第1章:ブラウン運動とは何か?
定義:
ブラウン運動(Brownian motion)は、水や空気などの流体中で微粒子が見せる「不規則なジグザグ運動」を指します。最初に発見したのは植物学者ロバート・ブラウン(1827年)。
▶️ 観察例
- 顕微鏡で花粉の微粒子を見ると、静止せずランダムに動いている。
- この運動は、目に見えない水分子(H₂O)の衝突によるもの。
第2章:分子運動論と熱運動の視点
流体内の分子(たとえば水分子)は常に熱運動(Thermal motion)しています。
✏️ 熱運動のイメージ
- 温度が高いほど分子の速度が速い
- 分子の速度分布はマクスウェル・ボルツマン分布に従う
マクスウェル分布(1次元)
$f(v) = \sqrt{\frac{m}{2\pi kT}} \cdot \exp\left( -\frac{mv^2}{2kT} \right)$
- $m$:粒子の質量
- $k$:ボルツマン定数
- $T$:絶対温度
第3章:ランダムウォークと拡散
微粒子の運動は、**ランダムウォーク(Random walk)**と数学的に対応します。
▶️ 単純な1次元ランダムウォーク
- 各ステップで +1 または -1 のどちらかを確率 1/2 で選択
- $N$ 回のステップの後の位置 $x$ の平均は:
$\langle x \rangle = 0 \quad,\quad \langle x^2 \rangle = N$ - 移動距離の標準偏差: $\sqrt{N} \propto \sqrt{t}$ にスケーリング
▶️ 中心極限定理の適用
多数のステップを経た結果は**正規分布(ガウス分布)**に近づく
第4章:拡散方程式と流体力学の接続
✏️ 拡散方程式(Fickの第2法則)
ブラウン運動はマクロには拡散として記述されます:
$$
\frac{\partial P(x, t)}{\partial t} = D \frac{\partial^2 P(x, t)}{\partial x^2}
$$
- $P(x, t)$:粒子が位置 $x$ にある確率密度
- $D$:拡散係数(単位:m²/s)
📌 拡散係数 D の式(ストークス・アインシュタイン式)
$$
D = \frac{kT}{6\pi \eta r}
$$
- $\eta$:流体の粘性係数
- $r$:粒子の半径
- 粘性のある流体中での微粒子の動きにおける平均拡散速度と温度の関係
第5章:ブラウン運動と流体力学のつながり
1. ナビエ・ストークス方程式との関係
マクロな流れは以下の式で記述されます:
$$
\rho \left( \frac{\partial \vec{v}}{\partial t} + (\vec{v} \cdot \nabla)\vec{v} \right) = -\nabla p + \eta \nabla^2 \vec{v} + \vec{f}
$$
- $\rho$:密度、$\vec{v}$:流速、$p$:圧力、$\eta$:粘性係数
- このマクロな運動の背景に、ミクロなランダム運動(ブラウン運動)がある
2. 流体中でのブラウン運動
- 流体の分子スケールの乱流=粒子への衝突 → ランダム運動
- ラグランジュ粒子追跡法(流体中の粒子の動き)に応用
第6章:Langevin方程式とFokker-Planck方程式(高度)
Langevin方程式(1次元)
$$
m \frac{dv}{dt} = -\gamma v + \sqrt{2\gamma kT} \cdot \xi(t)
$$
- $\gamma$:減衰係数、$\xi(t)$:白色雑音(確率的な外力)
- 微粒子の力学+確率性を両立
Fokker-Planck方程式
Langevin方程式に対応する確率密度の発展式:
$$
\frac{\partial P(v,t)}{\partial t} = \frac{\partial}{\partial v} \left( \frac{\gamma}{m}v P \right) + \frac{\gamma kT}{m^2} \frac{\partial^2 P}{\partial v^2}
$$
- 状態の時間変化を確率分布の観点で記述
🔚 結論:ブラウン運動はマクロ世界の橋渡し
- 確率過程 ↔ 熱運動 ↔ 流体の性質をつなぐ概念
- マクロな流体現象は、ランダムな微視的運動の積分結果
- 工学・物理・生物学など多くの分野で応用される