超伝導の微視的理論であるBCS(Bardeen Cooper Schrieffer)理論について、説明します。なお、第二量子化入門の内容は分かっているとします。
ここで説明すること
- 超伝導状態は、電子二つが引力によってペア(Cooperペア)を組んだ状態であり、そのCooperペアができている多体波動関数がどうなっているか
です。電子がなぜペアを組むのか、については、別の何かを参照にしてください。
電子のペア
超伝導体中では電子二つがペアを組んでいます。これは、言い換えると、二電子の束縛状態ができている、ということです。まず、1つの電子ペアの波動関数を考えてみることにしましょう。
電子にはスピンという自由度があり、1粒子の波動関数は
\phi_s(\boldsymbol{r})
と書けます。ここで、$s$は$\uparrow$か$\downarrow$です。
2粒子の束縛状態の波動関数を
\phi_{s_1,s_2}(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2)
と書きます。1は一つ目の電子、2は二つ目の電子を表しています。この波動関数の持つべき性質について考えます。
今、エネルギーが一番低い状態を探していますので、2電子の重心は止まっているとしましょう。このとき、波動関数が
\phi_{s_1,s_2}(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2) = \phi(\boldsymbol{r}_1-\boldsymbol{r}_2) \chi(s_1,s_2)
と書けると仮定します。ここで、$\phi$は座標に関する関数、$\chi$はスピンの関する関数です。簡単のために両者が分離された形を仮定しました。また、$\boldsymbol{r}_1-\boldsymbol{r}_2$というのは相対座標ですので、波動関数が相対運動にのみ依存することを意味しています。
電子は本質的に区別のつかない粒子ですので、座標の入れ替えに対する波動関数の変化に条件があります。電子はフェルミオンですので、二つの電子を入れ替えたときには波動関数にマイナスの符号が着きます。つまり、
\phi_{s_1,s_2}(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2) = - \phi_{s_2,s_1}(\boldsymbol{r}_2,\boldsymbol{r}_1)
という条件があります。これは
\phi(\boldsymbol{r}_1-\boldsymbol{r}_2) \chi(s_1,s_2) = - \phi(\boldsymbol{r}_2-\boldsymbol{r}_1) \chi(s_2,s_1)
という条件になります。この条件を満たすことができる波動関数は大きく分けて二種類ありまして、
- $ \phi(\boldsymbol{r}_1-\boldsymbol{r}_2) = \phi(\boldsymbol{r}_2-\boldsymbol{r}_1) $かつ$\chi(s_1,s_2) = - \chi(s_2,s_1)$
- $ \phi(\boldsymbol{r}_1-\boldsymbol{r}_2) = - \phi(\boldsymbol{r}_2-\boldsymbol{r}_1) $かつ$\chi(s_1,s_2) = \chi(s_2,s_1)$
です。$\chi(s_1,s_2)$は電子の波動関数のうちのスピン部分です。1電子のスピン部分の波動関数はアップスピンの波動関数とダウンスピンの波動関数の二種類からできていますから、2電子のスピン部分の波動関数は
1: $\chi(s_1,s_2) = - \chi(s_2,s_1)$
を満たすものとして、
\chi(s_1,s_2) = \frac{1}{\sqrt{2}} \left( \alpha(s_1) \beta(s_2) - \beta(s_1) \alpha(s_2)\right)
という波動関数を考えることができます。ここで、$\alpha(s) $はアップスピンの波動関数、$\beta(s)$はダウンスピンの波動関数を表します。
2: $\chi(s_1,s_2) = \chi(s_2,s_1)$
を満たすものとして、3種類考えることができまして、
\chi(s_1,s_2) = \alpha(s_1) \alpha(s_2)
\chi(s_1,s_2) = \frac{1}{\sqrt{2}} \left( \alpha(s_1) \beta(s_2) + \beta(s_1) \alpha(s_2)\right)
\chi(s_1,s_2) = \beta(s_1) \beta(s_2)
があります。この三種類はそれぞれ正味のスピンの大きさが$S_z=1,0,-1$となっています。
