Capです。Amebient Advent Calendar 2日目の記事です。
はじめに
Amebientにおいて、僕は主にモデリングを担当しました。ビル、設置物、小物類、遠景の塔など。
初期の段階で、これから作ろうとしているワールドがどういうイメージなのかを説明するためにphiさんから出た言葉が "少女終末旅行第五話エンディング"。で全て伝わったので "了解です" と返して大体のイメージ共有が完了しました。面白い。
ここでは、Amebient全体のマップについての話をします。できるのか?します。
ビル全体
Amebientのビルは四層構造です。UpperFloor
、MainFloor
、SubFloor
、UnderFloor
。それぞれが異なる役割を持っています。
制作Tweetが始まるより前、まだVRAA02への参加も決まっていない4月頭に最初にphiさんから共有してもらったイメージがこちら。
非常にわかりがあった。屋上から下層に向けての段階的な変化。で、それを元に当日組んだのがこちら。
この時点で、構造的には既に完成状態に近いですね。四層程度というのもけっこう固まってます。
なんとなくの広さとか、全体の構造とかは最初からだいぶ解像度が高かったと思います。
Amebient、ビジュアルに関しては基本ほぼ同じものが視えていて、その点すごく面白かったしうれしかった。
あんまり視えてないものは難しかった気がしますが、はっきり視えていてこれはもう"これ"でしょ、と出したものはだいたい"それ"ってなってたと思います。ありがたいですね。
初期からイメージしていた構造として、内と外を程よく混ぜるようなイメージをしていました。半野外というか。屋内の安心感と、外に開けた解放感をうまく共存させたい感じがありました。一番最初につくったものは上でも言ってますがバランスがかなり外に傾いている感じがしたので、もう少し屋内空間を持たせるようにしていったのが現在の形です。
制作Tweetを遡ると分かりますが、ビルの形は結果として初期のものに近くなりましたが途中でいくつか構造を試しています。最終形はMK-5です。ボツになったものは遠景のビルに転用したりしています。ビルの建造についてはまた別の記事で追っていこうと思っています。
***作戦会議***をしました。 pic.twitter.com/tTOhYb16fn
— Cap.🌕 (@CaptainAyakashi) May 31, 2020
ここで書かれているのも全体像のイメージです。この時点でも構造イメージはだいたい同じで、屋上があって雨垂れが滴るフロアがあって別の生活スペースがあって...という感じだったかと思います。この時はけっこう生活感ある感じで考えてました。屋上に菜園があるとか、海には子船があるとか(結果的に形にはしなかったけど、景色として見たいものはけっこうあるんですよね)。
MainFloor
最初にスポーンする階、楽器が置いてあるフロアです。音で遊ぶための場所です。楽器、楽器を鳴らすための雨垂れが用意されています。
炊事スペースは初期の楽曲演奏かつ楽器を確保するための場所です。出入り口の位置的にも、入って右側のここしかないな、と思ってここに決めました。
ちなみに途中の配置案。流しは確か色々あって置かないことになりました(色々:ここの水の解釈が難しいとか、そもそも矩形が厳しいとかだった記憶がある)。
ビルの配管は、UpperFloor
の給水タンクから降りてきて海へとつながっています。
この配管はかなり便利になっていて、初期の音を演奏してくれていますし、バルブによって賑やかしができますし、叩くことも出来る。それと、ビル全体のつながりの確保ですね。この役割は配線も担っていると思います。
当時の資料を見返していたら、こんなものがありました。
これは配管をつくる上で水の流れを考えていたときのものです。どのくらい正しくするのかけっこう悩ましかったんですが、少なくとも全体としての流れとつながりを確保することによって正しくはないけど正しそうなところに落ち着かせる感じになりました。なので入り口の配管とかめちゃくちゃな構造してます。ごちゃごちゃしてほしかったので...。
この機械は内部情報を表示するためのものです。SubFloor
にもありますね。SubFloor
に入力されている情報をMainFloor
からある程度見るための役割も担っています。
一番壁際にロッカー、棚、ソファがあります。ロッカーは後で解放される楽器をしまうために必要でした。ソファはのんびりするためです。棚なんですが、これは楽器を整理したい人がいるだろうなということで用意したものです(そういえば活用している人を観測したことは無いかもしれない)。
あと、MainFloor
内部でも外側と内側とで少し役割が違いますね。演奏部分(雨垂れ)とのんびり部分(ソファ側)で分かれています。実際に、音響も細かく推移しています。
外側に足場があるのは、SubFloor
との移動の利便性のためです。この二つはけっこう行き来することになると思われたので、移動の選択肢を増やしました。移動経路の選択肢というのはできるだけ持たせたい気持ちがあります。
あと真正面に飛び込み台(これは本当に飛び込み台のつもりでつくりました)がありますが、来て速攻飛び込んでくれる人がけっこう居ておもしろかったです。
SubFloor
ここは機械類のための空間です。コンソールと内部データ、VJ用機器が用意されています。
上では音を操作して、下ではビジュアルを操作する、という区分けになっています。
最初は電気が通っておらず、後から"解放"される感じになりました。謎機械がひしめいている謎の部屋、良いじゃないですか。何だかよく分からないけど色々あるな、みたいな。でも、何だかわからなかった空間の意味に後から気づく体験、良いと思います。
この場所で本当に良いのは、謎機械がちゃんと謎機械であることだと思います。コンソールもちゃんと動く。壁に表示されてる謎データも普通に内部実装データですしね。流れてるログも"ログっぽい何か"ではなくてマジでただのログっていうのが良いと思ったので推しました。
そういえば謎解きだと認識されてる要因の大半がここにある気がします。まあ間違ってはいない気がする(実際謎機械なので)。
