注)この記事はエレメントAIのCTOであるJeremy Barnesによって書かれた2020年5月のブログ、 'Risk vs. Impact Part 2: The 7 Sins of Enterprise AI Strategies'を翻訳したものです。原文はこちらでお読みいただけます。
事業環境の変化のスピードが段々と速くなり、予測するのが難しくなった今日、’革新’は事実上全ての企業において生存と成長のための核心的な命題であるといえます。特に―たとえ人工知能戦略を打ち立てる問題で行き詰っている企業が多かったとしても―多くの企業が人工知能技術を基盤とした企業の革新に大きく期待しているようです。人工知能技術をきちんと導入するためには、伝統的な事業構造からつくられ維持されてきた組織間の境界を壊そうとする試みが必要なため、人工知能を基盤とする戦略自体が企業の内外に存在する―または新しく登場しうる―リスクに対する理解と管理に対する新しい思考の転換が必要になってきます。
以前の記事で、現在の市場でみられる人工知能技術の導入過程の4つのペルソナについて言及いたしました。
Al Follower : 伝統的なソフトウェア(例:Eメールクライアント)のような方式で人工知能の技術を導入また活用
Al Consumer : 人工知能ソリューションのベンダーのポイントソリューションのみを購入し、リスクを転嫁
AI Innovator : 人工知能を企業運営の全般を革新する道具として認識、組織と文化の変化を図り、戦略的な差別化を追求
Al Exploiter : 人工知能がすでに事業モデルの構成要素となっているが、比較的静的な方式の革新を推進
また、この4つのペルソナの中でどこに該当するのかとは関係なく、CEOと最高経営陣は自社の人工知能基盤の革新、そのための組織と文化の変化を“生まれ変わらせる”ための時間と努力がどのくらい必要であるのか考え、準備する作業が必要であるという点にもふれました。
この記事では、最高経営陣とリーダーシップの観点から―特にガバナンスの観点で―人工知能の技術の導入を計画し、進行するにあたって障害となる、“企業の人工知能戦略における7つのミス”について説明したいと思います。7つのミスの中のいくつかは“不作為の誤り”でありますが、多くの場合は思い悩むことなく決めたり、自らを正当化したり、または人工知能の導入においてぶつかる'トレードオフ'に対する検討と選択の難しさを回避しようとしたりするところに起因する“間違った選択”によるものです。
私たちとともに論議する数多くの企業の理事会、CEO、CFO、CIO、また最高経営陣たちもこれに類似したミスをおかしているのをよく見受けられますが、これから人工知能を導入しようとする多くの企業ではこの記事を参考にしていただき、同じようなミスをおかすことなく成功的なEnterprise AI Journeyを進行していただきたいという思いでこの記事を書くに至っています。
人工知能戦略を打ち立てる際におかす7つの重大なミス
1.適切な“人工知能戦略”を準備しない
おそらくこの最初のミスが最も重要なものであるのかもしれません。CEOと最高経営陣は“人工知能は他の何よりも重大な課題”であると言及しますが、この重要な課題を推進するのに必要な責任と権限を適切な組織―多くの場合イノベーションラボ、またはAIラボなどとよばれる―に付与し、力を与える努力をおろそかにしている場合です。
普通、このようなイノベーションラボの組織は高い年俸をもらっている専門家たちの集合場所になり、いわゆる“無駄にお金が費やされる”チームとして企業の広告や技術の人力を引き込む役割となることはできますが、実際の企業の製品やサービス、また事業を革新していくのは難しい場合が多いのです。
しかし、ご存じの通り、企業が人工知能を上手く導入するということと、イノベーションラボのような形態の組織を保有して活用するということ自体が必ずしも(+)の相関関係を持っているとは限りません。本当にイノベーションラボをきちんと活用するための時間と資源の投資が成されるのかが重要であり、普通、この“時間と資源の投資がきちんとなされたのか”を確認することができる一つの指標は“この組織とCEOがどのくらい頻繁に顔を合わせるのか”ということでしょう。もしイノベーションラボ-またはそれに準ずる組織―のリーダーがこの質問に“毎月最低2回”だと答えるのなら、現在この組織の革新のための環境的な条件はかなり良い状況であるといえます。
