am/pmて知ってはる?
2017年にブレークした覆面バンドの名前ではないです.今はなきコンビニの名前.ちゃいます.古いな.アクティブラーニングとかOJT(On-the-Job Training)の理論的原典となった,状況に埋め込まれた学習や正統的周辺参加1をわかりやすく言い直したんですよ.Sfardさんって人が,こいつはacquisition metaphor vs participation metaphorだって2.そう言われてめちゃくちゃ腑に落ちたんですわ.大学受験はamで,大学の学びはpmやって.
このコロナ騒ぎで大学の授業はリモートが当たり前になっていますが,これってパンドラの箱を開けたみたいな感じ.息子も大学生でリモート講義で,ビデオはレポート書きながら2倍速で聞いて止めて巻き戻して,ライブは裏でチャットで情報交換してはります.そうなると,大学のシステムとか意義ってなに?ネットでもできるんじゃねって.私は信じてますよ.垣根のない学び舎ってのを.
私にお師匠さんがいてね.その人は数学から材料の教授になった人で,その人から物理てのは100年前のことも,文章や絵や数式を通して いま につながるんだよって口伝で教えられて.私は,材料から情報にきた人で,100年前の理論使って量子の計算してるんですが,そんなことそのまま教えたら,学生がいーーするんで,QiitaとかGithub使てどないして学ばすかを工夫しています.
で,am/pmなんですが,アンパンじゃないよ,曰く,知識てのは獲得(acquire)するもんじゃなくて,実践してなんぼで,それを使っているグループに参加(participate)することでっせ.それが学会活動とか,論文とか教科書に結びつきますよって.学習てのはそのコミュニケーションの掟を学ぶみたいなもので,先生てのは単なる先をいく達人でしかないっすよって.そう言われると学会とかプログラマてpmそのものなんですよ.なんで,Googleが文献引用のメタファから会社を起こしたみたいに,コンピュータの世界から学習の新しいメタファができるといいよねって思ってて.その一つの実践が,今,目にしている,みんながやっている「これ」なのかも.この学習がどこへ行き着くかは実験なんでわかりませんけど,まるで新しいam/pmシステムの構築にチャレンジしている感じ.みんなが対等に参加して.
am/pmて知ってはる? 西谷滋人より3
Sfard による獲得・参加メタファ
1991 年に Lave and Wenger によって「状況に埋め込まれた学習」あるいは「正統的周辺参加」という学習形態・概念が提案された.彼らは,アフリカの仕立て職人や助産婦の育成法を社会学的に詳しく調査した結果,徒弟制のなかに学びの本質があると指摘した.徒弟となる新人が,共同体の一員として見習い仕事を始める状況を「正統的周辺参加」とあらわし,学習が社会活動のなかで実践されていくことを「状況に埋め込まれた学習」と表現した1.ただそこで使われている単語の翻訳となる,状況に埋め込まれ た学習(situated learning) や正統的周辺参加(legitimate peripheral participation) があまりぴんと来ないため日本ではその概念があまり普及していない.数学教育者の Sfard は,この古い学習観と新しい学習観の対比を acquisition(獲得) metaphor と participation(参加) metaphor によって明確に示した2.
表1にまとめたとおり,旧来の学習観は,個人が新しい知識を獲得することを目標としていたのに対して,新しい学習観は,共同体を構築することを目標に据える.これによって,学習あるいは学習者とは,参加者になることあるいはその周辺に加わる参加者と捉え直す.学会活動もこの参加メタファで考えるとわかりやすい.すなわち,研究者が学会で認められるという事は,その分野での用語を使って参加者とコミュニケーションがとれることであり,そのために先輩を見習いながら,研鑽を積んで行く活動と捉えられる.さらには,論文集をだしたり,初心者向けのテキストを書いたりする活動も学習支援のひとつである.Sfard は,学習はこのどちらかを選ぶのではなく,両方が必要であると説いている.
表1 : Sfard による acquisition(獲得) metaphorとparticipation(参加) metaphor による学習観の違い 2.
acquisition metaphor participation metaphor 学習目標 個々人を豊かにする 共同体の構築 学習とは? なにかを獲得する (acquisition) 参加者 (participant) となる 学習者 (student) 受容者 (消費者),再構築者 周辺にいる参加者,徒弟 教授者 (teacher) 供給者,まとめ役,媒介者 熟練した参加者, 実践や論考の修得者 知識,概念 資産,所有物,一般商品 (個人のあるいは公共の) 実践,論考,活動の一側面 知るとは 持つ,所有すること 所属する,参加する, コミュニケートすること "アクティブラーニングにおけるチーム評価の導入", 西谷滋人より4
参照文献
- source ~/git_hub/ruby_docs/multi_scale_22_text/excludes/semi_lattice_20f/am_pm_covid19.org
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“状況に埋め込まれた学習,正統的周辺参加”, ジーン・レイブ,エティエンヌ・ウェンガー, 佐伯胖訳,福島正人解説 (産業図書, 1993). ↩ ↩2
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“On Two Metaphors for Learning and the Dangers of Choosing Just one”, Anna Sfard, Educational Researcher, 27(1998), 4–13. ↩ ↩2 ↩3
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"アクティブラーニングにおけるチーム評価の導入", 西谷滋人,RIMS研究集会報告集「数学ソフトウェアとその効果的教育利用に関する研究」,数理解析研究所講究録(ISSN 1880-2818), 1909(数理解析研究所, 2014/Aug), pp.223–232 ↩