第二量子化の気持ちについて考えてみます。よりきっちりと理解したい方は田崎さんのノートを参考にしてください。ここではざっくりとした理解を目指します。
第二量子化とは何か?
そもそも、第二量子化とはなんでしょうか?第二とついているので、2回量子化をしているのでしょうか? 結論から言えば「互いに区別できない粒子を取り扱う便利な枠組みであり、従来の量子力学の定式化と等価」です。
従来の方法
まず、従来の方法についておさらいします。
シュレーディンガー方程式
1粒子の時間に依存しないシュレーディンガー方程式は
$$
[T(\boldsymbol{r}) + V(\boldsymbol{r})] \psi(\boldsymbol{r}) = E \psi(\boldsymbol{r})
$$
と書けます。ここで、$T(\boldsymbol{r}) $は運動エネルギーの演算子で、1次元の場合は$T(\boldsymbol{r}) = T(x) =-(\hbar^2/2m) d^2/dx^2$です。$V(\boldsymbol{r})$はポテンシャルエネルギーです。そして、2粒子の場合は
$$
[T(\boldsymbol{r}_1)+ T(\boldsymbol{r}_2) + V(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2)] \psi(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2) = E \psi(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2)
$$
となります。これらの方程式を解けば電子の振る舞いなどがわかるわけです。ここで、$\psi(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2)$の意味ですが、「粒子に仮に名前をつけて、粒子1が座標$\boldsymbol{r}_1$にいて粒子2が座標$\boldsymbol{r}_2$にいる時の波動関数の振幅」です。ですので、粒子2が座標$\boldsymbol{r}_1$にいて粒子1が座標$\boldsymbol{r}_2$がいる時の波動関数の振幅は$\psi(\boldsymbol{r}_2,\boldsymbol{r}_1)$となります。何を当たり前のことをわざわざ?と思う方がいるかもしれませんが、ここがポイントです。
区別できない粒子
さて、今回私たちが考えるのは電子だとします。電子には(その他の量子にも)興味深い性質があり、「二つの電子を互いに区別することができません」。言い換えれば「便宜的に名前をつけたとしても、その名前を入れ替えても物理的には何も変わらない」ということです。粒子1、粒子2と呼んでいたものを、粒子2、粒子1と呼んでも全くかまいませんし、そのように入れ替えた時の波動関数は物理的に等価である必要があります。ここで、「物理的に等価」という意味ですが、量子力学では、位相だけ異なった波動関数は物理的に等価な波動関数です。ですので、名前を付け替えても
$$
\psi(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2) = \zeta \psi(\boldsymbol{r}_2,\boldsymbol{r}_1)
$$
という関係が成り立たなければなりません。ここで、$\zeta$は位相ですので、絶対値が1の複素数です。さらに、名前の付け替えをもう一度行っても
$$
\psi(\boldsymbol{r}_2,\boldsymbol{r}_1) = \zeta \psi(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2)
$$
のような関係があります。つまり、下の式を代入すると、
$$
\psi(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2) = \zeta^2 \psi(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2)
$$
となりまして、$\zeta^2 = \pm 1$となります。$\zeta$が+1か-1のどちらになるかは粒子の種類で決まっていまして、電子は$\zeta = -1$です(フェルミオンは-1、ボゾンは+1となります)。つまり、2粒子の波動関数は
$$
\psi(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2) = - \psi(\boldsymbol{r}_2,\boldsymbol{r}_1)
$$
という関係を必ず満たさなければなりません。
シュレーディンガー方程式の解き方
電子はシュレーディンガー方程式に従って運動しており、かつ、上の関係式を満たしてなければなりません。言い換えれば、上に書いたシュレーディンガー方程式は$\psi(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2) = - \psi(\boldsymbol{r}_2,\boldsymbol{r}_1)$を満たしていません。そこで、シュレーディンガー方程式を解いた後に、$\psi(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2) = - \psi(\boldsymbol{r}_2,\boldsymbol{r}_1)$を満たすような解を構成することになります。シュレーディンガー方程式は線形な微分方程式ですから、一般解を求めた後に、条件を満たすように解を構成することになります。
一番簡単な例を見て、考えてみましょう。ポテンシャルが$V(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2) = V(\boldsymbol{r}_1) + V(\boldsymbol{r}_2)$と書けるような系を考えてみます。この時のシュレーディンガー方程式は
$$
[T(\boldsymbol{r}_1) +V(\boldsymbol{r}_1)]\psi(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2) + [T(\boldsymbol{r}_2) + V(\boldsymbol{r}_2)] \psi(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2) = E \psi(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2)
$$
と書けます。
ここで、1粒子のシュレーディンガー方程式
$$
[T(\boldsymbol{r}) +V(\boldsymbol{r})] \phi_i(\boldsymbol{r}) = \epsilon_i \phi_i(\boldsymbol{r})
$$
は解けているとします。この時、$\psi(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2) = \phi_i(\boldsymbol{r}_1) \phi_j(\boldsymbol{r}_2)$という解を仮定すると、
$$
[T(\boldsymbol{r}_1) +V(\boldsymbol{r}_1)]\phi_i(\boldsymbol{r}_1) \phi_j(\boldsymbol{r}_2) + [T(\boldsymbol{r}_2) + V(\boldsymbol{r}_2)] \phi_i(\boldsymbol{r}_1) \phi_j(\boldsymbol{r}_2) = E \phi_i(\boldsymbol{r}_1) \phi_j(\boldsymbol{r}_2)
$$
$$
\epsilon_i \phi_i(\boldsymbol{r}_1) \phi_j(\boldsymbol{r}_2) + \epsilon_j \phi_i(\boldsymbol{r}_1) \phi_j(\boldsymbol{r}_2) = E \phi_i(\boldsymbol{r}_1) \phi_j(\boldsymbol{r}_2)
$$
となりますから、固有値$E$は$E = \epsilon_i + \epsilon_j$となり、$\psi(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2) = \phi_i(\boldsymbol{r}_1) \phi_j(\boldsymbol{r}_2)$はシュレーディンガー方程式の解となっています。しかし、この解は、電子が満たすべき関係$\psi(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2) = - \psi(\boldsymbol{r}_2,\boldsymbol{r}_1)$を満たしていません。従って、電子の波動関数としては不適です。ではどうすればよいでしょうか?その解決策は、
$$
\psi(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2) = \phi_i(\boldsymbol{r}_1) \phi_j(\boldsymbol{r}_2) - \phi_i(\boldsymbol{r}_1) \phi_j(\boldsymbol{r}_1)
$$
です。シュレーディンガー方程式は線形な方程式ですから、第一項も第二項も問題なく方程式を満たすことがわかりますし、その和も当然満たします。そして、第二項にマイナスの符号をつけたおかげで、粒子1と粒子2の入れ替えをするとマイナスの符号ででて、電子の波動関数の条件を満たします。あとは、波動関数は確率ですので規格化条件をちゃんと課して係数を決めてあげれば(この場合は$1/\sqrt{2}$)、2電子の波動関数が決まります。ここでは2つの電子を考えましたが、2粒子ならまだなんとかできたとしても、粒子が増えてくるとこの方法でやるのは大変になってくることがわかります。
解き方のまとめ
上をまとめると、電子の波動関数を求める方法は
- シュレーディンガー方程式を解く
- 解いた得られた解の線型結合を用いて$\psi(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2) = - \psi(\boldsymbol{r}_2,\boldsymbol{r}_1)$となるように解を構成する
という二段構えになっていることがわかります。しかしこれ、少しまどろっこしい気がしませんか? 初めから2の条件が満たされた解だけが出てくるシュレーディンガー方程式があったら、便利だと思いませんか?これが「第二量子化による方法」です。
第二量子化の方法
やりたいこと
電子は互いに区別がつかないために、シュレーディンガー方程式には追加の条件$\psi(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2) = - \psi(\boldsymbol{r}_2,\boldsymbol{r}_1)$(2粒子の場合)がある。初めから条件を考慮した状態でシュレーディンガー方程式を考えることは可能か?可能だとすればどんな形か?
