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これでわかるかもしれないガロア理論の入り口

Last updated at Posted at 2018-10-14

0. はじめに

ガロア理論というのは、一言で言うと、「体」の「自己同型写像」が構成する「群」の構造とその体の構造とのあいだの関係性についての理論です。

ここでは、以下の流れでガロア理論の話をすすめています。

前半は、ガロア群に至るまでの直観的認識を身につけるための話です:

  • 「体」およびそのいくつかの重要な性質を認識する
  • 「自己同型」という視点について、具体的な体を例に認識する
  • 自己同型写像全体が持つ演算構造として、「群」を認識する
  • 群の全自己同型写像でも一切変化しない元があり、それらの元だけでも「部分体」が成立している関係を認識する
  • 部分体とその元の体との間にある関係をもたらした、元の体の自己同型写像の群(「ガロア群」)にある演算構造の特徴を認識する

後半は、このガロア群の具体例についての話です:

  • 具体的に、2の3乗根の体のガロア群、および、2の5乗根の体のガロア群を導出し、それらの分析を通じて、ガロア群の意味を考察する
  • 一般的な1のn乗根の体の全自己同型写像の作り方を用い、9乗根までのガロア群を具体的に導出する
  • 方程式の解の体とそのガロア群、及び、定規とコンパスでの正n角形の体とそのガロア群、についてのオーバービュー

この記事では、体や自己同型写像といった理論の話から例や応用へと進む手順を取ることにしています。

しかし、これらの理論については、教科書的な一般化した定理証明の連なりによってではなく、具体的な例を用いて、その中に実際にある性質とその意味を認識していくことに主眼におきました。
具体例を細かく扱って、その手順を直接見れるようにすること、さらに間違いやすい失敗例もその判定法つきで残すことで、誤解や混乱をなるべく自己修正できるようにしています。


1. 体

加減剰余の四則演算を備えた数の集合のことを、「体」と呼ばれます。

たとえば、整数や分数をすべて含んだ、有理数全体で一つの体を構成します。
実数全体や複素数全体も体を成すのですが、ここでは扱わないこととします。

体は、その要素である元の間で、以下のように定義された演算関係をすべて満たしていることで成立します:

  • 任意の元aについて、$0 + a = a$となる元$0$がある
  • 任意の元aについて、$a + b = 0$となる元bが一つだけ存在し、このbを$-a$とする
  • 任意の元aについて、$1 \times a = a$となる元$1$がある
  • 0でない任意の元aについて、$a \times b = 1$ となる元bが一つだけ存在し、このbを$\frac{1}{a}$とする
  • $a \times (b + c) = a \times b + a \times c$となる「分配則」が成立する
  • $a + b = b + a$であり、$a \times b = b \times a$である「可換性」が成立する

これらの体の演算の定義から導かれる性質には、以下のものがあります。

  • 体には、0と1が、一つづつ必ず存在する( $0 \ne 1$ )
  • $a \times b = 0$となるのは、aもしくはbが0のときだけである(0以外の数どうしをかけても絶対に0にはならない)

1.1. 代数体

有理数以外の体を考えるために、$\sqrt{2}$のような、有理数ではない数を一つ用意します。
それを集合の1要素として有理数集合の中に加え、要素同士の四則演算がすべて成り立つよう、1を足したり、逆数をとったりして、生み出された数を要素として添加していくことで体を構成させます。

結果として、この$\sqrt{2}$を一つだけ加えた結果、生み出された体の元である数は、有理数a、bを係数とした、$a+b\sqrt{2}$として表せるものすべてとなります。

この数、$a+b\sqrt{2}$を見ると、有理数2つの組$(a, b)$と一対一対応しています。
ここでは、この体の仕組みを認識しやすくするために、体の元を、このような組の表現で扱うことにします。

そして、加算と乗算では、

  • $(a, b) + (c, d) = (a+c, b+d)$
  • $(a, b) \times (c, d) = (ac+2bd, ad+bc)$

という関係になります。

これは数値演算の$(a+b\sqrt{2}) + (c+d\sqrt{2}) = (a+c) + (b+d)\sqrt{2}$及び、$(a+b\sqrt{2})\times(c+d\sqrt{2}) = (ac+2bd) + (ad+bc)\sqrt{2}$を、2つ組で表現にしたに過ぎません。
有理数aは$(a, 0)$のことであり、もちろん$(0, 0)$が0の、$(1, 0)$が1に対応しています。

ちなみに、$(a+b\sqrt{2}) \div (c+d\sqrt{2}) = (a+b\sqrt{2}) \times (c-d\sqrt{2}) \div ((c+d\sqrt{2}) \times (c-d\sqrt{2}) = ((ac-2db) + (bc-ad)\sqrt{2}) \div (c^2 - 2d^2)$から、除算は、

  • $(a, b) \div (c, d) = (\frac{ac-2db}{c^2-2d^2}, \frac{bc-2ad}{c^2-2d^2})$

の関係になります。
あと、この分母の$c^2-2d^2$が0になる有理数の組は、$(c, d) = (0, 0)$、すなわち0だけです。

この$a+b\sqrt{2}$の体は、「有理数2つ組を元として四則演算が成立するように構成した体」の一つとも言えます。
($\sqrt{2}$のかわりに$\sqrt{3}$を使えば、また別の2つ組への積演算関係のある体が作れます)

一方、$\sqrt{2}$というのは、有理数が係数の方程式$x^2-2=0$の解の一つにつけられた記号表現であります。
このような、有理係数の方程式の解として規定される数のことを「代数的数」と呼ばれます。

この$a+b\sqrt{2}$のような、体に要素として代数的数を加えて、四則演算が体として成立するに必要な数を要素として全部を集めて構成した体の種類を「代数体」と呼ばれます。


2. 自己同型写像

2.1. 写像

ある集合の要素Aからとある集合Bの要素への対応付けされた変換器を、「写像」と呼びます。

写像は、2次関数のような、まとまった数式の関係であるとは限りません。
法則なしで各要素ごとに対応関係を列挙した表もまた、写像となります。
むしろ対応表が写像の本質であり、関係を制限された写像が数式関数になっている、くらいに考えたほうが良いです。


2.2. 準同型写像

さらに要素だけでなく、その要素間の演算関係も含めて対応付けされている写像を「準同型写像」といいます。

集合Aとその演算関係$R_a(a_1, a_2)$、および、集合Bのとその演算関係$R_b(b_1, b_2)$に対して、「AからBへの準同型写像$f(a)$」というのは、Aの任意の要素$a_1$と$a_2$に対して、

  • $f(R_a(a_1, a_2)) = R_b(f(a_1), f(a_2))$

という関係が必ず成立する写像のことです。

つまり、準同型写像というのは、変換してから演算をかけても、演算をかけてから変換しても、結果は同じである性質のある写像のことです。
準同型写像は、関係を保存する集合要素変換器である、ともいえます。

たとえば、対数log(x)は、掛け算から足し算へ準同型の関係を保存する準同型写像になっています。

  • $\log(a \times b) = \log(a) + \log(b)$

$f(x) = 2x$は、$2(a + b) = 2a + 2b$で準同型であり、和についての準同型写像です。
一方、$2(a \times b) = 2a \times 2b$とはならないので、積については準同型写像になりません。

とくに、写像として全単射(一対一関係)である準同型写像のことを、「同型写像」と呼びます。
この場合、逆写像$f^-1(x)$も同型写像になります。


2.3. 自己同型

集合にその要素の演算関係を組み合わせたものを「系」(代数系)と呼びます。
体は系の一種であります。

系としての「準同型」である、というのは、「すべての」演算関係において、準同型関係が成立する写像によって対応付けられた系のことです。準同型であれば、系としての「構造」が保存されるとも言います。

このうえで準同型写像が一対一関係になっていれば、系として「同型」であるといいます。

体としての準同型というのは、その準同型写像1つで、四則演算すべてにおいて準同型関係が成立することを意味します。つまり、

  • $f(a + b) = f(a) + f(b)$
  • $f(a - b) = f(a) - f(b)$
  • $f(a \times b) = f(a) \times f(b)$
  • $f(a \div b) = f(a) \div f(b)$

