JRE をアップデートすると、新しいバージョンの tz database もくっついてきて更新されます。 26

JRE 自体はアップデートしたくないけど tz database だけアップデートしたい、という場合は Timezone Updator Tool (TZUpdater) を使うことができます。27

tz database が Java 実行環境 (JRE) に付属するものであって Java アプリケーションに付属するものではない、という点には注意が必要です。つまり、あるアプリケーションをホスト A で動かしたときとホスト B で動かしたときで tz database のバージョンがずれてしまう可能性がある、ということです。

後述する地域ベースタイムゾーン (ZoneId) やそれを利用した日付時刻 (ZonedDateTime) を使う場合は、アプリケーションの更新・管理とは別に、戦略的に tz database のバージョン管理も行う必要があります。

前述のサモア標準時のように大規模な変更が直前に行われる可能性を考えると、ただ最新を追いかけるというだけでもそんなに簡単ではありません。

Java #1: JSR 310: Date and Time API

JSR 310 は (既に何度か参照していますが) 日付・時刻を扱う新しい Java API です。 Java 8 から追加されました。

Stephen Colebourne 氏によって実装された Joda-Time というライブラリが JSR 310 以前からあったのですが、これをベースとして、同じ Stephen 氏のリードで正式な Java API として再設計されたのが JSR 310 です。後述する、古くからの API である java.util.Datejava.util.Calendar を完全に置き換えることを目指した28 らしいです。

JSR 310 は「ただ日付・時刻を扱うだけなのに複雑すぎる!」という声もよく耳にします。が、日付・時刻というものが、上で書いてきたようにそもそも超複雑なんです。 JSR 310 のオブジェクトモデルは、この「超複雑な日付・時刻というモノ」をできるだけ忠実にモデル化しようとしており、とてもよくできているという認識を筆者は持っています。確かに複雑だけどそもそも超複雑なんだから仕方ないじゃん! という感じ。29

java.time.ZoneId, java.time.ZoneOffset

JSR 310 のタイムゾーンは、すべてのタイムゾーンを表す java.time.ZoneId 抽象クラスと、その中でも固定オフセットを表すサブクラスの java.time.ZoneOffset という2つのクラスで実装されています。文字列表現からは、それぞれ ZoneId.of("Asia/Tokyo")ZoneOffset.of("+09:00") などと呼び出してインスタンスを作成します。

地域ベースの ZoneId インスタンスには tz database のタイムゾーンが対応していて、「いつ夏時間に切り替わるか」「過去のどの時点から使うオフセットが変わったか」などの遷移ルールも実装されています。 ZoneId インスタンスの ZoneId#getRules() を呼び出すことで、ルールを実装した java.time.ZoneRules を取得することができます。

ZoneId は抽象クラスなのでそのもののインスタンスは作れません。地域ベースタイムゾーンは、今のところ ZoneId のサブクラスの java.time.ZoneRegion として実装されているようです。 (ZoneRegion は非公開なので直接は使えませんし、今後もこの実装が保証されるわけではありません。使うときはあくまで ZoneId として使います)

"Asia/Tokyo" "UTC+09:00", "+09:00" のそれぞれに対して ZoneId.of()ZoneOffset.of() を呼び出したインスタンスは、以下のように動作しています。

import java.time.DateTimeException;
import java.time.ZoneId;
import java.time.ZoneOffset;

public class ZoneIds {
    public static void main(final String[] args) {
        investigateZoneId("Asia/Tokyo");
        investigateZoneId("UTC+09:00");
        investigateZoneId("+09:00");
        investigateZoneOffset("Asia/Tokyo");
        investigateZoneOffset("UTC+09:00");
        investigateZoneOffset("+09:00");
    }

    private static void investigateZoneId(String id) {
        System.out.printf("ZoneId:[%s]\n", id);
        investigate(ZoneId.of(id));
    }

    private static void investigateZoneOffset(String id) {
        System.out.printf("ZoneOffset:[%s]\n", id);
        try {
            investigate(ZoneOffset.of(id));
        } catch (DateTimeException ex) {
            System.out.printf("  DateTimeException: %s\n\n", ex.getMessage());
        }
    }