やりたいことを実現するためには、最初にあげたシュレーディンガー方程式が唯一の表現ではないことを知る必要があります。
さまざまな表現方法
簡単のため1粒子の問題を考えます。1粒子の波動関数を$\psi(\boldsymbol{r})$とします。この時、$\psi(\boldsymbol{r})$は、「ある粒子が座標$\boldsymbol{r}$にいる時の値が$\psi(\boldsymbol{r})$になっている」ということを意味しています。当たり前ですね。次に、この波動関数をフーリエ変換して
$$
\psi(\boldsymbol{k}) = \int d\boldsymbol{r} \psi(\boldsymbol{r}) e^{i \boldsymbol{k} \cdot \boldsymbol{r}}
$$
としてみます(フーリエ変換の係数はここでは気にしないことにします)。この$\psi(\boldsymbol{k})$は、「ある粒子が"座標"$\boldsymbol{k}$にいる時の値が$\psi(\boldsymbol{k})$になっている」ということを意味しています。これもまあ当たり前ですね。$\psi(\boldsymbol{k})$を用いると$\psi(\boldsymbol{r})$は逆フーリエ変換で
$$
\psi(\boldsymbol{r}) = \int d\boldsymbol{k} \psi(\boldsymbol{k}) e^{-i \boldsymbol{k} \cdot \boldsymbol{r}}
$$
で書けます。この式を冒頭に出てきた1粒子のシュレーディンガー方程式に代入すると、
$$
\int d\boldsymbol{k} \psi(\boldsymbol{k}) T(\boldsymbol{r})e^{-i \boldsymbol{k} \cdot \boldsymbol{r}}+ \int d\boldsymbol{k} \psi(\boldsymbol{k}) V(\boldsymbol{r})e^{-i \boldsymbol{k} \cdot \boldsymbol{r}}= E \int d\boldsymbol{k} \psi(\boldsymbol{k}) e^{-i \boldsymbol{k} \cdot \boldsymbol{r}}
$$
となり、$T(\boldsymbol{r})$は$\boldsymbol{r}$が含まれず微分演算子$\boldsymbol{\nabla}$のみが含まれるような演算子だとすると(運動エネルギー演算子はいつもそうなっています)、左から$e^{i \boldsymbol{k}' \cdot \boldsymbol{r}}$をかけて$\boldsymbol{r}$で積分すると
$$
\int d\boldsymbol{k} \psi(\boldsymbol{k}) T(\boldsymbol{k})\int d\boldsymbol{r} e^{-i (\boldsymbol{k}-\boldsymbol{k}') \cdot \boldsymbol{r}}+ \int d\boldsymbol{k} \psi(\boldsymbol{k}) \int d\boldsymbol{r} V(\boldsymbol{r})e^{-i (\boldsymbol{k}-\boldsymbol{k}') \cdot \boldsymbol{r}}= E \int d\boldsymbol{k} \psi(\boldsymbol{k}) \int d\boldsymbol{r} e^{-i (\boldsymbol{k}-\boldsymbol{k}') \cdot \boldsymbol{r}}
$$
となりますが、平面波のフーリエ変換がデルタ関数になることを利用すれば、
$$
T(\boldsymbol{k}) \psi(\boldsymbol{k}) + \int d\boldsymbol{k} \left[ \int d\boldsymbol{r} V(\boldsymbol{r})e^{-i (\boldsymbol{k}-\boldsymbol{k}') \cdot \boldsymbol{r}} \right] \psi(\boldsymbol{k}) = E \psi(\boldsymbol{k})
$$
となり、$V(\boldsymbol{k}',\boldsymbol{k}) \equiv \int d\boldsymbol{r} V(\boldsymbol{r})e^{-i (\boldsymbol{k}-\boldsymbol{k}') \cdot \boldsymbol{r}}$とすれば、
$$
T(\boldsymbol{k}) \psi(\boldsymbol{k}) + \int d\boldsymbol{k} V(\boldsymbol{k}',\boldsymbol{k}) \psi(\boldsymbol{k}) = E \psi(\boldsymbol{k}')
$$
という形になります。これは「ある粒子が"座標"$\boldsymbol{k}$にいる時の値が$\psi(\boldsymbol{k})$になっている」時の$\psi(\boldsymbol{k})$が従うべき方程式ですから、これもシュレーディンガー方程式です。「波数表示」のシュレーディンガー方程式ですね。
このフーリエ変換によるシュレーディンガー方程式の変形を一般化すると、波動関数$\psi(\boldsymbol{r})$がある関数$\psi(\boldsymbol{g})$によって表現されており、
$$
\psi(\boldsymbol{r}) = \int d\boldsymbol{g} U(\boldsymbol{r},\boldsymbol{g}) \psi(\boldsymbol{g})
$$
$U(\boldsymbol{r},\boldsymbol{g})$が
$$
\int d\boldsymbol{r} U(\boldsymbol{r},\boldsymbol{g}')^{\ast} U(\boldsymbol{r},\boldsymbol{g}) = \delta(\boldsymbol{g}-\boldsymbol{g}')
$$
及び
$$
\int d\boldsymbol{g} U(\boldsymbol{r},\boldsymbol{g})U(\boldsymbol{r},\boldsymbol{g}')^{\ast} = \delta(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}')
$$
という関係を満たすときには、
$$
\psi(\boldsymbol{g}) = \int d\boldsymbol{r} U(\boldsymbol{r},\boldsymbol{g}')^{\ast} \psi(\boldsymbol{r})
$$
が得られ、これを用いたシュレーディンガー方程式は
$$
\int d\boldsymbol{g} \left[ T(\boldsymbol{g}',\boldsymbol{g}) + V(\boldsymbol{g}',\boldsymbol{g}) \right] \psi(\boldsymbol{g}) = E \psi(\boldsymbol{g}')
$$
という形に書けるはずです。この場合、「ある粒子が"座標"$\boldsymbol{g}$にいる時の値が$\psi(\boldsymbol{g})$になっている」時の$\psi(\boldsymbol{g})$が従うべき方程式です。
ここで、上の条件:
$$
\int d\boldsymbol{r} U(\boldsymbol{r},\boldsymbol{g}')^{\ast} U(\boldsymbol{r},\boldsymbol{g}) = \delta(\boldsymbol{g}-\boldsymbol{g}')
$$
が、パラメータ$\boldsymbol{g}$をもつ$U(\boldsymbol{r},\boldsymbol{g})$の集団が完全規格直交系となるための条件になっていることに注意してください。これは、異なるパラメータ$\boldsymbol{g}$をもつ場合の内積がゼロで、同じものであれば1、ということを意味しています。そして、この条件を満たすような$U(\boldsymbol{r},\boldsymbol{g})$を持ってきてやれば、シュレーディンガー方程式を書き換えることができるわけです。
また、関数の内積、という観点から見ると、
$$
\psi(\boldsymbol{r}) = \int d\boldsymbol{g} U(\boldsymbol{r},\boldsymbol{g}) \psi(\boldsymbol{g})