がすべて成立するものが、体の準同型写像$f(a)$である、ということです。

また、自分自身の系への同型写像で、演算も差し替えない同型写像を、「自己同型写像」とよびます。

そして、この記事では、「体についての自己同型写像」こそが、この理論の主眼であるとして、隠さずに扱っていきます。


2.4. 恒等写像

すべての要素aに対して$f(a)=a$の写像を「恒等写像」といいます。
もちろん、恒等写像は一対一関係の全単射写像であります。

どんな集合であっても、恒等写像は、「一つ」必ず存在します。

また、系への恒等写像は、当然準同型関係も成立するので、必ず自己同型写像となっています。
つまり、どんな系だろうと、自己同型写像は、少なくとも恒等写像一つは必ず存在しています。


2.5. 体の自己同型写像

ここからは、体の自己同型写像を考えていきます。

体の性質$0+a=a$から、自己同型写像$f(a)$ではかならず、$f(0)=0$となります。以下の性質から導かれます。

  • 同型写像であるから$f(0+a) = f(0)+f(a)$である
  • 一方で$0+a=a$から$f(0+a)=f(a)$であるため、$f(0)+f(a)=f(a)$でなくてはらない
  • よって体であるために、0の定義から、$f(0) = 0$でなくてはいけない

同様の論法で、$1 \times a = a$であることから、どんな自己同型写像であっても$f(1) = 1$になります。よって、

  • 体の自己同型写像であれば、0と1は変化させない

体の自己同型写像は、0と1は「固定」されている、ともいいます。


2.6. 有理数体の自己同型写像

この同型写像で変化しない0と1から、四則演算を駆使して生み出した数の集まりが有理数全体であるともいえます。

変化しない1から、2もまた、$f(2) = f(1 + 1) = f(1) + f(1) = 1 + 1 = 2$であるように変化しないのです。
ここから有理数の自己同型変換では、有理数全体も変化しないことになります。

つまり、「有理数の体への自己同型写像は、恒等写像1つのみ」が存在する、といえます。
いいかえると、恒等写像でないどんな全単射写像も、有理数体の自己同型写像にはならないことになります。


2.7. 代数体の自己同型写像

有理数に$\sqrt{2}$を加えて四則演算を駆使してできた$a+b\sqrt{2}$の体で、自己同型を考えます。
組での表現$(a, b)$で表すと、前述の演算関係が成立しています。

  • $(a, b) + (c, d) = (a+c, b+d)$
  • $(a, b) \times (c, d) = (ac+2bd, ad+dc)$

ここで、写像$f((a, b)) = (a, -b)$について上記の演算関係がどうなるかを考えてみます。すると、

  • $f((a, b)) + f((c, d)) = (a, -b) + (c, -d) = (a+c, -(b+d)) = f((a+c, b+d))$
  • $f((a, b)) \times f((c, d)) = (a, -b) \times (c, -d) = (ac+2bd, -(ad+bc)) = f((ac+2bd, ad+bd))$

であり、この$f((a, b)) = (a, -b)$は、自己同型写像となっています。

つまり、$a+b\sqrt{2}$の体の自己同型写像は、恒等写像e、および、このfの2つが存在することになります。


3. 自己同型写像と群

$\sqrt{2}$の体の自己同型写像fは、二回かけるともとに戻ります。

  • $f(f((a, b))) = f((a, -b)) = (a, b)$

これは、恒等写像eと同じであり、$f(f((a, b))) = e((a, b))$である、といえます。

このeとfの適用関係を表にすると以下のようになります。

e f
e e f
f f e

すなわち自己同型写像の間でも、閉じた演算関係が成立していることになります。

こういった自己同型写像による変換を繰り返し適用することで成立する関係がなす系のことを「群」と呼びます。

一番小さい群は、恒等写像eが一つだけの群で、「単位群」と名付けられています。

たとえば、演算関係が一つも規定されていない系は、ただの集合です。
この集合へのあらゆる要素の入れ替えパターンは、すべて集合にとっての自己同型写像となります。
この集合要素の入れ替え操作がなす群のことを「対称群」と名付けられています。

集合に演算関係が加わるほど、要素の入れ替えパターンは制限され、それらでなす群も小さくなり、群として特殊な関係性だけが残っていくことになります。

そして体になると、要素が有理数全体であっても、変換が成立できるのは恒等写像だけの単位群になってしまうのです。


3.1. 自己同型写像の群と体の関係

先に示したように、体の0と1は、どんな自己同型写像であっても、他の要素へ変換されません。

ここで、自己同型写像による変換で、変換される要素と変換されない要素がどうのような関係にあるのか に着目します。

$a+b\sqrt{2}$の体では、自己同型写像はeとfがあります。同型写像eではこの体のすべての要素は変換されません。

一方、$f((a, b)) = (a, -b)$を考えてみます。
fで変化しない元、つまり、$f((a, b)) = (a,b)$となるのは、$b=0$すなわち$f((a, 0)) = (a, 0)$の場合になります。
これは$a+0\sqrt{2} = a$であり、すなわち、有理数全体を表しています。

いわば、fによって、有理数は変換されず、非有理数な$a+b\sqrt{2}$が、$a-b\sqrt{2}$へと変換される、とみなせます。

そして、この変換されなかった要素でなす部分集合(つまり有理数)は、それだけでも体としての演算関係が成立する「部分体」となっていることが、わかります。

一方、eだけで成立する単位群は、eとfでなす群の部分群の関係にあります。ここから、

  • 体の自己同型写像での不変部分は、部分体を構成する
  • 体の自己同型写像を群とみなし、その部分群に含まれる自己同型写像による不変部分は、部分体を含んだより大きな体を構成する

関係があります。つまり体の自己同型写像の群とその不変部分の部分全体関係をまとめるとこうなります:

自己同型写像の群 全体の群 部分群
全自己同型写像での不変部分 部分体 全体の体

この「体の自己同型写像の群」と、「群をなす自己同型写像の不変部分でなす体」の間の関係にもとづく理論が「ガロア理論」です。

この部分体を括りだす、体の自己同型写像がなす群のことを特に「ガロア群」と名付けられています。
また「部分体」のほうからみれば、大本の体はそれを含むように拡大した体なので「拡大体」と呼びます。

多くの説明では拡大の視点で、ガロア群の説明がなされています。
しかし、その意味を理解する上では、「体の自己同型変換の不変部分は(部分)体である」ことでガロア群を認識していくほうがわかりやすいと思います。


3.2. 巡回群と可解群

体の自己同型写像の群で、いちばん重要な群の種類が、「巡回群」です。

たとえば、集合の要素を記号abcdとし、a=>b,b=d, d=>aと一度に変換する集合の自己同型写像を考えます。
この変換を2回くりかえすとa=>c,b=>d,c=>a, d=>bであり、3回繰り返すとa=>d,b=>a,c=>b,d=>cで、4回繰り返せば恒等変換になります。

abcdからはじめて、abcd => bcda => cdab => dbac => abcdと、もとにもどってずっとぐるぐる廻る関係になっています。
これらのどの変換でも、順に配置した記号abcdを、互いの左右の位置関係を変えずに、回転させたものになっていま
す。
この4つの変換写像だけでなす群を、「4次の巡回群」と呼びます。

別視点では、平面上の(1,0)の点を起点として、原点を中心として反時計回りに、「90度づつ回していく変換」と同じです。その移動先の(0,1), (-1,0), (0,-1), (1,0)の4点を結ぶと正方形になり、この90度変換によって正方形上の点を入れ替えても、正方形は一切変化しない正方形の自己同型写像となっています。

1,2,3次の巡回群は以下のものです。

  • 恒等変換のみの単位群は、1次の巡回群である
  • 記号2つabの入れ替えであり、2要素すべての自己変換でもある2次の対称群は、2次巡回群でもある
  • 3次巡回群は、a=>b,b=>c,c=>aの変換と、a=>c,b=>a,c=>bの変換に、恒等変換を入れた3つの変換がなす群である。平面上の正三角形の自己同型写像でもある。

n次の巡回群は、n個の回転変換の集まりで、nごとに1種類しかありません。

そして、体の自己同型群がn次巡回群である、というのは、「n乗根を追加して構成する体」であるという関係になっています。
以降の具体例によって、このことも確認していきます。


例にあげた4次の巡回群について、もう少し見てみます。
a=>c, b=>d, c=>a, d=>bを二回かけると、恒等写像になります。これは2次巡回群のことであります。
よって、4次の巡回群は、2次の巡回群を部分群にもつ、といえます。
図形的には、4次巡回群の90度の回転は、1/4回転であるとも言えます。90度二回の180度回転は1/2回転になります。

一般的に、$n=a \times b$であれば、n次の巡回群は、a次の巡回群とb次の巡回群をその部分群として含んでいます。
つまり、n次巡回群の部分群は、そのすべての約数次の巡回群となっています。