1を満たすものを「スピンシングレット」、2を満たすものを「スピントリプレット」と呼びます。多くの超伝導体はスピンシングレットですが、たまにスピントリプレットと思われる超伝導体も報告されています。また、ヘリウム3の超流動現象はスピントリプレット状態であるということが分かっています。
多体波動関数
満たすべき条件
電子ペアの波動関数についての性質が分かりましたので、次はペアがたくさん集まった状態について考えます。
電子が$N$個あるとき、$N$が偶数だとして、$N/2$個の電子ペアがある状態を考えてみます。素朴に考えれば、多体の波動関数は
\Psi_N = \Psi_2(1,2)\Psi_2(3,4) \cdots \Psi_2(N-1,N)
と書けるはずです。ここで、2電子の束縛状態の波動関数を
\Psi_2(i,i+1) = \phi_{s_i,s_{i+1}}(\boldsymbol{r}_{i},\boldsymbol{r}_{i+1})
と定義しました。
$\Psi_N$はN個の電子の波動関数ですので、任意の座標の入れ替えに対してマイナスの符号がつく必要があります。例えば、
\Psi_N(1,2,3,\cdots,8,9,10,\cdots, N) = - \Psi_N(1,2,3,\cdots,9,8,10,\cdots, N)
という条件を満たす必要があります。ここで、数字はスピンと座標の両方を示しているとします。本当は$\xi_i = (s_i,\boldsymbol{r}_i)$のような座標$\xi_i$を導入して書けばいいのですが、毎回書くのが面倒なため数字で代用していると思ってください。
電子は$N$個ありますが、この$N$は通常アボガドロ数($\sim 10^{23}$)個ありますので、これら全ての座標で条件を満たすような波動関数を書き下すのは非常に面倒でしょう。そこで、第二量子化入門で導入した第二量子化を用いることで、フェルミオンの性質を自動的に満たした波動関数を構成することにします。
第二量子化
第二量子化表示の利点は、どんな波動関数を持ってきたとしても作られるケットベクトルで書かれた状態がフェルミオンの条件を満たすことです。つまり、
| \psi \rangle = \int d\boldsymbol{r}_1 \cdots \int d\boldsymbol{r}_N |\boldsymbol{r}_1,\cdots,\boldsymbol{r}_N \rangle \Psi(\boldsymbol{r}_1,\cdots,\boldsymbol{r}_N )
という形で書いておけば、「$\Psi(\boldsymbol{r}_1,\cdots,\boldsymbol{r}_N)$がフェルミオンの性質を満たしていなくても」、作られた$| \psi \rangle$はフェルミオンの条件を満たします。
今、スピンと座標の自由度がありますので、座標に関する積分とスピンに関する和が必要です。式が煩雑にならないように、
\int d\boldsymbol{r} \sum_s = \int d\xi
という$\xi$積分を導入しておきます。これを用いれば、多体の波動関数は
| \psi \rangle = \int d\xi_1 \cdots \int d\xi_N |\xi_1,\cdots,\xi_N \rangle \Psi_N(\xi_1,\cdots,\xi_N )
と書くことができます。
ここで、$|\xi_1,\cdots,\xi_N \rangle$は生成消滅演算子を用いて
|\xi_1,\cdots,\xi_N \rangle \equiv \frac{1}{\sqrt{N!}} \psi_{s_1}(\boldsymbol{r}_1)^{\dagger} \cdots \psi_{s_N}(\boldsymbol{r}_N)^{\dagger} |0 \rangle
と定義されています。$\psi_{s}(\boldsymbol{r})^{\dagger} $はスピンが$s$、座標が$\boldsymbol{r}$の電子を生成する演算子です。
クーパー対演算子
上で定義された多体の波動関数に、仮定した電子ペアの波動関数を代入してみましょう。
| \psi \rangle = A \int d\xi_1 \cdots \int d\xi_N \frac{1}{\sqrt{N!}} \psi_{s_1}(\boldsymbol{r}_1)^{\dagger} \cdots \psi_{s_N}(\boldsymbol{r}_N)^{\dagger} |0 \rangle \Psi_2(1,2)\Psi_2(3,4) \cdots \Psi_2(N-1,N)
となります。ここで$A$は波動関数を規格化するための係数とします。それぞれの座標が分離されているので、