$$
は、「関数$ U(\boldsymbol{r},\boldsymbol{g}) $と関数$\psi(\boldsymbol{g})$との内積をすると$\psi(\boldsymbol{r})$が出る」ことを意味しています。
第二量子化にむけて
さて、完全規格直交系となるような関数の集団を用意してやればシュレーディンガー方程式を書き換えることができることがわかりました。次は、「粒子が互いに区別できない」という条件があらかじめ入ったシュレーディンガー方程式を得ることが目的です。そのためには、この条件があらかじめ入った関数の集団で完全規格直交系を組めばよいということになります。その際、
- $\psi(\boldsymbol{r})$との関係が明らかになっていること(いつでも$\psi(\boldsymbol{r}) $に戻せること)。2粒子なら$\psi(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2)$。
- $\psi(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2) = - \psi(\boldsymbol{r}_2,\boldsymbol{r}_1)$(2粒子の場合)が満たされていること
が必要です。1.の条件は、完全規格直交系をなす関数であれば、$ U(\boldsymbol{r},\boldsymbol{g}) $とその成分$\psi(\boldsymbol{g})$との内積によっていつでも$\psi(\boldsymbol{r})$が得られますから、2に着目すればよいわけです。
第二量子化
より抽象化
上の議論で出てきた$U(\boldsymbol{r},\boldsymbol{g})$から条件2を満たすような関数を構成することを考えてもよいのですが、複数変数をもつ関数$f(x,y)$は、「1番目の変数がx、2番目の変数がy」という「順番の情報」が必然的に現れてしまっていて、条件2を満たすのは簡単ではなさそうです。そこで、上の議論をもう少し一般化することで、条件2を満たせるような「完全規格直交系」を考えてみましょう。
1粒子の場合
最初に、1粒子の場合をより抽象的にしてみましょう。
まず、「関数$ U(\boldsymbol{r},\boldsymbol{g}) $と関数$\psi(\boldsymbol{g})$との内積をすると$\psi(\boldsymbol{r})$が出る」ことを考えて、
$$
\psi(\boldsymbol{r}) = \langle \boldsymbol{r} | \psi \rangle
$$
というものを定義します。ここで、$\langle \boldsymbol{r} |$をブラベクトル$\boldsymbol{r}$、$| \psi \rangle$をケットベクトル$\psi$と呼びます。英語のbracket(括弧)から来ています。ここでは、$\langle \boldsymbol{r} |$と$| \psi \rangle$が何であるかはまだ定義していません。そして、$\langle \boldsymbol{r} | \psi \rangle$をブラベクトルとケットベクトルの「内積」と呼ぶことにします。ブラベクトルとケットベクトルが何かはまだ定義していませんが、とにかく何らかの「ベクトル」の「内積」だということにします。そして、$\langle \boldsymbol{r} |$はまだ未定義ですが、
$$
\langle \boldsymbol{r} | \boldsymbol{r}' \rangle = \delta(\boldsymbol{r}' - \boldsymbol{r} )
$$
という条件が$\langle \boldsymbol{r} |$と$| \boldsymbol{r}' \rangle$の間には満たされているとします。このとき、そもそも同じ$\boldsymbol{r}$をもつブラベクトル$\langle \boldsymbol{r} |$とケットベクトル$| \boldsymbol{r} \rangle$の関係もまだ定義されていないことに注意してください。プログラミングで言えば、枠組みだけ作って中身を実装していないクラスみたいな感じですね。
ブラベクトルとケットベクトルの正体はわかりませんが、内積を定義したことによって、形式的には、パラメータ$\boldsymbol{r} $をもつ$| \boldsymbol{r} \rangle$が完全規格直交系をなすことになります。
次に、このケットベクトル$| \boldsymbol{r} \rangle$が完全規格直交系をなすことから、任意のケットベクトル$| \psi \rangle$は
$$
| \psi \rangle = \int d\boldsymbol{r} | \boldsymbol{r} \rangle \psi(\boldsymbol{r})
$$
と書くことができます。なぜなら、このように書けば、最初に定義した$\psi(\boldsymbol{r})$がきちんと出てくるからです。
さて、あとは、ケットベクトル$| \boldsymbol{r} \rangle$を定義すれば、我々は新しい表現方法を得たことになります。ここで、これまでのような関数で表しても、粒子が区別できないという性質を表すことが難しいことを思い出してください。関数には引数があり、何番目の引数に何が入っているかで関数の値が変わってしまいます。今は1粒子なので関数でも構いませんが、2粒子以降に対応するためには、普通の関数ではないものでケットベクトルを定義すべきでしょう。
粒子が区別できないことを積極的に表すために、「粒子1がある場所にある」という表現をやめて、「ある場所に粒子がある」としてみます。日本語的には同じような意味に読めますが、注目する対象が入れ替わっていることに注意してください。前者は粒子を手に持ってある場所に置いてくるイメージですが、後者はある場所を指定してそこに粒子を置くイメージです。そして、後者はその粒子の名前がないことにも注意してください。さらに、このイメージを突き詰めていきます。区別できない粒子である、ということを気にしたいので、粒子をリバーシ(あるいはオセロ)の駒で例えてみます。粒子がある場所にある時、駒が盤面のどこかにあると思ってみてください。駒は互いに区別がつきませんので、二つ駒を置いても、駒1とか駒2とかは呼べません。そこで、このような駒が置いてある状態を「盤面のある場所に駒を置いた」と表現します。盤面を$|0 \rangle$として、場所$\boldsymbol{r}$に駒がある状態を
$$
\hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r})|0 \rangle
$$
と書きます。ここで、$\hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r})$は「盤面の場所$\boldsymbol{r}$に駒を付け加える」ことを意味します。そして、$|0 \rangle$は何も駒が置かれていない盤面です。駒を粒子とすれば、これはそのまま$| \boldsymbol{r} \rangle$の定義に使えます。
$$
| \boldsymbol{r} \rangle \equiv \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r})|0 \rangle
$$
ここで、$|0 \rangle$は粒子が何もないもの、すなわち「真空」です。1粒子の段階では$\hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r})$がなんなのか、まだ定義していません。これの定義は、「粒子が互いに区別できない」ことを反映するように行います。そのためには、2粒子以降を考える必要があります。
2粒子の場合
2粒子の時も1粒子の時と同じようにケットベクトルを導入してみましょう。つまり、2粒子の波動関数$| \psi \rangle$を
$$
| \psi \rangle = \int d\boldsymbol{r}_1' \int d\boldsymbol{r}_2'| \boldsymbol{r}_1', \boldsymbol{r}_2' \rangle \psi(\boldsymbol{r}_1', \boldsymbol{r}_2')
$$
と定義してしまいます。この時、ケットベクトル$| \boldsymbol{r}_1', \boldsymbol{r}_2' \rangle $はどのような性質を持っているべきでしょうか?
