注)この記事は、エレメントAIのCTOであるJeremy Barnesによって書かれた2020年5月のブログ、’Risk vs. Impact PartⅠ: The 4 Personas of AI Adoption’を翻訳したものです。原文はこちらでお読みになれます。
人工知能技術は、すでに多くの企業において見て見ぬふりをすることができない、とても重要な問題となっており、多くの企業の理事会では、経営陣に人工知能とは一体何なのか、そして企業をどのように変化させることができるのかを理解し、迅速に戦略を打ち立て、実行することを要求してきました。しかし、いざ人工知能技術とその導入についての検討を始めると、まるで真昼の太陽を見ているかのように、困惑するほどの多くの技術や、用語、流行語、そして専門家(集団)と呼ばれるグループとサービス、ソフトウェアの供給社たちの主張や説明などにすぐに圧迫され、疲れて果ててしまうことでしょう。結局、経営陣は人工知能を理解し戦略をたてる作業を、ジャングルを切り開いていくかのように感じ、すぐに人工知能技術の導入に対する検討を組織内の技術担当の部署に任せるようになってしまいます。
小さなことのように思えるかもしれませんが、これはとても大きな影響力を持つミスであるかもしれません。企業の運営体系に人工知能技術を上手く統合することは、実は‘技術の問題’ではない可能性が高いのです。人工知能技術の導入の検討は該当する企業が置かれている環境や、解決しなければならない課題が何であるかについての明確な理解、そして人工知能技術がどのようにその課題の解決に寄与できるのかに対する検討と判断から始めければならず、ここには必ず‘人工知能の導入を延ばすことによるリスク’と‘人工知能を導入することによる摩擦と困難‘という内在的な相互衝突に対する考慮が伴います。
人工知能のシステムを実現させるにあたって、その特性は過去の典型的な技術の導入過程や方式とは違うものであり、また違うものでなければなりません-人工知能技術が組織内の境界や部署内の壁をなくす後援者(Enabler)の役割を担うことができなければならないからです。逆説的に言えば、この理由のために、数多くの企業たちが組織や文化の次元の変化を生じさせるための投資を同時に進めていかなければ、人工知能技術の効果と影響の側面ですぐに限界にぶつかってしまうのです。
このような観点から、‘成功的な人工知能技術の導入’はとても基本的な要素にかかっているといえます-まさに、人工知能のプロジェクトに対する組織的な資源を適切な水準で維持すること、部署間の境界をなくしてデータを共有することができるようにすること、人工知能技術の導入過程で必ずぶつかることになるリスクを避けずに、理解し管理することなどがその要素にあたります。核心は、人工知能技術自体を技術として利用するのではなく、市場で企業の根本的な競争力を再考することができるようにする、明白で差別化された事業の機会を主導的に作っていくことができるように‘変化に寛容な’組織を作ることにあります。
リスク vs. インパクト:この二つの観点を基準とした4つのペルソナ
人工知能技術を企業に導入して具現することは相対的に新しい作業であり、これを成功的に進めるための公式は―少なくとも今はーありません。そのような不確実性にもかかわらず、現在自身が属している組織や企業のリスクのプロファイル、そしてインパクトを作り出すことのできる力量の水準という観点で、人工知能技術の導入にアプローチする組織のペルソナをざっと定義してみることができます。
1.AI Follower : 高いリスク、低いインパクト
最初のペルソナは、おそらく現在多くの企業たちが含まれている領域である‘AI Follower’です。AI Followerは、人工知能の機能が含まれているEメールクライアントやチケットの広告プラットフォームのような人工知能のソフトウェアを使用したり、またデータサイエンスや分析プラットフォームを活用したりもますが、これはとても任意的または臨機応変的にその時の必要に応じて導入されます。普通、このような組織は人工知能のためのガバナンスや協業の構造を具体化していない状態であり、人工知能技術の領域において事業に有意義な数多くの発展が成されているということを理解できずにいます。もちろん、多様な方式によって人工知能の導入の効果を部分的に垣間見ることができるかもしれませんが、人工知能を他の方法で導入する競争者たちからの脅威に対する評価と対策をきちんと行うことが難しいため、高いリスク環境下にあるといえます。特に、事前準備がなされないままであると、後になって人工知能の全面的な導入の検討と実行、適応にかかる時間と努力が膨大すぎて、このタイプの事業者たちは人工知能の時代の競争に後れを取ってしまう可能性が高いと思われます。