| \psi \rangle = \frac{A}{\sqrt{N!}} \prod_i \int d\xi_i \int d\xi_{i+1} \psi_{s_i}(\boldsymbol{r}_i)^{\dagger} \psi_{s_{i+1}}(\boldsymbol{r}_{i+1})^{\dagger} |0 \rangle \Psi_2(i,i+1)
= \frac{A}{\sqrt{N!}} \left( \int d\xi_1 \int d\xi_{2} \psi_{s_1}(\boldsymbol{r}_1)^{\dagger} \psi_{s_{2}}(\boldsymbol{r}_{2})^{\dagger} \Psi_2(1,2) \right)^{N/2} |0 \rangle
\equiv A' (\hat{Q}^{\dagger})^{N/2} |0 \rangle
とまとまります。ここで、
\hat{Q}^{\dagger} \equiv \frac{1}{2} \int d\xi_1 \int d\xi_{2} \Psi_2(1,2) \psi_{s_1}(\boldsymbol{r}_1)^{\dagger} \psi_{s_{2}}(\boldsymbol{r}_{2})^{\dagger}
と定義しました。$A'$は適当な規格化因子です。
この$\hat{Q}^{\dagger}$は何者でしょうか? 一様系かつスピンシングレットの場合に関して、より具体的な形を求めてみましょう。
一様系かつスピンシングレットの超伝導体の場合、2粒子束縛状態の波動関数は
\Psi_2(1,2) = \phi(\boldsymbol{r}_1 - \boldsymbol{r}_2) (\delta_{s_1 \uparrow} \delta_{s_2 \downarrow} - \delta_{s_1 \downarrow} \delta_{s_2 \uparrow})
と書くことができます。また、一様系を考えている場合には、
\phi(\boldsymbol{r}_1 - \boldsymbol{r}_2) = \frac{1}{V} \sum_{\boldsymbol{k}} e^{i \boldsymbol{k} \cdot (\boldsymbol{r}_1- \boldsymbol{r}_2)} \phi_{\boldsymbol{k}}
とフーリエ変換できるでしょう。$V$は系の体積とします。これらを$\hat{Q}^{\dagger}$の式に代入すると、
\hat{Q}^{\dagger} = \frac{1}{2} \int d\xi_1 \int d\xi_{2}
\frac{1}{V} \sum_{\boldsymbol{k}} e^{i \boldsymbol{k} \cdot (\boldsymbol{r}_1- \boldsymbol{r}_2)} \phi_{\boldsymbol{k}}
(\delta_{s_1 \uparrow} \delta_{s_2 \downarrow} - \delta_{s_1 \downarrow} \delta_{s_2 \uparrow})
\psi_{s_1}(\boldsymbol{r}_1)^{\dagger} \psi_{s_{2}}(\boldsymbol{r}_{2})^{\dagger}
= \frac{1}{2 } \int d\boldsymbol{r}_1 \int d\boldsymbol{r}_{2}
\frac{1}{V} \sum_{\boldsymbol{k}} e^{i \boldsymbol{k} \cdot (\boldsymbol{r}_1- \boldsymbol{r}_2)} \phi_{\boldsymbol{k}}
(\psi_{\uparrow}(\boldsymbol{r}_1)^{\dagger} \psi_{\downarrow}(\boldsymbol{r}_{2})^{\dagger} - \psi_{\downarrow}(\boldsymbol{r}_1)^{\dagger} \psi_{\uparrow}(\boldsymbol{r}_{2})^{\dagger} )
= \frac{1}{2 }\sum_{\boldsymbol{k}}\phi_{\boldsymbol{k}}
\left[
\left( \int d\boldsymbol{r}_1 e^{i \boldsymbol{k} \cdot \boldsymbol{r}_1} \psi_{\uparrow}(\boldsymbol{r}_1)^{\dagger} \right)
\left( \int d\boldsymbol{r}_2 e^{-i \boldsymbol{k} \cdot \boldsymbol{r}_2} \psi_{\downarrow}(\boldsymbol{r}_2)^{\dagger} \right)
-
