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Physics Lab.Advent Calendar 2024

Day 17

詳細つり合い

Last updated at Posted at 2024-12-16

おはようございます。詳細つり合いについての記事になります。基本的には齋藤圭司先生の「揺らぐ系の熱力学」3.1節、3.2節をまとめたものです。
詳細つり合いとは遷移行列に課される仮定で、私も本質的には理解できていません。
系が非平衡状態になるような場合には局所詳細つり合いが導入されますが、今回は取り扱いません。

目次

3.1:離散状態の確率過程
3.2:詳細つりあい
ペロン・フロベニウスの定理

3.1:離散状態の確率過程

時刻$t_0$で状態$z_0$に合った時時刻$t(>t_0)$で状態$z$になる確率$P(z,t|z_0,t_0)$とする。
 連続変数$x$に対してチャップマン・コルモゴロフ方程式は
  $P(x,t|x_0,t_0)=\int dx'P(x,t|x',t')P(x',t'|x_0,t_0)$
 と書かれた。離散状態に対するチャップマン・コルモゴロフ方程式は
  $P(z,t|z_0,t_0)=\Sigma_{z'}P(z,t|z',t')P(z',t'|z_0,t_0)   (3.1)$
 となる。単位時間あたりに$z$から$z'$に遷移する遷移確率$W_{z',z}$と置くと、時刻$t$において$z$にいた変数が$z$にそのまま残る確率と時刻$t$において$z'$にいた変数が$z$に移る確率を考えて
  $P(z,t+\delta t|z_0,t_0)=(1-\Sigma_{z'(\neq z)}W_{z',z}\Delta t)P(z,t|z_0,t_0)+\Sigma_{z'(\neq z)}W_{z,z'}\Delta tP(z',t|z_0,t_0)   (3.2)$
    $\downarrow P(z,t|z_0,t_0)$を左辺に移す
    $\downarrow \Delta t\to0$
  $\frac{\partial}{\partial t}P(z,t|z_0,t_0)=-\Sigma_{z'(\neq z)}W_{z',z}P(z,t|z_0,t_0)+\Sigma_{z'(\neq z)}W_{z,z'}P(z',t|z_0,t_0)   (3.3)$
 このような離散状態に対する確率過程は マルコフジャンプ過程と呼ばれる。
・偶パリティ変数
 :時間反転に対して符号を変えない変数 $\tilde{x}=x$
 ・奇パリティ変数
 :時間反転に対して符号を変える変数 $\tilde{p}=-p$
  $\rightarrow$一般の変数$Z=(x,t)$とすると、$\tilde{z}=(x,-p)$\

3.2:詳細つりあい

偶パリティの状態変数のエネルギー$\epsilon_x$、状態$x$から状態$x'$への単位時間あたりの遷移確率$W_{x',x}$、時刻$t$で状態$x$が実現する確率$P(x,t)$とかく。
  $\frac{\partial P(x,t)}{\partial t}=-\Sigma_{x'(\neq x)}W_{x',x}P(x,t)+\Sigma_{x'(\neq x)}W_{x,x'}P(x',t)   (3.6)$
         $\downarrow W_{x,x}:=-\Sigma_{x'(\neq x)}W_{x',x}$
      $=\Sigma_{x'}W_{x,x'}P(x',t)   (3.7)$
 この時、
  $\Sigma_xW_{x,x'}=0   (3.8)$
 が成り立つことから
  $\frac{\partial}{\partial t}\Sigma_xP(x,t)=\Sigma_x\Sigma_{x'}W_{x,x'}P(x',t)=0$
 が成り立って確率の保存がわかる。

定常状態分布$\mathbf{P}^{SS}$を考える。また$\mathbf{\pi}={\pi(x)=\frac{e^{-\beta\epsilon_x}}{Z}}$を平衡分布とする。
  $\frac{\partial P^{SS}(x)}{\partial t}=\Sigma_{x'}W_{x,x'}=0$
 系が$\beta$の熱浴と熱のやり取りをしながら時間発展したら、定常状態は平衡状態になりそう。
 今、定常状態が平衡状態の時詳細つりあい
  $W_{x,x'}\pi(x')=W_{x',x}\pi(x)$   (3.9)
   $\cdots \frac{W_{x,x'}}{W_{x',x}}=e^{-\beta(\epsilon_x-\epsilon_{x'})}$ とも書かれる。
 が満たされることが仮定される。
  $\Sigma_{x'}W_{x,x'}\pi(x')=\Sigma_{x'}W_{x',x}\frac{W_{x,x'}}{W_{x',x}}\frac{e^{-\beta\epsilon_{x'}}}{Z}=\Sigma_{x'}W_{x',x}\frac{e^{-\beta\epsilon_x}}{Z}=0$
 から詳細つりあいを満たす時定常状態が平衡分布になることがわかる。
  $(@\Box @)$<これって「平衡状態が定常状態」を示しただけで「定常状態が平衡状態」は示してないのでは?
  (^$\nabla$^)<ベロン・フロベニウスの定理から定常状態はただ一

