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本記事は通信業界アドベントカレンダー 2021 の23日目の記事として執筆したものになります。
他にも通信業界に関するおもしろい記事がありますので、Qiitaのアドベントカレンダーページからどうぞ!

はじめに

通信業界では異なるメーカーの機器やネットワークを接続するため、使用する物理インターフェース、通信プロトコル、符号化方式など標準規格の策定作業が必要になります。
通信業界における代表的な標準化団体 (SDO) としては、3GPP, ETSI, IETF があげられ、開発者のみなさんはこれらの団体の会議に参加し、将来のネットワークの実現にむけた議論が行われております。

ネットワークのシステムを開発する場合、これらの標準化団体が策定した標準化文章を調査し、記載された要件やシーケンスなどをよみとき実装することが求められます。
標準化文章の読み方については、@nickel さんが寄稿した 3GPP仕様書リーディングガイド(5GS編)
3GPP最新動向調査ガイド (基礎編) が参考になるでしょう。

ところで、みなさんは、これらの標準化会議に参加するメンバーへのイメージはどんな感じでしょうか?
世界各国の企業からスーツをきた人たちが会議室に一堂にかいして議論するような、硬いイメージを持たれるのではないかと思います。大丈夫です、そんなことはありません。標準化を担当される方は、とてもユーモアに溢れており、チャーミングです。

彼らのユーモアがにじみ出る、3GPPの標準化における2つの面白い寄書を紹介したいと思います。

IMSを鳥類をキャリアとして使ったIPアクセス回線に拡張する提案

本件は、New Access Specific Annex for IPoAC として、2013年4月の3GPP TSG-CT WG1に提案されました。
この寄書は3GPPの24.229に対する、IMSを実現するためのStage-3レベルのプロトコル仕様書への拡張提案のひとつで、IMS (IP Multimedia Subsystem) を、鳥類をキャリアとして用いたIPデータグラムの伝送規格 (IPoAC: IP over Avian Carriers) に拡張する提案になります。IMSとは、モバイルや固定などの通信網でIP電話など各種IP技術を用いてにマルチメディアサービスを行うシステムの総称になります。一般的に携帯電話で電話をされる場合には、IMSが使われることが多く、こんにちのテレコムの電話を実現する基本的なシステムの一つになっております。

寄書の1ページ目に寄書の概要が記載されております。基本的に1ページにて、寄書の提案者、概略、理由、変更箇所、変更のスコープやほかシステムへの影響が簡潔に記載されています。投稿日はエイプリルフールの4月1日ですね :)

寄書の背景

鳥類をキャリアに用いたIPデータグラムの伝送規格

寄書の背景には、1990年4月1日に発行された、鳥類をキャリアに用いたIPデータグラムの伝送規格の文章 IETF RFC 1149: “IP over Avian Carriers” があります。お気づきになっていると思いますがエイプリルフールに合わせて発行されたジョークの規格になります 😀 RFC1149に記載されている文章自体もユーモアに富んでおり、通信用語や通信技術の知識を習得した上で読むととてもおもしろいです。

鳥類をキャリアに用いたIPデータグラムの特徴としては、以下になります。

  • 鳥類キャリアは高い遅延 (high delay)、低いスループット (low throughput)、低高度サービス (low altitude)

一般的に通信技術としての指標としては真逆、つまり使えないと書いている。ただ紛争地などの設備を設置できない田舎では伝書鳩で運んだほうが早いかもしれないですし、銅線が盗まれてしまう場所もあるので実は適用場所はあるかも。

  • 早春を除いてキャリアは互いに干渉することなく伝送

IEEE802.3のEthernet技術をもじっています。さらに下ネタも含んでいます。

  • IPデータグラムは小さく巻かれた紙に白や黒いので区切られたオクテットで区切られ16進数で印刷。読み取りは光学スキャンでデータ化
  • 帯域幅は鳥類の足の長さに制限