\left( \int d\boldsymbol{r}_1 e^{i \boldsymbol{k} \cdot \boldsymbol{r}_1} \psi_{\downarrow}(\boldsymbol{r}_1)^{\dagger} \right)
\left( \int d\boldsymbol{r}_2 e^{-i \boldsymbol{k} \cdot \boldsymbol{r}_2} \psi_{\uparrow}(\boldsymbol{r}_2)^{\dagger} \right)
\right]
となります。
ここで、波数$\boldsymbol{k}$、スピン$s$の電子を生成する生成演算子を
c_{\boldsymbol{k} s}^{\dagger} \equiv \frac{1}{\sqrt{V}} \psi_{s}(\boldsymbol{k})^{\dagger} e^{i \boldsymbol{k} \cdot \boldsymbol{r}}
と定義すれば、
\hat{Q}^{\dagger} = \frac{1}{2 }\sum_{\boldsymbol{k}}\phi_{\boldsymbol{k}}
\left[ c_{\boldsymbol{k} \uparrow}^{\dagger} c_{-\boldsymbol{k} \downarrow}^{\dagger} -c_{\boldsymbol{k} \downarrow}^{\dagger} c_{-\boldsymbol{k} \uparrow}^{\dagger} \right]
となり、$c_{\boldsymbol{k} s}^{\dagger}$の反交換関係を用いれば、
= \frac{1}{2 }\sum_{\boldsymbol{k}} \left[ \phi_{\boldsymbol{k}} + \phi_{-\boldsymbol{k}} \right]
c_{\boldsymbol{k} \uparrow}^{\dagger} c_{-\boldsymbol{k} \downarrow}^{\dagger}
になります。最後に、
\phi(\boldsymbol{r}_1 - \boldsymbol{r}_2)=\phi(\boldsymbol{r}_2 - \boldsymbol{r}_1)
から$\phi_{-\boldsymbol{k}} = \phi_{\boldsymbol{k}}$なので、
\hat{Q}^{\dagger} = \sum_{\boldsymbol{k}}\phi_{\boldsymbol{k}}
c_{\boldsymbol{k} \uparrow}^{\dagger} c_{-\boldsymbol{k} \downarrow}^{\dagger}
が得られます。
この式を見ると、$\hat{Q}^{\dagger} $という演算子は「波数$\boldsymbol{k}$でスピンアップの電子と波数$-\boldsymbol{k}$でスピンダウンの電子をまとめて生成する」演算子であることが分かります。つまり、「波数$\boldsymbol{k}$でスピンアップの電子と波数$-\boldsymbol{k}$でスピンダウンの電子」のペアであるCooperペアを生成する演算であり、「Cooper対演算子」と呼ばれます。
BCS波動関数へ
Cooperペアが$N/2$個ある多体の波動関数が
|\psi \rangle = A (\hat{Q}^{\dagger})^{N/2} | 0\rangle
と書けることが分かりました。
一様系でスピンシングレットの場合には
\hat{Q}^{\dagger} = \sum_{\boldsymbol{k}}\phi_{\boldsymbol{k}}
c_{\boldsymbol{k} \uparrow}^{\dagger} c_{-\boldsymbol{k} \downarrow}^{\dagger}
と書けますから、
|\psi \rangle = A
\sum_{\boldsymbol{k}_1},\cdots \sum_{\boldsymbol{k}_{N/2}}
\phi_{\boldsymbol{k}} \cdots \phi_{\boldsymbol{k}_{N/2}}
c_{\boldsymbol{k}_1 \uparrow}^{\dagger} c_{-\boldsymbol{k}_1 \downarrow}^{\dagger} \cdots c_{\boldsymbol{k}_{N/2} \uparrow}^{\dagger} c_{-\boldsymbol{k}_{N/2} \downarrow}^{\dagger}
| 0\rangle
となります。これで大分簡単になりましたが、それでも波数の和が$N/2$個もあり、これでは何も計算できません。もう少し簡単な形はないでしょうか?
