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男性エンジニアが迷わず育休を1年間とったほうが良い理由

Last updated at Posted at 2022-06-10

TL;DR

  • 「育休を取得すると収入が減る」は(多くの場合)誤解
  • 年収600万の人であれば、育休を取得することで月に45h働くだけで今までと同じ手取り収入を得られるようになる。

育休に関する労働時間と手取り収入早見表

表の値を

  • 一ヶ月あたりの労働時間
  • 手取り年収

として、

額面年収 育休を取得せず1年間働いた場合 育休を取得しながら同じ手取りをキープした場合
400万 160h
312万
37h
312万
500万 160h
387万
36h
387万
600万 160h
460万
45h
460万
700万 160h
524万
57h
524万
800万 160h
590万
66h
590万
900万 160h
657万
76h
657万

はじめに

今年の1月にめでたく第一子が誕生しまして、目下の貯えがあったこともあり1年間の育休を取得することにしました。

そこで、育休の制度や給付金について深く調べていくうちに

「育休を取得すると、収入を下げずに単に働く時間だけを減らすことができる。」

という事に気がつきました。その際に収入に関して試算したものが冒頭の表です。

表の読み方として、例えば年収600万の人が育休を取得した場合、育休を取得しなかった場合と比べて同じ金額の手取り収入を得るためには一月に45h働くだけで良いということになります。

このことはあまり知られていないようで、
「育休をとると収入が大幅に減るので、金銭面で厳しいため育休の取得を諦めた」
という方の話もよく聞きます。

この考え方は誤解であり、世の男性方が育休制度を活用して金銭面の心配をせずに家庭での時間を増やせれば良いと思い、皆さんに共有する次第です。

ただし、育休中の収入は所属会社以外での副業を前提としているため、以下の方は残念ながら今回の記事は当てはまりません。

  • スキルやキャリアの都合上、所属先以外の会社で副業の仕事を得ることが難しい
  • 就業規則で副業が禁止されている (-> コメント にて補足を追加しました)

また、育児休業給付金は雇用保険から支払われるものですので、個人事業主など、いわゆる会社員でない方は対象外となります。

逆に、上記条件をクリアできるのであれば、女性でもエンジニア以外の方でもあてはまる内容となります。

以下、制度の紹介・給付金の仕組み・冒頭の表の計算方法などを順を追って解説していきたいと思います。

育児休業制度とは

はじめに、育休の前提知識について整理しておきましょう。

詳しくは厚生労働省が運営するWebサイトを御覧ください。
https://ikumen-project.mhlw.go.jp/employee/system/

いわゆる「育休」と呼ばれる制度で、夫であれば子が生まれてから最大1年間の育児休業を取得することができ、会社の都合に関係なく仕事を休むことができます。
また原則として、一年以上勤務する労働者が育休の申請を行った場合は会社側は育休を付与しなければいけないことが法律によって義務化されており、断ることはできません。

「うちは育休制度とかないんだよね」などとナメたことを言われたら労基署へ直行しましょう。

※ 育休付与の義務について1

※ パパママ育休プラスの「1年2ヶ月」制度について2

※ 育休3年制について3

育児休業給付とは

さて、本記事を理解する上で最も重要なのが、育児休業給付という制度です。いわゆる「育休手当」とも呼ばれているものですね。

詳しくはこれまた厚労省のWebサイトを御覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/000103533_00002.html

育児休業給付金の(通常の)支給金額について

細かいところを省略してお伝えすると、1年間の育休をとった場合には、
「働かなくても、316万までを上限として、育休に入る前の年収の58.5% を給付する。また、給付金は非課税であり、育休期間中の社会保険料は免除される。」
というものです。

給付金が非課税ということは、所得税はかからず、翌年の住民税の税額決定には計上されません。
また、免除された社会保険料によって年金額等の減額は行われません。払ったことにしておいてくれる、ということです。

