2023年、chatGPTおよび生成AIの台頭は、私たちの生活、働き方、そして社会全体の構造に多大な変化をもたらしました。その内、最も注目すべきは、「人間とAIの関係性の変化について」です。
AIが単なるツールから創造的なパートナーや情報のゲートキーパーへと進化したことは、社会におけるAIの役割と認識に大きな変化をもたらしました。特に、chatGPTのような高度なAIは、この変化を象徴しています。では具体的にどのような変化があったのか、私の個人的所感ですが以下に挙げてみます。
■創造的なパートナーとしてのAI
かつては単純なタスクや計算を担う「ツールとしての役割」が中心だったAIですが、現在では、クリエイティブな領域においても重要な役割を果たしています。例えば、作家やアーティストはAIを使って新しいアイデアを発想したり、音楽やアート作品を創造したりしています。このように、AIは「人間の創造性を拡張するパートナーとして機能」し、新たな芸術やアイデアの創出を支援しています。
例えばAdobe。以前はその価格と専門性からプロ・クリエイター御用達でしたが、サブスク導入と動画ブームを背景に、一般の方々にも馴染みのあるツールになっています。そしてそのAdobeの各種ツールに、「Adobe sensei」という形でAIが導入され、以前ではかなり高度な編集技術を持っているクリエイターでしか出来なかったような処理が、簡単に実現出来るようになっています。
またマイクロソフトは、Copilotという形でOSとOffice製品全般にAIを導入してきました。ここでは詳細を割愛しますが、大切な事は、今年、「オフィス分野とクリエイティブ分野という2大マーケットで、普段使用しているツールがAIに対応した」という点です。ユーザーは特別な知識や導入手順を踏まずとも、ソフトのアップデートを実施するだけで、いつものツールの中でAIが使えるようになったのです。これはCUIがGUIになりポインティングデバイスとしてマウスが使えるようになったのに匹敵するほどのインパクトがあると思います。
■情報のゲートキーパーとしてのAI
chatGPTのようなAIは、膨大な情報を処理し、ユーザーにとって関連性の高い内容を提供する能力を持っています。これにより、ユーザーは必要な情報に容易にアクセスでき、迅速な意思決定や効率的な知識習得が可能になります。
しかし、これは同時にAIが情報をフィルタリングする過程で発生するバイアスや偏見の問題を引き起こす可能性もあります。AIが提示する情報は、そのアルゴリズムやトレーニングデータに依存するため、意図しない偏りを含むことがあるからです。
つまり、2ch創立者であるひろゆき氏の有名な発言「嘘は嘘であると見抜ける人でないと~」がここでも活きてくる訳で、利用する側としては、その出力を正しく評価するだけの見識が必要という訳です。
■個人の意思決定と知識習得への影響
chatGPTのようなAIは、ユーザーが日々の決断を下す際に重要な参考情報を提供します。これは、例えば、製品のレビューから健康に関する助言、さらにはキャリアや教育に関する決定まで、多岐にわたります。また、AIは学習ツールとしても活用され、言語学習や専門知識の習得を支援します。
今までの検索で見つかる記事などと違うのは、「要約してくれる点」です。例えば、自分が知りたいことに関して、「中学生でも分かるように説明してください」と付け加える事で、問いに対する何ら知識が無い質問者でも理解出来る程度に噛み砕いて解説してくれます。これは手っ取り早く概要を理解したい質問者にとってはとても有難い能力です。
更に、条件を伝えて参考コードの提示もしてくれますので、そのまま要望通りに動く事は希でも十分ヒントになる事が多く、特に「このケースでは、自分が想定していた命令では無く、この見知らぬ命令をこのように使う方が良いのか・・・」という気付きが得られるという点で検索に勝ります。
結果、従来と較べ悩んでいる時間がかなり圧縮出来るという点で、「最高では無いが、気軽に相談出来るメンター的存在」としてとても有用です。
まだ経験の浅さから「勘所/気付きが少ない」初学者にとって、メンター的役割が期待出来るAIはとても頼もしく頼りに成る「存在」であり、この点で従来のツールとは一線を画しています。
■労働市場への影響
AIが様々な職種で活用されるようになり、特に繰り返し作業やデータ処理の仕事が自動化されました。特にサポート関連に於いて著しく、チャットボットによって大幅にコストを削減しつつ、サポートを必要とする顧客の満足度を向上させる事に成功しています。
