この記事は 防災アプリ開発 Advent Calendar 2023 の25日目です。ご覧になっていただいた方々、ご参加いただいた方々、ありがとうございました。
24日目は、そうし さんの 地震情報・津波情報の程よい付き合い方 でした。
はじめに
気象庁の発表する地震情報では、地震の発生した地域名を伝えることがあります。この地域名を気象庁では「震央地名」と呼びます。どの場所がどの震央地名に属するかについては、気象庁ホームページにおいて以下のような画像形式で公開されています。
出典: 気象庁 | 地震情報で用いる震央地名(日本全体図)
2021年にQiitaで公開した記事 気象庁地震カタログを用いて経緯度と震央地名の対応表を作る では、震央地名が経緯度0.1度ごとに決められているとある程度仮定したうえで、 地震月報(カタログ編) の震度データカタログから経緯度と震央地名の対応表を作成しました。
ただ、上記の記事では、経緯度0.1度よりも細かい単位で震央地名が変わっているのではないか、という可能性が示唆されました。
今回の記事では
- 実際にどれくらいの地理単位で震央地名が決められているのかを確認
- その結果に基づいて改良版となる経緯度と震央地名の対応表を作成
の2点を進めていきます。
震央地名はどれくらいの地理単位で決められているのか
震央地名は、経緯度0.1度単位で決められているのか、0.01度単位なのか、0.001度単位なのか…。その真相は気象庁に問い合わせるのが一番なのかもしれませんが、今回は実際に震源データを見て想像してみることにします。
データ
今回は、気象庁ホームページで公開されている 震源リスト を使うことにします。
前回は地震カタログの震度データカタログを用いましたが、そのデータは最大震度1以上の地震しか収録されておらず、データ数が少ないという問題がありました。今回の震源リストは、直近数年分しか掲載がないものの最大震度1未満の微小地震も含めデータが存在するため、データ数を稼ぐことが出来ます。
以下に2023年12月22日の震源リストの一部を示します。震央の経緯度は0.1分(0.0016666...度)ごとに決められており、それぞれのイベントに震央地名が振られています。
年 月 日 時 分 秒 緯度 経度 深さ(km) M 震央地名
-----------------------------------------------------------------------------------------
2023 12 22 00:02 37.7 35°12.3'N 141° 8.9'E 9 3.8 千葉県東方沖
2023 12 22 00:05 35.0 35° 9.5'N 141°10.8'E 20 - 千葉県東方沖
2023 12 22 00:07 16.0 35°56.0'N 137°46.9'E 11 0.9 長野県南部
2023 12 22 00:08 23.1 35°11.7'N 141° 8.6'E 7 - 千葉県東方沖
2023 12 22 00:08 32.9 35°10.3'N 141° 9.4'E 12 2.7 千葉県東方沖
2023 12 22 00:18 6.7 33°38.8'N 135°16.1'E 41 0.8 和歌山県南方沖
2023 12 22 00:22 57.0 36°15.0'N 137°40.3'E 6 0.4 長野県中部
2023 12 22 00:23 6.9 33°17.4'N 132°55.2'E 18 0.2 高知県西部
2023 12 22 00:27 2.2 42°59.5'N 145°51.6'E 43 1.5 根室半島南東沖
2023 12 22 00:29 58.9 33° 2.2'N 130°31.2'E 9 -0.1 熊本県熊本地方
気象庁ホームページの震源リストには、震源データが確定値(カタログ編の震源データ)になる前の暫定値のものが掲載されています。そのため、掲載されるデータは直近から1〜2年分に限られており、2023年12月24日現在は2022年10月分以降が掲載されています。
なお、今回は2020年9月から2023年12月22日までのおよそ3年分のデータを使うこととします。2020年9月から2022年9月までのデータは現在は掲載されていませんが、このアドベントカレンダーのために2023年1月時点であらかじめ手元にデータを落としていました(えらい)。
結果
以下では、震央地名にランダムで色を割り当て、その結果を地図で見てみます。
全国
全国を俯瞰してみると以下の図のようになりました。
きれいですね。これだけ見ても、記事の序盤で掲載した、気象庁ホームページの震央地名の図のような境界のギザギザはあまり見られない気がします。何となく、0.1度よりも細かい単位で震央地名が決められていそうな気がします。
福島県沖周辺
ここでは、宮城県沖や福島県沖、茨城県北部に着目してみてみます。以下の図は、グリッド線を0.1度として、震央地名ごとに色を割り当て震央をプロットした図です。
図の中心部あたりを拡大してみた以下の図では、明らかに0.1度間隔のグリッド線で震央地名は決まっていないことが分かります。
とはいってもギザギザしていますので、何らかの地理単位で震央地名が決まっていそうです。いったい何度単位なのでしょうか…。
深掘り
グリッド線の間隔をいろいろ調整してみると、以下の図のようなりました。このときのグリッド線の間隔は、0.016667度、つまり1分(1/60度)です。
同じように図の中心部あたりを拡大してみた以下の図では、グリッド線の間隔と馴染むように震央地名が変わっていることが分かります。
以上から、「震央地名はどれくらいの地理単位で決められているのか」の答えは「1分(1/60度)単位である」となることが分かりました。
経緯度と震央地名の対応表を作る(2023年版)
さっそく、対応表を作ることにしましょう。先ほどの図から、経緯度が1分(1/60度)単位になるように切り捨て処理を行えば、経緯度と震央地名を1対1で対応させられそうです。その結果、1分(1/60度)単位で震央地名が確定した領域は以下の図の青色の部分になりました。
日本全国埋まるくらいの色塗り具合を期待しましたが、意外と塗られてないですね。
対応表を作成した結果の一部は、以下のようになりました。
緯度の整数部分(度),緯度の小数部分(分),経度の整数部分(度),緯度の小数部分(分),震央地名
37,4,140,50,福島県浜通り
37,4,140,52,福島県浜通り
37,4,140,53,福島県浜通り
37,4,140,54,福島県浜通り
37,4,140,55,福島県浜通り
37,4,140,56,福島県浜通り
37,4,140,58,福島県浜通り
37,4,140,59,福島県沖
37,4,141,0,福島県沖
37,4,141,1,福島県沖
37,4,141,2,福島県沖
37,4,141,4,福島県沖
37,4,141,5,福島県沖
37,4,141,6,福島県沖
37,4,141,7,福島県沖
37,4,141,8,福島県沖
37,4,141,9,福島県沖
37,4,141,10,福島県沖
この表のように、経緯度1分ごとに全てを網羅することは出来ていませんが、データの存在する経緯度については震央地名を必ず1つ引くことが出来るようになりました。
なお念のため経緯度1分単位で複数の震央地名の存在する地域がないかを調べましたが、該当するものはありませんでした。
おわりに
この記事では震源リストデータを用いることで、経緯度と震央地名が必ず1対1で対応する正確な対応表を作ることができました。2021年の記事では、内陸部はGISデータなどをもとに震央地名を推定できないか、という考察もしていましたが、経緯度1分ごとに震央地名が決定する事実を取り入れると、さらに推定しやすくなるかもしれません(誰かやってください)。
今回、2年ぶりの震央地名記事を執筆し、正直今回で完結したい気持ちもありましたが、どうやら先は遠そうです。また数年後に続編を書くかもしれません。
2021年同様に、対応表をGitHubにアップロードしました。経緯度1分単位の震央地名がすべて記載されており、約16万行の大規模データとなっています。上手いことすれば使えるかも…なので、ご興味のある方はライセンスに従いぜひお使いください。
https://github.com/compo031/ll2epiname/blob/main/ll2epiname.csv