一般に、CEOが主導するものでないのなら“人工知能戦略”というのは難しいものです-”人工知能によって成したい夢“程度であるとはいえるかもしれませんが―。企業が人工知能を通して実際のインパクトを生み出したいのなら、組織の下部にこの戦略を作り推進する作業を任せているだけでいてはいけません。結局は、人工知能のプロジェクトに参加する人々がほとんど実際のインパクトを感じることができないままプロジェクトを繰り返していくうちに疲れてしまい、離れていく場合が多いのでしょう。
核心は、CEOと最高経営陣が人工知能戦略を主導的に引っ張っていかなければならず、そうでないのなら、せいぜい以前の記事でお話しした“AI Consumer”程度が、到達できる最終的な姿であるという点を受け入れなければなりません。
2.未知の危険に対する準備がおろそかである
この場合は、企業で‘人工知能の潜在力を理解して信じる’としていながら、人工知能を本格的に活用しながら現れうる危険要素を把握し、それに対する準備をする過程にまで到達するための投資をしない場合に該当します。言い換えれば、“今私たちがいる戦場でものすごい砲火と煙におおわれているが、おそらく私たちは傷つくことなく、安全だろう”と言っているのに似ています。
人工知能の技術に社運をかけて全面的な革新を追求する企業ではないとしても、人工知能を企業に導入する過程において発生しうるいろいろなシナリオを準備し、それに対する仮説―モニタリング、試験、そして時間がたつにつれ発展させていくことによって、企業の人工知能の導入経路を安全に再設定することができる―をたてることはとても重要なことです。このような準備過程を経てこそ、たとえ導入経路を変更しなければならない場合が発生したとしても、また原点から出発することなくその時までの学習(人工知能モデルの学習だけでなく組織内の学習を含む)内容をもって適応していくデータ、ハードウェア、モデル、そしてチームを率いていくことができます。より長期的には、この作業を陣頭指揮し実行する“人々”-組織の最も重要な財産である―を確保し、訓練していくことができます。
誰にでも、人工知能を間違った方法で導入して具現しうる可能性があります。もちろん人工知能によって何もできないという危険もあります。CEOと最高経営陣は、この過程の“生まれかわりのための時間”-つまり人工知能を導入することが到底これ以上延ばすことのできない課業になるまでどれくらいの時間があるのか、そしてその時始めるのならどのくらいの準備と進行に努力と資源が必要なのか―について懸念していかなければなりません。
3.組織の文化を変化させるための基盤を用意しておかない
人工知能の技術を導入、具現することは、組織内に新しい科学技術を導入することに似ています。ご存じの通り、‘科学技術’は‘数多くの実験’を前提に発展し、この‘実験’を通して学習をしようとするならまた‘数多くの失敗’を経ることになります。したがって、‘実験’中心のマインドと‘失敗’を容認する開かれた態度が組織全体に溶け込んでいなければなりません。
また、現在の組織/部署間の境界を越えて職員たちが協業を円滑にすることができないのなら、人工知能の課題の成功可能性とインパクトが制限されてしまいます。人工知能の技術は、現在多くの企業の運営体系でよくみられる、組織の境界を守る限度内で具現する技術ではありません。人工知能モデルを訓練するためのデータ、開発のための道具、モデルの配布と運営など、すべての観点でそうです。組織全体に、時に私たちの体と心に染みついている組織間の境界を崩して協業を円滑にすることができるようにする文化的準備が整っていないと、この技術による利益はそこで誘発されうる危険に対してそれほど大きいものでなくなる可能性が高いのです。
多くの企業が人工知能の技術を検討しながら、‘インパクトは大きいが、危険は少ない’解決策を探すでしょう。誰でもそのような幸運を願うでしょう。問題は、初期の小さな成功が、むしろ新しい、そして危険を伴う、より大きなインパクトを追求するよりも、組織が小さな成功を基準として技術の導入を最適化しようとする方向につながりうるということです。このような新しい活動、つまり危険を感受する活動と努力が全くなくなってしまうのなら、人工知能の技術を導入する初期に計画していたチームや文化における革新の勢いはいつのまにか空虚なものになってしまうことでしょう。
もちろん、組織でだんだんと増加するリスクを受け入れながら、それに対するインパクトを得ようとすることは口で言うほど簡単なことではありませんが、‘実験’のマインドセットがある組織として持続的に文化的な変化をしていく過程で、このような試みを実現させていくことができるでしょう。
4.現在の問題を解決する“ソリューション”に重点をおく