BCS(Bardeen Cooper Schrieffer)は、上の波動関数ではなく、超伝導状態の波動関数として以下のような波動関数を考えました。
| \psi^{BCS} \rangle \equiv A \sum_{n=0}^{\infty} \frac{\hat{Q}^n}{n!} | 0 \rangle = A \exp \left[\hat{Q}^{\dagger} \right] |0 \rangle
演算子の指数関数は上であるようにテイラー展開で定義されています。$n$の和をとっているのが不思議に見えますね。もし$n=N/2$の部分だけ取り出せば、この波動関数は上で定義した$N$個の電子からなる時のCooperペアの波動関数になっています。異なる$n$で足し上げているということは、「電子の数が異なる状態を足し上げている」ことになります。電子の数は$N$と決めていたはずなのに、このような暴挙(?)が許されるのでしょうか? 統計力学をやったことのある方は、粒子数が保存していない系としてグランドカノニカル分布を思い出すと良いと思います。粒子数が保存しているカノニカル分布でも保存していないグランドカノニカル分布でも、体積無限大の極限で熱力学的に等価になっていましたよね。これと同じことが起きていると考えてください。フェルミオンを扱うとき、カノニカル分布ではなくグランドカノニカル分布を使った方が扱いやすいのと同じく、超伝導もグランドカノニカル分布で扱っている、と考えるのです。なお、実験的に粒子数が固定された超伝導の実験は行われており、この時はカノニカル分布のBCS波動関数というものを使わないといけないことは知られています。
コヒーレント状態
演算子が指数関数の肩に乗っている形は、実は量子力学で別の形で登場しています。つまり、
|\alpha \rangle = \exp \left[ - \frac{|\alpha|^2}{2} + \alpha \hat{a} \right] |0 \rangle
という状態は、粒子を生成する演算子を$\hat{a}$としたときに「コヒーレント状態」と呼ばれます。光の場合、これはレーザーを表す状態であり、「粒子の位相が揃っている」状態です。
BCS波動関数の場合、$\hat{Q}^{\dagger}$は「Cooperペアを生成する」演算子ですから、BCS波動関数は$\hat{Q}^{\dagger}$に関する「コヒーレント状態」であり、「Cooperペアの位相が揃っている」ことを意味しています。
つまり、波動関数$| \psi^{BCS} \rangle$を特徴づける位相は1つです。
言い換えれば、「非常にたくさんの電子があるにもかかわらず、位相が一つに定まっている」ということで、これは「マクロな波動関数」であると言えます。ギンツブルグランダウ(GL)理論をやったことがある方であれば、「マクロな波動関数が存在する」がGL理論における仮定であったことを思い出してください。BCS波動関数はGL理論における仮定を「導出」したことになります。
Cooperペアはボソンなのか
上のコヒーレント状態は、光子の例からわかりますように、ボソンに対する状態です。では、演算子$\hat{Q}^{\dagger}$で生成されるCooperペアはボソンなのでしょうか?
それを確認するためには、演算子を$\hat{Q}^{\dagger} = \alpha \hat{a}^{\dagger}$として、$\hat{a}$がボソンの交換関係:
[\hat{a},\hat{a}^{\dagger}] = \hat{a}\hat{a}^{\dagger} - \hat{a}^{\dagger} \hat{a} = 1
を満たすかどうかを調べれば良いです。計算は上でやったことと似たことをやればできますが、計算は長くなるので省略します。
結果的には、
[\hat{Q}^{\dagger},\hat{Q}] = \alpha^2 - \sum_{s_1',s_2',s_2} \int d\boldsymbol{r}_1' d\boldsymbol{r}_2' d\boldsymbol{r}_2' \psi_{s_2}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_2) \Phi_2(s_1',\boldsymbol{r}_1',s_2,\boldsymbol{r}_2) \Phi_2^{\ast}(s_1',\boldsymbol{r}_1',s_2',\boldsymbol{r}_2') \psi_{s_2'}(\boldsymbol{r}_2')
となります。もし、
\Phi_2(s_1',\boldsymbol{r}_1',s_2,\boldsymbol{r}_2) \Phi_2^{\ast}(s_1',\boldsymbol{r}_1',s_2',\boldsymbol{r}_2') \sim 0
とみなせるのであれば、第一項のみが残ることになり、
[\hat{Q}^{\dagger},\hat{Q}] \sim \alpha^2
となります、Cooperペアがボソンであることを示すことができます。
上の条件は、Cooperペアが広がっておらずぎゅっと狭い範囲にいる場合には、二つのCooperペアの波動関数が重なり合わないので満たされます。つまり「分子のように」小さくまとまっている場合には、Cooperペアはボソンとみなせるのです。
なお、通常の超伝導体ではこの条件を満たしておらず、厳密なボソンではありません。一方、相互作用が強い場合にはこの条件を満たすことがあり、この時はCooperペアをボソンとみなした時のボースアインシュタイン凝縮として超伝導を理解することができます。この状態をBEC状態と呼びます。レーザー冷却された原子集団を考える実験ではレーザーを調整することで相互作用の強さを変化させることができます。この時、BECからBCSへの滑らかな変化が起き、「BEC-BCSクロスオーバー」と呼ばれています。解説はこちらなどがあります。
