はじめに
この世の全ての人が抱えているといっても過言ではないチームに関する問題。チーム内での人間から来る不満は皆さんお持ちだと思います。
チームの誰々にこうして欲しいのに思ったように動いてくれない、仕事をしてくれない。私はこんなに頑張っているのに。そういった不満が募ってストレスが爆発!なんて人もいると思います。
こうした感情の向き合い方について、嫌われる勇気というアドラー心理学について書かれた本で見たなと思ったので、再度本を読みなおし、チームのあり方という目線で活かせることが無いかを考えていきます。
課題の分離をチームに活かす
課題の分離とは
アドラー心理学の基本に課題の分離という考え方があります。
自分が出来ることは選択することだけで、他者の承認・評価はコントロールすることが出来ない。課題を自分のものと他者のものに分離し、自分の課題について行動を選択していくことが自立につながる。というもの。
以下が基本姿勢になります。
- 課題に対してこれは誰の課題なのか?を考える
- 自分の課題に対して他者を踏み込ませない、他者の課題には踏み込まない
チームの課題を分離する
課題の分離のように、課題を誰かの課題に分離し、その所持者のみが介入できるという状態にしていくことは、チーム内にある課題についても活きてくると思います。
実際に、チーム内にある課題にはどのようなものがあるのかを、以下4種類の場合分けで考えてみます。
- チームメンバー個人の課題
- チームの課題(チーム全体、もしくは複数メンバーが関わる課題)
- 他チームも関わる課題
- チームをまとめ上げるために必要な課題
どの場合でも共通して、他者の課題には介入しないという意識が大事です。
これは、他者のやることに一切手だししないという意味ではなく、他者を信頼し、他者の課題がどう扱うかについて押し付けないこと。うまく行くために援助をすることはいいが、その結果がどうなるかについて期待しないこと。です。
1. チームメンバー個人の課題の分離
これに関しては、個人で持っている課題となるので、その課題の担当者が介入・解決するべきものとなります。
ただし、仕事には何かしらの期限があるので、作業状況を追う必要は出てくるでしょう。この「作業状況を追う」というのは4. チームをまとめ上げるために必要な課題とさせてもらいます。
2. チームの課題(チーム全体、もしくは複数メンバーが関わる課題)の分離
例えばAさんとBさんの共同でとある新規機能を開発しなければならず、Aさんが画面を、BさんがAPIを開発するといったケース。
この場合、元々の課題が「とある新規機能を開発しなければならない」というAさんとBさんの作業が混ざった課題となっています。そのためまずは課題をAさんのものとBさんのものに分割する必要があります。
つまり、課題を1人が担当できるレベルに作業を分割していくことが必要となります。
今回の場合は担当割りが明らかなので問題ないですが、現実ではそう簡単にいかないこともあると思います。そんな時は「課題を分離すること」自体が最初の課題・作業となるでしょう。
また、課題を分離しても誰の課題かわからない状態だと意味が無いので、課題の所持者を明確にすること も大事な要素でしょう
3. 他チームも関わる課題の分離
こちらも2と同様、まずは 自チームと他チームの課題に分離すること を最初に行う必要があります。それは2でチーム内でやったことと同様に、チーム間で作業の分割をしていくことになります。
誰が作業分割を実施するのかについて、担当が明確になるよう気を付けましょう
4. チームをまとめ上げるために必要な課題の分離
例えば以下のような作業があるでしょう。
- チームの課題を個人の課題に分離する作業
- 各メンバーの課題の進捗状況を追う作業
- チーム間の課題を解決する為に作成された、自チームの作業
このような作業は、作業化さえしてしまえば後はその担当となる人が実施するだけだと思います。作業化さえしてしまえば
ただ皆さんも思い当たる節があると思いますが、こういった作業は割と個人個人の思い込みで進んでしまいがちです。
この人がやるはず!と思っていたら結果誰も手を出しておらず、作業が宙に浮くなんてことも多々。
(え、そんなの役割が決まってるものでしょ?と思われている人はいるかもしれませんが、意外とそれが実はチーム内で認識合っていなかったりしますよ。特に作業がよく宙に浮くようなチームなら)
じゃあどうすればいいのか?関わっている人がうまく作業化してくれることを信じる。で回るプロジェクトもあるとは思いますが、そうではないところもあるので対策を考えておく必要があります。
考えられることとしては、こういった工程をルール化してしまうことでしょうか。
- 体制図を定義し、役割を明確にする
- どの役割があり、何をするものか?それは誰が担当するのか?が分かるようになる
- 作業フローを定義する
- 必要な作業には大まかに何があり、それを誰が担当するのか?が分かるようになる
とにかくハイレベルで誰が旗を振るべきか?や、どんな流れで各自の作業まで落とし込むか?を定義し、その過程で誰かの課題に落とし込むようにする。といった工夫が必要だと思います。
その他. そもそも課題の認識合わせはしたの?