IPなのでMTUは重要なのですが、足の長さが重要みたいですね。

  • ビルトインのワーム発見および除去機能

鳥類が虫を見つけて食べることととマルウエアのワームをかけています。

  • キャリアの損失は許容

鳥類がどこかにいっても許容するしかないです。狩猟で撃たれたり、鷹などに捕食されます。

蛇足になりますが、RFC 1149に触発され、後続のRFCではQoSやIPv6対応が進められたりしました。詳しくは 鳥類キャリアによるIPのWiki からたどってみてください。
2001年には、IPoACを実装してCPIP (Carrier pigeon internet protocol)としてpingの実験が行われたようです。実験結果はこちらでpingの時間が1.7時間で、伝書鳩戻ってこなかったのかもしれませんが50%以上もパケットがロストしたようです。伝送路として活用するにはきびしいですね。

vegard@gyversalen:~$ ping -i 900 10.0.3.1
PING 10.0.3.1 (10.0.3.1): 56 data bytes
64 bytes from 10.0.3.1: icmp_seq=0 ttl=255 time=6165731.1 ms
64 bytes from 10.0.3.1: icmp_seq=4 ttl=255 time=3211900.8 ms
64 bytes from 10.0.3.1: icmp_seq=2 ttl=255 time=5124922.8 ms
64 bytes from 10.0.3.1: icmp_seq=1 ttl=255 time=6388671.9 ms

--- 10.0.3.1 ping statistics ---
9 packets transmitted, 4 packets received, 55% packet loss
round-trip min/avg/max = 3211900.8/5222806.6/6388671.9 ms

寄書のモチベーション

話はもとにもどりますが、3GPPへの寄書の作成者のモチベーションとしては、以下の2つがあげられています。

  1. IMS自体が様々なアクセスNWをサポートするために設計されており、どんなIPコネクティビティを持つNWでも動くべき
  2. 他の標準化団体であるGSMAで策定されたドキュメントでも要件があがっているため、その要件を満たすために拡張が必要

IMS is designed to be “access agnostic”, which means IMS must work on any type of IP-CAN. For example, GSMA PRD IR.90 "RCS Interworking Guidelines"(version 2.1) has already included > IPoAC as one of the IP-CANs used for RCS.
Without the support of IMS over Avian Carriers in 24.229, GSMA requirements cannot be fulfilled. Given these reasons, 24.229 must be upgraded to include IPoAC as a new IP-CAN.

さらに、近年では衛星通信も活用できるためIP到達性がない場所を探すのは難しいですが、提案者はこの寄書提案が通らない場合、鳥類によるキャリア以外でIP接続性を確保できない田舎に対してIMSが提供できないと主張されております。

IMS services cannot be provided in rural areas where there’s no other IP-CANs but avian carriers.

変更点

寄書提案をするときには、具体的に変更する場所に差分を2ページ以降で記載することになっております。
それでは変更点を詳しく見てみましょう。

2. 参照文献

最初のネタとして1990年4月に発行された、IETF RFC 1149: “IP over Avian Carriers” 鳥類をキャリアとして用いたIPデータグラムの伝送規格 をはじめ、1999年4月にQoSに拡張した IETF RFC 2549: “IP over Avian Carriers with Quality of Service” が追加されました。

電話機能ですのでIMSにおいてもQoS制御は重要ですね

3.2 用語集

Avian Carrierに関連する2つの用語が新しく追加されました。

IPoAC IP over Avian Carriers
IMSoAC IMS over Avian Carriers

3A 相互接続関連

相互接続のための記載としてIPoACに関するAnnex Tの追加が明記されております。

別紙T

IPoACにおける具体的なプロトコルをが記載されております。どのようにしてIMSoACを実現するのかを見ていきましょう。

IPoACの側面

  • IPoACとしてパケットモードとしてIMSに接続
  • IMSなのでQoSの制御は重要であり、RFC2549で規定されたQoSも活用可能
  • IPoACとのインターワーキングを実現するため、P-CSCFの前に人を置くことを想定

ユーザ側のプロシージャー

鳥類をキャリアとして使うため、鳥類が飛べるような状況にしないといけませんし、さらによく餌付けして生かしておかないといけません。電話をいつでもかけられるように、鳥類をいつでも情報飛ばせるように飼育しないといけないですね。

a) fetch an avian carrier;
b) ensure that the avian carrier fetched is alive and is well-fed;

IMSとして制御信号やメディアデータのやり取りもありますが、鳥類の2本ある足をうまく使って表現します。

The encoding of the IM CN Subsystem Signalling Flag is defined as a piece of white cloth tied to the avian carrier’s right leg.

