ピープルウェアは、トム・デマルコが1987年に初版を書いたソフトウェア開発にかかわる技術者の働き方、生産性、オフィス環境等に焦点を当てた書籍です。自分は会社を30年ほど経営する中で、その主張に共感し、経営の中で実現しようとしてきました。今回はその要約版を作ってみました。
第一部人材を活用する
第1章 今日も どこかでトラブルが
ソフトウェア開発上の問題の多くは、技術的な問題では解決できない「人間関係ビジネスの問題」である。
第2章 チーズバーガ生産販売マニュアル
「考える暇があったら仕事しろ!」的な管理は最悪。
※タイトルの意味=チーズバーガ工場ならこれ(作業内容を標準化)でも良いんだけどね。という話。
第3章 ウィーンは君を待っている
より長く働かせようとすれば「退職」が待っている。ワーカホリックの技術者を雇っても「燃え尽き」がまっている。早くやれと急かされれば、雑な仕事をするだけ。
タイトルの意味=ビリー・ジョエルの歌「Vienna」の歌詞。『いつになったら気づくんだい?安らぎのウイーンは君を待ってる』
第4章 品質第一 納期さえ許せば。
厳しい納期に間に合わせるために、必ず、品質が犠牲になる。高い品質を手に入れられるのは、品質に喜んで金を出す人だけ。
第5章 パーキンソンの法則の改訂
仕事にやりがいを覚えるエンジニアは自分で立てた目標値を達成するためにこそ努力する。不合理な納期を設定されることで、エンジニアのモチベーションは地に墜ちる。
タイトルの意味=「パーキンソンの法則」=「与えられた仕事をするのに、時間はいくらあっても余ることはない。」より。これはつまらないルーチンワーク(事務的なものとか)の場合は、エンジニアにも当てはまると、デマルコは言っている。
第6章 ガンに良く効く?ラエトライル
根拠のない生産性向上策に飛びつくな。そんなことより、人を「働く気にさせる」ことが大事。
タイトルの意味=ラエトライルとは、アンズの種を絞って採れる無色の液体で、末期がんの治療薬としてメキシコで売られているものである。怪しい特効薬の意味。
第2部 オフィス環境と生産性
第7章 設備警察
知的労働者を仕事に打ち込ませるために必要なオフィス環境は、
・個室(1~3人)
・自然の光が入り、眺めの良い席
・社内放送が無い(いまだと電話ですね)
オフィス環境の改善は、かならずコストに見合う成果を得られる。
第8章 プログラムは夜出来る
プログラマーの能力の差は10倍位あるが、企業間でも10倍ある。
企業間の生産性で有意な相関があったのは
・一人当たりのスペース
・静かさ
・プライバシー
・電話の呼び出し音を消せるか
・電話を他へ転送できるか
・無意味な中断が少ないか
タイトルの意味=上記が満たされていない企業では「人がいない夜中」が生産性が高くなる。
第9章 オフィス投資を節約すると
知的労働者には広くて静かな場所が必要。人口密度は広さに反比例する。騒音は人口密度に比例する。オフィス投資をケチると必ず生産性低下という代償を受け取る。
第10章 頭脳労働時間 対 肉体労働時間
知的労働者が集中できる「フロー状態」になるには15分以上の精神集中過程が必要で、割り込みがあればその状態に戻るのに15分を要することになる。電話の応対に5分、フロー状態に戻るのに15分とすれば、一日20回電話がかかってくれば丸一日潰れる。精神集中を中断させないことがなにより大事。
第11章 電話、電話、また電話
電話はやめて、メールにしよう。電話は作業を阻害し、「フロー状態」を暴力的に妨げる。ついでに一人の人間が関連性のない複数プロジェクト間で一日何回もスイッチするような状況も最悪。
ピープルウェアが書かれたころは当然Slackはなかった。
第12章 ドアの復権
オフィスのあるべき姿は、十分なスペース、静かさ、プライバシーを確保してやり、つまり「ドア」を閉められること。
第13章 オフィス環境進化論
社員が気持ちよく働けて、やる気を出すためのオフィスを少しづつ追い求めていくことが大事。
第3部 人材を揃える
第14章 ホーンブロワー因子
大きな成功を納めるマネージャーは自部門のエントロピーを撹乱し、社内標準からかけ離れていても適切な人材を集め、本来の力をはっきさせる人々だ。
タイトルの意味=ホレイショー・ホーンブロワーは、英国王室海軍の将校。「成功者は作られるのではなく生まれながらのものである」という考えである。
第15章 リーダーシップについて話そう
人をリードすることとは
・自ら仕事を引き受ける
・明らかにその仕事に向いている
・必要な準備をし、その仕事に向かう
・全員に最大の価値を与える
・ユーモアと明らかな善意