ペロン・フロべニウスの定理
有限次元正方行列$\mathbf{W}$が\

1.:実行列
2.:非対角要素が非負
3.:既約性 $\cdots\forall i\neq j,,\exists n\in\mathbb{N},[\mathbf{W}^n]_{i,k}\neq0$\

を満たす時、$\mathbf{W}$の固有値の一つは実数(ペロン・フロべニウス固有値)、その固有ベクトルの全ての成分を正の実数に取れる(ペロン・フロベニウス固有ベクトル)、この固有値は縮退しない、この固有値以外の固有値の実部はこの固有値より小さい。

今の場合0が$\mathbf{W}$のペロン・フロべニウス固有値なのでペロン・フロベニウス固有ベクトルである定常状態が一つしかないことがわかる。
 $\cdots$「揺らぐ系の熱力学」にはこのような記述があるが、0が$\mathbf{W}$のペロン・フロベニウス固有値であることがなぜかわからない。ただ、0が$\mathbf{W}$の重複度であることは初等的に示すことができる。詳しくは「ペロン・フロベニウスの定理」のsectionを参照のこと。

 $(@\Box @)$<なるほど。確かに定常状態が平衡状態になってそうだね。
      でも、「揺らぐ系の熱力学」40pに「詳細釣り合いは系全体を平衡化するための十分条件としての役割を持つ」
      とあるけど、系が必ず定常状態に行く保証はないしこれは言い過ぎなのでは?
  (^$\nabla$^)<エルゴード性を仮定するとマルコフ過程は無限時間経過すると定常分布に辿り着くよ!
      エルゴード性は既約性と非周期性で定義されてる気がする。
      \url{http://sysplan.nams.kyushu-u.ac.jp/gen/edu/SystemsDesignEngineering/2019/09.pdf} など。

詳細つりあいは定常状態での流入項$W_{x,x'}\pi(x')$と流出項$W_{x',x}\pi(x)$が等しいことを意味する。
 $\rightarrow$詳細つりあい条件の元では全ての過程の遷移確率は対応する逆過程とつりあうように定められる(可逆性)。

一般変数の詳細つりあい

 状態のエネルギーは時間反転しても変化しない
  $\epsilon_z=\epsilon_{\tilde{z}}$
 を仮定する。エネルギーに出てくるのは$\mathbf{p}^2$とかなのでまぁ納得?この時、遷移行列要素$W_{z,z'}$は以下の詳細つりあいを満たすことが仮定される。
  $\frac{W_{z,z'}}{W_{\tilde{z}',\tilde{z}}}=e^{-\beta(\epsilon_z-\epsilon_{z'})}$   (3.11)

詳細つりあいの物理的背景(付録A.8)

まずエッセンスは

(i):熱浴の分布は、常に平衡状態
(ii):注目系と熱浴を合わせた複合系は、前傾のハミルトニアンで時間発展し、時間反転対称性に関する議論ができる
(iii):注目系と熱浴全体では、エネルギー保存則が成り立っている
(iv):注目系の状態変化の時間スケールは、熱浴の時間スケール(緩和時間)と比べると十分に大きい

