ブロックチェーン技術は本当に有望なのか?

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(2017年6月時点において)ここしばらくでのブロックチェーン技術の盛り上がりには圧倒される一方で、いざ、その技術的な実装内容について調べると共に、期待と現実との間での若干のギャップにとまどうところもあります。この記事ではそうした(個人的な)とまどいの内容を、「ブロックチェーン技術の有望性」という命題を軸とする形で、簡単な解説を交えつつ共有させていただきます。

(本記事の筆者と同じく)「熱狂の只中にあるブロックチェーン技術に飛びついて良いものか?」と自問されている各位にとっての参考としていただければ幸いです。

本記事のまとめ

  • ブロックチェーン技術の一義的な効用はビジネスネットワークへの参加者の「信用」を補完することである。そのため、既に十分な「信用」を獲得している主体によるブロックチェーン技術活用の余地には疑問符が付く。
  • ブロックチェーン技術の活用余地を拡大するにあたっては、ブロックチェーン実装上で行われたビジネストランザクションに基づく契約の履行を強制するための工夫が必要とされる。
  • ブロックチェーン技術を用いたシステムと従来型の分散系システムとの間での差異はそれほど顕著でないことを考えると、現状におけるブロックチェーン技術への期待は過剰なのではないか?
  • 分散系システムの進化における一つの方向性としては、ブロックチェーン技術は評価に値する。
  • ブロックチェーンの周辺に位置する技術やソリューションに注目すべきではないか?例えば、評判経済(Reputation Economy)を実現するためのシステムプラットフォームや、ブロックチェーン上での契約履行の強制力を物質世界まで及ぼすためのIoTシステムなど。

熱狂の只中にあるブロックチェーン技術

2017年央の現時点において、ブロックチェーン技術は正に熱狂の只中にあります。Gartner社が提供するハイプサイクルレポートによれば、2016年8月時点でブロックチェーン技術(Blockchain)は「過度な期待のピーク期(Peak of Inflated Expectations)」入りし(下図)、現時点においてもそのポジションが保たれていることが期待されます。

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出典: Gartner's 2016 Hype Cycle for Emerging Technologies Identifies Three Key Trends That Organizations Must Track to Gain Competitive Advantage(図中の「Blockchain」表記に対する赤下線での強調は本記事の筆者により付与)

また、ブロックチェーン技術は、技術者やユーザーのコミュニティに留まらず、国内投資家のコミュニティに対しても熱狂をもたらしています。例えば、国内株式市場においては、ブロックチェーンに関する情報共有・啓発・国際交流を行う企業団体(「ブロックチェーン推進協会」)への上場企業の入会を材料として、当該企業の株価が急激に変動する事象が観察されています(2017年5月30日におけるソルクシーズ <4284> 銘柄のストップ高1)。

国内団体/公的機関によるブロックチェーン技術への評価

ブロックチェーン技術に対する評価を様々な企業団体や公的機関がレポートとして公開しています。それらレポートについて、ブロックチェーン技術の有望性を評価する観点で筆者の興味を惹いたものを、いくつか簡単に紹介させていただきます。

経済産業省

(調査結果)ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査(2016.04)

少し古いレポートとなりますが、ブロックチェーン技術について、展望と課題、技術とビジネスのバランスを取りつつ解説している良著であると感じました。同レポートにおいては、ブロックチェーン技術がもたらす影響、および、ブロックチェーン技術の課題が以下のようにまとめられています。

7.3 どんな影響があるのか
様々な分野で、「中間的な第三者」が存在しない、新たなビジネスモデルが出現し、より効率的なサービス提供がされるようになり、当該分野におけるエコシステムが変わる。「価値」のとらえ方が変容する。仮想通貨を介して、様々な資産や情報を直接交換することが可能になる。企業内及び企業間の様々な仕組みが自動化され、事務手続きなどの効率化が進む。

7.4 課題は何か
理論的な検証がなされていない。同時に、実サービスへ応用した場合の実証も少ない。既存のシステムと考え方が大きく異なるため、サービスレベルやセキュリティ確保の方法論なども定まっていない。

日本銀行

(ワーキングペーパー)ブロックチェーン・分散型台帳技術の法と経済学(2017.03)

「法と経済学」との表題に反して、内容はビジネス寄りの視点でのブロックチェーン技術の概説となっています。その上でブロックチェーン技術の先行きについては以下のように記述がなされています。