ここまでチームの課題についての話をしましたが、そもそも論としてチーム全体が同じ課題を共有していないと、その課題を分離したところで元の形が合わずに空中分解なんてこともあるかもしれません。
ここは結構やらかしがちで、わたしがこれはチームの課題だ!と思っていても、実は別の人は課題に思っていない。なんて状態だと、いくら課題に取り組もうとしても前に進まないことがあります。だって課題と認識していないから
なので、まず大前提として、課題の認識を合わせるというプロセスは必要になるかもしれませんね。
課題の分離の活かし方まとめ
課題の分離をチームで活用する為には、以下のポイントを認識することが大事だと思われます。
- 誰かの課題になるまでタスクブレークダウンをする方法を定め、実施すること
- 課題には、その担当のみが介入可能であり、周りはその結果について期待しないこと
- 課題解決に援助することは出来る
その上で、チームの持っている課題を分離し、チームで消化していきましょう!
共同体感覚をチームに活かす
共同体感覚とは
共同体とは、身近な周りから人類、生物、無生物、過去から未来までの事象すべてを含めたものを指します。
共同体感覚とは、身近な周りの全てを仲間だとみなし、その中に自分の居場所があると感じられることと、嫌われる勇気の中では定義されていました。
要は私が私がにならず、私も共同体の中にいる一つのものとして、見返りを期待せずに共同体に貢献しましょうという話。
今いる共同体に詰まったら、更に「より大きな共同体の声」を聴きましょう。といった話です。
横の関係を築く
横の関係とは、簡単にいうと全員に優劣がなく対等な関係のことです。
能力を基準に優劣をつけて態度を変えたりしないこと。
叱ることもよくない例として思いつくと思います。その他にも人を褒めて評価することも、優劣をつけた「縦の関係」を元にした行動とされています。
そういった他者へ介入し評価することが当たり前の関係は縦の関係としています。
そうではなく、お互いの違いを受け入れ、その上で課題に取り組む。相手への働きかけも評価をするのではなく援助(勇気づけ)だけする。それが横の関係としています。
人は「わたしはこの共同体にとって有益だ」と自分で思え、自分で貢献できたと感じることのできると、行動する勇気が生まれます。
その勇気を後押しするのが横の関係と言えます。
よく言われる心理的安全性と重なる部分がありますね。横の関係が築ければ、恐怖や不安を感じることなく自分の意見を伝えられる状態になります。
じゃあ横の関係を築く為にはどうすればいいのか?嫌われる勇気では「他者を行為ではなく存在レベルで見ていく」と言います。存在しているだけでなにかしらの役に立っている。と受け入れることからはじまる。
正直これだけだと※ただし摩擦はないものとするみたいな理想論にも思えてしまいます。ただそのような関係性を実現できれば大きな悩みから解放されるでしょう。
その実現に向かうため、引き続きアドラー心理学からその手段を学びましょう。
自己受容
アドラー心理学では、与えられたものをどう使うか?を大事にします。よくある自己肯定感は、自分は出来る!これでいいんだ!と肯定的な感情で覆う行為です。
一方アドラーが提唱しているのは自己受容。自分を無理に肯定的にとらえるのではなく、そのままを受け止めて、その上で自分の課題に取り組み、成長する為に行動していくことを説いています。
競うな 持ち味をイカせッッ!ってやつですね。
チームでも同様です。現実を見て、受け入れる。そして、順々に課題を分離し解決に向かう。
チームの今に目を背けず、背伸びをせず、ないものねだりせず、じっとチームの課題に取り組んでいくこと。現実を受け入れて前に進む勇気が必要なのです。
他者信頼
次に出てくるのが他者信頼です。文字通り他者を信頼すること。見返りを求めず、条件を付けず、ただ信頼することが必要だと。
課題の分離によりチームの課題を分離し、わたしとメンバーの課題に分けることが出来ました。その次に行うことは、ただわたしの課題に取り組むこと。そしてメンバーの課題はメンバーを信頼し任せること。
私の独自解釈が混ざりますが、ここでいう信頼は別に「この人なら必ずできる!」と結果を期待することではないと思っています。
ただ他者の課題は他者のものであることを認め、干渉せずに他者が課題に取り組むと信頼することだと思います。そして出てくる結果を受け入れること。
しかし仕事なんだから、「スケジュール通りに結果が欲しい!とか品質のいいものを出さないといけない!」といった条件はあるとは思います。