この非課税+社会保険料免除というのはかなり大きく、手取り収入で316万もらえるということは、額面年収400万相当に値します。

※ 「316万までを上限として年収の58.5%」の計算方法4

育児休業中の就労について

さて、ここまでしか知らないと、いくら給付金額がそれなりに多いからといって、

「働かなくてもお金もらえるのは嬉しいけど、うち共働きじゃないし、貯金もないし年収400万相当まで減るのは正直きつい・・・」

といった計算になって、育休を取るのを辞めてしまう人も多いと思います。
特に年収が600万を超える人は収入減の影響は大きく、例えば年収800万の人であれば手取り金額は年間で47%(274万円)減になります。

じゃあ次に考えるのは 「育休手当もらいながら、フルでは休まずにちょっと働いたらどうなんの?」 ということですね。

育児休業中に就労し賃金を得る場合、必ず知っておかなければいけないことが2点あります。
それが給付金の給付停止要件(給付条件)と、減額要件です。

給付金の給付停止要件(給付条件)

育児休業給付金は、原則労働より育児を優先して専念する労働者を支援するために給付されるものであり、育休期間中に労働しすぎると給付してもらえません。
給付金の給付条件は、さきほど紹介した厚労省Webサイトの3ページによると、2022年6月現在では

就業している日数が各支給単位期間(1か月ごとの期間)ごとに10日(10日を超える場合は就業していると認められる時間が80時間)以下であること。
(休業終了日が含まれる支給単位期間は、就業している日数が10日(10日を超える場合は就業していると認められる時間が80時間)以下であるとともに、休業日が1日以上あること。)

となっています。

つまり、 育休期間中に月に80時間以上働いた場合、給付金はいきなりゼロになる ということです。

給付金の減額要件

また、いきなりゼロにならなくても、働いて賃金を得ると給付金が徐々に減額されていく仕組みもあります。

厚労省Webサイトの4ページによると、事業主から賃金が払われた場合、最初の180日であれば

賃金が 賃金月額 の13%未満 => 賃金月額の67%を支給
賃金が 賃金月額 の13%以上80%未満 => 賃金月額の80%から、事業主から得た賃金を引いた額を支給
賃金が 賃金月額 の80%以上 => 支給されない

となっています。要約すると、

「給付金と賃金を足した金額が、賃金月額の80%を超えないように給付金を減らします。」

ということですね。

ここで賃金月額とは育休前月収ではなく上限が適用されていることに注意してください。
例えば年収800万の人は、賃金月額は上限が適用され 450,600円 となり、その 13% というと 5万円 程度までしか収入を増やせないことになります。

ただし、上記の減額要件は「事業主」から賃金が支払われた場合のみであり、「事業主以外の会社」から賃金が支払われた場合は適用されません。

このことは厚労省から事業主へ配布されたこちらのリーフレットにも

育児休業給付金制度では、就業日数(時間)の算定にあたっては、雇用保険の被保険者となっていない事業所で就業している日数(時間)も含まれます。
なお、 育児休業期間を対象として支払われた賃金の算定にあたっては、雇用保険の被保険者となっていない事業所から支払われた賃金は含まれません。

と明確に記載されています。(2ページ目冒頭)

育休を利用した働き方について

これまでのことを踏まえると、所属会社のもとでは育休を取得し仕事は完全に休むことで給付金を満額受け取りながら、なおかつ所属会社以外の別会社で副業を月に80hを上限に働くいうのはなかなか効率が良さそうです。
では、実際に育休を取得しない場合と比べて、どの程度手取り年収は変化するのか計算してみましょう。

モデルケース1: 年収500万

額面年収が500万の人について考えてみましょう。

育休を取得せず1年間働いた場合

はじめに、育休を取得せず普通に働いた場合の手取り収入についてです。

手取り額は、人によって所得控除額に差があるため手取り額も人によって異なるのですが、こちらのサイトを参考にして大体387万ということにしましょう。

育休を1年間取得して、月に80h働いた場合

次に、育休を1年間取得してかつ別会社で月に80hの副業をした場合について考えます。

まずは、給付金について計算すると

(年収の58.5%) =  500万 * 0.585 = 292.5万

となり、これは給付金上限額の316万より低いため、給付金は292.5万となります。

また、月80h働いた場合の賃金について、副業先では年収と同程度の時給を得られると仮定すると、

<時給> = 500万(円) / 1920(h) = 2604 (円/h)

