はじめに
全産業平均では就職氷河期世代（ロスジェネ）の賃金カーブだけが年齢相応に伸びきっていません。
一方、IT 業界に限ると同世代でも全産業比 30〜45 % 高い水準。ただし上位 20 % のハイスキル層が平均を押し上げている点には注意です。
10 年後に格差を広げないためには、世代ごとに適切なスキル投資と「社外市場での価値の可視化」が不可欠です。
※年代、世代は大まかな区分です。
就職氷河期世代でもまだまだIT業界で活躍できます。未経験でも転職をお考えの方はこちらの解説記事もご覧ください。
1. 世代別賃金格差の現状
ここで扱う内容
・全産業と IT 業界を比較した世代別平均年収の違い
・国税庁・厚労省・民間調査データの組み合わせ方と読み解き方
・45〜49 歳ロスジェネ層に見られる「カーブ鈍化」の統計的根拠
・賃金差を生む主要因（職種・企業規模・雇用形態）の可視化手法
1.1 全産業平均
- 国税庁「民間給与実態統計調査（令和5年分）」 では、20 代 308 万円、30 代 451 万円、40 代 545 万円、50 代 607 万円。45〜49 歳層のみ 1990 年代比で実質マイナス。
- 厚労省「賃金構造基本統計調査（令和5年）」 でも 1995→2023 年で 45〜49 歳層の相対指数が ▲10 pt。
1.2 IT 業界平均
| 年齢帯 | IT 平均年収 | 全産業平均 | 差分 |
|---|---|---|---|
| 20 代 | 360〜380 万円（doda 年収データ 2024） | 308 万円 | +17 % |
| 30 代 | 670.6 万円（同上） | 451 万円 | +49 % |
| 40 代前半 | 704〜764 万円（求人中央値調査） | 545 万円 | +35 % |
| 40 代後半 | 715 万円 ※中央値（Forkwell Career Navi 2025） | 565 万円 | +27 % |
| 50 代 | 1,011 万円（大手 SIer 平均） | 607 万円 | +66 % |
ポイント
30 代までは IT の昇給ペースが急峻。40 代でカーブが鈍化し、ハイスキル・大手所属者が平均を押し上げる“二極化”が顕著です。
2. 賃金を決める 3 つのレバー
ここで扱う内容
・職種 / スキル・雇用形態・企業規模という 3 つのレバーの構造
・ハイスキル帯 660〜890 万円 vs. テスト・保守帯 450〜550 万円の根拠
・SES / 客先常駐モデルが平均を押し下げるメカニズム
・大手 SIer・コンサル企業の報酬テーブルを読み解くポイント
| レバー | 高年収に働く要因 | 低年収に留まる要因 |
|---|---|---|
| 職種・スキル | クラウド / AI / コンサル＝660〜890 万円帯（例: ITmedia 特集） | テスト・運用保守＝450〜550 万円 |
| 雇用形態 | 正社員・裁量労働・SO 付与 | SES / 派遣＝420 万円 |
| 企業規模 | NRI 1,272 万円・オービック 1,078 万円 | 中小受託＝500 万円前後 |
3. 共通アクション 5 選
ここで扱う内容
・政府 DX・リスキリング支援策と 2025 春闘賃上げトレンド
・副業容認・週休 3 日制・専門職制度など柔軟勤務の拡大状況
・2030 年 IT 人材不足 79 万人試算が示す需給ギャップ
・企業が取り得る人事制度改革（専門職化・複線型キャリア）と報酬設計
- AI・クラウド基礎取得 ─ AI スキル保有で平均 +15 %。
- 副業で市場価値を可視化 ─ 副業ガイドライン で企業の 70 % が容認・予定。
- 資格投資は ROI で選ぶ ─ AWS 認定で年収アップ。
- グローバル相場を確認 ─ Tokyo AI Engineer Salary Guide 2025 によると米国の半分以下。
- 賃上げトレンドを追う ─ Reuters: 大手企業が大幅賃上げ合意。
4. 世代別「10 年後逆算」行動計画
ここで扱う内容
・Z / ゆとり / ロスジェネ / バブル――各世代のキャリア環境の違い
・Forkwell 分布と doda 平均が示す“中央値 vs. 上位 5 %”の格差
・世代ごとの昇給停滞ポイントと要因（管理職ポスト・初任給ブーストなど）
・クロスセクションで見る「世代間賃金ギャップ」の定量比較方法
Z 世代（20 代）
| 期間 | アクション | 効果 |
|---|---|---|
| 0〜2 年 | DX リテラシー標準＋Python / SQL / クラウド基礎 | 初任給 +5〜10 % |
| 3〜5 年 | AWS・Azure Associate＋AI 基礎（AWS 調査 で給与 +15 %） | 500→650 万円 |
| 6〜10 年 | OSS 貢献 + 副業（副業容認企業 70 %超） | 年収 + 副業＝900 万円帯 |
ゆとり世代（30 代）
| 期間 | アクション | 効果 |
|---|---|---|
| 0〜2 年 | PMP / 高度情報処理資格（PMI Salary Survey で平均 +299 万円） | 650→800 万円 |
| 3〜5 年 | ピープルマネジメント研修 + 海外案件 20 % | 900 万円帯 |
| 6〜10 年 | 事業サイド副業 → 株式報酬獲得 | 1,000 万円 + α |
ロスジェネ世代（40〜54 歳）
| 期間 | アクション | 効果 |
|---|---|---|
| 0〜2 年 | DX「ビジネスアーキテクト」領域を短期集中習得 | カーブ頭打ち回避 |
