企業のIT予算額を推計する一つの手段として、企業年商に基づく推計が挙げられます。この手法を用いる場合には、「企業年商に対するIT予算額の比率」を対象企業の年商に乗ずることにより、対象企業のIT予算額を推計します。
#「企業年商に対するIT予算額の比率」をどのように推測すべきか?
筆者の知る限りでは、経済産業省が毎年実施している「情報処理実態調査1」の調査結果に含まれる「情報処理関係諸経費の状況」データ群に対する分析を行うことが、(公開データに基づき)「企業年商に対するIT予算額の比率」の実態を把握するための最良の手段となります。2
この、「情報処理実態調査」の「情報処理関係諸経費の状況」データ群では「業種/年間事業収入規模別」、および「業種/総従業者規模別」での「情報処理関連諸経費」の「対年間事業収入比」(つまり企業年商に対するIT予算額の比率)が一覧表記されています。
#「企業年商に対するIT予算額の比率」の実態はどのようなものなのか?
「平成26年(2014年)情報処理実態調査」の結果に基づき、「情報処理関連諸経費」の「対年間事業収入比」(≒IT予算額の年商比)を年間事業収入規模別、また業種別に図示したグラフを以下に示します。
上のグラフからは、「企業年商に対するIT予算額の比率」について、以下に示す傾向を読み取ることが出来ます。
- 「情報処理関連諸経費」の「対年間事業収入比」(≒「企業年商に対するIT予算額の比率」)は企業の年間事業収入の規模と逆相関の関係にある
- 「情報処理関連諸経費」の「対年間事業収入比」(≒「企業年商に対するIT予算額の比率」)は業種によって大きく異なる。
#特定企業のIT予算額を推計してみる
上述した手法に基づき、特定企業のIT予算額を推計してみます。推計は以下の手順に従い実施します。
- 「平成26年(2014年)情報処理実態調査」の結果から、対象企業が属する業種、および対象企業が属する(年間事業収入観点での)企業規模における、「情報処理関連諸経費」の「対年間事業収入比」を確認する。
- 確認した「情報処理関連諸経費」の「対年間事業収入比」を、対象企業の年商に乗ずる。
上述の手順に従い、「スーパーオオゼキ(東京に展開する地場の食品スーパー、筆者の普段使い)」のIT(年間)予算額を推定してみると以下の通りとなります。
- 年間売上高
- 945億円(2016年2月期)3
- 「情報処理関連諸経費」の「対年間事業収入比」(「情報処理実態調査」結果からの推計)
- 0.5%(小売業、年間事業収入100億円~1,000億円)
- 年間IT予算額(推計値)
- 4.7億円
#推計したIT予算額をどのように活用するか?
推計したIT予算額をどのように活用するかは、活用するその人の立場により異なります。例えば、企業のシステム部要員にとっては、自社のIT予算額の妥当性を確認する、もしくは、競合他社との比較の観点で自社のIT投資の積極性スタンスを評価するといったような活用方法が考えられます。一方、企業に対してIT製品やITサービスを提供するITベンダーのマーケット担当者にとっては、顧客の予算感を確認することを通じて、顧客に提供する製品やサービスの価格をより適切に設定することが可能となります。
-
異論は認めます。ただ、分析対象データとしての対抗馬である「企業IT動向調査(日本情報システム・ユーザー協会が発行)」や「国内IT投資動向調査報告書(ITRが発行)」と比較した場合に、「情報処理実態調査」での調査対象の企業数が有意に大きいことは無視し得ないと考えます(2015年版の「情報処理実態調査」での回答企業数が3,961社であるのに対して、「企業IT動向調査2016」での回答企業数は654社、「国内IT投資動向調査報告書」での回答企業数は2000社超です)。 ↩