2. AI Consumer : 低いリスク、低いインパクト
このタイプのペルソナに該当する企業は、例えばスマートフォンカメラを利用して小切手を銀行に入金することのできる機能をモバイルアプリに追加するなどの方式で、人工知能の製品やサービスを‘ポイントソリューション’として消費して使用します。この場合、リスクは比較的低いと考えられますが、これは人工知能技術の使用自体がとてもタイトに統制される環境で、リスクの大部分を製品やサービスを供給する供給者(ベンダー)に転嫁することができるからです。また、多くの場合、組織と部署間の境界を超える協業と調整、リーダーシップの資源が必要になるくらい人工知能技術を広範囲にわたって導入する場合ではないため、人工知能のプロジェクトの範囲が制限的であり、よってそのインパクトもそれほど大きいとは考えられません。リスク管理の水準を段々と上げていき、AI FollowerがAI Consumerに変化することは相対的に易しいことなのですが、’低いリスク‘だけを追求することはそれ自体が一つの罠になってしまうこともありえます。ガバナンスと統制を過度に重視する場合、人工知能を活用して、大きなインパクトを与えることのできる変化を試みるのにもたらされるリスクを受け入れるのがとても難しくなりやすく、リスクが低くなるのを待つと機会を失う、つまり現実に甘んじてAI Innovatorへの変化することができず、競争者に後れを取ってしまう可能性が高いのです。
3.AI Innovator:高いリスク、大きいインパクト
現在、市場での人工知能技術の成熟度の観点から見るなら、このカテゴリーが最も望ましい人工知能の導入のあり方であるということができるでしょう。AI Innovatorは、戦略的に企業の差別的な競争力を作りだすことのできる重要な原点であるということを認識し、人工知能の導入をトップダウン方式で、そして組織内の部署間の境界を越えて適用することができるように推進します。また、予測されたリスク(Calculated Risk)を選択する意思をもって、実際の導入を実行する過程での学習と経験を蓄積することを重要な目標としています。このカテゴリーのペルソナは、新しい人工知能のソリューションを開発するのにかかる時間、つまり開発生産性で他のペルソナに対して先立ち、競争者が人工知能を基盤として革新することで自社が市場で淘汰される外部からの危険を最小化します。そして人工知能の導入を推進することによるリスクと保障の間のバランスを追求することができるようにガバナンス体系を整えます。AI Innovatorと他のカテゴリーのペルソナとの間で特に違う点は、既存の事業中心のリスクが低い機会よりは、人工知能を基盤として‘未来のための挑戦的な機会’を見つけ出し実行するのに、より大きな関心をおくという点です。現在の人工知能技術の成熟度を基準として、AI Followerの姿からAI Innovatorの段階に到達することが可能であり、実際にそのような企業たちが存在します。むしろ、AI Consumerとしての特性が強い企業がこの段階に到達することは、リスクに対する企業の文化と態度を180度変化させなければならないため、より難しいことであるといえます。
4.AI Explorer : 低いリスク、大きなインパクト
多くの方が“リスクが低く、インパクトが大きければ、それがより良いものではないのか?”と考えられるかもしれません。ある場合には、このあり方が、企業が目指すとても強力なペルソナであるかもしれません―人工知能が企業の事業モデルに内在化されていて、とても安定的に人工知能を活用している状態にある企業のことです。この程度の状態に到達した企業なら、その戦略の核心は、事業の成功のために構築していた人工知能の力量を拡大し続け、革新していくことにあります。問題は、この状態の企業は、‘新しい機会’よりかは既存の事業構造で人工知能技術を活用する機会を探し出し具現することにあたっては最適でありますが、逆説的にこのような態度自体が将来該当する企業の他の種類のリスクになり得ます。ある企業がこの状態に到達しようとするなら、まずはInnovatorになるべきです。今日このペルソナを持っている企業はとても少ないと思われますが、たとえば人工知能が基盤となっている広告プラットフォームの事業者のような場合がこのタイプに該当するでしょう。
人工知能は組織間の壁を壊し、人工知能の担当チームが多様な事業単位とともに統合的に働くことができるようにする核心的なメカニズムです。
組織内の互いに違う部署が、どのように人工知能の導入によるリスクにともに備えることができるでしょうか?
