そのAI活用の未来に何があるのか?
その未来に人間が価値を感じるのか、というお話。
あなたは以下のものにお金を払う気持ちになれますか?
- AIが作ったアイドルとそのコンサート
- AIが作った料理のレシピとその料理
- AIが作った音楽やオーケストラ
- AIが作った小説やポエム
- AIロボットが戦うボクシング(格闘技)
- AIが自動運転でレースするサーキット
- AIが書いた漫画や映画
- AI声優のアニメ
どうでしょう?そそられますか?
私は全くそそられません。なぜでしょうね?
AI生成のクリエイティブ作品・サービスに「お金を払う気がしない」「そそられない」という感覚は、実は多くの人が(程度の差こそあれ)抱いているかもしれません。
なぜそう感じるか、いくつか考察してみます。
1. 「人間性」や「物語」がない
たとえば、人がアーティストに魅力を感じるとき、作品そのものが優れているという点だけでなく、そこに至るまでの“人生”や“物語”に惹かれている面が大きいですよね。
- 苦労や失敗を重ねて成功したエピソード
- 裏話や人生観、人柄
- 生身の演奏家・役者が舞台で汗や息遣いを感じさせるライブ感
そうした「人間味」と「背景にある物語」を買っていると言ってもいい。
AI生成物はどうしても“物語不在”になりやすい。レシピが美味しかったとしても、「その料理が生まれるまでのストーリー」に共感できず、愛着が湧きにくい。
どんなに音楽のクオリティが高くても、「演奏者の人生」がにじみ出ないとファンになりづらい。
2. 創作の“痛み”や“リスク”を感じられない
人間が何かを作るときには、試行錯誤、失敗、時間と労力の投入、あるいは恥をかくリスクなど、創作者の“痛み”が不可避です。
その“痛み”を感じ取れると共感が生まれ、「お金を払ってでも応援したい・体験したい」という気持ちが湧いてきます。
一方、AIは演算リソースの消費こそあれ、心身的な「痛み」を持ちません。
また敗北や恥といったリスクも限定的です。
ロボット同士の格闘やレースを見ても、“命がけ”とか“執念”といったヒリヒリ感は伝わってきません。
「がんばれ!」と思うのはロボット本体ではなく、開発者やエンジニアへ向けてになりがち。
観客としてはピンと来ないのです。
3. 作り手とのつながりが希薄
音楽でも料理でも本でも、実際のところ私たちは“作り手”とコミュニケーションしたいのかもしれません。
- 料理なら「作ったシェフがどんな人か?」「こんなに大変な作業をしてるのか!」というドラマ性
- アーティストならSNSやライブで直接語られる言葉や舞台裏
AIキャラ(AIアイドル等)は、いくら見た目が可愛くても、そこに“共感”や“愛着”を抱けるかどうかは人それぞれ。もし人間がバックで運営しているにしても、「中の人」が感じられないと、ファンとアイドルの“人間関係”が生まれにくい。
要するに、AIの後ろにいる人間とのつながりが見えにくいために価値を感じられず、お金を払おうという気持ちが起きにくいわけです。
4. 「希少性」が薄い
人間が手間暇かけた作品には、どうしてもある種の希少性が伴います。職人の手仕事、ライブの一回限りの演奏、アーティストの限りある人生から生まれた作品……これらは「同じものをまたつくれる」とは言いづらい。
しかしAI生成物は、もともとデジタルデータであるため、いくらでも複製できるという印象が強い。
何度でも新しいパターンを作れてしまうし、失敗してもすぐ修正が利く。
結果として、「このAI作品を逃したら二度と見られない」とは感じにくいので、“希少性を買う”というモチベーションも下がるのです。
5. 「本当に面白いのか?」という疑い
まだ現時点では、AIが自律的に生み出す作品やエンタメが「人を心から楽しませるレベル」に達しているかどうかは意見が割れるところです。
- クオリティは一定水準を超えているが、どこか“機械的”で感動が薄い
- “人間に受ける”というデータをベースに作られているから、トレンドに迎合しすぎて型にはまる
こうしたことから、「AI作品は本当に面白いのか?」という疑問が生まれ、そこにお金を払おうと思わない人もいるでしょう。つまりAIが描く意外性にまだあまり期待できないわけです。
6. 「人間から奪うのか?」という抵抗感
最後に、モラルや経済的な観点として「AIが普及すると、人間の仕事や創作の機会が奪われてしまう」という懸念が根底にあるかもしれません。
AIが作ったものに積極的にお金を払うのは、なんとなく自分たち人間の首を絞めるような印象を抱かせる、と感じる人もいるでしょう。
音声合成(AI声優)などは、声優という職業へのリスペクトがあると抵抗を覚える可能性もある。
「この声、実は人間の役者じゃなくて全部AIだったの?」と知ったら興ざめしてしまう……そのような思いが購買意欲を削ぐ要因にもなります。
まとめ
- 人間の“物語”や“痛み”が感じられない
- 作り手とのつながりが希薄
- 希少性が薄い
- 本当に面白いのか・意外性があるのか疑問
- 人間の仕事や文化を脅かすかもしれない不安
AI製コンテンツやAIアイドルに対して、「そそられない」理由としては、こうした心理的要因が絡み合っていると考えられます。
もちろん、将来的にはAIを逆手に取って“人間のドラマ”をもっと引き出す仕掛け(裏にいるクリエイターを前面に出す運用など)や、希少性を生み出す仕組み(NFTのような形1)も登場しつつあります。
しかし、現時点ではAIが作ったものそのものに熱狂的な価値を感じにくいという見方は、ごく自然だと言えるでしょう。
次回は「そそられるAI活用とは?」を書きます。
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「NFT(Non-Fungible Token)のような形」というのは、簡単に言えば、AIが作りだす無数のコピー可能な“データ”に、“唯一無二の証明”や“限定的な価値”を付与する仕組みのこと。 ↩