| 3〜5 年 | AI / クラウド案件 PM へ横スライド | 700→900 万円 |
| 6〜10 年 | 複業コンサル・社外取締役でポートフォリオ化 | 本業 + 副業＝1,100 万円 |
バブル世代（55〜64 歳）
| 期間 | アクション | 効果 |
|---|---|---|
| 0〜2 年 | 週休 3 日・専門職制度で報酬維持（トヨタの事例） | 減収抑制 |
| 3〜5 年 | 後進育成プロジェクト主導 | 退職後オファー獲得 |
| 6〜10 年 | 顧問・非常勤 CTO 契約（経産省試算：IT 人材不足 79 万人） | 年収 700 万円相当延長 |
5. 世代別ロードマップ ─ 10 年で年収を最大化する方法
ここで扱う内容
・それぞれの世代が直面する市場構造と「年収が伸びるポイント」
・0〜2 年 / 3〜5 年 / 6〜10 年の 3 フェーズでやるべき具体アクション
・全世代に共通する“掛け算”スキルと学習ポートフォリオの作り方
5.1 Z 世代（20 代）
| フェーズ | 取り組み | 期待効果 |
|---|---|---|
| 0〜2 年 | DX リテラシー標準 に沿って Python / SQL / クラウド基礎を履修 | 初任給 +5〜10 % |
| 3〜5 年 | AWS / Azure Associate + AI 基礎コース取得（AWS Asia-Pacific 調査 で AI スキル保有者は年収 +15 %） | 500 → 650 万円帯 |
| 6〜10 年 | OSS 貢献・ハッカソン参加 + 副業開始（副業ガイドライン で企業の 7 割が容認・予定） | 年収 + 副収入＝900 万円超 |
5.2 ゆとり世代（30 代）
| フェーズ | 取り組み | 期待効果 |
|---|---|---|
| 0〜2 年 | PMP® / 高度情報処理資格を取得（PMI Salary Survey 13th では PMP 保有者の中央値 +16 % ≒ +299 万円） | 650 → 800 万円 |
| 3〜5 年 | ピープルマネジメント研修＋海外案件比率 20 % | 900 万円帯 |
| 6〜10 年 | 事業サイド副業 → ストックオプション / RSU を獲得 | 1,000 万円 + α |
📝 One-point
PMI は 2030 年までに プロジェクト人材 2,500 万人不足と予測しており、PMP は世界共通通貨のように機能。
5.3 ロスジェネ世代（40〜54 歳）
| フェーズ | 取り組み | 期待効果 |
|---|---|---|
| 0〜2 年 | DX「ビジネスアーキテクト」領域を短期集中で習得（上記 DX 標準参照） | 賃金カーブの頭打ち回避 |
| 3〜5 年 | AI / クラウド案件 PM に横スライド；AWS DevOps Pro など上位資格 を取得 | 700 → 900 万円 |
| 6〜10 年 | 複業コンサル・社外取締役・技術ブログで“外貨”を稼ぐ（Forkwell 上位 5 % は 1,200 万円台：forkwell） | 本業 + 副業＝1,100 万円超 |
5.4 バブル世代（55〜64 歳）
| フェーズ | 取り組み | 期待効果 |
|---|---|---|
| 0〜2 年 | 週休 3 日・専門職制度で知見を社内に還元（トヨタ事例：日経転職版） | 報酬減を最小化 |
| 3〜5 年 | ドキュメント整備・後進育成プロジェクトを主導（週休 3 日制導入事例：ITmedia 記事） | 退職後オファー獲得 |
| 6〜10 年 | 非常勤 CTO / 顧問契約（IT 人材不足 79 万人予測：経済産業省） | 年収 700 万円相当を延伸 |
📝 Key message
DX 政策は「経験シニア × 若手 AI」の組み合わせを必須資源と位置づけており、知見を形式知化できるシニアの市場価値はむしろ上昇。
5.5 共通フレーム：掛け算で価値を高める 3 本柱
-
AI × ○○
- AI スキル保有で平均 +15 %（AWS 調査）。
-
副業 × リスキリング
- 副業実施率は 6 % だが「今後実施意向あり」が 24 %（同ガイドライン調査）。
-
資格 × 英語
- 高報酬資格ランキング上位は PMP / クラウド資格＋TOEIC 800 以上。
Next step
今年度中に「AI またはクラウド資格＋英語スコア」をセットで取得し、24 か月以内に社外案件へ適用するロードマップを描いてみてください。
6. 参考資料
- 国税庁「民間給与実態統計調査 令和5年分」
- 厚労省「賃金構造基本統計調査 令和5年」
- doda エンジニア平均年収 2024
- Forkwell Career Navi 年収レポート 2025
- IPA「DX 動向 2024」
- 経産省「デジタルスキル標準」
- AWS AI スキル調査 2024
- 副業・兼業ガイドライン
- ITmedia「広がる選択的週休3日制」
- トヨタが週休3日制を選択可に
- 経産省試算「2030 年 IT 人材不足 79 万人」
- Morgan McKinley 2025 AI Engineer Salary – Tokyo
- WEF Future of Jobs Report 2023
- Reuters: 2025 大手企業賃上げ
- AWS認定で年収アップが期待できる理由
- PMI Salary Survey 13th Edition
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