    private static void investigate(ZoneId zoneId) {
        System.out.printf("  .toString(): [%s]\n", zoneId);
        System.out.printf("  .getClass(): [%s]\n", zoneId.getClass());
        System.out.printf("  .normalized().toString(): [%s]\n", zoneId.normalized());
        System.out.printf("  .normalized().getClass(): [%s]\n", zoneId.normalized().getClass());
        System.out.printf("  .getRules().isFixedOffset(): [%s]\n", zoneId.getRules().isFixedOffset());
        System.out.printf("\n");
    }
}
ZoneId:[Asia/Tokyo]
  .toString(): [Asia/Tokyo]
  .getClass(): [class java.time.ZoneRegion]
  .normalized().toString(): [Asia/Tokyo]
  .normalized().getClass(): [class java.time.ZoneRegion]
  .getRules().isFixedOffset(): [false]

ZoneId:[UTC+09:00]
  .toString(): [UTC+09:00]
  .getClass(): [class java.time.ZoneRegion]
  .normalized().toString(): [+09:00]
  .normalized().getClass(): [class java.time.ZoneOffset]
  .getRules().isFixedOffset(): [true]

ZoneId:[+09:00]
  .toString(): [+09:00]
  .getClass(): [class java.time.ZoneOffset]
  .normalized().toString(): [+09:00]
  .normalized().getClass(): [class java.time.ZoneOffset]
  .getRules().isFixedOffset(): [true]

ZoneOffset:[Asia/Tokyo]
  DateTimeException: Invalid ID for ZoneOffset, invalid format: Asia/Tokyo

ZoneOffset:[UTC+09:00]
  DateTimeException: Invalid ID for ZoneOffset, non numeric characters found: UTC+09:00

ZoneOffset:[+09:00]
  .toString(): [+09:00]
  .getClass(): [class java.time.ZoneOffset]
  .normalized().toString(): [+09:00]
  .normalized().getClass(): [class java.time.ZoneOffset]
  .getRules().isFixedOffset(): [true]

ZoneId#normalize()ZoneOffset に正規化できるインスタンスであれば正規化した ZoneOffset を返す、というメソッドです。 ZoneId.of("UTC+09:00") で作られたインスタンスは ZoneRegion ですが、それを normalize() してできたインスタンスは ZoneOffset になっていることがわかります。

ZoneRules#isFixedOffset() は、そのタイムゾーンが遷移のない固定されたタイムゾーンか否かを返すメソッドです。夏時間を採用していないはずの "Asia/Tokyo"false なのはなんでだ! と思われるかもしれませんが、理由の一つは前述の通り、過去の一時期に夏時間を採用したことがあるためですね。 (ちなみにその夏時間以外にも遷移がありました)

固定オフセットが、地域ベースのタイムゾーンとは別のクラスで実装されている、というのが JSR 310 のキモです。これについては java.time.OffsetDateTimejava.time.ZonedDateTime に触れる際に後述します。

java.time.Instant

時間軸上の特定の一点を表すのが java.time.Instant です。前述の UNIX 時間 (秒) と、小数部としてナノ秒を用いています。

うるう秒を無視することによる問題が無さそうであれば9 特に内部表現としては java.time.Instant を使うことをまず検討するべきでしょう。曖昧さがなく、メモリの消費も小さく、前後の比較も簡単で、例えばイベントが起こった時刻の記録としては必要十分です。

次項の日付時刻クラス群は、「一週間先」「一ヶ月先」のような日付時刻の計算を行うとき、ユーザーが関係する入出力、外部データの入出力、などのタイミングで使うことが多いでしょう。

LocalDateTime, OffsetDateTime, ZonedDateTime

どれも日付と時刻の組を表すクラス群ですが、用途に応じて3種類あります。筆者は、これらの使い分けは「時間軸上の一点 (前述の Instant) に対応できないことがあってもいいか否か」「その日付時刻から夏時間の境をまたぐ計算をするか否か」「その日付時刻表現について地理的地域は重要か否か」を基準に判断するのがいいと考えています。

java.time.LocalDateTime

LocalDateTime は、タイムゾーン情報を一切含まない日付時刻です。このため LocalDateTime だけでは Instant には変換できず、「時間軸上のどの一点を表すのか」は LocalDateTime だけからはわからない、ということになります。