まず、$\psi(\boldsymbol{r}_1', \boldsymbol{r}_2') $が電子の波動関数の条件$\psi(\boldsymbol{r}_1', \boldsymbol{r}_2') = -\psi(\boldsymbol{r}_2', \boldsymbol{r}_1') $を満たしているとします。この時、
$$
| \psi \rangle = \int d\boldsymbol{r}_1' \int d\boldsymbol{r}_2'| \boldsymbol{r}_1', \boldsymbol{r}_2' \rangle (- \psi(\boldsymbol{r}_2', \boldsymbol{r}_1'))
$$
$$
= \int d\boldsymbol{r}_2' \int d\boldsymbol{r}_1'| \boldsymbol{r}_2', \boldsymbol{r}_1' \rangle (- \psi(\boldsymbol{r}_1', \boldsymbol{r}_2'))
$$
となりますから、
$$
| \boldsymbol{r}_2', \boldsymbol{r}_1' \rangle = - | \boldsymbol{r}_1', \boldsymbol{r}_2' \rangle
$$
という条件が必要です。
そして、1粒子の時と同じように、粒子を区別しないようにするためにはリバーシ(オセロ)の盤面と駒を考えればよいですから、
$$
| \boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2 \rangle \equiv \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_1) \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_2)|0 \rangle
$$
というものを考えてみます。これは、一つの粒子が$\boldsymbol{r}_1$に、もう一つの粒子が$\boldsymbol{r}_2$にいることを意味しているとします。また、$| \boldsymbol{r}_2', \boldsymbol{r}_1' \rangle = - | \boldsymbol{r}_1', \boldsymbol{r}_2' \rangle$という条件を満たすためには、
$$
| \boldsymbol{r}_2, \boldsymbol{r}_1 \rangle = \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_2) \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_1)|0 \rangle =
-\hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_1) \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_2)|0 \rangle
$$
となる必要があります。つまり、$\hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r})$に関して
$$
\hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_2) \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_1) = -\hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_1) \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_2)
$$
という条件が必要です。もし$\hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r})$が普通の数であれば、この条件は満たしません。普通の数であれば$ab = ba$となりますので。つまり、$\hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r})$は普通の数ではあり得ないということになります。この$\hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r})$を「演算子」と呼びましょう。特に、粒子を何もない場所$|0\rangle$に付け加えている演算子ですから、これを「生成演算子」と呼びます。
次に、まだ定義していなかったブラベクトル$\langle \boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2 |$をどのように定義すればよいかを考えます。しかし、2粒子のブラベクトルを定義する前に、そもそも1粒子のブラベクトル$\langle \boldsymbol{r} |$を定義していませんでした。ですので先に1粒子のブラベクトルを定義しましょう。1粒子のブラベクトルは、規格直交条件$\langle \boldsymbol{r}' | \boldsymbol{r} \rangle = \delta(\boldsymbol{r} -\boldsymbol{r}')$を満たす必要があります。そこで、$\langle \boldsymbol{r} |$が
$$
\langle \boldsymbol{r} | = \langle 0 | A(\boldsymbol{r})
$$
のような形で書けているとします。ここで、$A(\boldsymbol{r})$はまだ未定義です。この時、
$$
\langle \boldsymbol{r}' | \boldsymbol{r} \rangle = \langle 0 | A(\boldsymbol{r}')\hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r})|0 \rangle = \delta(\boldsymbol{r} -\boldsymbol{r}')
$$
となるように$A(\boldsymbol{r})$を決める必要があります。ここで、
$$
A(\boldsymbol{r}')\hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}) + \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}) A(\boldsymbol{r}') = \delta(\boldsymbol{r} -\boldsymbol{r}')
$$
という関係を満たし、
$$
A(\boldsymbol{r}) | 0 \rangle = 0
$$
となるような$A(\boldsymbol{r})$を用意したとしましょう。また、
$$
\langle 0 | 0 \rangle = 1
$$
と約束しておきます。
この時、
$$
\langle \boldsymbol{r}' | \boldsymbol{r} \rangle = \langle 0 |
\left[- \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}) A(\boldsymbol{r}') + \delta(\boldsymbol{r} -\boldsymbol{r}')\right]|0 \rangle = \delta(\boldsymbol{r} -\boldsymbol{r}')
$$
となります。この$A(\boldsymbol{r})$は、実は「消滅演算子」と呼ばれており、通常は$A(\boldsymbol{r}) = \hat{\psi}(\boldsymbol{r})$と書かれています。消滅演算子と呼ばれている理由は、2粒子状態のケットベクトルに対してこの演算子を作用させると、
$$
\hat{\psi}(\boldsymbol{r}) | \boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2 \rangle =
\hat{\psi}(\boldsymbol{r}) \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_1) \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_2)|0 \rangle
$$
$$
= \left[ -\hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_1) \hat{\psi}(\boldsymbol{r}) + \delta(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}_1) \right] \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_2)|0 \rangle
$$
$$
= \delta(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}_1) \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_2)|0 \rangle -\hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_1) \left[ -\hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_2) \hat{\psi}(\boldsymbol{r}) + \delta(\boldsymbol{r}_2-\boldsymbol{r}) \right] |0 \rangle