BCS波動関数
上で定義した演算子の指数関数で書かれた状態は、一様系の場合はさらに簡単にすることができます。一様系スピンシングレットの場合のCooperペア生成演算子を代入すると、
| \psi^{BCS} \rangle = A \exp \left[\sum_{\boldsymbol{k}}\phi_{\boldsymbol{k}}
c_{\boldsymbol{k} \uparrow}^{\dagger} c_{-\boldsymbol{k} \downarrow}^{\dagger} \right] |0 \rangle
となります。これは、
| \psi^{BCS} \rangle = A \prod_{\boldsymbol{k}} \exp \left[\phi_{\boldsymbol{k}}
c_{\boldsymbol{k} \uparrow}^{\dagger} c_{-\boldsymbol{k} \downarrow}^{\dagger} \right] |0 \rangle = A \prod_{\boldsymbol{k}}
\sum_{n=0}^{\infty} \frac{(\phi_{\boldsymbol{k}}
c_{\boldsymbol{k} \uparrow}^{\dagger} c_{-\boldsymbol{k} \downarrow}^{\dagger})^{n}}{n!} |0 \rangle
となります。さらに、フェルミオンの生成演算子は
c^{\dagger} c^{\dagger} | 0 \rangle = 0
となりますから(パウリの排他律)、同じ演算子が複数回現れる項は全て消え、
| \psi^{BCS} \rangle = A \prod_{\boldsymbol{k}} (1 + \phi_{\boldsymbol{k}}
c_{\boldsymbol{k} \uparrow}^{\dagger} c_{-\boldsymbol{k} \downarrow}^{\dagger})|0 \rangle
となり、かなり簡単化されます。
さらに、規格化因子$A$と$\phi_{\boldsymbol{k}} $をまとめる形で整理して、
| \psi^{BCS} \rangle = \prod_{\boldsymbol{k}} (u_{\boldsymbol{k}} + v_{\boldsymbol{k}}
c_{\boldsymbol{k} \uparrow}^{\dagger} c_{-\boldsymbol{k} \downarrow}^{\dagger})|0 \rangle
とします。最後に、波動関数が規格化されているとして、
\langle \psi^{BCS} | \psi^{BCS} \rangle = 1
という条件を課すことで、
\langle \psi^{BCS} | \psi^{BCS} \rangle = \prod_{\boldsymbol{k}} \prod_{\boldsymbol{k}'} \langle 0 | (u_{\boldsymbol{k}}^{\ast} + v_{\boldsymbol{k}}^{\ast}
c_{-\boldsymbol{k} \downarrow} c_{\boldsymbol{k} \uparrow})
(u_{\boldsymbol{k}} + v_{\boldsymbol{k}}
c_{\boldsymbol{k} \uparrow}^{\dagger} c_{-\boldsymbol{k} \downarrow}^{\dagger})|0 \rangle = \prod_{\boldsymbol{k}} \langle 0 (|u_{\boldsymbol{k}} |^2 + |v_{\boldsymbol{k}}|^2 )|0 \rangle = 1
となり、
| \psi^{BCS} \rangle = \prod_{\boldsymbol{k}} (u_{\boldsymbol{k}} + v_{\boldsymbol{k}}
c_{\boldsymbol{k} \uparrow}^{\dagger} c_{-\boldsymbol{k} \downarrow}^{\dagger})|0 \rangle, \: \: |u_{\boldsymbol{k}} |^2 + |v_{\boldsymbol{k}}|^2 = 1
がBCSの波動関数となります。
より深く学びたい方へ
この粒子数が定まっていない波動関数と粒子数が定まっている波動関数との違いや、金属状態の波動関数との違いについてなど、まだまだ書いていないことはたくさんあります。
特に
-
ここで導入したBCS波動関数はそもそも電子のハミルトニアンの固有状態になっているのか
-
有限温度のときの超伝導転移はどうなっているのか
-
実験で測定できる物理量がどうなるのか
-
電気抵抗ゼロとマイスナー効果をどう説明するのか
など、気になることがいろいろあります。
この記事の前段階の部分と後段階の部分は、北さんの統計力学から理解する超伝導理論と丹羽さんの超伝導の基礎に書いてありますので、より深く学びたい方はこれらを参考にしてください。
なお、2020年度と2021年度にはこの内容と似た内容の講義(超伝導とトポロジカル物性についての講義)を学習院大学の3年生向けに行いましたので(2021年度現在。今後のことは未定)、学部生でも理解できる内容になっているはず(と期待している)です。