ハミルトニアンが$H_{tot}=H+H_B+H_{SB}$で表される時間反転対称な全系を考える。$H、H_B$の固有状態、固有エネルギーを$|z\rangle、|r\rangle と\epsilon_z、E_r$とかく。
 フェルミの黄金律から遷移確率は
  $W_{z,z'}=\frac{2\pi}{\hbar}\Sigma_{r,r'}|\langle z,r|H_SB|z',r'\rangle|^2\delta(\epsilon_z+E_r-(\epsilon_{z'}+E_{r'}))\frac{e^{-\beta E_{r'}}}{Z}$
 となる。なおデルタ関数は(iii)のエネルギー保存則を表しているだけなので、どっちかっていうとディラック$\delta$の方が正しいかも。
  $|\langle z,r|H_{SB}|z',r'\rangle|=|\langle\tilde{z',r'}|[\mathcal{T}H_{SSB}\mathcal{T}^{-1}]^\dagger|\tilde{z,r}\rangle|$
 だから
  $W_{z,z'}=\frac{2\pi}{\hbar}\Sigma_{r,r'}e^{\beta(-E_{r'}+E_r)}|\langle\tilde{z',r'}|H_{SB}|\tilde{z,r}\rangle|^2\delta(\epsilon_z+E_r-(\epsilon_{z'}+E_{r'}))\frac{e^{-\beta E_r}}{Z}$
 $=\frac{2\pi}e^{\beta(-\epsilon_{z}+\epsilon_{z'})}{\hbar}\Sigma_{r,r'}|\langle\tilde{z',r'}|H_{SB}|\tilde{z,r}\rangle|^2\delta(\epsilon_z+E_r-(\epsilon_{z'}+E_{r'}))\frac{e^{-\beta E_r}}{Z}$
 $=e^{-\beta(\epsilon_z-\epsilon_{z'})}W_{\tilde{z}',\tilde{z}}$
 である。よって詳細つりあいが導かれた。

ペロン・フロベニウスの定理

まず、教科書のペロン・フロべニウスの定理の主張がWikipediaなどに見られるものと異なります。\
 \url{https://ja.wikipedia.org/wiki/ペロン=フロベニウスの定理} には、「全ての固有値の絶対値はペロン・フロべニウス固有値より小さい」と書いてある。しかしペロン・フロべニウス固有値は0だとそのような数はないので0以外に固有値がないことになりますが、それはペロン・フロべニウス固有値が単純であることに矛盾する。
 教科書の通りペロン・フロべニウス固有値以外の固有値の実部がペロン・フロべニウス固有値より小さい、という定義だったとしても、結局0がペロン・フロべニウス固有値であることを示せません。

