0
0

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?

黒ひげ危機一発で考えるプロダクト要件定義(1/2)背景・非機能要件

Last updated at Posted at 2025-03-28
  • 「黒ひげ危機一発」は、株式会社タカラトミーの登録商標です。
  • 「STマーク」「盲導犬マーク」「うさぎマーク」は、一般社団法人日本玩具協会の登録商標です。

ITディレクターというお仕事

もう数年前の話になるが、2年ほど、「要件定義」(*1)に特化したポジションでの仕事 をしたことがある。万人単位のユーザー数がいるSaaSの開発チームの一員として、外注(フリーランス)としての参画であった。社内では 「ITディレクター」 という肩書で呼ばれていた。

*1 企業や文化、開発手法によっても呼称やフェーズ分けの単位が異なると思いますが、ここでは、「ビジネス企画」の後、「UXも含む設計開発」の前に行う調査・分析・要求仕様定義フェーズのことです。UXが重要なプロダクトでは同時並行で「UX要件定義」的なフェーズを進めることもあるかと思います。

SE(システムエンジニア)が担当する業務において、プロジェクトマネンジメントの話(WBSがー!マイルストーンがー!など)と要件定義(考慮漏れがー!追加要件がー!など)の話は、特に小規模なプロジェクトでは同一人物が担当することも多く、かつ密接な関係もあるので、上流工程として混同されがちな話であるが、実は別観点が必要な話。

なので、チームやプロジェクトのマネンジメントはせず、実際の設計/開発もせず、かといってUXデザインをするわけでもなく、要件定義とステークホルダーの合意形成に特化したポジションでの仕事というのは、面白かったし、良い経験になったと思う。

というと、 「じゃあ一体お前は何をしてたんじゃーい」 ということになるので、 とある 架空のプロジェクト の要件定義はこんな感じじゃないかな?ということを書いてみることにする。

本当は新入エンジニアや要件定義未経験者向けのワークショップとして、チーム対抗で1~数日かけてやってみたいテーマ。

プロジェクト危機一発(架空のお話)

X社

X社は、20XX年に設立されたベンチャー企業で、ファブレスな形で玩具を製造・販売している。製造・販売される玩具は、例えばネットワーク対戦機能やランキング機能、汎用ゲーム機やスマートフォンとの連携など、IoTの観点で、既存の玩具とは差別化が図られていることが特徴である。

ことの始まり

とある製品Zが無事ローンチした翌日、私の上司にあたるPdM(プロダクトマネージャ)のK氏が朝会でこう言った。

「そろそろ、今年度のチームの矢羽根にのっけておいた、『黒ひげ危機一発』発展版の要件定義を始めようか。まずは『たたき台』として、『デッドコピーするならこうなる案』を定義してみてくれないかな?」

「はい、よろこんでー!とりあえず〇日間ください。あと、『実機』購入してもいいですか?」

そんな感じで、『黒ひげ危機一発』っぽい玩具の要件たたき台定義フェーズ、が開始されたのである。

背景調査・分析

おじさんの学生時代(2000年)頃から比べても、インターネッツの発展は素晴らしいもので、『黒ひげ危機一発』の情報はWeb上にあふれており、少し検索するだけで、例えば Wikipedia の情報Amazonでの販売情報など、それなりの情報を得ることができる。

そのうち、Amazonでの販売情報(タカラトミー(TAKARA TOMY) 黒ひげ危機一発 (2011年 NEWパッケージ)) をベンチマークにして、後ほど【非機能要件】のたたき台を作成することにする。

また、Wikipedia の情報や、その他の Web 上の情報ソースから、オリジナルの「黒ひげ危機一発」は、1975年(私が生まれる前!)に販売が開始されていることが分かり、たとえ特許が取得されていても、その有効期間(原則20年、延長5年)からして、少なくともオリジナル版の機能実現のための技術に関しては考慮の必要がなさそうなことがわかる。念のため特許情報プラットフォームで検索しても、それらしい特許はなさそうである。

発売開始から3年も経過しているので、不正競争防止法における形態模倣の禁止も気にする必要はない。

ただし、特許情報プラットフォームの検索結果からして、「黒ひげ危機一発」という文言はもちろんのこと、「黒ひげ」や「危機一発」も、それぞれ「おもちゃ」を商品区分として商標出願されており、現在も商標登録が継続されているため、この点は注意が必要そうである。

玩具としてローンチする製品のため、パチンコ台のように保通協の要件も気にする必要はないし、あくまで玩具なので、「あたり」「はずれ」の厳密な公平性という部分に関しても気にする必要はなさそうである。

そして、 Amazonでの販売情報(タカラトミー(TAKARA TOMY) 黒ひげ危機一発 (2011年 NEWパッケージ)) のパッケージ表示にあるように、対象年齢の明記と、ST(Safty Toy)マークの取得注意絵記号の表示、さらに競争力を考えると、共有玩具に関するマークの取得はしておいたほうがよさそうである。

