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CivicTech & GovTechAdvent Calendar 2022

Day 14

東京都オープンデータハッカソン優秀作品「入りやすい保育園マップ」をランダム化比較実験でEBPMした話

Last updated at Posted at 2022-12-13

入りやすい保育園マップと情報介入

2021年からはじまった東京都のオープンデータハッカソンは、東京都が保有するオープンデータを活用したさまざまなプロジェクトが有志の方によって次々と開発され、2回目の今年もいいプロダクトがたくさん生まれてきています。

残念ながら、自分は出る機会がなかったのですが、昨年からいちヲッチャーとして楽しんでいます。

特に印象深かったのが、昨年優秀作品をとった「入りやすい保育園マップ」でした。

東京といえば、特に待機児童が深刻な地域ですが、このサービスでは台東区や港区の保育所の入りやすさをGoogleマップ上に可視化し、保育所選びが非常に楽になる素晴らしいものになっています。まだサービス稼働が続いているので特に台東区や港区の方はぜひ触ってみてください。

読売新聞でも取り上げられています。

このサービス、実は学術的にも非常に意味があります。みなさん、情報介入やナッジという単語を聞いたことがあるかもしれません。人間の意思決定と外部からの情報との関係は近年非常に注目されていて、防災や環境、医療政策などに生かされています。

この「入りやすい保育園マップ」をみた保護者はみなかった保護者とくらべてより多くの情報を得るため、希望する保育所も変化すると考えれます。待機児童問題では、特に希望保育所数が少ない児童ほど待機になる割合が多くなることが知られており、横浜市の待機児童対策タスクフォースでも取り上げられています。もし、こうしたサービスによって希望する保育所を多く見つけることができ、希望する園が増えれば待機児童になる児童も減るばかりか、より行きたかった保育所に入れる児童が増えるかもしれません。

保育所申請のデジタル化が進んでいく中で、単に紙をウェブに置き換えるだけでなく、こうした情報発信の面での改善を進めるべきです。

EBPM

しかし、どのような情報発信をすればよいのか。これは、勘で決めるべきではなく厳密なデータ分析を行う必要があります。テック企業では新規機能の効果はA/Bテストで確かめることが王道ですが、実験が難しい場合を除いて行政サービスも当然同じようにするべきです。行政におけるデータにもとづいた政策の実施はEvidence-Based Policy Making、略してEBPMといいます。

EBPMは、数年前からバズワードとなっていて、ご関心の方は拙著をご覧いただけると幸いです。

この記事は、「入りやすい保育園マップ」がどのような効果をもたらすか、EBPMをやてみたというお話しです。

RCT、またの名を「黄金律」

A/Bテストと読んでいる評価手法は、学術的にはRandomized Control Trial、略してRCTと呼ばれます。このRCTは医薬品の効果から、広告効果、アルゴリズムの性能までさまざまな「効果」を知りたいときに選択すべき黄金律とされています。

「入りやすい保育園マップ」の効果は、まさにRCTで計測すべきです。

我々がやったことは、以下の通りです。

まず、子育て世代の実験参加者の方をランダムに「入りやすい保育所マップ」「ただの保育所マップ」「保育所マップなし」という3グループに分ます。そして、自身のお子さんのために仮想的に保育所を選んでもらいます。

このとき、保育所マップなしであってもGoogleマップなどを使ってもいいですし、ただの保育所マップの人でも過去の人気園をホームページから調べることを排除はしていません。

ややみづらいですが、それぞれの画面をこちらに載せます。

マップなし

マップなし画面.png

ただの保育所マップ

マップあり画面.png

入りやすいマップ

入りやすさマップ.png

実験は、すべてオンラインベースで行いました。

結果

さて、結果はどうだったでしょう。

保育所マップを使うと保育所をたくさん選ぶようになった

実験参加者の希望保育所数は、マップを使うことで平均3.8ヶ所から平均5.2ヶ所程度まで訳40%増加しました。マップを使うことで家の周りの魅力的な保育所を探すことができ、より多くの保育所を記入した可能性があります。
入りやすさの有無は特に影響はありませんでした。

num_daycares.png

保育所マップを使うと近い距離の保育所を選ぶようになった

選択した保育所と家からの距離を見ると、家から近い保育所を選択するようになりました。これは、地図上で正確に家からの距離をみることで、近い保育所を見つけることができたことが理由かと思います。逆にいえば、マップがないと遠い保育所を選んでいる可能性があります。
入りやすさの有無は特に影響はありませんでした。

min_dist.png

入りやすい保育所を使うと戦略的な操作をする可能性がある

入りやすい保育所マップをどのように活用したかアンケートしたところ、以下のようになりました。保育所に落ちそうなので多く保育所を希望した人、入りやすい保育所を上位記入した人、さまざまいます。
実は、これはメカニズムデザイン的には、利用者の「戦略的操作」といってあまり好ましくない行動です。つまり、本当は行きたい保育所を行きたい順に書いて欲しいのにそうはなっていない。
こういう事態を避けるためには、入りやすい保育所を導入する際は「行きたい保育所を行きたい順に書いてくださいね」というメッセージも合わせて出す必要があります。

action_on_difficulty.png

待機児童への影響は?

本実験の詳細についてはレポートにまとめています。マップ導入による待機児童に関するシミュレーション結果も載せていますので、ぜひご覧ください。

まとめ

この記事では、東京都オープンデータハッカソンで優秀作品となった「入りやすい保育園マップ」を参考に、EBPMのためのRCTを実施して分析した結果を解説しました。最後までご覧いただきありがとうございました。

最後に

この実験には、渋谷区の担当職員の皆様、実験に参加いただいた渋谷区、サイバーエージェントの皆様に多大なご協力をいただきました。ここに改めて感謝いたします。

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