前置き
このブログはエンジニアとして10年くらい働き、5回くらい(または6回か7回くらい?)転職していろいろな業界のエンジニアの仕事を見てきた筆者の私見です。
対象読者
- 転職とかを考えていて、エンジニアリング以外のプラス要素を出したいエンジニア
- エンジニアリング以外でも活躍したいエンジニア
本項は転職アドベントカレンダーのために書いたものです。私の転職経験を書くわけでも、「こうすれば転職できる!」というコツを書くわけでもないですが、筆者の経験上、エンジニアとして転職するときにエンジニアリング以外でやってて効果のあった活動や業務について説明します。ここに書いてあることを実施すれば希望の会社に転職できることを保証するものではないのでご容赦ください。
エンジニアの仕事はエンジニアリングだけではない
筆者はITエンジニア(またはソフトウェアエンジニア)としてこれまでに国内SIer、外資系SIer、外資系ソフトウェアベンダー、メーカー、テックスタートアップで働いてきました。個々の業界や企業で定義するエンジニアは様々ですが、エンジニアの仕事はエンジニアリングだけではないことが多々あるように思います。ここで言うエンジニアリングとは、何らかのプロダクトやシステムを開発し運用するための一連の作業を言います。「エンジニアリングとはなんぞや」ということを語りだすと切りがないので細かいことは割愛しますが、要は「自社または他社のプロダクト開発および運用」をエンジニアリングとします。
エンジニアにも多様な立場があり、Individual Contributor(IC)としてエンジニア一本で働く人もいれば、Engineering ManagerやVPoE、CTOとして組織運営が主な業務となる人もいます。後者はすでにエンジニアリングが主要業務ではない状態にあると言えるので、本項では前者にICに求められるエンジニアリング以外の業務を考えます。
エンジニアの主要業務は開発してプロダクトを作り、作ったプロダクトが安定稼働するように運用することだと思います。しかしエンジニアとして働いていると、実際にはエンジニアリングに含まれない作業を行うこと(主体的な場合があれば受動的な場合もある)が多々あります。
例:
- 社内外の勉強会やテックミートアップの運営、登壇
- テックブログや技術書の執筆
- 教育
- 採用・選考活動
等があります。もちろん他にもいろいろあるでしょうが、多くの非エンジニアリング業務は「技術をエンジニアリング以外に活用する活動」が主と言えると思います。なぜこれらの業務が必要なのか見てみましょう。
社内外の勉強会やテックミートアップの運営、登壇
この活動の目的は社内向けと社外向けで大きく異なります。社内向けであれば、社内エンジニアの能力向上になるでしょうし、社外向けであればそれに加えて会社の知名度向上になるでしょう。
社内向けの勉強会は多くの場合、有志によって開催されることが多いように思います(もちろん社内向けにエンジニア勉強会を実施することを主要な業務としているエンジニアも存在します)。より詳細な開催理由は多岐に渡ります。以下にいくつか例を挙げます。
- 社内で扱うことのない技術を知りたいため。
- 社内で新しい技術を扱うための調査を共有するため。
- 自分や自分のチームが取り組んでいる開発や工夫を共有するため。
- 社内異動者を募るため。
前の2点は知らない技術を知ることが理由ですが、後の2点は勉強会を開催するチームが社内にアピールすることが目的になります。言い換えると、前の2点は人材開発・学習に重きを置いており、後の2点はプレゼンスの向上や採用を重視しています。良い悪いということはないですが、それぞれの理由によって開催する勉強会の内容は大きく異なるでしょう。しかしいずれにしても、社内のエンジニア向けに技術的な情報を提供することは変わりなく、やはりエンジニアが実施しなければならないものになります(非エンジニアがエンジニアの興味をそそる技術勉強会を開催することは難しいでしょう)。
これが社外テックミートアップになると、理由はほぼ一つに絞られます。つまり、社外のエンジニアやステークホルダー向けのテックPR活動です。なぜテックPR活動が必要なのでしょうか? 理由は多種多様に存在するでしょうが、大きな理由は1.エンジニア採用、2.投資家へのアピールになると思います。
エンジニアが就職先を選ぶときの重要な観点の一つが就職先の技術力や技術スタックです。技術力が低く自分の成長にならない企業をあえて就職先に選ぶことは稀でしょう。もちろんスタートアップ等で技術スタックは今後成長していくフェーズの場合もありますが、ある程度の年季の入った企業で技術的に面白みがないようであれば、やはりエンジニアにとって魅力的とは言えません。
投資家へのアピールも同様で、もちろん一般的な投資家が一般的なエンジニアほど技術に詳しいことは稀でしょうが、それでもテックカンパニーが先進的な技術で他社と差別化して大きな課題を解決しようとしている、という情報はやはり魅力的に映るでしょう。逆にテックカンパニーと名乗っているのに技術情報をほとんど広報していないようだと、本当に技術力があるのか不安になります。
投資家へのPRはある程度は広報チームや非エンジニアが投資家に理解しやすい内容で宣伝することになるでしょう。他方でエンジニア向けのテックPRは、ほぼ必ずエンジニアによって実施される必要があります。これは技術的な先進性は多くの場合、エンジニアが一番深く理解しているし、他社のエンジニアから質問やコメントが来ても、実際に技術を扱っているエンジニアと、又聞きの非エンジニアでは回答できる答えの質は大きく異なります。テックPRは好き嫌いはあれど、どうしてもエンジニアの仕事の一部になることが多いのです。