$$
$$
= \delta(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}_1) \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_2)|0 \rangle - \delta(\boldsymbol{r}_2-\boldsymbol{r}) \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_1) |0 \rangle
$$
$$
= \delta(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}_1)|\boldsymbol{r}_2 \rangle - \delta(\boldsymbol{r}_2-\boldsymbol{r})|\boldsymbol{r}_1 \rangle
$$
となり、粒子が1つ減るからです。そして、1粒子状態のケットベクトルに作用させると、
$$
\hat{\psi}(\boldsymbol{r}) | \boldsymbol{r}_1 \rangle = \hat{\psi}(\boldsymbol{r}) \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_1) |0 \rangle
$$
$$
= (- \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_1) \hat{\psi}(\boldsymbol{r}) + \delta(\boldsymbol{r}_1-\boldsymbol{r}) |0 \rangle = \delta(\boldsymbol{r}_1-\boldsymbol{r}) |0 \rangle
$$
となり、やはり粒子が1つ減ります。ということで、$\hat{\psi}(\boldsymbol{r})$は消滅演算子という名前になっています。
まとめると、$\hat{\psi}(\boldsymbol{r})$と$\hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r})$は
$$
[\hat{\psi}(\boldsymbol{r}),\hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}')]_+ = \hat{\psi}(\boldsymbol{r}) \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}') + \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}') \hat{\psi}(\boldsymbol{r}) = \delta(\boldsymbol{r} -\boldsymbol{r}')
$$
\left[ \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}'),\hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}) \right]_{+}=0
という関係があります。ここで$[A,B]_+ = AB+BA$を「反交換」と呼びます。
これで2粒子のブラベクトルも定義できるようになりました。つまり、1粒子と同様に、
$$
\langle \boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2 | \equiv \langle 0 | \hat{\psi}(\boldsymbol{r}_2)\hat{\psi}(\boldsymbol{r}_1)
$$
とすれば良さそうです。また、$\langle \boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2 | = -\langle \boldsymbol{r}_2, \boldsymbol{r}_1 |$となるようにすると、
$$
[\hat{\psi}(\boldsymbol{r}),\hat{\psi}(\boldsymbol{r}')]_+ =0
$$
という関係も必要です。
これでやっと2粒子のブラベクトルとケットベクトルの内積がどうなるかがわかるようになりました。上で出てきた関係式(反交換関係と呼びます)を用いると、
$$
\langle \boldsymbol{r}_1', \boldsymbol{r}_2' | \boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2 \rangle = \langle 0 | \hat{\psi}(\boldsymbol{r}_2')\hat{\psi}(\boldsymbol{r}_1') | \boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2 \rangle =
\langle 0 | \hat{\psi}(\boldsymbol{r}_2') \left[\delta(\boldsymbol{r}_1'-\boldsymbol{r}_1)|\boldsymbol{r}_2 \rangle - \delta(\boldsymbol{r}_2-\boldsymbol{r}_1')|\boldsymbol{r}_1 \rangle \right]
$$
$$
= \langle 0 | \left[\delta(\boldsymbol{r}_2'-\boldsymbol{r}_2) \delta(\boldsymbol{r}_1'-\boldsymbol{r}_1)|0 \rangle - \delta(\boldsymbol{r}_1-\boldsymbol{r}_2') \delta(\boldsymbol{r}_2-\boldsymbol{r}_1')|0 \rangle \right]
$$
$$
= \delta(\boldsymbol{r}_1'-\boldsymbol{r}_1) \delta(\boldsymbol{r}_2'-\boldsymbol{r}_2) - \delta(\boldsymbol{r}_2-\boldsymbol{r}_1') \delta(\boldsymbol{r}_1-\boldsymbol{r}_2')
$$
となります。
この内積を使って、任意のケットベクトル$| \psi \rangle$に$\langle \boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2 |$を作用させた結果を見てみましょう。定義通りに計算すると、
$$
\langle \boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2 | \psi \rangle = \int d\boldsymbol{r}_1' \int d\boldsymbol{r}_2'\langle \boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2 | \boldsymbol{r}_1', \boldsymbol{r}_2' \rangle \psi(\boldsymbol{r}_1', \boldsymbol{r}_2')
$$
$$
= \int d\boldsymbol{r}_1' \int d\boldsymbol{r}_2'
\left[
\delta(\boldsymbol{r}_1'-\boldsymbol{r}_1) \delta(\boldsymbol{r}_2'-\boldsymbol{r}_2)- \delta(\boldsymbol{r}_2-\boldsymbol{r}_1') \delta(\boldsymbol{r}_1-\boldsymbol{r}_2')
\right]
\psi(\boldsymbol{r}_1', \boldsymbol{r}_2')
= \psi(\boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2) - \psi(\boldsymbol{r}_2, \boldsymbol{r}_1)
$$
となります。つまり、$\psi(\boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2)$が電子の波動関数の条件を満たしていなくても、$\Psi(\boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2 ) \equiv \langle \boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2 | \psi \rangle$は電子の波動関数の条件を満たしています。従って、ケットベクトル$| \psi \rangle$に関するシュレーディンガー方程式(ここではまだ未定義)の解がわかれば、「粒子の区別がつかない」という性質を反映させた解が自動的に求まることになります。つまり、
- ケットベクトルを用いたシュレーディンガー方程式(ここではまだ未定義)を解き、$| \psi \rangle$を求める。
- 解いた$| \psi \rangle$から$\Phi(\boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2) = \langle \boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2 | \psi \rangle$を計算すれば、$\Phi(\boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2)$はシュレーディンガー方程式を満たし、かつ、「粒子は区別がつかない」という条件を満たしている。
