はじめに
本解説は「電磁気ってニガテ…」「インピーダンスってなんだったっけ…」という大学生向けの記事となっています。
私のように、高校のころから電磁気学に対して苦手意識がありつつも、理工学部というよくわからない施設に迷い込んでしまった…!(!?)という方に、理解しやすいように解説したいと思います。
インピーダンスとは
「交流回路 において "抵抗のようなもの"」。
つまり、交流回路ではインピーダンスを抵抗だと思って扱ってよいです。
インピーダンス \fallingdotseq 抵抗
交流回路であることに注意!
ちなみに…
抵抗は英語で "resistance"。
インピーダンスは英語で "impedance" と書き、動詞 "impede" の名詞化(+"-ance")です。
resist [他動詞] 「~に抵抗する」
impede [他動詞] 「~を妨げる」
たしかに、抵抗と妨げって意味も似てますね。
インピーダンスの定義
抵抗
抵抗 $R$ は、電圧 $V$ を 電流 $I$ で割ったものでした。
R=\frac{V}{I}
インピーダンス
インピーダンス $Z$ は、抵抗と同様に、「電圧 $V$ を 電流 $I$ で割ったもの」と定義されます。
\dot{Z} = \frac{\dot{V}}{\dot{I}}
複素表示
$Z,V,I$ の上の " $\cdot$ " は微分記号ではなく、「複素数」を表す記号です。
この表記法を 複素表示 といいます。
\dot{Z} = a + ib \qquad (a,b: 実数, \; i: 虚数単位)
複素数を使う理由は、計算がラクだからです。
単位
インピーダンスの単位も、抵抗と同じく オーム [Ω] です。
複素表示の注意点
電流 $I$、電圧 $V$、インピーダンス $Z$ などの複素表示を一般に $\dot{X}$ と書くことにします。
\begin{align}
\dot{X} &= a + ib \qquad (a,b: 実数)\quad\\
&= |\dot{X}|e^{i(\omega t+\theta)}
\end{align}
複素表示の 虚数部分 $b$ は、 計算上必要なだけで、実際にはなんの意味も持ちません。
実際に意味をもつのは、
- 実数: $a \quad(\;= |\dot{X}|\cos(\omega t + \theta)\;)$
- 位相: $\omega t+\theta \quad$
- 振幅: $|\dot{X}|$
の値です。実数部分が波の関数になります。($a$ は $t$ の関数なので正確に書けば $a(t)$ ですね)
虚数部分に意味はない
抵抗・コイル・コンデンサーのインピーダンス
交流回路における抵抗・コイル・コンデンサーのインピーダンスは一般に次のように表せることが知られています。
これらは微分方程式を解くことにより導出できるが省略。(詳しく知りたい方はこちらを参照されたい。)
以下は暗記してしまいましょう。
抵抗
抵抗 $R$ の抵抗のインピーダンス $\dot{Z}$ は、
\dot{Z} = R
コイル
インダクタンス $L$ のコイルのインピーダンス $\dot{Z}$ は、
\dot{Z} = i \omega L
コンデンサー
静電容量 $C$ のコンデンサーのインピーダンス $\dot{Z}$ は、
\dot{Z} = \frac{1}{i \omega C}
各素子のインピーダンス
- 抵抗: $\dot{Z} = R$
- コイル: $\dot{Z} = i \omega L$
- コンデンサー: $\dot{Z} = \frac{1}{i \omega C}$
例
例1: 抵抗とコイルを直列につなぐ
思い出してほしいのが、抵抗 $R_1, R_2$ を直列につなぐと、全体の抵抗 $R$ は、
R = R_1 + R_2
であったこと。この公式がインピーダンスでも使えます。
インピーダンスが $\dot{Z_1}, \dot{Z_2}$ の電子部品を直列につなぐと、全体のインピーダンス $\dot{Z}$ は、
\dot{Z} = \dot{Z_1} + \dot{Z_2}
となります。したがって、$R$ の抵抗と $L$ のコイルを直列につなぐと、全体のインピーダンス $\dot{Z}$ は、
\dot{Z} = R + i \omega L
となります。
例2: 抵抗とコンデンサーを並列につなぐ
こちらも思い出してほしいのですが、抵抗 $R_1, R_2$ を並列につなぐと、全体の抵抗 $R$ は、
\frac{1}{R} = \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2}
でした。この公式がインピーダンスでも使えます。
インピーダンスが $\dot{Z_1}, \dot{Z_2}$ の電子部品を並列につなぐと、全体のインピーダンス $\dot{Z}$ は、
\frac{1}{\dot{Z}} = \frac{1}{\dot{Z_1}} + \frac{1}{\dot{Z_2}}
となります。したがって、$R$ の抵抗と $C$ のコンデンサーを並列につなぐと、全体のインピーダンス $\dot{Z}$ は、
\begin{align}
\frac{1}{\dot{Z}} &= \frac{1}{R} + \cfrac{1}{\cfrac{1}{i \omega C}}\\
&= \frac{1 + i\omega CR}{R}\\
\\
\dot{Z} &= \frac{R}{1 + i\omega CR}
\end{align}
と求まります。
インピーダンスの合成は、抵抗の合成と同様に計算できる!
