エンジニアの仕事を始めてから20数年たちますが、半分は日本で半分は海外で生活をしています。その中でいいことも、あまりそうでなかったことも色々とあったので、そのあたりをご紹介したいと思います。
良かった事
英語が上達した
海外生活が長くなると、英語圏でなくても英語を使う機会は増えると思います。自分の場合は、最初の外国はアメリカだったので、仕事でも普段の生活でももちろん英語が必要でした。
このような環境に置かれると、いやでも少しずつ使って上達するものです。当初はニュースなどを聞くのはかなり大変でしたが、そのうち慣れてくるようになりました。
英語が上達したことは、ITの仕事にも大いに役立いちます。ITの技術文章は圧倒的に英語のものが多く、翻訳ベースでないオリジナルの情報にアクセスできて内容がわかるようになるとどの分野のエンジニアの人でもかなり役立つと思います。
多くの国の人と仕事ができる
今いるドイツもそうですが、アメリカは特に移民の国なので会社でも、外国出身の人が沢山います。自分が所属していた部署でも半分近くは、外国出身の人がいたこともありました。直接ITの仕事に関係ないようですが、これは相当良い経験になります。考え方から、価値観まで全く違う人と仕事をすると、多様性を受け入れざるを得ない状況になります。時には、あまりにも考え方が違うので対立することもありますが、そういうことから多くを学べると思えば良い方向で進められるようになるものです。
自分の場合は、周りや同僚に日本人が全くいなかったので、周りからは日本のことについて本当にたくさん聞かれました。そのおかげでちゃんと返答するため、日本のことを勉強して逆に知識を増やせたこともあります。
各国のIT業界の事情に少し詳しくなった
多くの国の人と仕事をしたり、ヨーロッパだと県を越える感じで出張とかできるので、色々な国のIT業界の事情にも少し詳しくなります。
以下は一部の例です。
- アジアの国ではインドおよび中国出身のエンジニアがすごく多いです。元々の人口が多いという側面もありますが、インドでは多くの人が英語を使っていますし、ITの人材を派遣するような大手の会社もあるようで本当によく仕事を一緒にします。
- 日本出身のエンジニアはあまり見かけません。自分の勤めているところでも数えるほどで、アジア系と言えばインド・中国系が大半です。
- それぞれの国・地域で異なった規制があり、少なからず規制のことを勉強しないといけません。たとえばEUではGDPR(EU一般データ保護規則)と言う規則があり、それに関するシステムやデータなどはEU外に持ち出せなかったり、EU外からアクセスできなくなります。日本でも個人情報保護法がありますが、こういった個人情報の規則の話をすると日本は早くから規則を作った例として出てくることもよくあります。
- インターネットは国境もなくどこでも自由に使えるというのが完全に当てはまるわけではなく、国によったらかなり制限をかけられているところもあります。いろいろな国の人と仕事をするうえで、相手の置かれている状況を知っていないと思ったように仕事が進まないこともあります。
- アラブやイスラエルの言葉は右から左に書かれるため、ホームページも右詰めで表現されています。
- イスラエルはIT業界では先進国で多くのスタートアップ企業なんかもあります。そのイスラエルですが、休日は金・土曜日で日曜日は普通の就業日です。金曜日に仕事を一緒にすることはできませんが、例えばシステムのテストを行うチームなどがイスラエルにあると、日曜日に他のチームなどがお休みなので環境を独占して集中テストを行うことができたりします。
- アメリカの同僚は、コロナ禍が始まって子供の学校がすぐにオンラインを利用したホームスクールになったと言っていました。普段からタブレット端末をつかって授業をしていたので、準備期間もなく次の日から子供の勉強場所が学校から家になったと言っていました。さすがITの進んでいる国だと思いました。
- ヨーロッパではアイルランドやベラルーシがITアウトソーシング先となっているようです。税金や人件費などの利点があるようですが、ともに英語を母国語としているもしくは話せる人が多く、特にアイルランドの場合はEU圏内のため先ほどのGDPRを考慮するとよいアウトソーシング先となっているようです。
ワークライフバランス
特にドイツではワークライフバランスがとりやすい環境かと思います。ニュースでもよく取り上げられていますが、年間の就業時間などは他の国と比較しても少ない方でそれでいて休暇もしっかりとっているという感じです。法定のお休みと、会社が追加で福利厚生の一環で追加する休暇を合わせると、大体30日前後あるようです。自分の知っている限りでは、ほとんどの同僚がほぼ100%消化していて、たくさん次の年に繰り越している人は周りではあまりいません。30日も有給があると、かなり意識して2週間連続の休暇などを数回取らないと消化できないレベルです。