おそらく、この4つ目のミスが最も頻繁にあらわれるミスではないかと思います。人工知能技術の導入を検討するとき、解決しようとする具体的な特定の‘問題’を確認し、理解することが重要なのですが、これは人工知能技術が汎用的な観点でいくつかの問題たちに対する共通した一つの解決策となるのは難しいからです。‘よし、AIで何かをしてみよう’という意思決定をし、ある企業から人工知能ソリューションを購入し、他の企業からデータレイク製品を購入したとしましょう。これによって多くの人工知能の課題が一気に解決したという考えに陥りやすいのですが、このような‘ソリューション中心のアプローチ’において、問題はこのように購入した多くの道具を具現し、ともに作動するようにすることが、またなかなかの努力が必要な作業であるということです。さらには、このようにしていてはビジネス的な価値とインパクトを作っていくだろうという保証もありません。
私たちの企業の人工知能技術の投資方向を表している‘人工知能戦略’がいつもすべての活動を導いていくことが重要であり、単純に現在の問題に対する懸念なしに速く解決するソリューションを導入することが優先されるべきではないという点をCEO、最高経営陣とともに確認し続けていかなければなりません。今年、来年ではなく、中長期的な未来のシナリオと戦略を描いて、そのための人工知能の投資戦略をたてるのなら、現在準備しなければならない作業と道具がどんなものになるのかも全く違ってきます。
5.危険を受け入れずに成果だけを求める
‘3つ目のミス’の項目でも言及しましたが、どんな企業でも人工知能技術を導入する過程においてできるだけ危険要素を避けることを願うことは当たり前のことです。時には、人工知能モデルが願うとおりに―予想外の異常な現象を作り出さないように―作動しない可能性のあるすべてのリスクをサービス/ソリューションの供給社に転嫁できると考えます。または、人工知能技術ではない、以前の技術を基盤として設計された、融通の利かない硬直したリスク管理モデルに人工知能技術によるリスクを当てはめようともします。
人工知能技術はいくつかの面において未だにとても未熟な領域であり、すべての場合に簡単に適用することができる一つの方法というもの(One-size-fits-all)はないと思わなければなりません。同じように人工知能技術を活用するとき、使用できる道具に関連する市場もまだとても可変的なものであり、このような道具を基盤として小さな成功を可能にするものの、失敗を容認しないため、リスクを抑えることができても本来の人工知能技術を活用しようとしていた根本的な理由である‘革新’という目的を達成させることが難しくなってしまいます。
成功だけではなく、失敗からも学びながら進化していく意思がある企業だけが、肯定的に人工知能技術を効果的に使用する段階に足を踏み入れることができるでしょう。またこのような姿勢があってこそ、持続的に登場する最高の技術と道具、そしてパートナーたちを他よりも先に検討し、自社の人工知能戦略に連携、統合することができます。人工知能技術を導入するにあたってただ‘リスクを最小化すること’にだけ焦点を当てるなら、結局は競争社の差別的、戦略的な人工知能の導入とそれによって発生する市場の変化に適応することができない状況に陥ることになるかもしれません。-このようなリスクが、人工知能の導入によるリスクの中でどのリスクよりも大きなリスクとして事業の存廃を決定することになるかもしれません。
‘危険を回避しようとする’文化が強く、産業の変化を先導的に引っ張って行く意思が弱い企業は革新の機会を逃しやすいのです。
6.過去の経験に依存した財務検討や意思決定
‘企業の望ましい意思決定の構造’を説明するとき、多くの場合、‘財務的な観点の意思決定の構造’を意味します。しかし、人工知能の導入において比較的伝統的な財務的検討と意思決定の構造の型に過度に当てはめると、多くの場合、後になって人工知能に関連する投資が有意義な結果として組織に残り、蓄積されるのが難しくなってしまいます。
新技術への投資は時に、その結果が不確実な課題である場合が多いです-利益は大きいかもしれませんが、反対にリスクも大きいのです。投入要素に対する結果物がどのようなものになるのかに対する連結関係が人工知能技術の場合、既存の技術に比べて明白でなかったり、予想するのが難しかったりするため、既存の技術を導入する際に、適用してきた財務的検討や意思決定の構造にそのまま当てはめるのは簡単なことではありません。