休憩
とりあえずここまで分かれば、大学でやる電子回路の基礎は大丈夫でしょう。
ここからは、高校物理を振り返り、複素表示とどのようにつながっているかを解説します。
もうお腹いっぱいの方は、これ以降の文章は読まなくても大丈夫です。
高校物理とのつながり
高校物理では、交流電圧が $V(t) = V_0 \cos (\omega t + \theta_0)$ のとき、各素子を流れる電流 $I(t)$ について学びました。
コイル
高校物理では、
コイルを流れる電流 $I_L(t)$ の位相 $\theta_L$ は、$V(t)$ の位相 $\theta_0$ よりも $\displaystyle \frac{\pi}{2}$ だけ遅れている。
I_L(t) = I_0 \cos \Bigl(\omega t + \theta_0 - \frac{\pi}{2} \Bigr)
と習いました。これを複素表示にするとどうなるでしょうか?
$\dot{I_L}(t)$ は、
\begin{align}
\dot{I_L}(t) &= I_0 e^{i (\omega t +\theta_0 - \frac{\pi}{2})}\\
&= I_0 \cdot e^{-\frac{\pi}{2}i}\cdot e^{i(\omega t +\theta_0)}\\
&= I_0 \cdot \Bigl( \cos\bigl(-\frac{\pi}{2}\bigr)+i\sin\bigl(-\frac{\pi}{2}\bigr) \Bigr)\cdot e^{i(\omega t +\theta_0)} \\
&= I_0 \cdot (-i) \cdot e^{i(\omega t +\theta_0)}\\
&= -iI_0e^{i(\omega t +\theta_0)}
\end{align}
と変形できるから、$V(t), I_L(t)$ を複素表示すると、
\begin{align}
\dot{V}(t) &= V_0 e^{i(\omega t +\theta_0)}\\
\dot{I_L}(t) &= -iI_0e^{i(\omega t +\theta_0)}
\end{align}
と書けます。
よって、インピーダンス $\dot{Z}$ は、
\begin{align}
\dot{Z} &= \frac{V_0 e^{i(\omega t +\theta_0)}}{-iI_0e^{i(\omega t +\theta_0)}}\\
&= i\frac{V_0}{I_0}
\end{align}
となりました。ここで、 $V_0/I_0 = \omega L$ を代入すると、
\dot{Z} = i\omega L
となり、先ほど学んだ「コイルのインピーダンス」が導けます。
つまり、ここで言いたいことは、 $i$ によって位相の遅れを表現している ということです。
コンデンサー
高校物理では、
コンデンサーを流れる電流 $I_C(t)$ の位相 $\theta_C$ は、$V(t)$ の位相 $\theta_0$ よりも $\displaystyle \frac{\pi}{2}$ だけ進んでいる。
I_C(t) = I_0 \cos \Bigl(\omega t + \theta_0 + \frac{\pi}{2} \Bigr)
と習いました。$\dot{I_C}(t)$ は、
\begin{align}
\dot{I_C}(t) &= I_0 e^{i (\omega t +\theta_0 + \frac{\pi}{2})}\\
&= I_0 \cdot e^{\frac{\pi}{2}i}\cdot e^{i(\omega t +\theta_0)}\\
&= I_0 \cdot \Bigl( \cos\bigl(\frac{\pi}{2}\bigr)+i\sin\bigl(\frac{\pi}{2}\bigr) \Bigr)\cdot e^{i(\omega t +\theta_0)} \\
&= I_0 \cdot i \cdot e^{i(\omega t +\theta_0)}\\
&= iI_0e^{i(\omega t +\theta_0)}
\end{align}
と変形できるから、$V(t), I_C(t)$ を複素表示すると、
\begin{align}
\dot{V}(t) &= V_0 e^{i(\omega t +\theta_0)}\\
\dot{I_C}(t) &= iI_0e^{i(\omega t +\theta_0)}
\end{align}
と書けます。
よって、インピーダンス $\dot{Z}$ は、
\begin{align}
\dot{Z} &= \frac{V_0 e^{i(\omega t +\theta_0)}}{iI_0e^{i(\omega t +\theta_0)}}\\
&= \frac{V_0}{iI_0}
\end{align}
となりました。ここで、 $V_0/I_0 = 1/\omega C$ を代入すると、
\dot{Z} = \frac{1}{i\omega C}
となり、先ほど学んだ「コンデンサーのインピーダンス」が導けます。
つまり、ここで言いたいことは、 $i$ によって位相の進みを表現している ということです。
高校物理では位相を図で考えなきゃいけなかったけど、大学物理では複素数のおかげでとりま計算しとけば分かるのです!
$i$ のおかげで世界は平和
あとがき
さて、インピーダンスについての疑問は晴れましたでしょうか。正直言いますと、私自身がニガテだったからまとめてみたのですが…w
分かりづらい箇所・誤字脱字・解説の誤り等ございましたら、遠慮なくコメントしていただけると幸いです。