ことになります。$\langle \boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2 | \psi \rangle$は単なる内積ですから、常に簡単に計算できます。
なお、もし$\psi(\boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2) = -\psi(\boldsymbol{r}_2, \boldsymbol{r}_1)$を満たしていた時には、
$$
\langle \boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2 | \psi \rangle = \psi(\boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2) + \psi(\boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2) = 2 \psi(\boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2)
$$
となってしまうので、$| \boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2 \rangle$を
$$
| \boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2 \rangle \equiv \frac{1}{\sqrt{2} }\hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_1) \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_2)|0 \rangle
$$
と定義し直すことにします。この定義であれば、
$$
\langle \boldsymbol{r}_1', \boldsymbol{r}_2' | \boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2 \rangle = \frac{1}{2} \left[
\delta(\boldsymbol{r}_1'-\boldsymbol{r}_1) \delta(\boldsymbol{r}_2'-\boldsymbol{r}_2) - \delta(\boldsymbol{r}_2-\boldsymbol{r}_1') \delta(\boldsymbol{r}_1-\boldsymbol{r}_2')
\right]
$$
となり、$\psi(\boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2) = -\psi(\boldsymbol{r}_2, \boldsymbol{r}_1)$となる$\psi(\boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2)$のときに
$$
\langle \boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2 | \psi \rangle = \frac{1}{2} \psi(\boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2) + \psi(\boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2) = \psi(\boldsymbol{r}_1, \boldsymbol{r}_2)
$$
を得ることができます。
N粒子の場合
興味深いことに、生成消滅演算子の反交換関係をそのままに、
$$
| \psi \rangle \equiv \int d\boldsymbol{r}_1 \cdots \int d\boldsymbol{r}_N |\boldsymbol{r}_1,\cdots,\boldsymbol{r}_N \rangle \psi(\boldsymbol{r}_1,\cdots,\boldsymbol{r}_N)
$$
及び
$$
|\boldsymbol{r}_1,\cdots,\boldsymbol{r}_N \rangle \equiv \frac{1}{\sqrt{N!}} \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_1) \cdots \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_N)|0 \rangle
$$
を定義しておくと、$\Psi( \boldsymbol{r}_1,\cdots,\boldsymbol{r}_N) \equiv \langle \boldsymbol{r}_1,\cdots,\boldsymbol{r}_N| \psi \rangle$は必ず「粒子は区別できない」という性質を満たします。つまり、$\psi(\boldsymbol{r}_1,\cdots,\boldsymbol{r}_N)$自体はこの性質を満たしていなくても、$| \psi \rangle$さえ作っておけば条件を満たすことができます。従って、この「第二量子化」の方法を用いれば、
- $\psi(\boldsymbol{r}_1,\cdots,\boldsymbol{r}_N)$を作ってから$\langle \boldsymbol{r}_1,\cdots,\boldsymbol{r}_N| \psi \rangle$によって電子として相応しい解を得る
- $| \psi \rangle$に関するシュレーディンガー方程式を解いて、$\langle \boldsymbol{r}_1,\cdots,\boldsymbol{r}_N| \psi \rangle$によって電子として相応しい解を得る
という2通りの方法を取ることができるようになります。1.は超伝導の微視的理論であるBCS理論の波動関数を求める際に使います。2.は非常に便利なので広範囲に使われています。
ここでのポイントはブラベクトル、ケットベクトル、生成消滅演算子、という風変わりな概念を用いたとしても、常に元のシュレーディンガー方程式の解$\Psi( \boldsymbol{r}_1,\cdots,\boldsymbol{r}_N)$に戻ることができるということです。つまり、第二量子化による方法は普通に量子力学を解いた場合と等価な解を与えます。
ハミルトニアンとシュレーディンガー方程式
ケットベクトルを使うと電子の「互いに区別がつかない」という性質を満たすことができることがわかりました。あとは、ケットベクトルを使った場合のシュレーディンガー方程式の表現がわかればよいわけです。どのようにシュレーディンガー方程式を変形すればよいでしょうか。
そのヒントはこれまで見てきた1粒子の表現にあります。
空間座標の波動関数の表式からあるパラメータ$\boldsymbol{g}$の表式へと移った時は、シュレーディンガー方程式に$T(\boldsymbol{g},\boldsymbol{g}')$のような項がありました。これは
$$
H(\boldsymbol{g},\boldsymbol{g}') = \int d\boldsymbol{r} U(\boldsymbol{r},\boldsymbol{g})h(\boldsymbol{r}) U(\boldsymbol{r},\boldsymbol{g}')
$$
という形でした。ここで、$h(\boldsymbol{r}) = T(\boldsymbol{r}) + V(\boldsymbol{r}) $でして、1粒子のハミルトニアンです。ここで、シュレーディンガー方程式は
$$
\int d\boldsymbol{g}' H(\boldsymbol{g},\boldsymbol{g}') \psi(\boldsymbol{g}') = E \psi(\boldsymbol{g})
$$
ですから、$\boldsymbol{g}'$を添字とみなせば、形式的には
H^{\boldsymbol{g}} \boldsymbol{\psi}_{\boldsymbol{g}} = E \boldsymbol{\psi}_{\boldsymbol{g}}
のように"行列"と"ベクトル"の固有値問題になります。ですので、ケットベクトルで書かれたシュレーディンガー方程式は
$$
{\hat H} | \psi \rangle = E | \psi \rangle
$$
という固有値問題になると予想されます。したがって、${\hat H}$がどのような形をしているかがわかればよいわけです。
まず、$H^{\boldsymbol{g}} $がどのように求まるかを見てみましょう。シュレーディンガー方程式の両辺に左から$\psi(\boldsymbol{g})^{\ast}$をかけて$\boldsymbol{g}$で積分すると、
$$
\int d\boldsymbol{g}\int d\boldsymbol{g}' \psi(\boldsymbol{g})^{\ast} H(\boldsymbol{g},\boldsymbol{g}') \psi(\boldsymbol{g}') = E
$$
となります。
一方、元々のシュレーディンガー方程式の両辺に$\psi(\boldsymbol{r} )^{\ast}$をかけて$\boldsymbol{r}$で積分したものは、
$$