ブロックチェーン・DLTは有望な技術ではあるが、これに伴う検証作業などの「信頼を創り出すコスト」も踏まえると、とりわけ、既に「信頼された中央の帳簿管理者」が存在している場合、これに基づく集中型のインフラを完全に代替していくことまでは考えにくい。

日本取引所グループ

(ワーキングペーパー)金融市場インフラに対する分散型台帳技術の適用可能性について(2016.08)

証券取引ユースケースへのブロックチェーン技術の適用を題材としたレポートとなります。実機検証の結果を踏まえて執筆されているレポートであるため、当該レポートの執筆時点における技術的な課題が具体的に記述されているのが特徴です。それら技術的な課題について、当該のレポート末尾では以下のようにまとめられています。

短期的な課題
金融市場におけるDLT の活用に際して、技術的課題の中でとりわけ重要度が高いと考えられるのは、スマートコントラクトにおける非決定的要因の解決及び情報の秘匿性の実装である。

中長期的な課題
大量の取引を安定して処理できるスループット性能が重要であるが、今回の実証実験において得られた結果からは、残念ながら現状ではまだ適用範囲を限定せざるを得ない水準である。
(中略)
ネッティング、キュー管理及び流動性供給といった、既存の金融市場インフラが備えている機能をDLT 上で検証した例はほとんど公表されていない。利用者の利便性、決済安定性の確保及びDLT の特性などを念頭に置いた上で、清算機関の活用を含め、適切な方式がDLT 上で実現できる必要がある。さらに、本格的な適用においてはDVP 処理の実現は必須であるが、より安全に大量処理を行うためには、資金決済のファイナリティがDLT 上で実現できることが望ましい。

国内団体/公的機関によるブロックチェーン技術への評価をまとめると?

上述した、国内団体/公的機関によるブロックチェーン技術への評価を(本記事の筆者による推察も含めて強引に)まとめてみると、以下の通りとなります。

ビジネス面での評価

  • ブロックチェーン技術により、信頼に足る主体が中心となった中央集権型の既存のビジネスモデルを覆すことは難しいのではないか?(日本銀行ワーキングペーパーより推察)
  • 「中間的な第三者」が存在しない新たなビジネスモデルを実現するためにブロックチェーン技術を活用するならば有望(経済産業省レポートより推察)。

技術面での評価

  • 実運用に足るシステム実装は未だ確立されていない(経済産業省レポートより推察)。
  • 取り扱うトランザクション/トランザクション結果の完全性、秘匿性が不十分である。また、トランザクションを処理するスループットが限定的であるため、適用可能なユースケースを選ぶ(日本取引所グループワーキングペーパーより推察)。

ブロックチェーン技術の現状に対する技術的な観点からの評価

ここまでの記述では、「他人からの受け売り」に基づき話を進めてきましたが、以降の記述では、具体的な技術実装により近い観点からブロックチェーン技術の現状について評価してみます。

「bitcoin」実装の限界

bitcoin実装が包含する技術的な課題については、先に紹介した「ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査(2016.04)」レポートの「図表3-11」にまとめられています。

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出典: ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査(2016.04)

それら技術的な課題について、特に重大度が高いものを本記事の筆者の私見に基づき列挙したものが以下の2点となります。

  • ブロックチェーン上でトランザクションが確定するまでに要する時間が長い(ファイナリティに時間を要する)。
  • bitcoin実装をあるビジネスモデルに取り込むにあたっては、そのビジネスモデルには暗号通貨としてのbitcoinそのものも取り込む必要が生じる。そのため、そのビジネスモデルは暗号通貨プラットフォームとしてのbitcoinと一連托生となる(つまり、ビジネスモデルの永続性や信頼性に関して、bitcoinプラットフォーム以上の評価を得ることが困難である)。

一方で、bitcoin実装は暗号通貨プラットフォームの実現という限定されたユースケースのために最適化されていることを踏まえれば、上述したようなbitcoin実装を汎用的なビジネスケースに適用するにあたっての技術的な課題が存在することは当然のことであると捉えることも出来ます。上述したような事情を受けて、ブロックチェーン技術界隈では、ポストbitcoinの技術実装が求められることとなり、結果として様々なブロックチェーン実装が乱立する様相を呈しています。

Hyperledger Fabricフレームワークに見るブロックチェーン実装の本質

ポストbitcoinのブロックチェーン実装のうち、下馬評が高い...ように感じられるものが、Linux Foundationによる「Hyperledger Fabric」実装です。