12次巡回群なら、6,4,3,2,1,次の巡回群がその部分群になります。
図形的に1/12回転は、2回で1/6、3回で1/4、4回で1/3、6回で1/2、12回で1/1なことからも判断できるでしょう。


逆に、a次の巡回群とb次の巡回群をその部分群として含んでいても、それ全体が$a\times b$次の巡回群ではない場合はあります。

6要素の群だと、3要素のabcを自由に入れ替える3次対称群は、部分群に3次の巡回群(a=>b=>c=>aなど)と2次の巡回群(a=>b=>aなど)を含んでいます。
しかし、3次対称群は、6次の巡回群とは違う演算関係を持ちます。

ただし、この3次対称群は、3次巡回群を核として、その周りに2次巡回群をかけ合わせた関係になっています。
これは演算関係を表にすると一目瞭然です。

f = a=>b=>c=>a、g = a=>c=>b=>a、h = a=>b=>a, i = b=>c=>b, j = c=>a=>cとすると、3次対称群は以下の演算関係になります:

e f g h i j
e e f g h i j
f f g e j h i
g g e f i j h
h h i j e f g
i i j h g e f
j j h i f g e

このうち、efgをEに、hijをHにまとめてみると、

E H
E E H
H H E

と2次巡回群が現れます。

このような巡回群だけを多段に重ねて構成される群のことを、「可解群」と呼びます。
この可解群には、1段だけのn次巡回群そのものも含まれています。

そして、冪根で表現できる方程式の解の体のガロア群は、すべてこの「可解群」となるのです。


以降は、具体的な体やガロア群での話しになります。

4. 3次方程式の解である3乗根で拡大した体

平方根が2次方程式の解の記号であったように、3乗根というのは3次方程式の解ということになります。
平方根がプラスマイナスの2つあるように、ある数の3乗根は3つ存在します。

そして、3次方程式の解を表すための体には、これらの3つの解がすべてが含まれていなくてはいけません。

4.1. 1の三乗根

まず、1の3乗根を考えます。

1の3乗根とは、$x^3 - 1 = 0$の解です。
$x^3 - 1 = (x - 1)(x^2 + x + 1) = 0$であり、$x = 1$とは、$x - 1 = 0$からくる解の一つにすぎないことがわかります。

もう一方の$x^2 + x + 1 = 0$の解もまた3乗すれば1となる数であり、この3乗することで初めて1になる解のことを「原始3乗根」とよびます。1は1乗の時点で1なので、原始3乗根ではありません。

$x^2 + x + 1 = 0$の解の一つを$w = \frac{-1 + i \sqrt{3}}{2}$とすると、もう一つは$w^2 = \frac{-1 - i \sqrt{3}}{2}$です。どちらも3乗することで初めて1になる原始3乗根です。

(ちなみに、1の4乗根には-1が含まれるが2乗しただけで1になるので、-1も原始4乗根ではありません。ただし-1は原始2乗根ではあります。)


4.2. 2の三乗根

つづいて、2の3乗根を考えます。

2の実3乗根$\sqrt[3]{2}$というのは、$x^3 - 2 = 0$の解のうちの一つです。

$y = \frac{x}{\sqrt[3]{2}}$とおけば、$x^3 - 2 = y^3 - 1 = 0$と1の3乗根の方程式になるため、他の2つの解は、$x = \sqrt[3]{2}w$および$x = \sqrt[3]{2}w^2$であることがわかります。

これを踏まえて、2の3乗根を3つとも含む体について考えます。

有理数の体から見ると、この体は、原始3乗根$w$および$\sqrt[3]{2}$の両方を含むように拡大される必要があります。
($\sqrt[3]{2}$だけ加えた体では、その元になる有理係数方程式の解として表現できないため)。

先程の$y = \frac{x}{\sqrt[3]{2}}$から、$y$は$w$を含む体に$\sqrt[3]{2}$を加える表現といえます。

そこで、まず有理数を$w$で拡大する体を考えるのです。


4.3. 有理数&1の原始三乗根の体

有理数を$w$で拡大した体の元(数のこと)は、すべて$a + bw + cw^2$の形で表現できます。

前述した$\sqrt{2}$での拡大でのように、ここでも$a + bw + cw^2 => (a, b, c)$と組で表記します。

この和と積は、

  • $(a, b, c) + (d, e, f) = (a + d, b + e, c + f)$
  • $(a, b, c) \times (d, e, f) = (ad + bf + ce, ae + bd + cf, af + be + cd)$

という関係となります。

そして、$w$で拡大した体の自己同型写像は、恒等写像eの他には、$f((a, b, c)) = (a, c, b)$が存在します。
(原始n乗根の体の自己同型写像の導出法については、後述します)

  • $(a, c, b) \times (d, f, e) = (ad + bf + ce, af + be + cd, ae + bd + cf)$

から、入れ替えたからかけた結果と、かけた結果を入れ替えても同じになること(準同型の関係)が確認できます。
よって、この変換写像が自己同型となっていることがわかるでしょう。(和のほうの準同型関係は、すぐわかると思う)

この自己同型変換の群関係は、以下の表になります。

e f
e e f
f f e

これが有理数の体を1の3乗根の体に拡大するときのガロア群です。2次巡回群になっています。

この群は、平方根の自己同型群と同じ構造であり、1の3乗根$w$は平方根で表現できる、とも見なせます。


4.4. 有理数&1の三乗根 & 2の実三乗根 の体

つづいて、この有理数に$w$を加えた体に、2の実3乗根$\sqrt[3]{2}$を加えた体を考えます。

この体での元は、$a, b, c$を有理数に$w$を加えた体の元とすると、$a + b\sqrt[3]{2} + c\sqrt[3]{2^2}$で表せられます。
またここでも、$a + b\sqrt[3]{2} + c\sqrt[3]{2^2} => (a, b, c)$の形で表現することにします。この和と積は、

  • $(a, b, c) + (d, e, f) = (a + d, b + e, c + f)$
  • $(a, b, c) \times (d, e, f) = (ad + 2bf + 2ce, ae + bd + 2cf, af + be + cd)$

という関係です。
積のほうは、に係数2がついた項が存在するので、原始3乗根のときとは違う体の演算関係であることがわかります。

この体の自己同型写像は、恒等写像eのほかに、原始3乗根wをつかった、$g1((a, b, c) = (a, bw, cw^2)$と$g2((a, b, c) = (a, bw^2, cw)$が恒等写像となっています。
原始3乗根で有理数部分として組の第1要素目が自己同型写像で変化しなかったように、この場合でも自己同型写像であるなら、組の第1要素目は変化しません

積の方の同型性は、以下のように確認できます。

  • $(a, bw, cw^2) \times (d, ew, fw^2) = (ad + 2bf + 2ce, aew + bdw + 2cfw, afw^2 + bew^2 + cdw^2)$
  • $(a, bw^2, cw) \times (d, ew^2, fw) = (ad + 2bf + 2ce, aew^2 + bdw^2 + 2cfw^2, afw + bew + cdw)$

eとg1とg2の群の関係は以下のようになります。

e g1 g2
e e g1 g2
g1 g1 g2 e
g2 g2 e g1

これが1の3乗根の体から、2の3乗根の体に拡大したときのガロア群となる。3次巡回群になります。
なぜなら変換でかけた$w$も$w^2$も3乗することで、1になるからです。

ちなみに、3回かけて恒等写像になる$h1((a, b, c) = (a, bw, cw)$や$h2((a, b, c) = (a, bw^2, cw^2)$は、そもそも積演算で準同型写像になりません。

自己同型で変化しない部分である、積の結果の1要素目にbfやceの項が入るには、(1になって)wが消えるよう、$w$のべきの和が3の倍数でなくてはいけないからです。

また、wのときの自己同型写像だった$h0((a, b, c) = (a, c, b)$の入れ替えも、同様に積で準同型写像になりません(いくつかの項につく係数2の存在のため、入れ替えが不可能)。


4.5. 有理数から2の三乗根の体のガロア群

そして、有理数から、直接$w$と$\sqrt[3]{2}$に拡大した体を考えることにします。
その元は

  • $a1 + a2w + a3w^2 + a4\sqrt[3]{2} + a5\sqrt[3]{2}w + a6\sqrt[3]{2}w^2 + a7\sqrt[3]{2^2} + a8\sqrt[3]{2^2}w + a9\sqrt[3]{2^2}w^2$