おそらく、最もよくあるアプローチは、人工知能を一種の‘ソフトウェア’的要素として取り扱い、それによって供給者―ベンダー―を探す方法でしょう。しかし、このようなアプローチでは‘AI Consumer’のペルソナにだけとどまってしまうことでしょう。このような方法ではなく、人工知能技術の導入、またデータに関連する活動全般にかけて、潜在的な利益だけでなく、このような導入の時期を遅らせることによって発生するリスクを共に考慮し、意思決定をすることが望ましいのです。新しい技術への投資は、いつもその利益と費用をモデリングするにあたって新しいアプローチ方法を必要とします。
7.データを産物や商品(Commodity)として扱う
最後は、データをAsset(資産)ではなくCommodity(産物または商品)として取り扱う場合です。すべての人が知っているように、人工知能技術を導入するにあたってデータの重要性を看過することはできませんが、データをきちんと取り扱うことができなければ、むしろ人工知能技術の導入が逆効果になり、間違った意思決定につながってしまうかもしれません。
企業が管理するデータセットがより精巧で、正確で、その中により多くの情報が含まれているほど、人工知能技術はもっとよく訓練されて結果的に有意義な知識と洞察を生み出すことができます。しかし、データが保存されている状態では、時にLiability(負債;負担)になりやすいのです。企業が保有したデータの中によくみられる‘個人情報’が企業の内外の悪意的な試みによって流出したりする場合を考えれば理解しやすいでしょう。国家と地域によって違いはありますが、すでにデータの流出が起こった際の費用と処罰が、データを保有して活用することで得ることができる利益を上回るように規制している場合もあります。
企業が自社の競争力を再考するために人工知能モデルを開発し、運営するにあたって必要なデータは、思ったよりも簡単に確保することができたり、あちらこちらに広がっていたりしているデータではない可能性が高いです。つまり、商品化されている可能性が低いのです。もちろん、企業内で構築しようとしているユースケースや目的に合致しない場合も多いでしょう。現実的には、企業で確保できるデータがまるで人工知能のユースケースを実験し具現するのにぴったり合う、必要なデータである可能性はとても低く、よって多くの場合、明確な目標なくデータを集中化したり、データレイクを構築するプロジェクトをしたりすることよりも、具現しようとするユースケースについてそれに必要なデータを確保していく努力がより合理的な方向であるといえます。
始めましょう
さあ、これからあなたの企業で人工知能技術の導入を始める際に行わなければならないいくつかの作業についてふれていきます。
まず、CEOそして最高経営陣が共に‘人工知能基盤の変化に必要な資源と時間’に対する論議をしなければなりません。具体的にあなたの企業が属する産業でAI Innovatorというものがどのようなイメージで、具体的にどんなプログラムを行わなければならず、到達にどのくらいの時間を目標にして進行していかなければならないのかなどについての詳細な計画が練られなければなりません。
二つ目に、人工知能技術を中心とした変化を企画した後、技術の変化をよくモニタリングすることのできる体系が必要です。人工知能技術は日に日に変貌しているため、このような変化によって企業の人工知能戦略を長期的に検討し、柔軟に変えていくことができなければなりません。そうしてこそ、変化によってもたらされる危険や挑戦課題、機会などを適宜把握し、対応することができます。
三つ目に、人工知能技術基盤の変化を進行する過程でのリスクだけではなく、この作業を進行していなかった際のリスクすべてに対するバランスの取れた検討が必要です。重要なのは、人工知能技術の導入による多くのリスクが―過去の他のリスクのように―単純に絶対的な観測の対象というよりは、トレードオフ(相互バランスと衝突の関係)にあるということを理解し、それに合う対処法を見つけなければならないということです。
最後に、中長期的な観点から人工知能技術の導入に関する活動のROIをデザインしなければなりません。全体の産業にかけて人工知能技術を積極的に活用する企業たちがどのようにROIを算出し、測定するのかをみて、それに合わせて企業の現状を診断し、目標を持続的に管理しなければなりません。この目標にそって、企業の人工知能の力量をバランスよく強化していく過程を踏んでいかなければならないのですが、ここでAl Maturity Frameworkのガイドラインが助けになるでしょう。このフレームワークを通して、あなたの組織が人工知能技術を導入することを可能にするための産業のベンチマークと使用しやすいアイデアを得ることができます。
もし、あなたの組織が現在AI Maturityの観点において、どのような段階にいるのかをお知りになりたいのであれば、私たちが用意した簡単なアンケートに参加してみてください。