第16章 ジャグラーを雇う
ヤラセもしないでジャグラー(曲芸師)を雇うものはいない。
エンジニアの採用に当たっては、「オーディション」を開催 する。オーディションでは、過去にやった仕事について、チームの前で、10分~15分話してもらう。それは技術でもよいし、管理でも良い。
第17章 他者とうまくやっていく
多様な性別、人種から構成されるチームは多くのものを得られる可能性がある。
第18章 幼年期の終わり
iPodの音楽、テキストメッセージ、SNS等新時代のサービスは、「フロー状態」を細切れにする能力を持っているが、なんとかこれの問題を解決しないといけない。
タイトルの意味=「幼年期の終わり」はアーサー・C・クラークのSF小説。宇宙の大きな秩序のために百数十年間にわたって「飼育」される人類の姿と、変貌する地球の風景を、哲学的思索をまじえて描いた作品。
第19章 ここにいるのが楽しい
社員に退職されるコストは高い。退職率が低い組織は生涯教育の重視であり、低い退職率と強いコミュニティ感覚を生む。
第20章 人的資産
人への投資は単純な経費とはいえない。ベテラン技術者が退職することは、過去の大きな投資を失うことになり、未来にも影響を与える。
第21章 全体は部分の和より大なり
チーム結成の目標は、目標を達成することではなく、目標を一致させることだ。
第22章 ブラックチームの伝説
結束したチームはどこまでも成長でき、そのメンバーが少しづつ入れ替わっても維持される。
第23章 チーム殺し、7つの秘訣
・部下を信頼しないマネージメント
・官僚主義(書類仕事の多さ)
・作業場所の分散
・時間の細分化
・開発コスト削減
・非合理的な納期
・メンバーを次々と引き剥がす人事方針
第24章 続、チーム殺し
人は期待通りの仕事をするために残業するのではなく、遅延したときの非難から身を守るために残業する
第25章 競争
一人ひとりの成功がチーム全体の成功に結びつくことを理解させることが大事
第26章 スパゲッティディナーの効果
最良の管理者は、管理されていことを部下に気づかせずに、チームを団結させる。
タイトルの意味:女性管理職が、新しいチームが結成される前の週に(多分自宅の)ディナーに招待。でも時間がなくて、料理を準備する時間なかったことを詫びる。でも手分けして買い出し、レシピの相談、調理、後片付けして、チームの最初のプロジェクトが成功した。
第27章 裃(かみしも)を脱ぐ
・仕事での自主性と責任を与える
・部下を始終監視するような管理をしない
・部下の不服従をたたえる
第28章 チーム形成の不思議な化学反応
優れた管理者は、チーム内に化学反応を生み出し、それを維持することに全力を注ぐ。そのために、
・品質至上主義を作り出す
・満足感を与える打ち上げ
・エリート感覚の醸成
・異分子が混ざることを奨励
・チームを守り維持する
・戦術でなく戦略を与える
第4部 肥沃な土壌
第29章 自己修復システム
・教育研修:きちんとよりよいやり方を教えれば、人はそれを使う
・ツール:自動化ツールはExcel方眼紙とかの紙より使われる
・ピアレビュー:頻繁なピアレビューで、自然に手法が統一される
第30章 リスクとダンスを
リスクマネージメントの意味は「リスクをなくすことではない」「リスクが発生したときに緩和できるようにしておく」こと。
タイトルの意味:デマルコの別の著書「熊とダンスを」のもじり。
第31章 会議、ひとりごと、会話
本当に必要な会議
・何かを決定するために開催し
・決定するのに必要、かつ、了承を得ておく必要な人員を最小限招集し
・目的を達成したらすぐに解散する
第32章 マネージメントの究極の罪
それは人の時間を浪費すること、例えば
・無駄な会議
・プロジェクト早期の大量の人員
第33章 E(悪い)メール
社内スパムは想像以上に人の時間を無駄にしている。やめさせよう。
第34章 変化を可能にする
変化は失敗が許される場合のみ成功する。
第35章 組織の学習能力
組織の学習センターのような存在としての中間管理職の自由な連合体のようなものができれば、組織の学習は成功する。
第36章 コミュニティの形成
満足するコミュニティを形成できた会社は退職者が減少する。
第5部 きっとそこは楽しいところ
第37章 混乱と秩序
パイロットプロジェクでの新技術のテストなどの試みは、小さな混乱の建設的再導入といえる
第38章 自由電子
会社の中で企業内起業家のように好きなように仕事をやらせられる人材を自由電子として働かせてみるのも良い試みだ。
第39章 眠れる巨人よ、目を覚ませ
たった1つの変化でも、組織の中に起こせればそれは十分に価値がある