21
2

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?

More than 1 year has passed since last update.

ベッドで寝るだけで自分の運動能力がわかる...!(Ubicomp2021参加体験談)

Last updated at Posted at 2021-12-14

「IoTデバイスで簡単に取れるバイタルデータを有効活用したいっ...!」
IoTに触れる機会のある方はこんなこと、一度は思ったことがあるのではないでしょうか?
私も例にもれず、こうしたことに興味を持つ人間の1人です。
先日、私は入院患者の運動能力を、IoTデバイス(睡眠センサ)から推定する技術についてUbicomp 2021のPosters Sessionにて発表する機会がありましたので、この記事では睡眠データの取り扱いと、Ubicompという学会の雰囲気についてお伝えできたらと思っています。

はじめに

NTTドコモの熊川です。
こちらはNTTドコモR&D Advent Calendar 2021の15日目の記事です。
普段の業務では医療福祉・メンタルヘルスに関わるソリューションの研究開発に携わっています。
その中でも今回は、睡眠データを使った患者の運動能力推定に関する投稿論文についてご紹介します。

Ubicompとは

Ubicompはユビキタス領域のトップカンファレンスです。
ユビキタス領域という広い意味の通り、対象の分野はインタラクティブ、モバイル、ウェアラブル、ユビキタス、ヘルスケアなど多岐に渡っています。
今年の開催期間は2021年9月21日〜26日(EDT)で開催され、昨年に続きオンラインでの開催でした。

Estimating Patient Independence with Sleep Sensors

早速、今回私が投稿した論文をざっくり紹介していきます。
興味を持ってくださった方は下記からぜひ読んでみてくださいね。
Estimating Patient Independence with Sleep Sensors

目的

本研究では、リハビリ病院において理学療法士が患者の運動能力を評価(FIM)する業務を機械学習によって肩代わりし、病院スタッフの稼働削減と適切な処置による患者の早期退院を促すことを目的としています。
今後高齢化により、一人あたりの病院スタッフが看る患者数が増えざるを得ないという状況で、いかに効率的に技術で病院スタッフをサポートするかが重要ですよね。

先行研究にてスマートウォッチで取得したバイタルデータから患者の運動能力を推定する研究はありますが、患者にとってデバイスを常に身につける必要があることは負担がかかります。
そこで今回は、非接触で患者のバイタルデータを取得できる「睡眠センサ」を用いて、患者の運動能力の推定に取り組んでいきます。

FIM(Functional Independence Measure)とは

本研究を紹介する上で外せない医療用語として、「FIM」があるのでまずそちらの紹介です。

FIMは、患者の運動能力(トイレ行為や歩行など)と認知能力(記憶など)の計18項目を各7段階で評価する指標で、現在世界中で使われています。日本ではリハビリ病院において、入院時と退院時にこのFIMを取得することが義務付けられています。
FIM.png
FIMは患者の状態を評価することに適しているため、この値から患者の状態に応じたリハビリを提供することが求められているようです。しかし、評価には患者や患者に関わった他のスタッフへの聞き取りが必要なため稼働が大きく、実態としては国の決まりに則って入院時退院時のみ評価を行うことが多いと病院現場の方々から伺いました。

つまり、このFIM評価を自動化してあげることが、病院スタッフの稼働削減と適切な処置による患者の早期退院を促すことに繋がるのだろうと考えています。

手法

本研究では、LightGBMを用いて患者の睡眠データと基本情報(年齢やBMI)から運動能力(FIM値)を推定しました。
推定に用いた睡眠データは、ベッドの下に敷くだけでバイタルデータ(一分ごとの呼吸数や心拍数、活動量や睡眠状態判定)を取得できる眠りSCAN(NN-1520、パラマウントベッド社)により収集しています。

この取組みの中で最も肝なのは特徴量の生成にあります。
今回は理学療法士のご協力の下、現場で患者を見ているからこその知識や経験を特徴量へ落とし込んでいきました。

生成した特徴量としては例えば、横になっている時間や睡眠の時間、その他睡眠中と非睡眠中の呼吸数や心拍数の最大値の差などが挙げられます。
睡眠中と非睡眠中の呼吸数や心拍数の差のような独特な指標はは本来差があるべきですが、なんらか睡眠に問題を抱えている場合は差が表れない場合があります。良質な睡眠を取ることができなかった場合翌日の運動能力は落ちてしまうという仮説から、こうした睡眠の質に関する特徴量もディスカッションを重ねた上で追加していました。

生成した特徴量の一覧は下図の「Input」に記載の通りです。
図中の「h_」というプレフィックスは心拍数、「r_」は呼吸数、「sleep」というサフィックスは睡眠中、「nsleep」は非睡眠中を表しています。
method.png
また、本研究では7段階のFIMを3段階への分類(1〜2:全介助、3〜5:中程度介助、6〜7:自立)で推定を行いました。

実験

本研究では1週間、19名の患者(男性5名、女性14名、66〜96歳)にご協力頂きました。
もちろん倫理審査の承認済です。
通常は、入院時と退院時にしか評価しないFIMですが、今回は理学療法士の協力の下1週間毎日患者のFIMを評価して頂き正解値を収集しました。

モデルの評価では、下記の2つを比較して検証しています。

  • Baseline:入院時に評価したFIM値を入院2日目以降も使いまわした場合のAccuracy
  • Proposed method:2日目以降機械学習によって推定したFIM値のAccuracy

その結果が下記です。
figure.png
結果、Stairs(階段)を除くすべての項目で、Proposal methodはBaselineを超える結果が得られました。
また、全ての項目において80%以上のAccuracyを達成しました。

一方でStairsの結果はProposal methodよりBaselineの方が高いAccuracyを示しましたが、これは今回の実験協力患者はひとりで階段を上り下りできる入院患者ではないため、データに偏りが生じたことが原因だと考えられます。
こちらについてはアップサンプリングの実施や学習データの収集により解決できるだろうと考えています。

今後は、長期間の推定における評価や、FIMの認知項目の推定に挑戦していく予定です。
また、実際にこの技術を実用化するための取組みを進めて参ります。

Ubicompの雰囲気

昨年に続き、UbicompはGather.townとZoom、Whovaを組み合わせたオンラインでの実施でした。
今回私は初めてGather.townを使いましたが、ポ◯モンみたいで楽しかったです。
他のトレーナー(研究者)が近づいてくると、バトル(研究紹介)が始まる形式は某ゲームを彷彿とさせますよね...!
ubicomp_r1.gif
ただやはりオンラインでは会場の活気が感じられない点が非常に寂しいところでした。

さいごに

今回は私自身、オンラインで実施された学会に初めての参加でしたが、やはりオフラインでの参加欲がムクムクと湧いてきますね。
2022年からはオフラインで実施すると現在発表している学会も多数ありますので、はやくコロナが収束することを祈りながら粛々と研究を進めていきましょう...!

21
2
0

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
21
2

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?