\int d\boldsymbol{r} \psi(\boldsymbol{r})^{\ast} h(\boldsymbol{r}) \psi(\boldsymbol{r}) = E
$$
です。上の$\boldsymbol{g}$に関する式に$H(\boldsymbol{g},\boldsymbol{g}') $の定義式を代入すると、$\boldsymbol{r}$に関する式に戻ることがわかります。「左から$\psi(\boldsymbol{g})^{\ast}$をかけて$\boldsymbol{g}$で積分」、という操作は、ベクトルで言うところの$\vec{x}^T$をかけているようなものです。
つまり、ケットベクトルの場合は${\hat H} $の形を決めて、$\langle \psi | {\hat H} | \psi \rangle$を計算し、それを元の$\boldsymbol{r}$に関する式に戻すことができれば、その${\hat H} $は正しい形になっていることがわかります。
上の例では1粒子問題を考えていましたが、本当は多粒子のシュレーディンガー方程式を考える必要があります。多粒子のシュレーディンガー方程式が
\left[ \sum_i T(\boldsymbol{r}_i) + \sum_{i,j,i < j} V(\boldsymbol{r}_i - \boldsymbol{r}_j)\right] \psi(\boldsymbol{r}_1,\cdots,\boldsymbol{r}_N) = E \psi(\boldsymbol{r}_1,\cdots,\boldsymbol{r}_N)
と書けているとしましょう。第一項はN個の粒子の運動エネルギー項、第二項は二体の相互作用の項です。現実の世界で働く力はクーロン力などの二つの粒子に働く力ですから、三つ以上の粒子が絡むような相互作用はとりあえず考える必要はないでしょう。
このシュレーディンガー方程式に左から$\psi(\boldsymbol{r}_1,\cdots,\boldsymbol{r}_N)^{\ast}$をかけて$\boldsymbol{r}_1,\cdots,\boldsymbol{r}_N$で積分すると、
\int d\boldsymbol{r}_1 \cdots d \boldsymbol{r}_N \psi(\boldsymbol{r}_1,\cdots,\boldsymbol{r}_N)^{\ast} \left[ \sum_i T(\boldsymbol{r}_i) + \sum_{i,j,i < j} V(\boldsymbol{r}_i - \boldsymbol{r}_j)\right] \psi(\boldsymbol{r}_1,\cdots,\boldsymbol{r}_N) = E
となりますので、$\langle \psi | {\hat H} | \psi \rangle$がこれと同じになるように${\hat H}$を決めます。
1粒子演算子
まず、運動エネルギーの項:$\sum_i T(\boldsymbol{r}_i) $を考えてみます。突然ですが、答えを先に述べると、ケットベクトルを使った時の対応する演算子を$\hat{T}$とすると、
\hat{T} = \int d\boldsymbol{r} \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}) T(\boldsymbol{r}) \hat{\psi}(\boldsymbol{r})
となります。これが本当に正しいかを調べるために、$\langle \psi | {\hat T} | \psi \rangle$を計算してみます。簡単のため、$N=2$を考えます。まず、
\hat{\psi}(\boldsymbol{r})| \psi \rangle = \int d\boldsymbol{r}_1' \int d\boldsymbol{r}_2' \hat{\psi}(\boldsymbol{r}) | \boldsymbol{r}_1', \boldsymbol{r}_2' \rangle \psi(\boldsymbol{r}_1', \boldsymbol{r}_2')
$$
= \frac{1}{\sqrt{2}} \int d\boldsymbol{r}_1' \int d\boldsymbol{r}_2' \left[ \delta(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}_1')|\boldsymbol{r}_2' \rangle \psi(\boldsymbol{r}_1', \boldsymbol{r}_2') - \delta(\boldsymbol{r}_2'-\boldsymbol{r})|\boldsymbol{r}_1' \rangle \psi(\boldsymbol{r}_1', \boldsymbol{r}_2') \right]
$$
$$
= \frac{1}{\sqrt{2}} \int d\boldsymbol{r}_2' |\boldsymbol{r}_2' \rangle \psi(\boldsymbol{r}, \boldsymbol{r}_2') - \frac{1}{\sqrt{2}} \int d\boldsymbol{r}_1'|\boldsymbol{r}_1' \rangle \psi(\boldsymbol{r}_1', \boldsymbol{r})
$$
となり、$\psi(\boldsymbol{r}_1', \boldsymbol{r}) = -\psi(\boldsymbol{r},\boldsymbol{r}_1') $を使えば、
$$
\hat{\psi}(\boldsymbol{r})| \psi \rangle = \sqrt{2} \int d\boldsymbol{r}_2' |\boldsymbol{r}_2' \rangle \psi(\boldsymbol{r}, \boldsymbol{r}_2')
$$
となります。また、ブラベクトルとケットベクトルの「内積」が定義されているので、$\langle \psi | \psi^{\dagger}(\boldsymbol{r}) = (\psi(\boldsymbol{r})|\psi \rangle )^{\dagger}$という複素共役関係が成立っていますから、$\langle \psi | {\hat T} | \psi \rangle$は
$$
\langle \psi | {\hat T} | \psi \rangle = 2 \int d\boldsymbol{r} \int d\boldsymbol{r}_1' \int d\boldsymbol{r}_2' \psi(\boldsymbol{r}, \boldsymbol{r}_1')^{\ast} \langle \boldsymbol{r}_1' |\boldsymbol{r}_2' \rangle T(\boldsymbol{r}) \psi(\boldsymbol{r}, \boldsymbol{r}_2')
$$
$$
= 2 \int d\boldsymbol{r} \int d\boldsymbol{r}_1' \psi(\boldsymbol{r}, \boldsymbol{r}_1')^{\ast} T(\boldsymbol{r}) \psi(\boldsymbol{r}, \boldsymbol{r}_1')
$$
$$
= \int d\boldsymbol{r} \int d\boldsymbol{r}_1' \psi(\boldsymbol{r}, \boldsymbol{r}_1')^{\ast} T(\boldsymbol{r}) \psi(\boldsymbol{r}, \boldsymbol{r}_1') + \int d\boldsymbol{r} \int d\boldsymbol{r}_2' \psi(\boldsymbol{r}, \boldsymbol{r}_2')^{\ast} T(\boldsymbol{r}) \psi(\boldsymbol{r}, \boldsymbol{r}_2')
$$
$$
= \int d\boldsymbol{r} \int d\boldsymbol{r}_1' \psi(\boldsymbol{r}_1',\boldsymbol{r})^{\ast} T(\boldsymbol{r}) \psi(\boldsymbol{r}_1',\boldsymbol{r} ) + \int d\boldsymbol{r} \int d\boldsymbol{r}_2' \psi(\boldsymbol{r}, \boldsymbol{r}_2')^{\ast} T(\boldsymbol{r}) \psi(\boldsymbol{r}, \boldsymbol{r}_2')
$$
$$
= \int d\boldsymbol{r}_1' \int d\boldsymbol{r}_2' \psi(\boldsymbol{r}_1',\boldsymbol{r}_2')^{\ast} T(\boldsymbol{r}_2') \psi(\boldsymbol{r}_1',\boldsymbol{r}_2') + \int d\boldsymbol{r}_1' \int d\boldsymbol{r}_2' \psi(\boldsymbol{r}_1', \boldsymbol{r}_2')^{\ast} T(\boldsymbol{r}_1') \psi(\boldsymbol{r}_1', \boldsymbol{r}_2')
$$
$$
= \int d\boldsymbol{r}_1 d\boldsymbol{r}_2 \psi(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2)^{\ast} \sum_i T(\boldsymbol{r}_i) \psi(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2)
