前段
最近CodeCommitやCloud9の新規アカウント利用不可になったことでX上ではざわざわ...していました。
・ 2024年7月27日時点におけるAWS CodeCommitとAmazon CloudSearchの新規利用に関して
・AWS Cloud9が突然、新規利用不可に? 代替策「SageMaker Studio コードエディタ」の利用手順
そこで、ここ直近一年(2023/4~)で終了(の予告があった)サービスをみて、今後の展開を考えてみようと思いました。
あわよくば、「このサービスもなくなるかもなー」と先見の明が少しでも生えれば焦らなくてすむな、という思いで書いています。
※あくまで個人見解です
ここ一年で終了(の予告があった)したサービス
AWS OpsWorks(2024.1.31 終了)
登場背景
2010年代にクラウドでDevOpsが求められ、インフラストラクチャをコードとして管理する(IaC)手法が重要視されました。[1] [2]
そういった中でElastic BeansTalkよりもより柔軟に細かく構成管理を行え、さらにはそれらを自動化できるサービスとして登場しました。
また、同じIaCを担うサービスであるCloudFormationの方が、GAが早いです。
・ AWS CloudFormation: 2011年2月25日 (AWS CloudFormation リリースノート)
・ AWS OpsWorks: 2013年2月19日 (Amazon Web ServicesがAWS OpsWorksを開始)
また、上記のリリース記事には以下のように書かれています。
2 年前、当社は AWS Elastic Beanstalk をリリースし、開発者が AWS クラウドでアプリケーションを迅速にデプロイおよび管理できるようにしました。その後、AWS CloudFormation をリリースし、関連する AWS リソースのコレクションを簡単に作成し、整然とした予測可能な方法でプロビジョニングできるようになりました。そして今回、AWS OpsWorks をリリースし、プロビジョニング、デプロイ、構成管理、監視、アクセス制御など、ライフサイクル全体を自動化する新しいアプリケーション管理ソリューションをお客様に提供します。(Google翻訳)
つまり、CloudFormationやElastic BeansTalkでは不足していた
・アプリケーションのデプロイ
・設定管理
・自動スケーリング
・モニタリング
・アクセス制御
といったところを包括的に担えるサービスが求められていたようです。
サービス終了における理由考察
1. AWS Systems Managerの機能拡充
これが主要因と思われますが、AWSはより新しい管理ツールやサービスを提供していて、これらはOpsWorksが提供する機能を超えるものとなっています。特に、AWS Systems Managerはより現代的なChefバージョン、SSMエージェント、またアプリケーションロードバランサー、オートスケーリンググループなどをサポートしており、OpsWorksよりも強力な機能を提供しています。OpsWorksからの移行もSystems Managerが推奨されています。[3]
2. 利用者の減少
1に記載した理由によりOpsWorksの利用者が減少した可能性があります。
リソースの取捨選択の観点からEOLになったと思われます。
Amazon Honeycode (2024.2.29 終了)
登場背景
Amazon Honeycodeが登場した背景には、特にプログラミングの知識がないユーザーが簡単にモバイルおよびウェブアプリケーションを構築できるニーズがありました。[4]
ベータ版で利用できる Amazon Honeycode はフルマネージド型のサービスで、プログラミングを必要とせずに、強力なモバイルおよびウェブアプリケーションをすばやく構築できます。プロセスの承認、イベントスケジューリング、顧客関係管理、ユーザー調査、ToDo リスト、コンテンツおよび在庫などを追跡および管理するためのアプリケーションを必要とするお客様は、それらの追跡や管理のために、スプレッドシートやドキュメントを電子メールで送信するなどのエラーが発生しやすい方法を採用したり、開発者を雇って高価なカスタムアプリケーションが構築されるのを待ったりする必要がなくなりました。( Amazon Honeycode の発表)
つまるところCSVを想起させるようなデータの管理や、それに伴う作業フローをノーコードで仕組み化したいよねというニーズのようです。
ノーコード/ローコードが近年流行っているのもあり、それに対するAWSの答えとなるサービスです。
サービス終了における理由の考察
1. 競争が激しい市場である
実は大きな対抗馬であるGoogleのローコードサービス「App Maker」もサービス終了しました。[5]
App Maker終了の理由は「使用率が低いため」とのことです。
App Makerは後継のサービス「App Sheet」があり、そちらへの移行を推進しています。
AppSheetはより簡単で完全なノーコードプラットフォームとして、技術的なスキルがなくても使えるツールです。
一方App Makerは JavaScriptでカスタムロジックを実装したりする必要があったり、権限設定やデプロイ方法の設定など、ITを完全に知らない人には難しいものとなっています。
おそらくその点に関して、市場のミスマッチがあったのではないでしょうか。
ではHoneyCodeはどうかというと、AppSheetに近いプラットフォームです。プログラミングの知識がなくても大丈夫、というサービスになっています。
ではなぜベータ版で終わってしまったかというと、サービスとしての差別化やスケーラビリティを築くのが困難だった可能性があります。