もし、あんまり有休を残していると会社から催促のメールなどが来て、少なくとも法定のお休みは年内に消化するようにと言われます。
ドイツでは冬は寒くて長いので、やはり夏場に休暇が集中するようです。5月、6月前半はいくつか祝祭日があり、それに合わせて多くの人が休暇を取ります。8月はほぼ開店休業状態で、仕事をしていると逆にはかどるのですが、誰かに依頼するような内容は8月中はほぼ進まないと思っておいた方が良いです。
また、以前別の記事でも書きましたが、残業は基本的にはしません。ただ、もちろんITの会社ではすべてそのようにいくわけもなく、障害やメンテナンスなど週末などに行うため時間外での仕事ももちろんあります。それでも、残業ありきで物事を進めているのではないので、お互いそれぞれの就業時間を考慮して仕事をしているという感じです。
海外生活で広がる見識
海外生活をすると、当然今までの常識が通用しなくなりまったく環境の違ったところに置かれるので、見識が広がるのは間違いなしです。何気ないことだったりしますが、これからのキャリアにも私生活にも役に立つことも多いと思います。個人的にいくつか思いついたところをご紹介します。
- アメリカは連邦制なので州によって法律が異なりますし、消費税とかも違ったりします。運転免許は州ごとに取り直す必要があり、確定申告も州をまたがって通勤すると両方の州に行わないといけなかったりします。
- 夏時間と言うのはよく聞きますが、全部の州で施行しているわけではなくアリゾナ州やハワイ州ではありません。
- アメリカの就労ビザ(特にIT系だとH1B、転勤の場合はL1)は期間の制限がありその間に永住権などを取らないと出国しないといけなくなったりします。
- アメリカで自動車免許を持っていると、そのリストをもとに陪審員の候補を割り出すところもあるので通知が来ることがあります。自分も来ましたが、アメリカ国籍を持っていないと免責なので行かずに済みました。
- アメリカの自動車免許は州政府が発行しているので、州をまたいで引っ越しをすると行先の州で免許を新たに取り直しになります。
- ドイツはEUの国でシェンゲン協定に加わっているので、同じくシェンゲン協定に参加している国とはほとんど国境がないのと同じです。ドイツとフランスの国境沿いにはワイナリーが広がっているのですが散歩していると気づかない間に国境を超えることもあります。
- アメリカもそうですが、EU圏内では外国人がいるのがごく普通のことで多くの人が何らかのレベルの英語で会話ができます。
- 国境を越えて移動をしていくと、使用される言語が徐々に変わっていくのが分かります。例えばドイツとフランスの国境付近だとドイツ側から異動すると、最初はドイツ語ばかりでフランス国境近くになると両方話せる人が多くいたり、場所によっては学校で両方学んでいたりするそうです。ですので、フランス側に行ってもドイツ語で会話ができたりします。
- 移動がとてもしやすく、前述のようにワークライフバランスが良いので、休暇で近郊の国々を気楽に訪ねることができます。そこでまた、それぞれの国の文化や、今住んでいるところとの違いなども外国人目線で比較できたりするの非常に興味深くいい勉強になります。
- アメリカと違ってドイツの自動車免許は期限がありません。一度取得すると、ずっと有効のようです。免許を取得する場合は、元から持っている別の国の免許から切り替えができます。国によって書類手続きだけの場合と、追加でテストを受ける必要のあるところもあります。アメリカの免許から切り替えする場合は、州ごとに違うようでテストのいる州とそうでない州があるようです。
- IT人材が不足している国や、IT業界に力の入れている国は、ITエンジニアに対するビザの発行を多く出していたり、取りやすくしている国があります。自分もドイツに来た当初は、ビザのサポートをしていただいた人からドイツではITエンジニアは就業ビザを取りやすくなっていると聞きました。
問題や困った点
日本の会社事情に疎くなる
当然ですが、日本から離れて生活しているので日本の会社事情などに疎くなってきます。インターネットで情報はほぼ何でも取得できますが、それでも普段の仕事上の付き合いなども変わるので、IT業界でどの会社が伸びているとか、話題になっている新製品など時間とともにわからないことだらけになります。
