NRI OpenStandia Advent Calendar 2020の1日目は、IGAを実現するオープンソースmidPointの技術書「Practical Identity Management with MidPoint」とその翻訳活動の紹介をします。
midPointとは?
これまでQiitaやOpenStandiaのホームページでも何度かご紹介していますが、改めてmidPointとは何なのか簡単にご説明します。midPointはIDM(ID管理)、IGA(IDガバナンス&アドミニストレーション)を実現するオープンソースソフトウェアです。スロバキアのEvolveum社が開発を主導しており、NRIもパートナーシップ契約を締結しサポートを提供しています。完全なオープンソースであること、IGA(IDガバナンス&アドミニストレーション)を実現できることが特徴のソフトウェアです。
midPoint The Bookとは?
The BookとはEvolveum社のCTO Radovan氏とEvolveum社のエンジニアにより執筆されたmidPointの技術解説書籍の通称です。正式名称は「Practical Identity Management with MidPoint」ですが、Radovan氏やEvolveumのエンジニア達はこの本を「The Book」「The Book」と呼ぶので我々も「The Book」と呼んでいます。このページに概要が書かれていますが、
https://evolveum.com/midpoint/midpoint-guide-about-practical-identity-management/
https://docs.evolveum.com/book/
The BookはmidPointの単なる技術解説本ではなく、その前段のID管理の課題やその本質を解説する書籍となっており、IDM、IGAについて学ぼうとする方々にお勧めの書籍です。ちょうどこの11月に最新版である2.1が出ました。
The Book翻訳版のご紹介
OpenStandiaチームではThe Bookのバージョン1の翻訳版を下記にて公開しています。
https://openstandia.jp/oss_info/midpoint/document.html
The Book日本語翻訳版の目次構成は下記の通りとなります。
1章、2章はIDM・IGAに関する一般的な課題・解決策を解説する章となっております。この章だけでかなりのボリュームがありますが、読み物として読み進めやすい内容かと思います。
3章はmidPointの概要を解説する章です。midPointの概要をさっと理解したい方はこの章を確認するとよいでしょう。
4章~7章は実際にmidPointをインストール・コンフィグレーションしていくときに必要になってくる部分です。設定例だけでなく、実際にmidPointを使い込んでいく際には必要となる考え方や、midPointの開発、保守、サポートの考え方なども記載されています。
8章がなかなか面白い章です。今後書き足されるであろう内容が書かれています。現在の状態でも十分な情報量ですが、著者のRadovan氏によるとこの本はまだまだ成長し続けるようであり、彼の情熱やこの分野における思いがこの章に記載されています(ところどころ入ってくる詩的な表現を楽しむのもこの本を読み進める醍醐味だったりします)。
9章や10章は追加情報や締めくくりの章となります。
最新版はmidPointの実装例の章など大幅に内容が増強されています。いきなり全文を読んでいくのは日本人にとっては厳しい量かと思いますのでぜひ翻訳版を活用頂ければと思います(最新版の翻訳も進める予定ですが、今しばらくお待ちくださいm(_ _)m。)
特に読んでほしい章
「第2章 アイデンティティ管理とアクセス管理を理解する」が約50ページほど使って全体の中でも大きな割合を占めています。この章はmidPointに依存しないことが書かれているのでIDM、IGAを学ぼうとしている方について非常に有用です。この中でもIDガバナンスの章はIGAの理解を深めるためにぜひ読んで頂きたいと思います。
The Book翻訳版での箇所
第2章 アイデンティティ管理とアクセス管理を理解する
アイデンティティのガバナンスとコンプライアンス(P.42)
The Book最新版ではこの部分の記述が大きく強化されておりました。近年のIGAの注目度の高まりを受けて、Evolveum社もこの部分について改めて内容を増強したのだと思います。IDM、特に、IGAについての理解を深めたい方は以下のリンクからチェックしてみてください。
The Book最新版での箇所
https://docs.evolveum.com/book/practical-identity-management-with-midpoint.html#_identity_governance_and_compliance
おまけ(英文翻訳について)
今回の翻訳は基本的に原文訳に忠実に逐次翻訳する方針で進めました。逐次翻訳にすると当たり前ですが、かなり原文の英語の構造を意識した翻訳となってしまい日本語としてかなり不自然な箇所が残ります。私は英文翻訳についてかつて興味あった時期があり、それなりに本を調べ買い漁った時期があったのですが1冊本を紹介させて頂きます。
この本を買ってから知ったのですが、著者の安西徹雄先生はこの分野の第1人者の方のようで、この著書は翻訳家を目指す方にとって必読書のようです。この本の序章に「英語の語順」「日本語の語順」を如何に克服して翻訳を進めるのがよいのか、その指針が簡潔に述べられています。翻訳そのものに興味のある方はぜひこの本も手に取ってみて頂ければと思います。