その他ですと、法律、医療、金融などの分野では、契約書や医療記録のデータを抽出し、データベースに入力する作業をAIが行うことで、スピード化とコスト削減と入力ミスの削減に成功しています。
製造業では、製品の画像を分析し、欠陥や不良品を高速かつ高精度で検出する事で品質管理のスピード/コスト/品質を向上させています。
金融業界では、もはやアルゴリズム取引が主導権を握っており、AIは市場のデータを分析し、リアルタイムで取引決定を行う事で、市場の変動に迅速に対応し、十分な成果を上げています。
また製品開発やマーケティング戦略に於いては、ビッグデータを分析し、市場の動向や顧客の行動予測を最適化し、より効果的な意思決定の支援に役立っています。
このように、専門的なスキル×相応の工数×十分な精度求められる分野でさえ、急速にAIに取って変わられ、後戻り出来ないほどの成果を出しています。これらを踏まえると、今後、より人間らしい仕事とは何か?人間で無ければ駄目な仕事とは何か?を考え、そこに焦点を当てた職業訓練や教育を実施していく必要があると言えるでしょう。
■プライバシーと倫理の問題
chatGPTや他の生成AIが個人データを処理する際、プライバシーの保護は重大な懸念事項です。AIの普及に伴い、個人データの収集と使用に関する規制強化の動きは既に出ています。また、AIが作成するコンテンツの著作権や責任の所在についても、新たな法的枠組みが必要とされています。特に来年は世界中の企業で内部/外部問わず生成AIを活用した企画が動くのは必至であり、その際に最重要項目としてこの点が挙げられると思います。
■社会への影響と将来の展望
chatGPTや生成AIは教育、医療、エンターテイメントなど多岐にわたる分野で革新をもたらしています。しかしながら、あまりに急速なAIの進化故、それに伴う社会への影響は十分に理解されていません。AIの決定や行動に対する透明性の確保、そしてそれがもたらす社会的、倫理的な結果についての議論が、民間企業だけでなく、法整備という点に於いても急務であり、我が国でも12月に入ってから早速動きが出ています。
■最大の武器(進化)は、自然言語というU/I
そして最後はこれに尽きるでしょう。chatGPTは人間の話す自然言語を理解し、その意図を汲み取る能力を持っている点で、従来のAIシステムと一線を画しています。
以前のAIシステムは、主に限定されたコマンドや特定のフォーマットに沿った入力に基づいて動作していた為、ユーザーはAIとのコミュニケーションのために、特定の言葉や文法を学ぶ必要がありました。しかし、chatGPTの登場により、この状況は根本から変わりました。
chatGPTは、日常会話を理解する為、ユーザーは特別なトレーニングや言語の調整が不要に成りました。またchatGPTは、常にとはいきませんが、かなりのケースで、質問に対して適切で意図を理解した回答を返す為、これまでのような「ツール」という次元を超え、「パートナー」に昇格出来たと言えるでしょう。
計算機の歴史を振り返ってみると、理論そのものは数十年前から確立していたものの、各種リソース不足により現実的な時間で現実的な解が得られない為、具現化にはテクノロジーの進化を待たねばならないケースが多いのですが、こと「使われ方」という点に於いては、U/Iの変革が最もインパクトが強く、CUIからGUIへの変化、そして今回のchatGPTに於ける自然言語がもたらしてくれる「利用者目線での変化」は、来年以降、より一層顕著と成り、また直ぐに常識と成るでしょう。
そうなると、計算機を通して各種サービスを提案・提供する私達も、相応の変化・昇華が必要という事であり、あり方・関わり方・捉え方に関する自己改革が求められると思います。それを怠ると、直ぐに「AIネイティブの若者達」に頭越しに抜かれ、時代に取り残され、お役御免と成りかねません。
この自然言語に依る「新しいU/I」の出現は、今後より一層の影響を及ぼし、また各種産業に大きな構造改革を強いるはずです。そしてその真っ只中にいる私達は、「より的を得た分野で、的を得た努力を行う」事で成果を出していかねば自然淘汰されてしまうでしょう。そしてそれはゲームチェンジである為、大きなチャンスでもあります。このチャンスを活かすべく、来年も精進し続けていきたいと思います。