<年間賃金手取り収入>
  = <時給> * 80h * 12ヶ月
  = 2604 * 80 * 12
  = 2499840(円)

となります。
簡単のために経費は一切計上しないこととして、ここから所得税と住民税を引くと、約219.3万が賃金の手取り収入となります。

給付金と合計すると、

<年間手取り収入>
  = <給付金> + <年間賃金手取り収入>
  = 292.5万 + 219.3万
  = 511.8万

となり、約512万が最終的な年間手取り収入となります。

比較

普通に1年間働いた場合の手取り収入が387万で、育休をとって月80h働いた場合の手取り収入が512万ですから、なんと労働時間は半分になったのに手取り収入は増えてしまいました。

※ 所得税のオトクについて5

モデルケース2: 年収800万

また、ほぼ同様ですが、計算練習のために額面年収が800万の人についても考えてみましょう。

育休を取得せず1年間働いた場合

はじめに、育休を取得せず普通に働いた場合の手取り収入についてです。

モデルケース1と同様に、こちらのサイトを参考にして大体590万ということにしましょう。

育休を1年間取得して、月に80h働いた場合

次に、育休を1年間取得してかつ別会社で月に80hの副業をした場合について考えます。

まずは、給付金について計算すると

(年収の58.5%) =  800万 * 0.585 = 468万

となり、これは給付金上限額の316万より高いため、上限が適用されて給付金は316万となります。

また、月80h働いた場合の賃金について、副業先では年収と同程度の時給を得られると仮定すると、

<時給> = 800万(円) / 1920(h) ≒ 4167 (円/h)

<年間賃金手取り収入>
  = <時給> * 80h * 12ヶ月
  = 4167 * 80 * 12
  = 4,000,320(円)

となります。
簡単のために経費は一切計上しないこととして、ここから所得税と住民税を引くと、約340万が賃金の手取り収入となります。

給付金と合計すると、

<年間手取り収入>
  = <給付金> + <年間賃金手取り収入>
  = 316万 + 340万
  = 656万

となり、約656万が最終的な年間手取り収入となります。

比較

普通に1年間働いた場合の手取り収入が590万で、育休をとって月80h働いた場合の手取り収入が656万ですから、給付金上限が適用されてもまだもとの手取り収入を上回っていることがわかります。

まとめ

以上のような計算をもとに、「年収をキープするならどれぐらい働けばよいのか?」という数字をまとめたのが冒頭の表であり、再掲すると

額面年収 育休を取得せず1年間働いた場合 育休を取得しながら同じ手取りをキープした場合
400万 160h
312万
37h
312万
500万 160h
387万
36h
387万
600万 160h
460万
45h
460万
700万 160h
524万
57h
524万
800万 160h
590万
66h
590万
900万 160h
657万
76h
657万

となります。

これを見ると、多くの人が属する年収帯で、手取り収入を減らさずに労働時間を大幅に減らせることがわかります。

そして、その時間はパートナーの産後の心身のケア、育児にたっぷりとそそぐことができるというわけです。

※ 年収1000万以上の人について6

この仕組を理解すると、市場需要が非常に高く副業を見つけるのが比較的簡単な多くのエンジニアにとって金額面の心配をして育休を諦める理由は一切ないということがわかります。

子供の出生後というのは、子供だけでなく、心身ともに疲弊したパートナーのケアも非常に大切です。
可能であれば、たっぷり1年間とることをオススメします。

おわりに

繰り返しになりますが、本記事の趣旨は

「お金をより稼ぐために育休を取得しよう!」
「もったいないから育休中も仕事をしよう!」

というものではありません

本記事は、金銭面を理由にやむを得ず育休の取得を諦め意思に反して家庭に時間を注げない方の誤解をほどき、世の男性方が家庭により多くの時間を注げるように背中を押すためのものです。

