はじめに
こんにちは!駆け出しエンジニアの皆さん、日々の業務お疲れ様です。
「RASIS(レイシス)」という言葉、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?システムの信頼性や安全性を考える上で非常に重要な概念ですが、「それぞれの要素はなんとなく分かるけど、具体的に説明してと言われると自信がない…」「ビジネスシーンでどう活きるのか、うまく言語化できない…」なんてことはありませんか?
特に最近の若手エンジニアは、理屈ではRASISを理解しているものの、適切な例え話や具体的な業務への落とし込みが苦手な傾向があるように感じます。
この記事では、そんな皆さんのために、RASISの各要素をビジネスITの現場でよくあるシーンを交えながら分かりやすく解説し、さらに「セキュリティ」との密接な関係性についても深掘りしていきます。
この記事を読めば、あなたもRASISを「知っている」から「使える」エンジニアへとステップアップできるはずです!
そもそもRASISとは?
RASISとは、システムの評価指標として用いられる5つの頭文字をとったものです。
- Reliability(信頼性)
- Availability(可用性)
- Serviceability(保守性)
- Integrity(完全性)
- Security(安全性・機密性)
これらの指標は、システムが「いかに止まらず動き続けるか」「いかに使いやすい状態を維持できるか」「いかに安全か」といった、利用者が安心してサービスを享受するために欠かせない要素を示しています。
一つずつ、ビジネスITの現場をイメージしながら見ていきましょう。
RASISの各要素を徹底解説!~ビジネスITの現場から~
1. Reliability(信頼性):壊れにくさ、安定稼働の指標
信頼性とは、システムやサービスが故障しにくく、安定して稼働し続ける能力のことです。
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信頼性の低いシステムの例:
- ECサイトで、セール期間中にアクセスが集中していつもサーバーがダウンしてしまい、購入機会を損失してしまうシステム。
- 銀行のATMが、突然メンテナンスに入り、突如出金できなくなる。
ポイント: 信頼性を高めるためには、品質の高いハードウェアの選定、冗長構成(同じ機能を持つ機器を複数用意しておくこと)、エラー処理の適切な設計などが重要になります。
2. Availability(可用性):使いたいときに使える指標
可用性とは、システムやサービスを利用したいときに、いつでも中断することなく利用できる状態にある能力のことです。
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可用性の低いシステムの例:
- オンライン会議システムが、重要な会議の途中で突然利用できなくなるシステム。
- 災害時に、企業のウェブサイトが閲覧可能できなくなり、情報発信が行えないシステム。[BCP(事業継続計画)とも関連が深いです]
ポイント: 可用性は「稼働率」という指標で表されることが多く、例えば「稼働率99.99%(フォーナイン)」は、年間の停止時間が約52分以内であることを意味します。信頼性と似ていますが、信頼性が「故障のしにくさ」であるのに対し、可用性は「利用できる時間の長さ」に焦点を当てています。
3. Serviceability(保守性):直りやすさ、メンテナンスのしやすさの指標
保守性とは、システムやサービスに障害が発生した場合の復旧のしやすさや、機能改善・メンテナンスの行いやすさのことです。
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保守性の低いシステムの例:
- 社内システムに不具合が発生した際、原因特定が難解で、修正を行う際に多方向に影響を及ぼすシステム。
- 新しい機能を追加する際に、既存のシステムに大きな影響を与えてしまうシステム。
ポイント: 保守性を高めるためには、モジュール化された設計、分かりやすいドキュメントの整備、監視体制の強化などが求められます。障害発生時のダウンタイムを最小限に抑え、迅速なサービス復旧を実現するために不可欠な要素です。
4. Integrity(完全性):データが正確で矛盾がない指標
完全性とは、システム内のデータや情報が正確であり、矛盾がなく、常に正しい状態に保たれている能力のことです。
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完全性の低いシステムの例:
- 会計システムで、取引の帳簿と実際の残高に齟齬が発生するシステム。
- ファイルサーバーに保存されている設計図が、誰かが誤って古いバージョンで上書きしたり、破損したりしてしまうシステム。
ポイント: 完全性を維持するためには、データの入力チェック、アクセス制御、バックアップとリカバリ手順の確立、改ざん検知の仕組みなどが重要です。
5. Security(安全性・機密性):守るべき情報が守られている指標
安全性・機密性とは、システムやデータに対する不正アクセス、情報漏洩、改ざん、破壊といった脅威から保護されている能力のことです。
