ここ一年ちょいハマっているKorteweg-de-Vries方程式について話します。
KdV方程式とは?
孤立波とは波動方程式の解$u(x,t)$であって、急減少関数であるもののことで、KdV方程式はこれを解に持つ方程式の1つである。ただし急減少関数は(
$\displaystyle^\forall p,q\in \mathbf{Z}_{\geq 0},\lim_{x\to\pm\infty}\partial^p_x\partial^q_tu(x.t)=0$
浅い水の表面を伝わる波を記述する方程式として提案され、
$u_t+u_{3x}+6uu_x=0$
という形をしている。この式を提唱した人の名前を冠してKdV方程式と呼ぶ。
孤立波のうち、
$\qquad$ 1.形状、速度が不変で
$\qquad$2.複数の波の衝突により散乱せず安定
という粒子性を持つものをソリトンという。
このKdV-eqは非線形で一般に非線形方程式は解けないが、この方程式は解法がいくつか提唱されている。1
Lax-pairの存在
以下の2つの作用素$L,M$について
\displaylines{
L(u)=\partial_x^2+u(x,t),\\ M(u)=-4\left[\partial^3_x+3/4(u\partial_x+\partial_xu)\right]}
未知関数$\psi(x,t)$が以下の関係式を満たし、非自明な解が存在するときに$u(x,t)$はKdV-eqを満たす。($\lambda=const\in\mathbf{C}$)
\cases{L(u)\psi=\lambda^2\psi\\\psi_t=M(u)\psi}
この2つの方程式を合わせてLax-pairと呼び2、これを使うことにより非線形だったKdV-eqを線形に扱うことができる。
\displaylines{(L\psi)_t=(\lambda^2\psi)_t\\
\Leftrightarrow L_t\psi+L\psi_t=\lambda^2\psi_t\\
\Leftrightarrow (L_t+LM-ML)\psi=0
}
$\psi\not\equiv0$のとき以下が成り立つ
\displaylines{L_t=ML-LM\equiv[M,L]_-
}
よってこの交換関係を計算すると
\displaylines{L_t=(\partial_x^2+u)_t=u_t
}
\displaylines{\frac{1}{4}[M,L]\\=-\left[\partial^3_x+3/4(u\partial_x+\partial_xu)\right](\partial_x^2+u)+(\partial_x^2+u)\left[\partial^3_x+3/4(u\partial_x+\partial_xu)\right]\\
=-\frac{1}{4}u_{3x}-\frac{3}{2}uu_x
}
より両立条件は
\displaylines{u_t=-u_{3x}-6uu_x
}
と同値。これはKdV-eqである。
Lax-pair←何者?
ここでこのLax-pairについて詳しく見てみる。
まず$L$について、$L(u)=\partial^2_x+u(x,t), u_0\equiv u(x,0)$として$L(u_0)$を考える。$\psi_0$を$L(u_0)\psi_0=\lambda^2\psi_0$を満たす未知関数とする。
$M$について、一度上で与えた$M$の形を忘れて歪対称であるという条件のみを取り出す。
($M^\dagger=-M$ (KdV-eqのLax-pairは奇数次の偏微分しかないので歪対称であることは確認できる。))すると$M$は1-parameterのユニタリ変換群を成す。
$L_t=[M,L]$という形はHeisenbergの運動方程式との相似から、これにもユニタリ変換があるのではないかと期待できる。実際に
\displaylines{U(t):\cases{U(0)=id\\U_t=MU}\qquad (U(t)=id+\int^t_0M(u(s))U(s)ds,t>0)
}
とすると
\displaylines{ U^\dagger(t)=id+\int^t_0U^\dagger M^\dagger ds,t>0)\qquad U^\dagger(t):\cases{U^\dagger(0)=id\\U^\dagger_t=-U^\dagger M}
}
より
\displaylines{(U^\dagger U)_t=U_t^\dagger U+U^\dagger U_t=-U^\dagger MU+U^\dagger MU=0\\
\therefore U^\dagger U:const:U^\dagger(0)U(0)=id\\
\Rightarrow ^\forall t>0:U^\dagger(t)=U^{-1}(t)
}
これより$U$はユニタリ演算子である。これを使って
\displaylines{L(u_0)\rightarrow L(u(t)):=UL(u_0)U^\dagger
}
と$L$についてのユニタリ変換を構成できる。このとき、
\displaylines{L_t&=&(U(t)L(u_0)U^\dagger(t))_t\\
&=&U_tL(u_0)U^\dagger+UL(u_0)U^\dagger_t\\
&=&ML(u(t))-L(u(t))M
}
であり、KdV-eqのLax-pairの両立条件と同じ形になった。
$M$が一階の微分作用素であるときを$M_1$とすると、
\displaylines{L=\partial^2_x+u(x,t_1),M_1=\partial_x\\
L_{t_1}=[M_1,L]_-\Leftrightarrow u_{t_1}+u_x=0
}
より線形な方程式になった。
$M$が3階のとき、両立条件から前節の最初で与えたものに定まり、KdV-eqと同値である。
$M$が5階のとき、$u$の関数$a(x,t_5),b(x,t_5)$について
\displaylines{M_5=\partial^5_x+a(x,t_5)\partial^3_x+\partial^3_xa(x,t_5)+b(x,t_5)\partial_x+\partial_xb(x,t_5)
}
と置くと
\displaylines{L_{t_5}=[M_5,L]_-\Leftrightarrow u_{t_5}+u_{5x}+(10uu_{2x}+5u_x^2+10u^3)_x=0
}
という方程式が得られた。
一般の$j=1,3,5,7,\cdots$について$M$を歪対称微分作用素とすると
\displaylines{L_{t_j}=[M_j,L]\Leftrightarrow u_{t_j}+u_{jx}+f=0,^{\exists!}f=(\mbox{uの微分作用素})
}
よって
\displaylines{L=\partial^2_x+u(x,t_1,t_3,t_5,t_7,\cdots)
}
とすると無限個のLax-pairが構成できて、無限個の方程式が得られる。KdV-eqはこの$L$のうち$t_3$の満たす式にすぎないのである。$t_j$についての全ての等式は両立し、この無限個の方程式のことをKdV階層と呼ぶ。
ここで注意したいのがこの元になったLax-pairは計算で導くことができるものではなく、天から降ってくるものであるが、一つの方程式に対してLax-pairが見つかれば階層の他のLax-pairは計算で求めることができるのである。
また、方程式の対称性を議論すると各方程式に対して保存量が存在する。すなわちKdV-hierarchyは無限個の保存量をもつことが示されるが、時間もない上に筆者の理解が乏しいのでここでは詳細は割愛させていただく。
##あとがき
この記事は本当は12/15日の分であるが、昨日は某研の忘年会にお邪魔させていただいていたため、記事を書き終わることができなかった。
この記事の分野は可積分系と呼ばれており、定義は諸説あるが無限個の保存量を持つことを可積分系と呼ぶ人がいるので私はこれに倣う。可積分系は佐藤幹夫が作ったとも言える分野でKdv-eqの話は佐藤理論のごく一部の話である。佐藤理論では「ユニタリ変換は草男(Grassmann)多様体上の線形変換に過ぎない」というワクワクするようなことを言っているので皆さんもぜひ可積分系に入門しよう。4
\displaylines{
}