また、ベータ期間中に得られたユーザフィードバックや採用率が予想を下回った可能性があります。
2. 未来の生成AI系サービスとの統合を目指すための戦略的サービス終了
この可能性が高い気がします。
HoneyCodeの終了が発表されたのは2023年8月24日です。[6]
ChatGPT-3.5が世に出たのは2022年11月のことです。今後のLLMの発展可能性を踏まえ、生成AIを基盤に組み込んだノーコードサービスを一から構築するつもりがあるのではないでしょうか。
3. 「コードを生成AIで作らせる」方にシフトした
CodeCatalyst やAmazonQを使って、コードをかけない人でも生成AIを片手に実装できるようなサービスを拡充する方針になった可能性もあるかと思います。
生成AIを使用したほうがより幅広い要件に対応したアプリケーションを作ることができますし、AWSとしてもその方向に舵を切ったのかもしれません。
AWS CodeStar(2024.7.31 終了)
登場背景
従来の開発環境では、プロジェクトのセットアップや管理が煩雑で時間がかかることが多く、特に小規模チームやスタートアップにとっては大きな負担となっていました。
そこで、必要なツールとリソースを統合して提供することで、開発者が迅速に、セキュアに作業を開始する支援ということで登場しました。
特に初期構築が大変なCI/CDにフォーカスして開発者の支援をする目的があります。[7][8]
サービス終了における理由の考察
★AWS CodeCatalystが登場したから
CodeCatalystはCodeStarの機能を包含するだけでなく、多くの追加機能もあります。さらには使いやすさや統合性も向上しています。要は上位互換です。
AWS IoT 1-Click(2024.12.16 終了)
AWS IoT 1-Click のサポート終了 (EOL) に関するよくある質問
登場背景
多くの企業がIoTデバイスを導入したいと考えていますが、その設定や管理は結構複雑です。
以下の記事には6つの問題が挙げられています。
- 「高い」投資コスト
成熟曲線の一方の端からもう一方の端へ移行するには、多額の投資が必要になる場合があります。- セキュリティ
インターネットにデータを投稿したり、インターネット経由でデータを転送したりすることは、多くの情報技術 (IT) 部門にとって悪夢の元となっているようです- 技術インフラ
多くの場合、クライアントは 監視制御およびデータ収集(SCADA) に接続された機器を持っており、分析と洞察を提供するために必要なデータを生成します。しかし、SCADA に接続しようとすると、IT 部門はほぼ例外なく「当社のネットワークは非常に安全であるため、IoT プラットフォームに情報を送信するために使用することはできません」と答えます。- 通信インフラ
セルラー ゲートウェイを使用して IoT 機器を接続するのは素晴らしいことですが、一部の遠隔地では電話が受信できません。インフラストラクチャを構築するにはコストがかかりすぎます。- IoT標準の未熟さ
一部の IoT 標準はまだ開発中であり、市場には依然として多くの断片化が残っていますが、現在利用可能なデバイスに影響を与える標準は、2016 年と 2017 年にほぼ解決されました。- IoTの調達
IoT の実装には、多くの場合、計測機器、通信ネットワーク、ストレージ、データ管理コンサルタントなど、名前に IoT が付いていないデバイスやサービスの調達が含まれます。これらのサービスの調達が複雑で、IoT というラベルが付いていないため、関係者が多数の要素がどのように組み合わされているかを把握することが困難になる可能性があります。
AWS IoT 1-Clickはこれらを解決するソリューションとして登場しました。
引用元:https://aws.amazon.com/jp/iot-1-click/devices/
技術的な専門知識がなくても簡単にデバイスを設定し、管理できるように設計されています。工場出荷時にセキュアな接続が事前に設定されており、証明書等の用意が不要ですぐにAWS IoTに接続して利用することができます。[9][10]
サービス終了における理由の考察
1. 特定のユースケースに限定してしまい利用率が伸びなかったから
IoT 1-Clickはその名の通りボタンを一クリックするとLambdaが起動するといったものですが、それだけであり、IoTの多様なユースケースに対応できなかった可能性があります。
2. AWS IoT Core, Greengrass が登場したから
これらのサービスでは、IoT 1-Clickでは対応しきれなかった、複雑なデバイス管理やデータ処理に対応しています。
また、大規模なデバイスネットワーク管理が可能なため、より複雑なIoTソリューションを必要とする企業に対してもアプローチできるなど、サービスとしてのスケーラビリティが高いです。実際にAWSはIoT 1-Clickの移行先として、IoT Coreを挙げています。[11]
AWS DeepLens(2024.1.31 終了)
登場背景
2017年のre:Inventで多数発表されたAIサービスの中の一つです。
ディープラーニングによる画像認識機能を最初から盛り込んだAWS謹製のビデオカメラです。
DeepLensの構成は以下サイトがわかりやすかったです。
引用元:https://aws.amazon.com/jp/blogs/news/aws-deeplens-now-shipping-order-one-today/
カメラを使った映像認識によるサービス構築は気軽に試せるものではありません。