お金の心配をしなくて良い人は副業などせず、パートナーと子供をしっかり愛してあげてください。

6/13追記

育休の取得を前向きに考えている方へ向けて、いくつかの注意点と実際の経験談を蛇足としてこちらにまとめました

  1. 介護・育児休業法第六条にて、労働者が育児休業を申し出た場合、原則的に使用者は育児休業を与えなければいけないことが義務化されています。
    例外として一部の労働者に対しては事前に労使協定に定めることで義務の適用を除外できますが、
    「当該事業主に引き続き雇用された期間が一年に満たない労働者」
    「育児休業をすることができないこととすることについて合理的な理由があると認められる労働者として厚生労働省令で定めるもの」
    という範囲内においてのみであり、この範囲を超えて適用を除外することはできません。

  2. 僕も調べていく中で特に混乱したのが「パパママ育休プラス」と呼ばれる制度で、厚労省のホームページには「夫婦で取得すると1歳2ヶ月まで休業できます」と書かれていますが、これは「1年2ヶ月休める」という意味ではないことに注意してください。
    「1歳2ヶ月までの間で最大1年間休める」という制度で、例えば子供が1月1日に生まれた場合、1月1日~2月27日までは引き続き働き、3月1日〜翌年2月27日まで休む、といったことを可能にする制度です。

  3. 会社の制度として、育休の取得を最大3年まで認めることを規定に定めている会社も多くあります。しかし、後述するいわゆる「育休手当」は1年間しか支給されないことに注意してください。
    つまり、最初の1年は会社を休んだ上にある程度お金がもらえますが、その次の2年はただ会社を休めるだけで、お金は一切もらえません。

  4. 給付金額の正確な計算方法について説明します。
    給付金は1ヶ月単位で計算されますが、まず
    育児休業前日額 = 育休直前の6ヶ月の給与 / 180
    として、育休期間中の「今月の給付金計算のもとになる収入」を
    賃金月額 = 育児休業前日額 * 支給日数
    として計算します。ただし、賃金月額が450,600円を超える場合は、450,600円として計算されます。 つまり450,600円が上限、ということですね。
    次に、実際の給付金月額は
    「最初の180日: 賃金月額 * 67%」
    「181日目以降: 賃金月額 * 50% 」
    として計算されます。
    これをもとに1年間の給付金合計を計算すると、
    <1年間の給付金>
    = 賃金月額(円/月) * 67% * 6(ヶ月) + 賃金月額(円/月) * 50% * 6(ヶ月)
    = 賃金月額 * 12 * 58.5%
    ≒ (育休前年収 または (450,600 * 12)円 のうち安い方) * 58.5%
    = (育休前年収 または 540万円 のうち安い方) * 58.5%
    = (育休前年収 * 58.5%) または (540万円 * 58.5%) のうち安い方
    = (育休前年収 * 58.5%) または 316万円 のうち安い方
    となります。
    細かいところを言うと、育休前の1年間で給与変動があった場合は(育休前年収 ≠ 賃金月額 * 12)だよねとか、上限計算は月単位で行われるのでボーダーライン前後にいると月によって上限に達したり達しなかったりすると320万きっちりもらえないとかあるんですが、影響は微小ですので無視しています。

  5. 税金計算が得意な方はすでに気づいていると思いますが、育休を取得した場合は支払う税金がかなり減ることになります。
    なぜなら、育休を取得しない場合は年収全額に対して所得税がかかるのに対し、育休を取得した場合は副業の賃金にのみ所得税がかかるからです。
    この効果は年収帯が高い人ほど大きくなります。

  6. 試算の結果、年収が1000万を超えると、月80hまでの副業でもとの年収をキープすることはできませんでした。(ただし、95%程度の年収はキープすることができます。)
    ていうかそれ以前に年収1000万もあったらお金には当分困らないんだから、つべこべ言わずに休みをとって子供と家族を愛してあげろください。

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