この、ブロックチェーン技術実装の有力馬たるHyperledger Fabricを題材に、ブロックチェーン技術の現状に対する技術的な観点からの評価を行ってみることとします2

アーキテクチャー概要

Hyperledger Fabricを用いたブロックチェーン基盤のアーキテクチャー概要図を以下に示します。

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このアーキテクチャー概要図におけるポイントとして挙げたいのが、図を薄目で見てみると「ブロックチェーンらしさ」が特に感じられない...ということです。より具体的に言及すると、Hyperledger Fabric実装を用いたシステム基盤の全体構成は、従来型の、所謂「N層Web/Database分散系システム」の構成にかなり類似したものとなります。Hyperledger Fabric実装では、「N層Web/Database分散系システム」でのDB層を「fabric-peer nodes」(分散台帳保持ノード)が代替します。その上で、DB層でのトランザクション処理の前処理として、「fabric-orderer nodes」によるトランザクション整列を実施することが必須とされます。

では、Hyperledger Fabricの何が優れているのか?

本記事の筆者の見解としては、Hyperledger Fabricを用いたブロックチェーン実装が、従来型の「N層Web/Database分散系システム」と比較して技術的に有意に優れている点は以下の1点のみとなります。

  • システム上でのトランザクション処理の実施結果に公明正大性がある

つまり、ブロックチェーン技術の活用に起因して高い改ざん耐性が保たれているため、fabric-peer nodesにおけるトランザクション処理、および処理結果の記録が公明正大なものとなります。そのため、システム上でのトランザクション処理の公明正大性をどのようにビジネス上のメリットに繋げられるかが、(Hyperledger Fabricを用いた)ブロックチェーン技術の有望性を左右することとなります。

ブロックチェーン技術が持つ課題への対応

Hyperledger Fabricの最新バージョン(バージョン1.0)によるブロックチェーン実装では、先に言及した、国内団体/公的機関がレポートなどで指摘したブロックチェーン技術が持つ課題のうちのいくつかへの対応が行われています。それら対応の内容を下表にまとめます。

ブロックチェーン技術が持つ課題 Hyperledger Fabric(バージョン1.0)での対応
実運用に足るシステム実装は未だ確立されていない モジュール化を意識した実装方式を採ることを通じて実運用への配慮が行われている。Dockerイメージなどの取り扱いが容易な形態で各モジュールが提供されているため、それらモジュールに対する既存の運用ナレッジの適用は比較的容易である。
取り扱うトランザクション/トランザクションデータの完全性が不十分である (どこまでの完全性を期待するかにもよるが)トランザクション処理の事前検証サービス(Endorserサービス)、およびトランザクション処理の整列/一意化を実現するサービス(Ordererサービス)の提供を通じて一定の完全性が担保されている。
取り扱うデータの秘匿性が不十分である ブロックチェーンネットワーク上での分散台帳のパーティショニング機能(multi-channel機能)、および分散台帳上のデータに対する暗号化機能を提供することにより、秘匿性が確保されている。
トランザクションを処理するスループットが限定的である 採用する合意形成(コンセンサス)方式(BFTベースの合意メカニズム)の特性に起因して、bitcoinなどのPoW方式による合意形成を行うブロックチェーン実装と比較して優れたスループットを実現する。また、分散台帳に対するパーティショニング機能(multi-channel機能)もスループット向上に寄与し得る。

この表からは、広く認識されているブロックチェーン技術の課題に対して、Hyperledger Fabricに代表される新世代のブロックチェーン実装が課題を解消するための対応を進めている様子を見て取ることが出来ます。

ブロックチェーン技術は本当に有望なのか?

では、ここまでの解説の内容も踏まえて、ブロックチェーン技術の有望性についての私見を以下に記述します。

ビジネス観点からの考察

本記事の筆者は、ブロックチェーン技術が提供する最大の付加価値が公明正大なビジネストランザクション処理の実現にあると考えます。その上で、公明正大なビジネストランザクション処理を実施するにあたってのビジネス上の動機は、ビジネストランザクション処理への参加者に求められる「信用」を補完することにあるとも考えます。