ということで0がペロン・フロべニウス固有値なのかは真偽不明ですが、とりあえず0の重複度が1であることを示したいです。
 $\mathbf{W}$は対角要素以外が非負の数(遷移確率なので)、対角要素が負の数である。($W_{x,x}:=-\Sigma_{x'(\neq x)}W_{x',x}$という定義なので。)また既約性を仮定するので、一列まるまる0になることはない。仮に第$i$列が全て0だったと仮定すると既約性に反してしまう。
 $\mathbf{W}$の行ベクトルを上から順番に$|1\rangle,...,|n\rangle$と定義する。$\mathbf{W}$の定義の仕方から、$\mathbf{W}$の行ベクトルを全て足し合わせると0ベクトルになる
  $|1\rangle+\cdots+|n\rangle=0$   (ぺ.1)
 ということで$\mathbf{W}$の最後の行ベクトルを無視し、$|1\rangle,...,|n-1\rangle$が一次従属であると仮定し矛盾を導く。則ち、$\exists {c_i}\subset\mathbb{R},,i\in{1,2,...,n-1},,\exists i\in{1,2,...,n-1},c_i\neq0$
  $S:=c_1|1\rangle+\cdots+c_{n-1}|n-1\rangle=\mathbf{0}$   (ぺ.2)
 が成り立つと仮定する。今、$S$の第$n$成分は
  $\Sigma_{i=1}^{n-1} c_{i}W_{in}$
 と書かれるから$c_i$の符号が全て同じだと(ぺ.2)が成り立たないため$c_i$は正と負が混ざっていることがわかる。
 $\Lambda={i\in{1,2,...,n-1}|c_i>0},,\Theta={i\in{1,2,...,n-1}|c_i<0}$とする。$\Lambda$および$\Theta$の成分を、対応する$c_i$の絶対値が大きい順に並べて$\lambda_1,,\lambda_2,...,\lambda_l$および$\theta_1,,\theta_2,...,\theta_t$と番号付する。(ぺ.2)の第$\lambda_1$成分を考えると
  $W_{\lambda_1\lambda_1}c_{\lambda_1}+W_{\lambda_2\lambda_1}c_{\lambda_2}+\cdots+W_{\lambda_l\lambda_1}c_{\lambda_l}+W_{\theta_1\lambda_1}c_{\theta_1}+\cdots+W_{\theta_t\lambda_1}c_{\theta_t}=0   (ぺ.3)$
 が成り立つ。(ぺ.3)の正負をわかりやすく書くと
  $-|W_{\lambda_1\lambda_1}|c_{\lambda_1}+W_{\lambda_2\lambda_1}c_{\lambda_2}+\cdots+W_{\lambda_l\lambda_1}c_{\lambda_l}-W_{\theta_1\lambda_1}|c_{\theta_1}|-\cdots-W_{\theta_t\lambda_1}|c_{\theta_t}=0|   (ぺ.4)$
 である。ここで今
  $W_{\lambda_1\lambda_1}=-\Sigma_{x(\neq\lambda_1)}W_{x\lambda_1}$
 より
  $\Sigma_{\lambda\in\Lambda,,\lambda\neq\lambda_1}W_{\lambda\lambda_1}\leq |W_{\lambda_1\lambda_1}|$
 である。$c_{\lambda_1}$が$c_\lambda,\lambda\in\Lambda$の中で最大だから
  $\Sigma_{\lambda\in\Lambda,,\lambda\neq\lambda_1}W_{\lambda\lambda1}c_{\lambda}\leq|W_{\lambda_1\lambda1}|c_{\lambda_1}   (ぺ.5)$
 が成り立つ。(ぺ.4)と見比べると、(ぺ.4)が成り立つためには(ぺ.5)の等号が成立していなければならない。従って
  $\exists\Lambda'\subset\Lambda,,\lambda_1\notin\Lambda',,\forall\lambda\in\Lambda',\lambda\neq\lambda_1,s.t.,c_\lambda=c_{\lambda_1}$
  $\forall\lambda\in\Lambda',,\Sigma_{\lambda\in\Lambda'}W_{\lambda\lambda_1}=-W_{\lambda_1\lambda_1}$
 逆に言えば、$c_\lambda=c_{\lambda_1}$なる$\lambda$以外では$W_{i\lambda_1}=0$が成り立つ。$\lambda_1$を$\Lambda'$の元$\lambda'$で置き換えて同じ議論をすれば、
  $\lambda\notin\Lambda'\cup{\lambda_1}\implies W_{\lambda\lambda'}=0   (ぺ.6)$
 がわかる。
 ここで$\mathbf{W}^2$の$(j,\lambda'') \lambda''\in\Lambda'\cup{\lambda_1},,j\notin\Lambda'\cup{\lambda1}$成分を考えてみる
  $\mathbf{W}^2_{j,\lambda''}=\Sigma_{i=1}^nW_{i\lambda''}W_{ji}=0$
  $\because i\notin\Lambda'\cup{\lambda_1}\implies W_{i\lambda''}=0$
  だから
   $\Sigma_{i=1}^nW_{i\lambda_1}W_{ji}=\Sigma_{i\in\Lambda'\cup{\lambda_1}}W_{i\lambda''}W_{ji}$
   と変形して良い。しかし(ぺ.6)から$i\in\Lambda'\cup{\lambda_1}\implies W_{ji}=0$だから$\mathbf{W}^2_{j,\lambda''}=0$が示せた。
 よってmは0になる。同時に$\mathbf{W}^2$の第$i\notin\Lambda'\cup{\lambda_1}$行ベクトルは$\Lambda'\cup{\lambda_1}$に属する成分は0になる。帰納的に
  $\forall n\in\mathbb{N} (\mathbf{W}^n)_{j,\lambda''}=0$
 が言える気がする。これは規約性に反するので矛盾。

従って$|1\rangle,...,|n-1\rangle$は一次独立だから$\text{rank} A=n-1$。固有値0の重複度は
  $n-\text{rank}(0\times I-A)=1$
 と計算できる。

詳細つり合いとは?

  「系が平衡系である」$\iff$「任意の状態は$\infty$時間経つと平衡状態になる」
 と定義されているとします。3.2の議論から、詳細つりあいが成り立つと定常状態が平衡状態になります。エルゴード性(マルコフ過程において既約性と非周期性で定義されてる?これがいわゆる「エルゴード的」と等しい理由は知りません。ただエルゴード性とは「任意の状態からスタートし、無限時間経過した後の状態分布確率が最初の状態とは無関係になること」と書いてあるので多分一緒だと思います。)が成り立つと任意の状態は$\infty$時間経つと定常状態になり、詳細つりあいがなりたてばそれは平衡状態であり、従って
  「エルゴード性」+「詳細つりあい」$\implies$「系が平衡系」
 なる関係が成り立ちそうです。

「揺らぐ系の熱力学」には、"定常状態が平衡状態のとき、遷移行列要素は詳細つり合いを満たすことが仮定される"とあります。詳細つり合いは定常状態が平衡状態であることの(エルゴード性が仮定されている場合)十分条件だが、必要十分条件だと仮定しているのだと思います。

詳細つり合い(および局所詳細つり合い)はゆらぎの定理とその周辺を証明する際に使います。

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