社内外の勉強会やテックミートアップ、または技術カンファレンスで話すことによって、発信力のあるエンジニアというイメージが付きます。エンジニアはエンジニアリング以外の仕事も担当するというのが本項の内容ですが、エンジニア自身の知名度を上げておくことは将来的な転職やポジションのアサイン(昇進とは限らないためアサインとする)にプラスの効果があります(もちろん悪い方向で知名度を上げてはいけません)。エンジニアにエンジニアリング以外の仕事をアサインする必要がある以上、その経験と成果が記録として残ること−簡単に言うと、名前でググると見つかること−はとても重要なプラス要素です。
テックブログや技術書の執筆
このあたりは上記の勉強会やミートアップと似てテックPRが目的になったりしますが、より個人的な活動になる割合が増えます。つまり、テックブログや技術書は個人のモチベーションや野望のために執筆し公開することが多々あります。
会社としてテックブログを書いたり、会社へ技術書の執筆依頼が来ている場合であれば、やはり会社の仕事としてテックPRの業務となります。しかしそれでも、テックブログや技術書には執筆者の名前(またはハンドルネーム)が記載され、その名前で世の中に広まります。個人でテックブログや技術書を書いている場合は100%個人活動になります。
テックブログや技術書を書くモチベーションは多々あります。会社のテックPRのつもりで書くこともあれば、個人のテックPRのつもりで書くこともあります。会社のテックブログで書いていても、会社の名前を借りてエンジニア個人としてテックPRするつもりで書くこともあるでしょう。または自分の好きな技術や発見を世の中に啓蒙したい気持ちで執筆することもあります。新しい技術や自分で書いたライブラリを広める時に特に啓蒙したいモチベーションの傾向にあります。
上述したとおり、発信力のあるエンジニアになることは将来的な仕事やキャリア選択にプラスの要素として働くことがあります。これがブログや本という形で、読めばそのエンジニアの能力をある程度計ることができるアウトプットだと、更に良い効果があるでしょう。アウトプットを出すことはさらなるアウトプットに繋がることもあります。ミートアップの登壇にしても技術書の執筆にしても、運営側は未経験のエンジニアよりも実績のあるエンジニアを優先して声をかけます。これは自社の採用・選考活動でも重要で、知っているエンジニアが在籍している企業ということで応募者が増えることがあります。
教育
勉強会やテックミートアップ、テックブログ、技術書は実行する側からしたらアウトプットを出すことですが、需要する側からしたらインプットを得ることになります。教育は更に推し進めて、個々のエンジニアに対してエンジニアリングや意思決定、プロジェクトの進め方を教えて身に付けさせるものになります。教育の方法は多々ありますし、ここで論じることは簡単ではありませんが、手取り足取り教えることもあれば、放任主義でやらせてみることもあります。教育の方法としてトレーニングする場合もあれば、メンタリングするときもあります。いずれにしても、エンジニアがこれまでできなかったことをできるようにする(質的にも量的にも)ことが教育の目的の一つだと思います。
教育する理由は自分以外のエンジニアの能力を向上し、将来的にチームや会社により効果的に貢献できるようにすることです。
採用・選考活動
最後に採用・選考活動です。上記のテックミートアップやテックブログは採用活動に結実する活動にもなりますが、ここでは更に採用、選考に絞った活動について述べます。採用・選考活動で実施する業務は会社のフェーズや選考段階によって様々です。
スタートアップであれば知人に声をかけつつ、世の中で知名度を上げる活動が主になるでしょう。選考においても難しい技術試験を実施したり何回も面接して時間を消費したりせず、1,2回の面接で採用を決めて、入ってくれるようにフォローすることになります。もちろんスタートアップだからと言って誰でも良いわけではないですが、選考のために少ない時間と資金と人員を割くことができないというのが実態です。
これがシリーズBやCに進んでスタートアップの規模が大きくなってくると、ある程度の知名度がある中で優秀な人材を探してアプローチしつつ、一般公募で得られた候補者を選考する段階になります。このあたりから技術試験や複数回の面接を実施して、間違いのない候補者を選ぶフローを整えていくでしょう。
更に上場して数百人規模の会社になれば、選考フローは整備されて書類面接の方法や面接のやり方等を社員に社内教育するようになっていきます。
どの段階においても、エンジニアの採用にはエンジニアが採用・選考活動を行うことになります。もちろん面接官を担当するのはシニアエンジニアやマネージャー以上の面々でしょうが、候補者の技術力や技術スタック、そしてエンジニアチームとの相性を判断するのはエンジニアの仕事になります。
採用・選考活動はテックミートアップの登壇や技術書の執筆ほど技術に特化した仕事にならないことがあります。面接して候補者を評価する(または勧誘する)ため、技術力に加えてコミュニケーション能力や人を見る目が必要になります。筆者の経験上、採用・選考活動はあまりやりたくないというエンジニアは意外と多いようです。逆に言うと採用・選考活動で引き受けて実績を出せるエンジニアは、それだけで仕事の幅が広がります。
まとめ
というわけでエンジニアにアサインされることの多いエンジニアリング以外の業務について書きました。まあ何が言いたいかというと、エンジニアだからエンジニアリングしかやらないというのではなく、技術に根ざした非エンジニアリング活動をやってみると、意外と楽しいし新たな扉が開くかも(開かないかも)という話です。