非機能要件(たたき台)への落とし込み

そんなことを考えながら、非機能要件(たたき台)を書いてみる。

【設計する玩具(以下、「本玩具」)の非機能要件】
1. 本玩具を動作させるには、電源は不要なものとする。
    補足 1-a. IoT機能の追加にあたり、電源が必要な場合は、乾電池利用やバッテリー方式など別途検討する。
    補足 1-b. その場合でも、IoT機能以外の機能は、電源不要で動作させることができるのが好ましい。
    補足 1-c. また、電源利用の場合でも、後述のST基準等にも準拠する形とする。
2. 本玩具の梱包時の外寸サイズは、‎高さ22.0cm x 16.21cm x 15.7 cm 前後とする。
    補足 2-a. 前記の外寸サイズは、既存製品をベンチマークとしたものであるが、
             「宅配80サイズの段ボール(*2)」に対し、梱包後の玩具が2つ入ることも基準とする。
3. 本玩具の重量は、梱包後400g前後とする。
    補足 3-a. バッテリーを内蔵するような場合、重量増加を許容するが、
              その重量が後述のST基準等にも準拠する形とする。 
4. 本玩具は、対象年齢4歳以上とする形で、
   一般社団法人日本玩具協会のST(Safty Toy)基準に準拠するものとし、
   指定検査機関に検査を申請後、適合判定を受け、STマークを最小梱包単位に表示するものとする。
    補足 4-a. ST基準の注意絵記号もSTマークと同様に表示する。
5. 本玩具は、一般社団法人日本玩具協会の共有玩具ガイドラインに準拠し、認定を受けるものとする。
    補足 5-a. 共有玩具として、目の不自由な子供も楽しめるよう配慮を施した「盲導犬マーク」の認定を得るものとする。
    補足 5-b. 耳の不自由な子供も楽しめるよう配慮が施された玩具として、「うさぎマーク」の認定を目指すか否かは、設計段階で決定する。
6. 第4項も含め、製造物責任法(PL法)に対する対策を充分に行う。
7. 想定小売り価格は、2,500円以下とする。
8. 「黒ひげ危機一発」や「黒ひげ」「危機一発」といった他社が登録済みであり、有効である商標の権利を侵害しない。
9. 調査フェーズでは、機能要件に密接に関わる特許は発見できなかったが、日本国内で有効な特許を侵害しない。

*2 宅配80サイズの段ボール

ポイントというかディレクターの観点

上記の「非機能要件」の文面だけではニュアンスが掴みずらく、「ディレクターってすごく 上から目線で要件を決めていく人 なんだなー」という勘違いをされてしまう可能性もあるので補足すると、「たたき台」とあるように、

  • 仮の要件を書いてみるテイ(体)で論点を出し、その後の意思決定者であるPdMや、UX担当者・UXチーム、開発チームとの議論の材料を作ること。

がディレクターのお仕事だと思っている。(IPAの試験等では、「意思決定者の判断を仰ぐ」ことが重視されすぎなような気もするが、実は開発チームやUX担当との議論(調整)も必要である。)

なのでこういった要件案(たたき台)を作成することは、もちろん後ほどの議論でボコられる前提で書いて、かつ調査をしておく必要がある。例えば、

「じゃあSTマークを取得するメリット/デメリット(メリデメ)は?」
「取得にかかる費用と期間は?」
「実際、既存の玩具のうち、どのくらいがSTマークを取得しているの?」

あたりは、PdMを含めた関係者に聞かれるであろう話なため、もちろん要件案の補足資料として別途資料をまとめておくのが、「デキるディレクター」を演じる場合(笑)に必要なこととなる。

ブランディングやグットデザイン賞あたりにも非機能要件として言及しておいたほうが良いかもしれない。電源を利用する場合の消費電力やCO2排出量なんかも・・・。(きりがないので今回は書いてません。そのへんは組織の文化/空気感を読んで適宜調整ということで・・・)

※ X社のような玩具の製造販売を行う事業体では、STマーク等に関しては既存ナレッジのある話である可能性もあり、また、品質保証部のような別部署の担当である可能性もあります。その場合、ディレクターのお仕事というのは「ナレッジを探し当てて咀嚼しておくこと」「担当部署・担当者と調整すること」になるかと思います。

※ 「要件定義のたたき台」を誰が作成するのか、というのは難しいポイントと思います。PM/PdMやライン上の上長、SI案件の場合の「お客様」が「たたき台」を作成した場合、それが「たたき台」ではなく、「一定の意思を持った指示、依頼」と受け取られてしまう可能性もあります。そういう意味で、「たたき台作成」をチームの1メンバー、もしくは外部のコンサルタントに依頼することには一定の合理性があると考えることもできます。


背景や非機能要件で結構長くなってしまったので、エンジニアのはしくれとして一番書きたかった「機能要件」の部分はまた後日。

0
0
0

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
0
0

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?