$$
となり、ちゃんと$ \sum_i T(\boldsymbol{r}_i) $が出てきました。
2粒子演算子
2粒子演算子も1粒子演算子の時のように正解を見つけてくればよいのですが、$\sum_{i,j,i < j} V(\boldsymbol{r}_i - \boldsymbol{r}_j)$に対応するケットベクトル表示での対応物$\hat{V}$は
$$
\hat{V} = \frac{1}{2} \int d\boldsymbol{r}_1 d\boldsymbol{r}_2 \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_1)\hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_2) V(\boldsymbol{r}_i - \boldsymbol{r}_j) \hat{\psi}(\boldsymbol{r}_2) \hat{\psi}(\boldsymbol{r}_1)
$$
と書けます。これも$\langle \psi | {\hat V} | \psi \rangle$を計算することで、元のシュレーディンガー方程式の表示が導出されることがわかります。ひたすら計算するだけですので、やってみたい方はやってみるとよいでしょう。
まとめ
上では2粒子の場合を考えていましたが、興味深いことに、$N$粒子でも同じ形になります。つまり、1変数の和で書かれていた項は
$$
\sum_i h(\boldsymbol{r}_i) \rightarrow \int d\boldsymbol{r} \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}) h(\boldsymbol{r}) \hat{\psi}(\boldsymbol{r})
$$
となり、2変数で書かれていた和は
$$
\sum_{i,j,i < j} V(\boldsymbol{r}_i - \boldsymbol{r}_j) \rightarrow \frac{1}{2} \int d\boldsymbol{r}_1 d\boldsymbol{r}_2 \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_1) \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}_2) V(\boldsymbol{r}_i - \boldsymbol{r}_j) \hat{\psi}(\boldsymbol{r}_2) \hat{\psi}(\boldsymbol{r}_1)
$$
となります。これが第二量子化のハミルトニアンです。繰り返しになりますが、第二量子化は何かを2回量子化したというよりは、「粒子の区別がつかない」ことを積極的に波動関数に取り込んだことによって得られたものです。つまり、普通のシュレーディンガー方程式と表現が異なるだけで等価な枠組みです。
第二量子化の威力を実感する
最後に、第二量子化の威力を実感してみましょう。相互作用のない電子系を考えます。この時、シュレーディンガー方程式が
\sum_i \left[\frac{1}{2m} \boldsymbol{\nabla}^2_i + V(\boldsymbol{r}_i) \right] \psi(\boldsymbol{r}_1,\cdots,\boldsymbol{r}_N) = E \psi(\boldsymbol{r}_1,\cdots,\boldsymbol{r}_N)
と書けているとします。また、1粒子のシュレーディンガー方程式
\left[\frac{1}{2m} \boldsymbol{\nabla}^2 + V(\boldsymbol{r}) \right] \phi_n(\boldsymbol{r}) = \epsilon_n \phi_n(\boldsymbol{r})
のエネルギー固有値と固有関数はわかっているとします。この時、このシュレーディンガー方程式を第二量子化で解いてみましょう。
まず、ハミルトニアンは
\sum_i \left[\frac{1}{2m} \boldsymbol{\nabla}_i^2 + V(\boldsymbol{r}_i) \right] \rightarrow \int d\boldsymbol{r} \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}) \left[ \frac{1}{2m} \boldsymbol{\nabla}^2 + V(\boldsymbol{r}) \right] \hat{\psi}(\boldsymbol{r})
となります。
この時、
- $\hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r})$: 位置$\boldsymbol{r}$に局在した粒子を付け加える演算子
と考えると、
- $c_n^{\dagger}$: $\phi_n(\boldsymbol{r})$という広がりを持つ粒子を付け加える演算子
というものを定義しても良さそうに思います。この演算子は位置$\boldsymbol{r}$で重み$\phi_n(\boldsymbol{r})$で粒子が生成されていると考えれば、
c_n^{\dagger} \equiv \int d\boldsymbol{r} \phi_n(\boldsymbol{r}) \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r})
と定義できます。一方、$\phi_n(\boldsymbol{r})$は完全規格直交系をなすので、$\hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r})$と$\hat{\psi}(\boldsymbol{r})$は
\hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}) \equiv \sum_n c_n^{\dagger} \phi_n(\boldsymbol{r})^{\ast}
及び
\hat{\psi}(\boldsymbol{r}) \equiv \sum_n c_n \phi_n(\boldsymbol{r})
と書けます。なお、$c_n$は反交換関係$[c_n,c_m^{\dagger}]+ = \delta{nm}$を満たすことを示せます。
この生成消滅演算子を用いた形でハミルトニアンに代入すると
H = \int d\boldsymbol{r} \hat{\psi}^{\dagger}(\boldsymbol{r}) \left[ \frac{1}{2m} \boldsymbol{\nabla}^2 + V(\boldsymbol{r}) \right] \hat{\psi}(\boldsymbol{r}) = \int d\boldsymbol{r} \sum_{n,n'} \phi_n(\boldsymbol{r})^{\ast} \left[ \frac{1}{2m} \boldsymbol{\nabla}^2 + V(\boldsymbol{r}) \right] \phi_{n'}(\boldsymbol{r}) c_n^{\dagger} c_{n'}
となりますが、$\phi_{n'}(\boldsymbol{r})$が1粒子のシュレーディンガー方程式の解を満たすことを用いれば、
H = \sum_n \epsilon_n c_n^{\dagger} c_n
と簡単な形になります。
このハミルトニアンに対するシュレーディンガー方程式は
H | \psi \rangle = E | \psi \rangle
ですが、この方程式を満たす解は
| \psi \rangle = c_{q_1}^{\dagger} c_{q_2}^{\dagger} \cdots c_{q_N}^{\dagger} |0 \rangle
となることがわかります。ここで、$q_1, \cdots, q_N$は好きな$n$の組み合わせです。また、$| 0 \rangle$は$c_n | 0 \rangle = 0$となるような状態で、$c_n$で表現される粒子がひとつもいない「真空」を表している状態です。
また、その時のエネルギーは
E = \sum_{i} \epsilon_{q_i}
となります。
絶対零度では一番低いエネルギーの状態が表れているとすれば、$\epsilon_{q_i}$の和が一番小さくなる$q_1, \cdots, q_N$の組み合わせが実現することになります。そこで、$\epsilon_1 < \epsilon_2 < \cdots < \epsilon_N$のようなエネルギーの組み合わせを用意すれば、
| \psi \rangle = c_{1}^{\dagger} c_{2}^{\dagger} \cdots c_{N}^{\dagger} |0 \rangle
が一番エネルギーが低い状態です。全エネルギーは
E = \sum_{\epsilon_1 < \epsilon_2 < \cdots < \epsilon_N} \epsilon_{q_i}
です。
つまり、「1粒子のエネルギーが小さい順に電子を詰めていった状態が一番エネルギーが低い」ことを意味しています。これはフェルミオンにおけるフェルミ準位まで電子が詰まった状態です。ちゃんとフェルミオンの状態が出てきました。
以上から、第二量子化によるハミルトニアンを解くことさえできれば、フェルミオンの性質をちゃんと満たした波動関数が出てくるわけです。