今回は、メモリ階層化(Memory Tiering)機能に関して紹介します。
vSphere 8.0U3からTech Previewとして実装された機能です。
2023年にリリースされたvSphere 8.0 U3には、今後のvSphere環境でのメモリ管理のあり方を大きく変える可能性を秘めた「メモリ階層化」機能がTech Previewとして実装されました。この機能は、従来のメモリの使用方法とは異なり、DRAMメモリの代替として、専用に用意したNVMeデバイスを活用してメモリリソースを補完する技術です。まだ本番環境での利用は推奨されていない段階ですが、次期VCF 9リリースにおいて正式にサポートされる予定であり、注目を集めています。
さらに詳しい情報については、以下のサイトからダウンロードできるMemory Tiering over NVMe Tech Preview - vSphere 8.0.3 Technical Guideで公開されています。
この記事では、メモリ階層化の仕組みと、ユーザーにどのようなメリットをもたらすかについて解説していきます。
1. メモリ階層化とは?
メモリ階層化は、vSphereホストのメモリ管理において、専用のNVMeデバイスを「セカンドティアメモリ」として利用する新しいアプローチです。従来、vSphereでは主にDRAMメモリが使用されてきましたが、NVMeを補助的に用いることで、メモリコストの削減やパフォーマンスの向上が期待できます。
この機能の実装により、ホストメモリが逼迫する際に、DRAMからNVMeに20~25%のメモリアクセスがオフロードされるようになりました。
2.メモリ階層化によるコスト効率の向上
メモリ階層化により、物理サーバーにおけるDRAMメモリの消費を20〜25%削減することが期待されています。物理サーバーでは、メモリは最もコストがかかる構成要素の一つです。例えば、256GBメモリを搭載したホストを10台用意すると、コストは数千万円に上りますが、この機能を活用することで最大25%のメモリコストを削減し、予算の有効活用が可能になります。
特に、NVMeデバイスの価格がDRAMに比べて格段に低いことから、物理サーバー全体のコスト効率が大幅に改善されます。
NVMeデバイスは、コンパチビリティガイドに記載されている条件(SSDタイプ、パフォーマンスクラスF、耐久性クラスD)を満たすものが推奨されており、これにより適切なデバイス選定が容易になります。
Memory Tiering over NVMe Tech Preview - vSphere 8.0.3 Technical Guideで公開されています。
また、この機能を導入することで、仮想マシンを運用する際にかかるメモリ関連のコストが削減され、より効率的な投資が可能になります。vSphere単体での利用はもちろん、VCF全体でのコスト削減効果も期待できる点は見逃せません。
参考:HPE DL360 Gen11を例
メモリ価格
ProLiant DL360 Gen11 システム構成図:
https://h50146.www5.hpe.com/products/servers/proliant/system_pdf/dl360gen11.pdf
NVMeデバイス価格
HPE SSD仕様比較表:
https://h50146.www5.hpe.com/products/servers/proliant/system_pdf/ssd_spec.xlsx
3.パフォーマンス向上と仮想マシンへの影響
メモリ階層化により、メモリバルーニング問題も改善されます。従来、メモリが逼迫するとvSphereは「メモリバルーニング」機能を用いて仮想マシンに割り当てるメモリを縮小させることで対応していましたが、この状態では仮想マシンのパフォーマンスが低下し、稼働に影響を与えてしまう可能性が高いです。
しかし、メモリ階層化を利用することで、DRAMの一部がNVMeデバイスにオフロードされるため、バルーニングが発生しにくくなり、仮想マシンの安定稼働を維持できます。また、仮想マシン自体はDRAMとNVMeの違いを意識することなく動作します。
4.今後の展望
vSphere 8.0 U3でのメモリ階層化は、まだTech Previewの段階ですが、次期VCF 9のリリースに合わせて正式サポートが予定されています。今後、より多くの改善や最適化が加えられることで、vSphereを利用した仮想インフラのパフォーマンスがさらに向上し、メモリ管理の課題を解決する手段としての可能性が広がるでしょう。
メモリ階層化が正式にリリースされることで、ユーザーはメモリコストの削減やパフォーマンス向上の恩恵を受け、柔軟なメモリサイジングが可能になります。私個人としても、この機能が正式にリリースされることを非常に楽しみにしています。
まとめ
メモリ階層化は、コスト効率、パフォーマンスにおいて従来のDRAMのみを利用するアプローチを大きく超える可能性を秘めています。Tech Previewであるため、まだ本番環境での導入は難しいですが、VCF9リリースに向けてさらなる改善が期待されます。vSphereユーザーにとって魅力的な選択肢となると思います。