こうした考え方からすると、ブロックチェーン技術の適用に適したビジネスケースは「信用に乏しい主体がビジネストランザクション処理に参加する」ようなケースに他なりません。つまるところ、国内で既に十分な「信用」を獲得している組織(政府、メガバンク...etc.)が、それら組織の従来からの主戦場でビジネスを継続する限り、ブロックチェーン技術によりもたらされる「信用」の創出が効果的に機能することは望めないでしょう3。一方で、「信用」に乏しい主体(個人、スタートアップ企業、NPO...etc.)がビジネスネットワークを形成するにあたっては、ブロックチェーン技術を用いてビジネストランザクションの公明正大性を実現することがプラスに働く場面も生じうると考えます。

なお、ブロックチェーン技術のビジネス適用領域の拡大にあたっては、ブロックチェーン技術がもたらす「公明正大性」を「情報の世界」に留まらず「物質の世界」にまで及ばせるための工夫が必要とされ得る点については注意が必要です。端的な例としての課題を挙げると、ブロックチェーン技術を用いて実装した土地台帳システム上で土地所有権の移転を行うビジネストランザクションを実施したとして、土地の元々の所有者が「物質の世界」で移転対象とされた土地から立ち退くことが実務として保障される訳ではありません。つまり、「信用に乏しい主体」をビジネストランザクションに参加させることがブロックチェーン技術をビジネスに適用するにあたってのポイントであるならば、ビジネストランザクションにより成立した契約の履行を「信用に乏しい主体」に対して「物質の世界」においても強制するための工夫が必要とされます。

技術観点からの考察

「ブロックチェーン実装のアーキテクチャー概要図を薄目で見たらN層Web/Database分散系システムにそっくりだった」という本記事での気づきからすると、ブロックチェーン技術が過剰に評価されているのでは?という疑念は拭えません。その一方で、重厚長大かつ中央集権的なITシステムが、より分散した、軽量なITシステムに置換される流れにおける一つのマイルストーンがブロックチェーン技術であると捉えるならば、技術観点での相応の意義を見出し得ると考えます。おそらく、ブロックチェーン技術がメインストリーム技術としての地位を固めることに失敗したとしても、その技術思想は次世代の主流となる技術実装に確固たる影響を及ぼすことでしょう。

また、技術の有望性について評価するにあたっては、ブロックチェーン技術そのものではなく、ブロックチェーン技術の周辺に位置する技術やソリューションに着目するというアプローチも成り立ちます。例えば、ブロックチェーン技術が「信用」の創造に寄与することからすると、「信用」に密接に関係する「評判」を扱うソリューション(例:食べログ評価)へのニーズが高まるかも知れません。もしくは、ブロックチェーン技術の「公明正大性」を「物質の世界」まで及ばせることがビジネス上のボトルネックになっているという考え方からすると、「情報の世界」と「物質の世界」との仲立ちとして働くIoT技術に狙いを付けるのも悪くは無さそうです(例:ブロックチェーン上でのビジネストランザクションにより自動車資産の所有者を移転するにあたって、IoT技術により実装された自動車のスマートキーを活用すれば実物資産の実質的な差し押さえが可能となる)。

まとめ

  • ブロックチェーン技術の一義的な効用はビジネスネットワークへの参加者の「信用」を補完することである。そのため、既に十分な「信用」を獲得している主体によるブロックチェーン技術活用の余地には疑問符が付く。
  • ブロックチェーン技術の活用余地を拡大するにあたっては、ブロックチェーン実装上で行われたビジネストランザクションに基づく契約の履行を強制するための工夫が必要とされる。
  • ブロックチェーン技術を用いたシステムと従来型の分散系システムとの間での差異はそれほど顕著でないことを考えると、現状におけるブロックチェーン技術への期待は過剰なのではないか?
  • 分散系システムの進化における一つの方向性としては、ブロックチェーン技術は評価に値する。
  • ブロックチェーンの周辺に位置する技術やソリューションに注目すべきではないか?例えば、評判経済(Reputation Economy)を実現するためのシステムプラットフォームや、ブロックチェーン上での契約履行の強制力を物質世界まで及ぼすためのIoTシステムなど。

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  2. 本記事の執筆時点(2017年6月)でHyperledger Fabricがメジャーバージョン(1.0.0)のリリース直前の段階に留まることもあり、以降の記述には憶測や類推に起因する誤りが(無論、本記事の筆者の理解不足に起因する誤りも...)含まれうることについて留意願います。 

  3. 両替屋で不安になることが無いような(信用が行き届いている)国ではブロックチェーン技術は流行らない気がするのです...