Half-Life: Alyxにもグローブに関する情報で内部データっぽいやつがあったような記憶があります。
コンソールやデータ類もあることから、ここは内部の情報にアクセスするための場所でもあります。
あと、この部屋にある機器は、外にある鉄塔とつながっています。
ある配線群の一部からMainFloor
に置いてある機械に延びています。
そのままMainFloor
のロッカーと接続しつつ屋上の配電設備、電柱を辿り正面の鉄塔へとつながっています。
ここにつながりを持たせたのは、ここにあるものと、遠くにある景色(鉄塔)、更にその先の"世界"とがつながっている感覚が欲しかったから。ふと目を向けたものと世界が地続きであるような感覚、というか。そういう意味でThe Witnessのケーブル、めっちゃ好きなんですよね。
UnderFloor
UnderFloor
で括りましたが、水上と水中でまったく違う構造を持っていると思います。
全体としては落ち着く場所であり、静寂に浸る場所であり、"内"に閉じた場所。ここではより時間が止まっているように感じます。
そして、ここは音から離れる為の場所になっていると思っています。Ambientは流れていますが、MainFloor
の音は届きません。
そういえばここで睡眠をしている人を見ました。めちゃくちゃ正しいと思いました。
この空間、特に水中は、単体で強いんですよね。全く別の空間というか。完全に隔絶されてはいないけれど、外から伝わる情報は鈍くなっている。ここは空間(世界?)そのものに浸る場所なのかも。あまりに完成している感じがあるので、言うべきことがあまり見つからない。
UpperFloor
屋上です。ここはUnderFloor
と役割は似てますが性質はちょっと異なっています。まず、落ち着く(𝑪𝒉𝒊𝒍𝒍)ための場所ではあります。違いは、ここは"眺める"場所であり、"外"に向いた場所です。UnderFloor
は水(海)によって世界と接続された場所、UpperFloor
は空気(空)によって世界と接続された場所、でしょうか。このふたつは良い感じに表と裏になってくれている気がします。
給水塔と配電設備は実在感、全体のつながり(配線/配管)などを確保する役割があります。
終わった後は、給水塔が乗ってる場所がこの役割を担うことになります。終わってしまった世界を、ただ眺めるための場所。いや、生活空間を構築することもできますね。
植物
最初の作戦会議に描かれているもので結果的に存在しなかったのは"生活感"と"植物"でしょうか。植物を置くか置かないかは話に上がったんですが色々あって存在しないことになりました。
植物、強いんですが、植物があることの解釈とそもそも良い植物が生やせるかが自明でなかったこと、逆に余計でさえあるかもしれない、という感じだった気がします。つまり"景色に必要かどうか確証が無かった"、"そもそも植物を生やすのが難しそうだった"の二種。
植物の存在でビル本体に有機性が生まれることが予想されて、それはきっと景色として良いものにはなると思うんですが、なんというか、"自然(土や植物)と一体化した構造体"というよりも、"コンクリートの乾いた用水路"のような質感が欲しかった、という感じがするんですよね(自分は)。
これは、少女終末旅行がイメージソースになっていることも関係していると思います。あの作品には植物が全く出てきません。生き物が全く存在せず、無機質な構造体がずっと続いているんですが、それによって世界全体の時間が止まっているような感じがして。ある種の安心を感じるんですよね。世界がそこに在る感覚?あらゆるものに手が届く感覚?ただ質感は無機質ではあるけどあの中の建物はけっこう有機的な構造をしているようにも思います、あまり冷たい感覚を得ないのはそのおかげかもしれません。
そして、すべてを制御下に置きたかったのかもしれません。
植物の存在は同時に生命の流れを確立します。故に、存在させなかった。植物が存在していることの解釈問題だけではなく、自然の流れをつくりたくなかった。なぜならそれは制御できないので。あそこに存在する全てのものは制御下に置かれているべきで、"自然"は最初からそこに"在るもの"であってどちらかに歪みが生まれてしまう恐れがある。自然がそこに在るということはすべてのものが自然であるから?(いやどういうことですか?)。
まあつまり選択として、"すべてを自然にする"か、"すべてを人工物にする"かの二択があって、後者を選んだんだと思います、たぶん。雨だってあれは"降らせている"んだし、楽器も下の機器も"用意されている"。あそこに置かれているものは全部わりと明確な役割を持っています。その全てがINTERACTIONALではなく、屋上の配電設備とかは実在性確保のために置かれたものだったりしますが、まあそれもひとつの役割です。ソファとか、テントとか、棚とかもね。
またその選択は、†神の存在†を許すためなのかもしれません。Amebientは"制作者の意思"みたいなものがはっきり存在していて、それは制御化された環境とかサブフロアに置かれている内部実装データとかがあることから意図的にそう造られているわけです。全てを制御している何かを感じさせる為に、世界に存在させるすべては制御可能なものにするという選択。
ここで言っている神とは制作者そのものだけではなく、制作者の意思、リアルタイムに実行されるプログラム、空間構造、それらすべてを全体で捉えたときに認識される実体。ひとつの世界全体を制御しているすべてのなにか。
ちなみにこの植物の話は当時そう思っていたかどうかは定かではなく、どちらかというと今「どうしてAmebientに植物が無いのか」を解釈しています。なので制作当時とは解釈が違うかもしれない。
まとめ
そんな感じで、Amebientのビルの各層には、けっこうはっきりした役割が与えられています。存在するものには出来るだけ明確な意味が欲しかったから。実際に各空間が各々の役割を果たしてくれていると思います。
ということでビル全体の話をしました。結構ばーっと書いてしまったので、めちゃくちゃこぼしているところがあるかもしれません。まあこのあとでそれぞれのモデリングの話を書く予定なので、何かあれば都度拾っていくと思います。
以上になります。ありがとうございました。