JSR 310 に関する日本語記事を探すと「とりあえず LocalDateTime 使っとけばいいよ」という記述をたまに見かけますが、あえて LocalDateTime を使うべき状況を筆者はほとんど思いつきません。何か起きた時間のログとして使うには「どの時点だったか」を確定できないと不十分ですし、ログでは無くても LocalDateTime を持ち回れば「この LocalDateTime ってどこの時間だったっけ」とチームに混乱を引き起こす原因になります。

同じタイムゾーンの大量の日付時刻を計算するときに、節約のために LocalDateTime を使うケースはあるかもしれません。その場合は、なるべくその計算のためだけの狭い範囲に限定して LocalDateTime が漏れないようにする、特にそのまま外部には保存しない、などの工夫をしながら使うことをお勧めします。

それ以外には、あえてタイムゾーン情報と関連付けたくない場合、例えば「そのホストがどこにあるかによらずそのホストの時刻の 23:00:00 に特定の処理を実行する」のような場合以外に LocalDateTime をあえて使うべきケースは、ほとんど無いように思います。30

java.time.OffsetDateTime

OffsetDateTime はタイムゾーン情報を持つものの、固定オフセットの java.time.ZoneOffset のみを許す日付時刻です。「なんでわざわざ ZoneOffset のみに限定するのか?」「ZoneId や後述の ZonedDateTime でいいじゃないか?」という意見があるかもしれません。が、前述の通り ZoneOffset というクラスを用意して限定できるようにしたことが JSR 310 のキモです。

ZoneOffset のみに制限することで OffsetDateTime は常に一意な Instant に変換できることを保証できるのです。31 後述するように ZonedDateTime ではそうはいきません。

OffsetDateTime で済む場合はできるだけ OffsetDateTime を使っておくと、タイムゾーンの呪いをかなり遠ざけることができます。特に、他のコンポーネントとのインターフェースに使う場合や、外部に保存する場合 (ログなど) に OffsetDateTime (または相当するデータ) を使っておくと、曖昧なデータになってしまったりチームメンバーを混乱させたりする危険をだいぶ減らすことができます。

「常に UTC を使う規約にしておけば LocalDateTime でもいい!」という意見はあるかもしれません。しかし、往々にしてその規約を忘れたコードが生まれるものです。常に UTC を使う場合でも ZoneOffset.UTC を持った OffsetDateTime を作るようにしておくと、多少のメモリは使いますが混乱を減らせます。例えばこのような現在時刻を取得するには OffsetDateTime.now(ZoneOffset.UTC) などと呼び出せばいいでしょう。

ZoneOffset値ベースのクラスですが ZoneOffset.UTC は定数なので、大量の ZoneOffset インスタンスが作られるわけではなく、メモリへの影響もあまり大きくないと思われます。 32

java.time.ZonedDateTime

ZonedDateTime は任意の java.time.ZoneId をタイムゾーン情報として持つ日付時刻です。「OffsetDateTime より情報量多そうだし ZonedDateTime 使っとけばいいだろ!」という記述もたまに見かけますが、前述したように落とし穴があります。

例えば "America/Los_Angeles" で2017年3月12日 午前2時30分、という時刻が与えられてしまったとします。が、そんな時刻は実は存在しません。夏時間のことを思い出してみるとわかりますが "America/Los_Angeles" では2017年3月12日 午前1時59分59秒から2017年3月12日 午前3時0分0秒に吹っ飛んでいるからです。

また "America/Los_Angeles" で2017年11月5日 午前1時30分、という時刻も困ります。この場合は2017年11月5日 午前1時30分 (-07:00) のケースと2017年11月5日 午前1時30分 (-08:00) のケースと、両方がありえてしまうからです。