より、3かける3の9個の有理数の組$(a1,a2,a3,a4,a5,a6,a7,a8,a9)$となります。
前述のwでの自己同型写像fや、$\sqrt[3]{2}$での自己同型写像g1,g2を、この組で表現すると、

  • $f((a1,a2,a3,a4,a5,a6,a7,a8,a9)) = (a1, a3, a2, a4, a6, a5, a7, a9, a8)$
  • $g1((a1,a2,a3,a4,a5,a6,a7,a8,a9)) = (a1, a2, a3, a6 ,a4, a5, a9, a7, a8)$
  • $g2((a1,a2,a3,a4,a5,a6,a7,a8,a9)) = (a1, a2, a3, a5, a6, a4, a8, a9, a7)$

となります($\sqrt[3]{2}$でwをかけるというのも、入れ替えで表されます)。
ここにg1やg2にfを続けてかけあわせた、fg1やfg2もまた自己同型写像となります。

  • $fg1((a1,a2,a3,a4,a5,a6,a7,a8,a9)) = (a1, a3, a2, a6 ,a5, a4, a9, a8, a7)$
  • $fg2((a1,a2,a3,a4,a5,a6,a7,a8,a9)) = (a1, a3, a2, a5, a4, a6, a8, a7, a9)$

これらの自己同型写像の群は、{e, g1, g2, f, fg1, fg2}の6元の群で、3次対称群と同じ関係になっています。
この群の演算関係を表にすると以下のようになります。

e g1 g2 f fg1 fg2
e e g1 g2 f fg1 fg2
g1 g1 g2 e fg2 f fg1
g2 g2 e g1 fg1 fg2 f
f f fg1 fg2 e g1 g2
fg1 fg1 fg2 f g2 e g2
fg2 fg2 f fg1 g1 g2 e

よって、有理数の体から2の三乗根の体までの拡大関係と、その自己同型写像の群の具体的な対応表は以下のようになります。

2次巡回群/w 3次巡回群/$\sqrt[3]{2}$
自己同型写像の群 3次対称群 3次巡回群(e,g1,g2) 単位群(e)
自己同型写像での不変部分 有理数(a1) 有理数&$w$(a1,a2,a3) 有理数&$w$&$\sqrt[3]{2}$

体は、有理数(a1)から(a1,a2,a3)に拡大し、ここで(3次対称群の外側の群の)2次巡回群な自己同型写像(2と3を入れ替え)が対応します。
さらに体を(a1-3)から(a1-3, a4-6, a7-9)に拡大し、ここで3次巡回群な自己同型写像(456と789を回す)が対応します。


5. n乗根の体のガロア群を求める

以降は、より一般的にn乗根の体のガロア群を求める方法を導出していきます。
このために、まず1のn乗根の体について分析します。
つづいて1のn乗根の体の上に実n乗根の体への拡大について分析します。
そして発展先として、一般の方程式での自己同型や、定規とコンパスで書く正多角形について、かるくガロア群との関係付けをしていきます。

5.1. 1の原始5乗根の体

まず、1の原始5乗根を$q$とします。

このqは、$x^5 - 1=(x-1)(x^4 +x^3 +x^2 +x+1)=0$での、$x^4 + x^3 + x^2 +x+1=0$のほうの解の一つです。
当然$q^5 = 1$であり、他の3つは、$q^2$、$q^3$、$q^4$となります。

有理数に$q$を追加した体の元は、$a+bq+cq^2+dq^3+eq^4$ => $(a, b, c, d, e)$の有理数5つの組で表現できます。しかし、今後はqのべき数との対応付けしやすいよう、組の要素は、0で始まる添字付き文字$(a_0, a_1, a_2, a_2, a_3,a_4)$で表現します。

積演算は以下の通り、

  • $(a_0, a_1, a_2, a_3, a_4) \times (b_0, b_1, b_2, b_3, b_4) = (a_0 b_0 + a_1 b_4 + a_2 b_3 + a_3 b_2 + a_4 b_1, a_0 b_1 + a_1 b_0 + a_2 b_4 + a_3 b_3 + a_4 b_2, a_0 b_2 + a_1 b_1 + a_2 b_0 + a_3 b_4 + a_4 b_3, a_0 b_3 + a_1 b_2 + a_2 b_1 + a_3 b_0 + a_4 b_4, a_0 b_4 + a_1 b_3 + a_2 b_2 + a_3 b_1 + a_4 b_0)$

この積の関係では、右辺側の個々の要素の各項では、その添字の和を5で割ったあまりは、それぞれ、(0, 1, 2, 3, 4)となっている点に注目です。この関係を意識して、変換を選んで行きます。


5.1.1. 自己同型写像を見つける手順

自己同型写像をみつけるためには、まず有理数部分が体の自己同型写像では不変である点に着目します。

たとえば$a_1 b_4$の項は第一要素にあるため、qの係数である$a_1$を$q^2$の係数に移すとき、同型写像であるためには$b_4$のほうも$q^3$の係数へうつらなくてはいけません。

同じ視点で、$a_2$を$q$の係数にうつした場合は、$b_3$は$q^4$の係数に移さなくてはいけません。
このように作った写像は、$f((a_0, a_1, a_2, a_3, a_4)) = (a_0, a_2, a_1, a_4, a_3)$です。
しかし、右辺の$q^3$の係数にある$a_1 b_2$の項に着目すると、変換してからかけたときでもこの項は$q^3$の位置のままであります。同型写像としてうつるべき$q^4$の位置にはうつらないので、よってこの写像fは自己同型写像ではないということになります。

逆に、$a_2$を$q^4$へうつした場合は、対応する$b_3$が$q$に映ることになります。
この写像は、$f1((a_0, a_1, a_2, a_3, a_4)) = (a_0, a_3, a_1, a_4, a_2)$です。
これは、$a_1 b_2$はqの位置に映るので、自己同型写像となりました。

この写像の結果の係数を見ると、1 => 2 => 4 => 3 => 1とうつっています。
f1を2度かけたものをf2とすると、1 => 4 => 1, 2 => 3 => 2です。
そして、f1を3度かけたものをf3とすると、1 => 3 => 4 => 2 => 1です。

  • $f1((a_0, a_1, a_2, a_3, a_4)) = (a_0, a_3, a_1, a_4, a_2)$
  • $f2((a_0, a_1, a_2, a_3, a_4)) = (a_0, a_4, a_3, a_2, a_1)$
  • $f3((a_0, a_1, a_2, a_3, a_4)) = (a_0, a_2, a_4, a_1, a_3)$

また、f1を4度かけたものは恒等写像eになります。これは4次の巡回群と同じ演算関係です。


5.1.2. 正規部分群と剰余群

ここでは少し脇にそれ、前述の巡回群を「重ね合わせた群」について、部分群での解体方向での用語を導入します。

このqの体への自己同型写像がなすガロア群は、以下の演算関係の構造になっています。

e f2 f1 f3
e e f2 f1 f3
f2 f2 e f3 f1
f1 f1 f3 f2 e
f3 f3 f1 e f2

この群は4次巡回群であるが、eとf2だけでも閉じた部分群を持っています。

e f2
e e f2
f2 f2 e

ここで、この表で、eとf2をE,f1とf3をFと置き換えると以下のようになります。

E E F F
E E E F F
E E E F F
F F F E E
F F F E E

これを、小さくまとめると、

E F
E E F
F F E

と、やはり群の演算関係になっています。


このように部分群になる元をまとめたとき、そのまとめた結果も群になる場合でのE部分にくる部分群を「正規部分群」といいます。

そして、その正規部分群を単位元にしてまとめた結果得られる群を「剰余群」と呼びます。(正規部分群でない部分群で要素まとめた分類は群にはならない。この場合には「剰余類」と呼びます)

先に、可換群は巡回群を入れ子になるよう重ねた群であると説明したが、これはその正規部分群も(より小さな)可換群であり、そのすぐ外側でつくる剰余群が巡回群になっている、という構造です。
言い換えると、可解群とは、一番大きな正規部分群で単位群まで分解していくと、「その剰余群はすべて巡回群」になっている、とみなせます。


5.1.3. ガロア群の構造から見た原始5乗根の構造

前述の、原始3乗根と$sqrt[3]{2}$の体の拡大の3次対称群は、$\sqrt[3]{2}$の体の拡大での3次巡回群を正規部分群とすることで、それをまとめた結果が、1の原始3乗根の体の拡大での2次巡回群になっていました。
これは、$x^3 -2=0$の解は、2次巡回群による平方根と、3次巡回群による3乗根によって表せるものであることを意味しています。