ハードウェア、システム、ディープラーニングを使えるようにするための設定など、ハードルが高いため、開発を単に「試してみる」のも難しいといった問題がありました。
そこで、ハードウェアとソフトウェアが一体になったこの商品を使うことで、気軽に映像認識のディープラーニングが学習・試すことができる、といった代物です。
DeepRacerなどもそれに近いですね。
DeepRacerについて:デベロッパーの皆様、エンジンを始動しましょう
サービス終了における理由の考察
1. 類似(代替)サービスが出てきたから
先ほど挙げたAWS DeepRacerもそうですが、Amazon SageMaker Studio Lab、Amazon Recognition、AWS PanoramaなどAIサービスが多く出てきました。その中でDeepLensの需要がなくなったと思われます。
2. 競技性がなかったから
DeepRacerは毎年AWS Summit Tokyoで実機レースが実施されていたり、Sagemaker Studio Labはハッカソンが実施されています。
また、AWSはこのSageMaker Studio Labを活用して「AWS Disaster Response Hackathon」を開催する。自然災害への備えと対応に関する課題に機械学習を活用するアイデアを競うハッカソンだ。2022年2月7日までの開催で、AWSが総額5万4000ドル(約610万円)の賞金を出す。このハッカソンは、「最大の機械学習コンテスト」としてギネス記録も目指す。
参考:AWS、初心者向け無料機械学習サービス「SageMaker Studio Lab」発表
それを踏まえると、DeepLensは競技性がなく、学習教材として利用されることや商機の拡大が難しかったのではないでしょうか。
3. そもそもDeepLensの販売で稼ごうと思っていない
DeepLensというのはその商品を買ったら追加でコストが発生しないというものではなく、機械学習を行うためにSageMakerを使用するところでコストが発生します。
このSageMakerによる学習は、選択したインスタンスタイプによっては平気で一時間あたり千円以上かかることもあります。[15]
SageMakerはDeepRacerやほかのAIサービスを利用するときにも裏で動かすことがあり、あくまでDeepLensはSageMaker利用のインターフェース的な立ち位置なのかもしれません。
そう考えるとDeepRacer等ほかのサービスで稼げる以上、利用者が少なくなった場合廃止になってもおかしくはないでしょう。
AWS QLDB(2025.7.31 終了)
[廃止] Amazon Quantum Ledger Database (QLDB) が2025年7月31日に終了します
登場背景
多くの企業は、変更不可能で完全に検証可能なデータ記録を保持する必要があります。
ただし、従来のデータベースでは、データの変更履歴を完全に追跡することが難しく、不正な変更が行われるリスクがあります。
QLDBは、データが一度書き込まれたら変更不可能であり、すべての変更が暗号的に検証可能な方法で記録されるため、この問題を解決することができるという背景から登場しました。[12]
サービス終了における理由の考察
1. データの変更履歴を追跡、監査する機能がAurora PostgreSQLにあるから
Aurora PostgreSQLは、pgAuditやAmazon S3、Aurora Database Activity Streamsなどを利用して、同様の監査機能やデータ管理を提供しています。[13] AWSもブログでそのように強調しています。[14]
2. ブロックチェーン技術の理解が対象企業に浸透しなかったから
データの不変性を担保するためにブロックチェーン技術を使う、といったところのハードルがまだ超えられていない世の中のように思います。
そのような状態でAurora PostgreSQLで代替できるよ、となったらそちらに流れますし、AWSとしてもそちらにリソース配分したくなるのではないでしょうか。
日本だけでは?とも思いましたが、以下の記事では外国のエコノミストもそのように話していたので、日本に限らないのだろうと思いました。
The lack of a formal announcement surprised many users. Corey Quinn, chief cloud economist at The Duckbill Group, comments:
(...) QLDB was a good database; its only flaw was being a blockchain-adjacent offering that didn’t let customers babble on about blockchain for half a decade.
(和訳)QLDBは良いデータベースだった。その唯一の欠点は、ブロックチェーンに隣接したサービスでありながら、顧客にブロックチェーンについて5年の間しゃべらせなかったことだ。
AWS Discontinues Amazon Quantum Ledger Database (QLDB)
まとめ
サービス終了するものに関しては以下の特徴があると思われます。
・上位サービスが登場している
・サービスとしてのスケーラビリティがない
・他社サービスとの差別化が難しい/できていない
・新しい技術が出てきたタイミングで、一から作り直した方がサービスとしてよい
果たしてCodeCommitやCloud9はこれらに含まれるのでしょうか。
CodeCommitは巷ではGitLab買収の布石なのではないか...とも言われていますが、真相はいかに。
他にも感想があれば、コメント等お願いします。