現在時刻から ZonedDateTime を作ったり、タイムゾーン付きの文字列を parse して ZonedDateTime を作ったりする場合には、このような問題は起こりにくいでしょう。このような問題が起こる代表的なケースとして、タイムゾーンなしの日付時刻データに「デフォルト」タイムゾーンとしてタイムゾーンを付加しようとするような状況が考えられます。

ZonedDateTime は補助的に java.time.ZoneOffset を追加で持つこともできます。33 このようにしたインスタンスでは、上記の後者のような問題は起こりません。しかし、あるインスタンスが ZoneOffset を持っているかどうかは、型からはわかりません。 ZonedDateTime インスタンスを受け取る人は常にこような問題に気を使わないとならなくなる、ということを意識しておく必要があります。

とは言え ZonedDateTime を使うべきケースはあります。 OffsetDateTime は夏時間の計算をやってくれませんし、地理的地域の情報は ZonedDateTime でしか持つことができません。例えば「夏時間がある地域で店舗の営業時間を扱う」ような場合は、下手に自力で計算してバグを埋めるより JSR 310 に任せてやってもらいましょう。必要性と厄介さのトレードオフです。日付時刻計算の途中で ZonedDateTime が必要になるようなケースは、しばしばあると思います。

ただし ZonedDateTime を他のコンポーネントとのインターフェースとして使う場合や、外部に保存するデータとして使う際は注意が必要です。そのような場合は補助の ZoneOffset を常に入れるように保証できないか、仕様から検討することをお勧めします。

Java #2: java.util.Datejava.util.Calendar

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
_______|
       |
       |
| ̄ ̄| ̄ ̄| |
|  | ∧_∧|
|  |(´∀`)つミ
|  |/ ⊃ ノ|   java.util.Date
[二二二二二]|   java.util.Calendar
      |

不幸にもまだ Java 7 以前しか使えない場合でも ThreeTen Backport という JSR 310 の多くの機能を Java 7 以前にバックポートしたライブラリがあります。せめてそっち使いましょう。

2018 年において Java 8 以降への移行すら考えていない、ということはさすがにもう無いと思うので、今から新しく Joda-Time を採用する理由はあまり無いでしょう。 Joda-Time を Java 8 以降で使うことは基本的に推奨されていません。

その他の言語

(タイムゾーンの扱いについて充分な内容を扱った記事には、お知らせいただけたらリンクを張らせていただきたいと思います)

言語に依らない戦略

JSR 310 の場合の一般化になりますが、以下の点に気をつけるといいだろうと筆者は考えています。

  • うるう秒を気にしなくてよく、昔の日付時刻を扱う必要もなければ、内部表現を UNIX 時間で持ち回れないか検討する。
  • 日付時刻データを、特に外部コンポーネントとのインターフェースに使う場合や、外部に保存する場合 :
    • 特別に省略する必要性がない限り、タイムゾーン情報は省略しない。
    • タイムゾーン情報が必要ない場合は明示的に UTC に変換して、データにも明示的に UTC と持たせる。
    • タイムゾーンが必要でも固定オフセット ("+09:00" など) で済む用途なら、なるべく固定オフセットを使う。
    • 地域ベースのタイムゾーンが必要な場合は、オフセットの追記ができないか検討する。
  • コード内で日付時刻データを扱う場合 :
    • タイムゾーン無しの日付時刻や地域ベースのタイムゾーンを扱う範囲を、コードの一部に限定できないか検討する。
  • 地域ベースタイムゾーンを使う場合は、実行環境 (OS, ランタイム) やライブラリの仕様を調べて tz database の更新戦略を立てる。
  • 3文字/4文字のタイムゾーン略語は使わず、地域ベースのタイムゾーンが必要な場合は、できるだけ tz database 名を使う。略語を使わざるをえない場合は、どの略語がどのタイムゾーンに対応するか、仕様から明示する。

  1. 今は。 

  2. 今は。 

  3. つまり筆者の呪い。 

  4. たぶんたくさんある。 

  5. 筆者も知りたいので。 

  6. リンクは日本語版の方だったりします。 

  7. ところでインターネットタイムってどうなったんですかね。 

  8. 山岳部標準時 (Mountain Standard Time, MST)」と「山岳部夏時間 (Mountain Daylight Time, MDT)」など。 