同様の観点から、1の原始5乗根qの体の自己同型写像でなすガロア群が、2次巡回群が2段かさなった群であるため、1の原始5乗根の中身は、平方根を2重に使うことで表せる、と類推できます。

実際に、1の原始5乗根は、$q = \cos(\frac{2\pi}{5}) + i \sin(\frac{2\pi}{5})$でもあるが、

  • $\cos{\frac{2\pi}{5}} = \frac{\sqrt{5}-1}{4}$
  • $\sin{\frac{2\pi}{5}} = \frac{\sqrt{10 + 2\sqrt{5}}}{4}$

となっていて、平方根の二段重ねになっています。


5.2. 原始n乗根のガロア群

1の原始3乗根wの体のガロア群{e, f}は、位数2の巡回群でした。

1の原始2乗根-1の体は有理数そのものであり、そのガロア群{e}は、位数1の巡回群ともいえます。
そして、1の原始5乗根qの体のガロア群{e, f1, f2, f3}は、位数4の巡回群です。

nが素数の場合、1の原始n乗根の体のガロア群は、位数n-1の巡回群になります。
nが素数の場合では、原始n乗根の数はn-1個でした。

一方、nが非素数の場合では、nと互いに素な自然数の個数(オイラー$\Phi$関数)ぶんの原始n乗根がります。
1の4乗根のうち、iと-iは原始n乗根だが、-1は違います。
[1, $i$, $i \times i = -1$, $i \times i \times i=-i$]と順にならべると、4と互いに素でない2番目($i \times i = -1$のこと)は原始4乗根ではありません。
図形的には、互いに素でない2によって、2/4=1/2回転となるからです。

もし、iを-1に移すと、有理数部分が変化するので、自己同型写像にはなりません。
より一般的には、1のn乗根の体の自己同型写像では、原始n乗根は原始n乗根にのみうつせます。

よって、原始n乗根の個数が、その体のガロア群の要素である自己同型写像の個数となるのです。

ちなみに、1のn乗根の体のガロア群の構造は、

  • nが3以上の素数のべき乗$q^m$であれば、$q^{m-1}(q-1)$次の巡回群になる
  • nが2のべき乗$2^m$であれば、$2^{m-1}$個の自己同型写像による、2次巡回群を(m-1)段重ねた可解群になる
  • nがそれらの積であれば、それらの可解群を重ねた可解群になる

5.2.1. 原始n乗根の自己同型写像の求め方

もう一度、原始5乗根の体の自己同型写像を見直します。

  • $f1((a_0, a_1, a_2, a_3, a_4)) = (a_0, a_3, a_1, a_4, a_2)$

これが自己同型写像であるのは、積の「項の添字の和の5で割ったあまり」が一緒に移動するからです。
なぜか。これは自己同型写像で、添字すべてを同じ倍数かけているからです。
つまり、自己同型写像として、ただ定数倍しただけであり、$ax + ay = a(x + y)$の性質を使っているにすぎないのです。

この1から4までの添字の推移を見てみると、1 => 2 => 4 => 3 => 1となっています。
今後、この添え字のローテーション推移を、短く$(1 2 4 3)$とも書くことにします。

これは添字をxとすると剰余式$f1(x) = 2x \mod 5$とも表せます(8を5で割ったあまりが3、6を5で割ったあまりが1)。
ちなみにf1を重ねがけしたf2,f3,eも同様に剰余式で表現できます。そのため、

  • $f1(x) = 2x \mod 5$
  • $f2(x) = 4x \mod 5$
  • $f3(x) = 3x \mod 5$
  • $e(x) = 1x \mod 5$

となっているのでした。

より一般的には、原始n乗根の体では、1を含むnと互いに素な自然数rごとに「$f_r(x) = rx \mod n$で体の組の添字を移す自己同型写像」があり、別々にその個数分だけ存在します。

原始3乗根wの自己同型写像は、$f_2(x) = 2x \mod 3$で、添字は、1=>2=>1の入れ替え$(1 2)$です。
この原始4乗根の自己同型写像の群は、2次巡回群です。

非素数の場合、たとえば原始4乗根iの自己同型写像は、$f_3(x) = 3 \mod 4$で、添字は、1=>3=>1の入れ替え$(1 3)$です。
添字2は入れ替わらないが、2にあたる部分のは有理数-1であることから、組表現として添字0と融合させ、存在しないことにするとします。
同様に、添字3は-iであり、これも添字1と融合させたとします。

この場合、1と3を入れ替えるというのは、iと-iとを入れ替えることなので、マイナスをかけることに相当します。
つまり、原始4乗根の体の元を、$a_0 + a_1 i$として、$(a_0, a_1)$で表現すると、$f_3$によって$(a_0, -a_1)$とすることになります。


以下、6,7,8,9についての原始n乗根の自己同型写像の群を具体的に見てみましょう。

5.2.2. 原始6乗根の体の自己同型写像

原始6乗根の体は、6と互いに素な自然数は、1と5だけです。

$f_5(x) = 5x \mod 6$ より、 1=>5=>1と2=>4=>2の2つの相互入れ替えです(今後は、かける数を自己同型写像の添字にします)。
このように複数に分かれる場合はならべて、$(1 5)(2 4)$と書くことにします。

この原始6乗根の自己同型写像の群も、やはり2次巡回群です。

一方、互いに素ではない4で移すとどうなるか、についても考えてみます。
$4x \mod 6$での推移を考えると、1=>4=>4=>...と1も4も4になってしまいます。
つまり、かける数が互いに素でないと、写像として全単射とならないのです。

また、1の6乗根を順に並べた3番目は-1の有理数です。
この3では、$5x \mod 6$での変換では3のまま不変で、有理数部分としても不変になっています。


5.2.3. 原始7乗根の体の自己同型写像

7と互いに素な自然数は、1,2,3,4,5,6です。
以下、原始7乗根の体の自己同型写像を並べると、:

  • $f_1(x) = 1x \mod 7$より、群の単位元$()$
  • $f_2(x) = 2x \mod 7$より、$(1 2 4)(3 6 5)$
  • $f_3(x) = 3x \mod 7$より、$(1 3 2 6 4 5)$
  • $f_4(x) = 4x \mod 7$より、$(1 4 2)(3 5 6)$
  • $f_5(x) = 5x \mod 7$より、$(1 5 4 6 2 3)$
  • $f_6(x) = 6x \mod 7$より、$(1 6)(2 5)(3 4)$

6次の巡回群として$f_3$から、:

  • $f_2(x) = f_3(f_3(x))$
  • $f_6(x) = f_3(f_2(x))$
  • $f_4(x) = f_3(f_6(x))$
  • $f_5(x) = f_3(f_4(x))$
  • $f_1(x) = f_3(f_5(x))$

となっています。
つまり、群としての演算関係は、その自己同型写像の添字をかけ合わせて7で割った余りと同じ関係です。
(たとえば、先の原始6乗根の場合では、自己同型写像$f_5(x)$の添字の5同士をかけて6で割ると1になり、$f_5(f_5(x)) = f_1(x)$が成立する。)


5.2.4. 原始8乗根の体の自己同型写像

8と互いに素な数は奇数4つ(1,3,5,7)です。また1の8乗根の4番目は-1で有理数です。
以下、原始8乗根の体の自己同型写像を並べると、:

  • $f_1(x) = 1x \mod 8$より、群の単位元$()$
  • $f_3(x) = 3x \mod 8$より、$(1 3)(2 6)(5 7)$
  • $f_5(x) = 5x \mod 8$より、$(1 5)(3 7)$
  • $f_7(x) = 7x \mod 8$より、$(1 7)(2 6)(3 5)$

(4はこれらすべての自己同型写像でも4のままである。)

  • $f_1(x) = f_3(f_3(x)) = f_5(f_5(x)) = f_7(f_7(x))$
  • $f_3(x) = f_5(f_7(x)) = f_7(f_5(x))$
  • $f_5(x) = f_3(f_7(x)) = f_7(f_3(x))$
  • $f_7(x) = f_3(f_5(x)) = f_5(f_3(x))$
$f_1$ $f_3$ $f_5$ $f_7$
$f_1$ $f_1$ $f_3$ $f_5$ $f_7$
$f_3$ $f_3$ $f_1$ $f_7$ $f_5$
$f_5$ $f_5$ $f_7$ $f_1$ $f_3$
$f_7$ $f_7$ $f_5$ $f_3$ $f_1$