T.2.2.5.1 General requirements
The user can establish media streams that belong to different SIP sessions on the same avian carrier.
During establishment of a session, the user establishes data streams(s) for media related to the session. Such data stream(s) may result in activation of additional avian carrier(s).
Such additional avian carrier(s) shall be established as secondary avian carriers associated to the avian carriers used for signalling. Such secondary avian carriers for media can be > established either by the user or the network. The secondary avian carriers are identified by the red cloth tied to the left leg of an avian carrier.

RFC 1149にも記載されている通り、IPデータグラムであるためデータ再送は必要になりますのでその規定があります。最後にIPoACの手段がどうにもならなくなったら郵送を使えという指示があります。そもそも冒頭のIP-CANがない場所に郵便局員が配達してくれるものなのでしょうか?

T.2.2.1B Re-establishment of the IP-CAN bearer for SIP signalling
If:

  1. the dedicated avian carrier for SIP signalling is no longer available due to e.g. being eaten by hawks, being shot at by a red neck, made into a tasty meal in that restaurant across the road from that meeting hotel in Shenzhen;
  2. bearer establishment is controlled by the UE; and
  3. there are other avian carriers available in the cage,
    Then the user shall attempt to re-establish the dedicated avian carriers for SIP signalling. If this procedure does not suck seed, the user shall give up and use the postal service instead.

IMSであるため、緊急サービスの対応も必須です。識別できるようにどちらかの足に黄色の布を巻きます。人間が扱いますのでパケットに対して選別できるフラグは重要ですね。

When emergency call is made, the avian carrier carries a piece of yellow cloth tied to either leg, which indicates SOS. Consideration for the mapping between Emergency SIP URIs and > emergency types stored in the UE/USIM, or any considerations for locally defined emergency numbers are not necessary.

議論の結果

寄書からはものすごい熱意は感じられますが、残念ながら議論の結果は postpone となっております。

議論のときにはプレゼンが必要になりますが、寄書の著者は発表に合わせて、日本からアメリカの会議場まで鳥をつかって実験を試みたそうです。プレゼンでは、「日本から飛ばした鳥が、となりのスーパーで丸焼きになってるのを発見した」と焼きあがったチキンを使ってプレゼンしたそうです。アメリカに届かず、すぐ近くのスーパで焼き鳥にされてしまったのは残念ですが、さぞかし美味しそうにみえたんですね。

そして伝説へ

最後に、3GPPにおける伝説の寄書もとい発表 SP-060900: The SAE towards the Center of IP Societyを紹介します。

私も本件に関しては伝聞であるため、データのIPoACのように途中区間における意図しないビット変換やビット落ちなどが発生している可能性があります。間違いがあればご指摘ください。

2000年代は第4世代のモバイル通信技術の標準化検討の真っ只中でもあり、モバイルのコアNW機能のIP化 に対して大手基地局ベンダーと激しい議論があったようです。2006年の12月の3GPPの標準化会議にて、ユーモアと信念が強い担当者がすごい発表をおこなったときいております。会場を乗っ取り急にプロジェクタを奪って発表をしたとか :upside_down:

legendary-presentation-1.png

legendary-presentation-2.png

発表のスライドには、いくつかの愛くるしいキャラクターが出現しますが、いろいろなことを暗示していまして、ユーモアの度を超えているのではないかとおもいます。詳しくはzipアーカイブを開いて発表スライドを見てみてください。

おわりに

3GPPにおける興味深い寄書を紹介しました。いかがでしたでしょうか?
このようにユーモアあふれ、魅力にみちた標準化担当者と日々議論をすすめております。標準化に興味を持った方は、日本国内の情報通信ネットワークに関する標準化を行う団体である TTC に、無料で読める標準化作業の教科書がありますので読んでみるとよいでしょう。

勉強のあとは実践あるのみです。来年以降のどこかの標準化会議でお会いできることをたのしみにしております。

Merry Christmas!
last-greeting.png

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