  9. 例えば、ユタ州は夏時間を採用し、アリゾナ州の大部分は夏時間を採用していないにもかかわらず、ともに山岳部標準時 (Mountain Standard Time, MST) に属する同じ「タイムゾーン」として扱われます。しかし実態としては、「標準時」や「タイムゾーン」という言葉は非常に多様な使われ方をしており、ユタ州とアリゾナ州のような場合を別の「タイムゾーン」と呼んでいる例も多く見られます。本稿でも「タイムゾーン」という言葉をそのように用いている部分があります。文献を読む際やコミュニケーションを取る際は、相手の用語の定義の正しさにあまりこだわらず、逆に自分は何を意図しているのかを明確にしておくといいでしょう。 

  10. いわゆる「日付変更線」も同様で、日付変更線という線が国際的に定められているわけではありません。 

  11. この項にはおそらく特に不正確な記述が含まれますが、筆者には、分野による用語の差異や歴史的変遷まで含めて短く正確にまとめきることはできませんでした。ソフトウェア・エンジニアとしての実用にはこれでも充分と思いますが、より正確な記述を短く簡潔に書ける方の編集リクエストはいつでもお待ちしております。 (ただしあまり長い記述にはしたくないと考えています) 

  12. 物理的に厳密な時間ってなんだ、という 量子物理学的 相対論的 なツッコミは置いておいてください。 

  13. 「タイムゾーン」という言葉の定義は、実は割と曖昧です。 

  14. ご存じの方、教えてください。 

  15. アメリカ系では "Daylight Saving Time" と、ヨーロッパ系では "Summer Time" と呼ばれます。 

  16. ほとんどの地域では1時間。30分だけ進む、というような地域も少数ながら存在するようです。 

  17. 2007年以降のアメリカ合衆国 (2018年時点) の場合、毎年3月の第2日曜日に夏時間に切り替わり、その後11月の第1日曜日に戻ります。 

  18. 英国二重夏時間 (British Double Summer Time, BDST): "+02:00" 

  19. 量子物理学的 相対論的 なツッコミは (ry 

  20. 「そこで」ではないかもしれませんが、歴史を深掘りするのが本記事の本題ではないのでひとまずスルーします。 

  21. 日本語でも「東京時間で」「ニューヨーク時間で」などというのと同じような感覚だと思います。 

  22. 国が関係する状態は変わりやすいので、政治的事情による変更に対して頑強であるためと記述されています。人が生活する単位としての「都市」はそれよりは長く維持される傾向にあると考えられているようです。要出典。ちなみに初期の提案では使うつもりがあったようです。 

  23. "Asia/Tokyo" についても、古い BSD ユーザーにはおなじみの South Ryukyu Islands時間問題 (調査報告) があったり、比較的最近でも戦時中の情報について一部修正されたりしています。 

  24. 歴史の解釈にも揺れがあるため、「正確なもの」はそもそも存在しない、と考えられます。 

  25. Joda-Time のコードをあまり深く追えてはいないので要検証。 

  26. タイミングによってはその JRE バージョンのリリース時点で tz database の対応が間に合わず、最新よりちょっとだけ古い tz database がやってくる可能性はあります。 

  27. 数年前に Oracle の方針云々で「TZUdater 提供されなくなる!」と混乱が起きたことがあります。2018年1月現在、サポートが打ち切られていないバージョンの JRE であれば TZUpdater は提供されています。 

  28. 要出典。 

  29. Parser による解釈が厳密すぎて大変、というのはわかる。 

  30. 「こんな時に LocalDateTime 使うとよかった!」などの反例をお待ちしています。 

  31. 変換は「一対一」ではなく、うるう秒の場合に Instant への変換で情報が失われてしまうことには、若干の注意が必要です。 

  32. 要検証。 

  33. 例: "2017-11-05 01:30:00 -07:00[America/Los_Angeles]" 

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