$f_1$と$f_3$で部分群としてまとめれば、剰余群は2次の巡回群になります。
これは、2次巡回群を2段重ねた可解群です。

この演算関係は、原始5乗根の4次巡回群とは違う関係であることに注意です(つまり、4次の巡回群ではない)。

ちなみに演算関係上は、$f_3$も$f_5$も$f_7$も対等であるため、$f_1$と$f_5$でも、$f_1$と$f_7$でも、正規部分群になって、同様の2次巡回群の剰余群ができます。


5.2.5. 原始9乗根の体の自己同型写像

9と互いに素な数は、1,2,4,5,7,8の6つです。

以下、原始9乗根の体の自己同型写像を並べると、。

  • $f_1(x) = 1x \mod 9$より、群の単位元$()$
  • $f_2(x) = 2x \mod 9$より、$(1 2 4 8 7 5)(3 6)$
  • $f_4(x) = 4x \mod 9$より、$(1 4 7)(2 8 5)$
  • $f_5(x) = 5x \mod 9$より、$(1 5 7 8 4 2)(3 6)$
  • $f_7(x) = 7x \mod 9$より、$(1 7 4)(2 5 8)$
  • $f_8(x) = 8x \mod 9$より、$(1 8)(2 7)(4 5)(3 6)$

これは、6次巡回群の構造です。

  • $f_4(x) = f_2(f_2(x))$
  • $f_8(x) = f_2(f_4(x))$
  • $f_7(x) = f_2(f_8(x))$
  • $f_5(x) = f_2(f_7(x))$
  • $f_1(x) = f_2(f_5(x))$

5.3. 2のn乗根の体のガロア群

つづいて、1ではない有理数として2を用い、そのn乗根の体とガロア群を導出していきます。

5.3.1. 2の5乗根の体のガロア群

2の5乗根の方程式$x^5-2 = 0$の解の体を考えてみましょう。

1の原始5乗根をqとして、解は$\sqrt[5]{2}$、$\sqrt[5]{2}q$、$\sqrt[5]{2}q^2$、$\sqrt[5]{2}q^3$、$\sqrt[5]{2}q^4$の5つになります。

ここで、有理数をqで拡大した体からさらに、$\sqrt[5]{2}$で拡大した体を考えます。
この体の元は、$a_0 + a_1 \sqrt[5]{2}+ a_2 \sqrt[5]{2^2} + a_3 \sqrt[5]{2^3} + a_4 \sqrt[5]{2^4}$で、この組表記を添字は0で始まる$(a_0, a_1, a_2, a_3, a_4)$とします。

積演算の全体は書かないが、それぞれの積項の添字の和を5で割ったあまりの位置に来ます。また、添字の和が5以上なら係数2がつくものになります。
これは、2の3乗根の体での積と同様の仕組みです。

この自己同型写像の一つは、

  • $f1((a_0, a_1, a_2, a_3, a_4)) = (a_0, a_1 q, a_2 q^2, a_3 q^3, a_4 q^4)$

です。組要素の添字とそこへかけるqのべき数を一致させた変換を作ります。
この変換での積の結果を見ると、各項の添字の和を5で割ったあまりと、qのべきが一致することになります。
たとえば、積の結果a1a2の項はa3の位置に来ますが、この変換ではqの3乗がつくので、変換してからかけても、かけてから変換しても同じ結果になる、準同型写像になることがわかります。

このf1を重ねがけすることで、$f2 = f1(f1(a))$、$f3 = f1(f2(a))$、$f4 = f1(f3(a))$、$f0 = f1(f4(a)) = e$の5つの自己同型写像が生成され、それらが5次巡回群になるのがわかります(添字をみると、足して5で割った結果になっている)。

よって、有理数の体からの2の5乗根の体のガロア群というのは、この5次巡回群を正規部分群として入れ子に4次巡回群を重ねた可解群となります。
この群の元の数は20個です。


5.3.2. 2の4乗根の体のガロア群

一方、2の4乗根の方程式$x^4-2 = 0$の解の体を考えてみましょう。

1の原始4乗根は、-1の平方根iと-iです。有理数をこのiで拡大した体の元は、$a+bi$になります。
この体の自己同型写像は(2の平方根と同様に)iを-iに入れ替えるものであり、このガロア群は2次巡回群です。

一方、2の4乗根を生む方程式$x^4-2 = 0$の解は、$\sqrt[4]{2}$、$-\sqrt[4]{2}$、$\sqrt[4]{2}i$、$-\sqrt[4]{2}i$の4つあります。
有理数をiと$\sqrt[4]{2}$で拡大した体の元は、$a_0 + a_1 \sqrt[4]{2} + a_2 \sqrt[4]{2^2}+ a_3 \sqrt[4]{2^3}$で、この組表記を$(a_0, a_1, a_2, a_3)$とします。

この積演算の全体は書かないが、5乗根と同様、それぞれの積項は、その添字の和を4で割ったあまりの位置に来ます。
また、項の添字の和が4以上なら、その項には係数2がつきます。

この自己同型写像の一つは、

  • $f1((a_0, a_1, a_2, a_3)) = (a_0, i a_1, -a_2, -i a_3)$

です。各要素へ、iの添字乗を掛けた変換です。-1は原始4乗根ではないけれど、これも5乗根のときと同じ議論になっています(-1は$i^2$)。
f1を重ねがけすることで、$f2 = f1(f1(a))$、$f3 = f1(f2(a))$、$f0 = e = f1(f3(a))$の自己同型写像が生成でき、これらで4次巡回群になっています。

  • $f2((a_0, a_1, a_2, a_3)) = (a_0, -a_1, a_2, -a_3)$
  • $f3((a_0, a_1, a_2, a_3)) = (a_0, -i a_1, -a_2, i a_3)$

2の4乗根のガロア群は、これにiと-iをいれかえる二次巡回群を重ね合わせた8要素の可解群になります。

f1でiと-iを入れ替えても、$a_0$の一部は変化するので、f3にはなりません。
具体的には、$a_0$部分は、$a_{00} + a_{01} i$ => $(a_{00}, a_{01})$とすると、i <=> -iの反転は、$(a_{00}, -a_{01})$になります。
同様に、$a_1$部分に-1をかけるのは$(-a_{10}, -a_{11})$、iをかけるのは$(-a_{11}, a_{10})$、-iをかけるのは$(a_{11}, -a_{10})$になります。

実際、除算$\sqrt[4]{2}i \div \sqrt[4]{2}$から、体として単独のiがとりだせるので、このi<=>-i入れ替えだけの自己同型写像も必要です。


5.3.3. n乗根の体のガロア群

これまで、平方根、3乗根、4乗根、5乗根の方程式の解の体とガロア群を見てきました。

これらは、まず1の原始n乗根で有理数を拡大し、そこから実べき乗根で拡大した体になっていました。

原始n乗根の体で、その自己同型写像は、組表現での位置の入れ替えであり、原始n乗根の数の個数(nと互いに素なn未満の自然数の個数、「オイラーのファイ関数」で$\phi(n)$個)と同じ個数存在し、それらで多段の巡回群である可解群を構成しました。

そして、さらに実n乗根で拡大した体では、その自己同型写像は、有理数以外の部分(n-1個)に対し、1の原始n乗根を順にかけていった変換がその一つになります。それを恒等写像に至るまで、重ねがけすることで、n個の自己同型写像が生成され、それらがn次の巡回群を構成しました。

これらを合わせると、有理数体から1の原始n乗根の体を経由して実n乗根の体に対してのガロア群は、n次巡回群を正規部分群として$\phi(n)$要素の可解群を重ねた、$n \phi(n)$個の自己同型写像がなす可解群となります。

1の原始5乗根のガロア群は元の個数が4と素数ではありませんでした。4次巡回群は、正規部分群として2次巡回群を持ち、その剰余群も2次巡回群になっていました。これは原始5乗根の値の冪根の構造と一致していました。

同様に、原始n乗根のガロア群は、n-1が素数でない場合、素数巡回群を多段に重ねた群になっていました。

たとえば、1の原始9乗根は、9と互いに素な自然数の数である6個の元で6次巡回群を構成しました。
これもやはり、6の約数である、3次巡回群と2次巡回群を重ねた群になっています。

これは、1の原始3乗根で拡大した体に、その原始
3乗根のさらに3乗根である$n1=\cos(\frac{2\pi}{9}) + i \sin(\frac{2\pi}{9})$)で拡大した体である、ともいえます。
つまり、$\sqrt[3]{2}$での体の拡大と同じやり方です。このため、ガロア群も同じ構造になるのです。