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安全性・機密性の低いシステムの例:
- 企業の機密情報(新製品の開発情報、顧客の個人情報など)が、URLを直接指定すれば権限のない従業員や外部の攻撃者からアクセスできてしまうシステム。
- ウェブサイトがサイバー攻撃(DDoS攻撃、SQLインジェクションなど)を受けてサービス停止に追い込まれたり、顧客情報が盗まれてしまうシステム。
ポイント: セキュリティ対策は、ファイアウォールの設置、暗号化技術の利用、アクセス権限の適切な設定、定期的な脆弱性診断、従業員へのセキュリティ意識向上教育など、多岐にわたります。
RASISとセキュリティの切っても切れない関係性
ここまでRASISの各要素を見てきましたが、特に「Security(安全性・機密性)」は、他の4つの要素と密接に関連し、互いに影響を与え合っています。
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セキュリティ侵害と可用性・信頼性:
ランサムウェア攻撃を受けてシステムが暗号化されてしまえば、サービスは利用できなくなり可用性が損なわれます。また、マルウェアに感染してシステムが不安定になれば、信頼性も低下します。 -
セキュリティ侵害と完全性:
不正アクセスによってデータベース内の情報が改ざんされれば、データの完全性は失われます。例えば、顧客の注文情報が書き換えられてしまえば、ビジネスに大きな損害を与える可能性があります。 -
セキュリティ対策と保守性:
堅牢なセキュリティ対策を施すことは重要ですが、それが過度な制限となり、システムの保守性を著しく低下させてしまう場合もあります。例えば、緊急メンテナンス時に必要なアクセスが複雑すぎると、迅速な対応が難しくなるかもしれません。セキュリティと利便性のバランスが重要です。
このように、セキュリティは単独で存在するものではなく、RASIS全体の基盤を支える重要な要素です。どれか一つでも欠けてしまうと、システム全体の価値が大きく損なわれてしまうのです。
ビジネスITの現場では、これらの要素をバランス良く考慮したシステム設計・運用が求められます。
【結論】RASISを「自分の言葉」で語れるエンジニアになるために
ここまでRASISの各要素とセキュリティとの関係性について解説してきました。
「なるほど、RASISの重要性は分かった!」
「ビジネスシーンでの例えもイメージできた!」
と感じていただけたなら嬉しいです。
しかし、冒頭でも触れたように、最近の若手エンジニアの中には、RASISの概念を「知識」として知ってはいるものの、いざ「自分の言葉で説明して」「このシステムにおけるRASISの課題は何だと思う?」と問われると、途端に言葉に詰まってしまうケースが見受けられます。
それは、適切な例え話が思いつかなかったり、具体的な業務と結びつけて言語化する訓練が不足しているからかもしれません。
では、どうすればRASISを真に理解し、実務で活かせる「使える知識」に昇華できるのでしょうか?
それは、 「書籍を読んだり、体系的に学ぶこと」 に尽きると考えます。
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専門書を読む:
RASISや情報セキュリティに関する専門書には、より詳細な定義、具体的な技術、事例などが豊富に掲載されています。断片的な知識ではなく、網羅的・体系的に学ぶことで、理解の解像度が格段に上がります。 -
資格取得を目指す:
情報処理安全確保支援士や基本情報技術者試験など、関連資格の学習を通して、RASISを含むITの基礎知識を体系的に学ぶことができます。目標を持つことで学習のモチベーションも維持しやすいでしょう。 -
先輩エンジニアに積極的に質問する・議論する:
実際のシステム開発・運用の現場で、先輩たちがどのようにRASISを意識しているのか、具体的な事例を交えて教えてもらいましょう。また、自分なりに考えたことを積極的に発信し、フィードバックをもらうことも重要です。
これらのインプットとアウトプットを繰り返すことで、RASISの各要素があなたの頭の中で有機的に繋がり、ビジネスの課題解決に活かせる「生きた知識」となるはずです。
まとめ
今回は、ビジネスITにおけるRASISの重要性と、各要素の解説、そしてセキュリティとの関係性についてお伝えしました。
- Reliability(信頼性): 壊れにくさ
- Availability(可用性): 使いたいときに使える
- Serviceability(保守性): 直りやすさ、メンテナンスのしやすさ
- Integrity(完全性): データが正確で矛盾がない
- Security(安全性・機密性): 守るべき情報が守られている
これらの指標は、安全で信頼性の高いシステムを構築・運用していく上で、エンジニアが常に意識しておくべき羅針盤のようなものです。
特に若手エンジニアの皆さんには、RASISの概念を単なる「お勉強」で終わらせるのではなく、日々の業務の中で「この機能の信頼性は?」「このシステムの可用性を高めるには?」「セキュリティリスクはないか?」と自問自答する癖をつけてほしいと思います。
そして、自信を持ってRASISを語れるエンジニアを目指して、日々の学習を続けていきましょう!