例えば、今いるドイツではスマートフォンでキャッシュレス決済なんてものは皆無で使っている人を見たことすらありません。コロナ禍が始まるまでは、カードで支払いをする人もそれほど多くないぐらい現金派の人が多くいました。コロナ禍以降は、現金の受け渡しを避けるためか以前よりも多くの人がカードで支払いをしているようです。ちなみに、以前はほとんどのスーパーでクレジットカードすら使用できないぐらい遅れていたのですが、去年よりほとんどのお店でクレジットカードが使えるようになりました。
違う国で仕事をしていて、決定的に違うのが人事・福利厚生関連のところです。たとえば、新たに導入される制度、税金、社会保障関連のことは国ごとに全く違うので、海外生活中に変更があったりすると分からなくなったりします。
マイナンバーなどはその典型で、今のところ住民票を抜いて海外に住んでいる非居住者には発行されません。コロナ禍をきっかけに行政がデジタル化を進めてそのベースがマイナンバーなんかになると、海外に住んでいる人はついていけなくなります。
日本語力の劣化
日本語を使う機会が激減するので、日本語力は海外生活が長くなるほど劣化していく気がしています。できるだけ、仕事以外のところは日本語に触れておこうと思いますが、仕事上に必要な言葉使いなどはこちらで使う機会もなく、将来日本で仕事をする機会にちゃんと言葉が出なくなることもあるかと思ったりしています。
年金制度と納税
年金制度や税制は当然それぞれの国ごとに全く違います。加入期間や支払い開始時期なども違いますし、当然収入から差し引かれる割合も国によって違います。
海外でエンジニアになるまででも書きましたが、日本はいくつかの国と社会保障協定を結んでいて二重加入を避けたり、支払期間の通算を行えるようにしています。
これは加入期間の話ですが、年金の支払いが始まると相当面倒なことになり得ます。3か国で支払い基準を満たした場合、将来3か国から違う通貨で支払いを受けることになります。年金受給者になった時にどの国に住んでいるかにもよりますが、他の2つの国からの分は両替しないと住んでいる国で実際使えなくなります。また、それぞれの国で確定申告なんかもする必要が出てきたりするのでかなり面倒なことになりそうです。
疎遠になりやすい
SNSやインターネットがあっても、やはり国が違うとどうしても友人などと疎遠になりやすいです。国も違う上に、8時間以上も時差があると日本にいる家族に電話する時間帯すら限られてきます。
友人などに会うにしても、たまにに帰省するときに時間が合えばいいですが、そうでなければ次の帰省のときまでまた機会がなくなります。以前アメリカにいたころは今ほどSNSもなくインターネットもさほど普及していなかったので、本当に連絡を取り合うことがなかなかできなかったものです。
そのころに比べるといまは、SNSですぐに連絡もでき電話もできるようになったので以前よりははるかに良くはなっていると思います。
食事
食事も海外生活では、問題になりそうなことの一つです。
アメリカの場合、アジア系もしくは日本人が多く住んでいるカリフォルニアやニューヨークだと日本食料品店なんかもあって、新鮮なお刺身とかも売っていたりするのでそれほど困ることもないかと思います。自分もよく日本食料品を扱っているスーパーマーケットに、月に何度か行って買い込んでいました。また、街中にも日本人の経営している和食店やお寿司屋などもあり、よく利用していました。
これがドイツになると、そこまで和食が広まっているという感じではありません。おそらくデュッセルドルフなどでは他の町に比べて、お店もあると思いますが、自分が住んでいるドイツ南西部は内陸でそもそもスーパーに魚など売っていなかったりします。最近は、だいぶ普及してきて以前よりは手に入りやすくなりました。
また、ドイツでは基本的にお店は日曜日、祝祭日は営業できません。法律で定められているようで、週末営業をしているのは土曜日だけです。ですので、土曜日のスーパーマーケットは混雑しやすくなります。もし、土曜日が祝日になった場合は、週末は全く営業していないので金曜日の夜は本当に込み合います。コロナ禍では同時に入店できる人数が限られているので、スーパーマーケットの外で行列をしていることも見かけます。
最後に
いろいろ思いつく範囲で、海外で仕事をしていて良かった事やそうでなかったことを書いてみました。ITエンジニアはノマドと言う言葉がある通り、ラップトップとネットワークさえあれば限りなくどこでもできる仕事です。コロナ禍のおかげでリモートワークをすることが普通になってきている中、ノマド用のビザを発行するような国も出てきました。これからIT業界では外国の企業に勤めていながら、居住地は日本だったりその逆の人もたくさん出てくるのではと思っています。そうなると、リモートで仕事をするのに障害は時差だけで場所は関係なくなる日も来るかもしれません。これからさき海外移転を考えている方の参考に少しでもなればと思います。