6. 方程式と自己同型写像の関係

まず、$\sqrt[3]{2}$の体の自己同型写像と、この数を生成する方程式$x^3 - 2 = 0$の関係について見ていきましょう。

この方程式の解は、1の原始三乗根$w$を使うと、$\sqrt[3]{2}$、$\sqrt[3]{2}w$、$\sqrt[3]{2}w^2$です。
この解自体は、組表現で表すとそれぞれ、$(0, 1, 0)$, $(0, w, 0)$, $(0, w^2, 0)$となります。

そしてこの体の自己同型写像は6つありますが、この解自体に対して、自己同型写像をそれぞれ適用してみましょう。

  • 恒等写像e => $(0, 1, 0)$, $(0, w, 0)$, $(0, w^2, 0)$
  • $g1: (a_0, a_1 w, a_2 w^2)$ => $(0, w, 0)$, $(0, w^2, 0)$, $(0, 1, 0)$
  • $g2: (a_0, a_1 w^2, a_2 w)$ => $(0, w^2, 0)$, $(0, 1, 0)$, $(0, w, 0)$
  • $f: w <=> w^2$ => $(0, 1, 0)$, $(0, w^2, 0)$, $(0, w, 0)$
  • $fg1$ => $(0, w^2, 0)$, $(0, w, 0)$, $(0, 1, 0)$
  • $fg2$ => $(0, w, 0)$, $(0, 1, 0)$, $(0, w^2, 0)$

と、$(0, 1, 0)$, $(0, w, 0)$, $(0, w^2, 0)$が6通りの入れ替りとなっています。
これら自己同型写像では、方程式の解はいずれも、それ以外の解でない数には変化しません。

そもそも「解のための体」の自己同型写像なので、解3つの組み合わせでは変わらないのですが、個々の解自体の変化は起きていて、それは解の順序の入れ替えになっているために、組み合わせでの結果では変わらない、となっている点には注意します。

よって、体の自己同型写像というのは、方程式の視点では、「方程式の解どうしを入れ替える変換」をするもの、となります。
逆の視点では、解の入れ替えを実現する変換が、自己同型写像となっているともみなせます。


つづいて、2の4乗根の方程式$x^4-2=0$で考えます。
この方程式の解は、$\sqrt[4]{2}$、$\sqrt[4]{2}i$、-$\sqrt[4]{2}$、-$\sqrt[4]{2}i$です。
この解自体を組表現で表すと、$(0, 1, 0, 0)$, $(0, i, 0, 0)$, $(0, -1, 0, 0)$, $(0, -1, 0, 0)$です。

自己同型写像は、原始4乗根iを添え字づつにかける4次巡回群と、iと-iを入れ替える2次巡回群を重ねたもので、8個あります。
この変換を上記の解4つへ適用します。

  • 恒等写像e => $(0, 1, 0, 0)$, $(0, i, 0, 0)$, $(0, -1, 0, 0)$, $(0, -i, 0, 0)$
  • $g1: (a_0, a_1 i, -a_2, -a_3 i)$ => $(0, i, 0, 0)$, $(0, -1, 0, 0)$, $(0, -i, 0, 0)$, $(0, 1, 0, 0)$
  • $g2: (a_0, -a_1, a_2, -a_3)$ => $(0, -1, 0, 0)$, $(0, -i, 0, 0)$, $(0, 1, 0, 0)$, $(0, i, 0, 0)$
  • $g3: (a_0, -a_1 i, -a_2, a_3 i)$ => $(0, -i, 0, 0)$, $(0, 1, 0, 0)$, $(0, i, 0, 0)$, $(0, -1, 0, 0)$
  • $f: i <=> -i$ => $(0, 1, 0, 0)$, $(0, -i, 0, 0)$, $(0, -1, 0, 0)$, $(0, i, 0, 0)$
  • $fg1$ => $(0, -i, 0, 0)$, $(0, -1, 0, 0)$, $(0, i, 0, 0)$, $(0, 1, 0, 0)$
  • $fg2$ => $(0, -1, 0, 0)$, $(0, i, 0, 0)$, $(0, 1, 0, 0)$, $(0, -i, 0, 0)$
  • $fg3$ => $(0, i, 0, 0)$, $(0, 1, 0, 0)$, $(0, -i, 0, 0)$, $(0, -1, 0, 0)$

この解を順に0,1,2,3とすると、恒等写像と、g1=(0 1 2 3)、g2=(0 2)(1 3)、g3=(0 3 2 1)、f = (1 3), fg1=(0 3)(1 2), fg2=(0 2), fg3=(0 1)(2 3)の入れ替えだけが、自己同型としてで可能になっています。
2の4乗根の体の自己同型にとっては、その他の入れ替えは不可能になります。

たとえば、2つの解の積を考えると、01 = 23 ($= \sqrt{2}i$)、かつ、 02 = -13 ($= -\sqrt{2}$)、かつ、 03 = 12 ($= -\sqrt{2}i$)の関係があります(項の数の和の偶奇性に注目)。
これによって、(0 1)、(0 3)、(1 2)、 (2 3)の4つの単独入れ替えでは、この等式の関係を保てず、不可能なことがわかります
(02=-13にこれらの変換をすると、等式の項の偶奇性が入れ替わり、等式が変化する)。

また、0 => 1 => 2 => 0のような3つの入れ替えも、02=-13にかけると、10 = -23と、矛盾するようになってしまうので、すべて不可能になります(等式の項の偶奇性が反転する)。
この種の変換は、(1 2 3)、(1 3 2)、 (0 2 3)、(0 3 2)、(0 3 4)、(0 4 3)、(0 1 2)、(0 2 1)の8通りあります(かけた数4つごとに2回転ある)。

(0 2 1 3)のように、偶数 => 偶数 => 奇数 => 奇数 => 偶数 => ...の巡回でも、02=-13にかけると、21 = -30のようになってしまい、入れ替え不可能となります(これもやはり、等式の項の偶奇性が反転する)。
この種の変換は(0 2 1 3)、(0 2 3 1)、(0 1 3 2)、(0 3 1 2)の4つあります。

4つの解の単純な入れ替えは4!=24個ありうるけれど、そのうちの4+8+4=16個の入れ替えは、$x^4-2=0$の解の性質を保てなくなり、不可能な入れ替えとなるのです。
この02 = -13の関係は、方程式$x^4-2=0$を変形すると($x^2-\sqrt{2})(x^2+\sqrt{2})=0$から、解の積02 => $\sqrt{2}$および13=>$-\sqrt{2}$となることに由来します。
これは、方程式の「解と係数の関係」からの、それぞれの係数の値がもたらした関係になっています。


しかし、一般的な4次方程式については、02=-13のような、自己同型を制限する関係を持つ想定ができません
一般の4次方程式の解について考える場合は、解の4!=24種の入れ替えパターン全部で自己同型が成立する場合について考えることになります。

ところが、4個の解のすべての入れ替え24種がなす群、4次対称群は、巡回群の多段重ねの可解群となっているため、(多段の)冪根を用いて一般解を表現できる、という結論になります。

具体的には、4次対称群というのは、単位元から始めて、2次巡回群、2次巡回群、3次巡回群、2次巡回群の順で剰余群となるように広げていくことで構成される群になっています。
以下は、3次巡回群まで広げたときの演算表です(正規部分群が左上にくる順に配置し、外側の3次巡回群が見えるよう区切った)。

(E) => (E,I) => (EI, JK) => (EIJK, STUV, WXYZ) => (EIJKSTUVWXYZ, eijkstuvwxyz)

*||EIJK|STUV|WXYZ|
=||====|====|====|
E||EIJK|STUV|WXYZ|
I||IEKJ|VUTS|YZWX|
J||JKEI|TSVU|ZYXW|
K||KJIE|UVST|XWZY|
-||----|----|----|
S||STUV|WXYZ|EIJK|
T||TSVU|ZYXW|JKEI|
U||UVST|XWZY|KJIE|
V||VUTS|YZWX|IEKJ|
-||----|----|----|
W||WXYZ|EIJK|STUV|
X||XWZY|KJIE|UVST|
Y||YZWX|IEKJ|VUTS|
Z||ZYXW|JKEI|TSVU|
-||----|----|----|