その課題は果たして担当者の課題なのか、それとも例えばチームリーダーの課題なのか。この部分をまず見極める必要があります。担当者の課題として分離したのであれば担当者が取り組むべきですが、チームの課題としてチームリーダーが取り組むべき場合もあると思います。どちらかというとチームリーダーの課題になることの方が多そうですよね。元々スケジュールを作って納期を約束するのは大抵リーダー層やその上の層だったりしますし。
もちろんリーダーが自分の課題として処理した結果、リーダーと担当者それぞれの課題に分離され、担当者として取り組むべきことが出てくるということもあると思います。
ただ、例えば「スケジュールはわたしが決めたわたしの課題かもしれない。それでも君の担当作業はこんな成果を出さないといけないのだ!」と、課題の分離もせずに成果を求めるのであれば、それは実現しないこともあるでしょう。あなたの課題にはあなたしか介入できませんし、相手の課題も相手にしかできないのです。
他者信頼は、チームで当てはめると「全てを相手に委ね信頼する」というよりも、「現実に目を向け、自分がコントロールするものは何かを分類する。相手に渡したものについてはその担当者が出してきた結果を受け入れる」という行為だと捉えています。
「あなたなら出来る!信頼してるよ!」みたいなポジティブな感情だと、思っていた結果が出なかった時に、「こんなに信頼していたのに裏切りやがって!」といった理屈に繋がります。
**「成果が出ることを信じ、任せる」のではなく、「課題に取り組むことを信頼し、その結果どうなったとしても受け入れる」**というのが、ここでいう他者信頼だと私は捉えています。
結果を期待せず事実を受け入れ、必要であれば新たな課題として対処することを決める勇気。「あなたに任せる!もしうまくいかなくてもその結果を受け入れるよ!それをどうするかは私の課題だ」といった諦めにも似た行為が他者信頼なのだと解釈しています。
人数が多ければ多いほど、自分の課題として処理できるものは減っていきます。そうなると、上記のような現実を受け入れる姿勢が必要になっていきます。
他者貢献
他者貢献は、自分が他者になにが出来るかを考え、行動していくことです。当然なにか特定の見返りを求める行為ではありません。
横の関係を築く話の際に、「わたしはこの共同体にとって有益だ」と思えることが行動に繋がると記載しました。
他者貢献を通して、この有益だと感じることが出来ると本では説明しています。
自分はチームに対して何が出来るのか?逆にチームリーダーならチームのメンバーの為に何が出来るのか?
そう考え、行動すること。そうすることでわたしのチームでの価値を実感することに繋がります。
その行動が何か結果を伴わなかったとしてもそれでいいんです。ありのままを受け入れるのが横の関係を築けたチームなのです。
他者貢献を考えることは、見方を変えると自分の課題が広範囲に広がっていくことなのかなと捉えています。
他者の課題に介入するという意味ではなく、他者に貢献しようとすることで自分の課題に対する守備範囲が広がっていくというイメージですね。(ここで間違えて他者に介入しないよう、しっかり課題の分離はしましょう)
共同体感覚の活かし方 まとめ
共同体感覚を持つことは、つまるところ現実を受け止め、今を真剣に生きることと言い換えることが出来ると思います。
ありのままの現状・現実を受け止め、そこに上下関係を作らない。
今ある課題を見据え、他者の為に何が出来るかを考え、課題を並べる。そしてその課題を分離していく。
課題を分離したら自分の課題に関してのみ真剣に取り組み、他者の課題には介入せずに信頼する。
出てきた結果を受け入れ、また課題があれば分離して対処する。
この繰り返しで、チームが回っていくようになるはずです。
最後に
私自身、何年経ってもチームに対する悩みを抱え、もがき、試しては失敗してを繰り返しています。そんな今の自分の助けになるよう、心理学の本をチームに当てはめるという試みをしてみました。
私としては、新たな発見もあり有意義な時間になったと思います。
そうは言いつつ多分来週も来月も来年も、ずっとチームのことについて何かしら悩みながら生きていくでしょう。現実はそう簡単にはいかないことが多いです。
そんな現実を受け入れ、出来ることをやっていくしかないのも事実ですので、自分の課題を切り分け、見極め、日々取り組んでいこうと思います。
この記事が、同じようにチームのことで悩んでいる誰かの助けになることが出来たら幸いです。
チームをよりよくしようと取り組むすべての人に幸あれ!
参考
嫌われる勇気
イラスト: いらすとや