‘経営陣’のグループであるなら、戦略の樹立とガバナンスの観点から人工知能の導入に対する準備の作業をしなければなりません。この準備過程を通して、組織の人工知能の導入のロードマップを設定し、導入の初期からリスクに対する把握と管理、そして倫理的な人工知能の導入のためのメカニズムを組織内に構築し始めることができます。
‘購入/供給’に関連するグループでは平均以上の効果を得るために、それに値するだけの資金を支出して人工知能技術を確保したり、導入したりすることができるようにする手順などの観点から準備することが重要なことです。また、どのような構造と内容のパートナーシップを結んでいけば、データの確保、また人工知能システムの運営によるリスクを管理することができる準備になるのかに対する検討も必要です。
‘技術とIT‘の部署なら、いくつかの特定の技術的制約条件に対する準備をしなければならないでしょう。私たちのロードマップにそって、人工知能ソリューションがどのくらいの程度のコンピューティングの資源とストレージを必要とするのか、データのプライバシーの保障のためにどのような準備をしなければならないのか、技術の人力の維持のためにはどのような政策が必要なのかなどもそれにあたります。また、人工知能技術とシステムに対する新しい要求事項が生じたときに備えた柔軟な導入、運営体系も考慮しなければなりません。
‘運営’を担当する組織は時に、データがどこに存在するのか、どのように管理しなければならないのか、だれにアプローチし、また誰に管理の権限を与えなければならないのかに対して右往左往することになるでしょう。そして、人工知能技術を基盤としたソリューションが増えれば増えるほど、組織間の運営のノウハウを共有して共通部分を探し出したり、お互いに違う人工知能システムを合わせたり引き離したりしながら、新しい効果を作り出すことができるようにする体系を用意することも重要なことです。
新しいリスクを受け入れて‘生まれ変わり’のための計画をたてなければならない
新技術を導入するときには、いつも技術の導入に伴うリスクと保障のバランスをとることが重要であり、これは人工知能技術の場合にも同じことが言えます。意思決定をする前には、いつも少しでも不確実性を抑えようとする欲求があるものですが、そうであるからと言ってすべてのものが確実になり、予想が可能になるときまで待つというのは良くありません。おそらく、これからの20-30年の間、実質的に私たちが営んでいる経済活動、産業活動の100%に人工知能が活用されることでしょう。そうであるなら、今現在または近未来で、人工知能技術に投資しない場合、私たちがぶつかることになるリスクがどのようなものになるのかをすべての企業が思い悩まなければいけないということになるでしょう。
現実的に、多くの企業たちがリスクを管理し、抑えるという観点においては、‘20世紀の事業モデル’を基盤にして運営体系を作ったため、人工知能の‘組織間の境界をなくすことを前提とする’という特性を理解して備えたり、受け入れる準備をしたりすることができていません。この‘古い’-古臭いーリスク管理体系は、人工知能技術をスーパーマンに例えるなら、おそらくクリプトナイトぐらいに例えることができるでしょう。
しかし、すでに理事会や最高経営陣の観点では人工知能技術に投資して、この技術を企業内に導入するにあたって、一定水準のリスクを受け入れて推進しようとする巨視的なニーズが明らかにあります。
幸運にも、人工知能技術を導入することが、火星に飛んでいく宇宙船を作って発射させるぐらいのリスクを受け入れることを要求しているわけではありません―私たちの企業のビジネスに人工知能技術がどのような影響を及ぼすのかを予想することは、実際にはそれほど難しいことではありません。コロナウイルスによる事態が供給網に及ぼしている混乱を一度考えてみれば、このような事態が人工知能技術をすでに導入して予想外の状況を競争社よりも先に、より正しく判断して迅速に適応し、結果的に競争でリードすることができるようにしてくれる機会になりえます。
全ての企業の経営陣は、このような変化に伴うはずの‘生まれ変わり(Break-out Time)’に対する計画をたてなければなりません。新しい問題に対して、人工知能技術を適応して解決することのできる安定した状態に到達するためにはどのくらいの程度の準備と時間が必要なのか、競争社に先立つためにはどのように人工知能技術を差別的に組織内に拡散し、事業モデルを革新していくのか懸念していかなければいけません。
この過程で組織内の人工知能に関連する専門家たちとノウハウを蓄積していくだけでなく、継続的な実験と試みを通して、そして失敗を通して学習することを変化の一つの段階として受け入れることができなければなりません。このような文化的な変化が実は最も難しく、そして長い過程であるかもしれません。
このように組織全体の、多数の部署を包括して変化の課題を管理し、推進することは当然ながら簡単なことではありませんが、人工知能技術によって享受できる利益とインパクトはその費用と時間を上回るものであると信じます。結果的に、AI Innovatorのペルソナに到達することのできる企業は競争社と差別化された、新しい事業モデルを構築するゲームチェンジャー(Game Changer)になることでしょう。
CEOと経営陣がこのような‘人工知能中心の変化’を試みるにあたって、ぶつかることになるいくつかの困難については次の記事、PartⅡで取り上げたいと思います。