しかし、5次方程式の場合の解の入れ替え5!=120種でなす5次対称群は、その最外の2次巡回群となる剰余群をつくる正規部分群(60種がなす群、「5次交代群」と呼ばれる)が、巡回群を重ねた群になれない演算構造を持ちます。
このために、5次方程式は、べき乗根では一般解は表現できないことになります。

ただし、$x^5-2=0$がそうであるように、係数の値によっては解の入れ替え関係が制限されることになって、その制限された入れ替え同士が可解群の関係になれば、その方程式はべき乗根で解を表現することができます。
(可解な5次の規約方程式であれば、最も内側の正規部分群は5次巡回群になります)。


7. 定規とコンパスで描ける正多角形

正多角形を描くことというのは、複素平面上で、1の複素数の原始n乗根の(実部、虚部)の座標に点を打つことと同義です。

一方、定規とコンパスによって、有理数の和と積、および平方根が表現できます。
つまり、定規とコンパスで正n角形が描けるというのは、1の原始n乗根が平方根の繰り返し適用だけで構成された数になっている、ことと同義です。

平方根で拡大した体というのは、そのガロア群が2次巡回群になっている拡大体のことでした。
平方根を繰り返して拡大した体は、2次巡回群の入れ子であるため、その群の要素数は$2^n$となります。

一方、1の原始n乗根のガロア群の要素数は、nと互いに素なn未満の自然数の個数($\phi(n)$個)です。
nが素数の場合の原始n乗根のガロア群の要素数は、$n-1$個です。つまり、素数な$2^n+1$乗根は平方根だけで表現できることになります。
nが$2^k$の場合のガロア群の要素数は、$2^{(n-1)}$個(n未満の奇数の数)です。つまり、$2^n$乗根もまた平方根だけで表現できます。

互いに素なnとmの積に対して、オイラーのファイ関数での関係は、$\phi(n \times m) = \phi(n) \times \phi(m)$となっています。

$2^n+1$な素数は、3と5と17と257があります。
これらと、2の累乗の$2,4,8.16,32,...$、および、それらの一つづつの積であれば、その原始n乗根は、平方根のみで表現できることになります。

以下、それを満たす数を3から順に列挙すると、

  • 3, 4, 5, 6, 8, 10, 12, 15, 16, 17, 20, 24, 30, 32, 34, 40, 48, 51, 60, 64, 68, 80, 85, 96, ...

これらの数についての正多角形であれば、頂点の座標は平方根の繰り返し適用で構成された数であるため、定規とコンパスで描くことができるのです。


8. 対称性と群

数学や物理において、「対称性」というのは、「入れ替え操作に対して不変」であることを指します。

たとえば、図形の鏡像対称(左右対称)は、鏡映線の左右にある点を入れ替えても図が変化しないことからくる性質です。
回転対称は、図の中心点を固定して回転させても変わらない性質といえます。

すなわち、体に対しては、その関係を保存する入れ替えである自己同型写像こそが、体のもつ対称性を表したものです。
そして、この自己同型写像は、それらをすべて集めると、その間に群の演算関係が現れました。
よって、この群の構造を見ることというのは、その変換対象(の体)の持つ対称性の構造を見るためのツールとなるのです。

対称性である自己同型に対しての着目点には、たとえばここまでに以下のようなものがありました

  • 群のすべての事故同型写像で不変の要素を集めると、それだけで体をなす部分体になっていた
  • 解の体は平方根1つで拡大した体なら、自己同型写像は2次対称群だった
  • n乗根の体はすべて、1の原始n乗根の体から実n乗根で拡大した体であり、その自己同型写像の群は、n次巡回群を核に$\phi(n)$要素の可解群を重ねた群になっていた

この視点は、体に限らず、単なる集合や群そのものといった演算をもった系にも通用します。
空間への自己同型変換として正方行列を群として構成させることで、対称性を扱うこともできます。


付録: Python3で作る可解群

ここではpython3で、1のn乗根の体のガロア群を作ったやり方で可解群を作るプログラムを紹介します。
プログラムコードにすることで、nが大きい場合でも、自分でその構造を確認することができるようになります。

1のn乗根の体のガロア群の作りかたは、nと互いに素なn未満の自然数ごとに、入れ替え先の添字をその自然数倍してnで割ったあまりに移す自己同型写像で成す群でした。

まず、nと互いに素な自然数のリストを返す関数coprime(n)を用意します。
互いに素とは、最大公約数が1になることで、1自体も含みます。

import math

def coprime(n):
    return [i for i in range(n) if math.gcd(n, i) == 1]

続いて、添字を入れ替える自己同型写像を作ります。
ここでは、添字の置換を表現するために、sympyのPermutationを使うことにします。

Permutationを作るには、引数となる、置換の「巡回表現」となるタプルを作る必要があります。
こうして作ったPermutationのリストから、PermutationGroupを使って、1のn乗根の体のガロア群を作ります。

import itertools
import sympy.combinatrics as symg

def cycle(n, r, x):
    g = (r ** i * x % n for i in itertools.count())
    single = [next(g)] + list(itertools.takewhile(lambda v: v != x, g))
    minidx = single.index(min(single))
    return tuple(single[minidx:] + single[:minidx])

def permutation(n, r):
    cycles = [cycle(n, r, x) for x in range(n)]
    return symg.Permutation(list(set(cycles)))

def nth_root_galois(n):
    return symg.PermutationGroup(*(permutation(n, r) for r in coprimes(n)))

互いに素な数rごとに、o <= x < nについて、x自身に戻るまでr * x % nを繰り返し適用した巡回リストを作ります。
この巡回を集めたものから、重複を除去したものからPermutationが作れます。
互いに素な数それぞれについてのPermutation全部で、PermutationGroupを作ると、1のn乗根の体のガロア群になります。


続いて、このPermutationが自己同型写像であることを、チェックコードを動かすことで確認できるようにします。

まず、体の元は、1のn乗根の組表現として、n要素のタプルによって表現します。
要素は、$(a_0, a_1, a_2)$なら(0, 1, 2)として表現します(位置はタプルでの位置、添字は数のみ)。

続いて、この元同士の積を定義します。
結果の要素の積和形をリストとタプルで表現するようにします。

  • 例: $a_0 b_0 + a_1 b_2 + a_2 b_1$ => [(0, 0), (1, 2), (2, 1)]

1のn乗根の体の積は、添字の和をnで割った位置に来ます。
よって、まず、積項をその位置つきで作り、位置ごとにまとめることで実現できます。

def mul(a, b):
    n = len(a)
    ipairs = [((i + j) % n, (a[i], b[j])) for i in range(n) for j in range(n)]
    return tuple(sorted(p for idx, p in ipairs if i == idx) for i in range(n))

sympyのPermutationは関数的に使えば、数を入れ替えた結果を返すようになっています。
これを利用して、変換f(a)を作り、f(mul(a, b)) == mul(f(a), f(b))を検査することで、自己同型(automorphism)かどうか判定します。

def is_aut(n, p):
    f = lambda a: tuple(a[p[i]] for i in range(n))
    a = b = tuple(range(n))
    return f(mul(a, b)) == mul(f(a), f(b))

sympyのPermutationGroupgenerate()でそのPermutationを列挙されます。
よって、群ですべて自己同型かどうかは、

all(is_aut(n, p) for p in nth_root_galois(n).generate())

でチェックできます。

逆にn次対称群SymmetricGroup(n)Permutationからis_autでフィルタリングして、ガロア群を作ることもできます。
ただし、対称群の数n!個の中から選別するので、nが2桁になるととても遅いです。

def nth_root_galois_(n):
    sg = symg.named_groups.SymmetricGroup(n)
    return symg.PermutationGroup(*(p for p in sg.generate() if is_aut(n, p)))

またsympyのPermutationは、*によって掛け合わせた結果のPermutationを作れ、さらに==で同値性判定ができます。
これを利用して、かける互いに素な数rをラベルとした乗算表は以下のように作れます:

cps = coprimes(n)
g = nth_root_galois(n)
ps = list(g.generate())
muls = [[cps[ps.index(l * r)] for r in ps] for l in ps]

これを使い、markdown形式で1のn乗根の体のガロア群を表示させます。

def print_table(n):
    cps = coprimes(n)
    g = nth_root_galois(n)
    ps = list(g.generate())
    muls = [[cps[ps.index(l * r)] for r in ps] for l in ps]

    title = f"### [Galois-Group of {n}-root of unity (extended from rational)]"
    terms = zip(range(n), ["", "r"] + [f"r^{i}" for i in range(2, n)])
    num = "Element: `" + " + ".join(f"a{i}{r}" for i, r in terms) + "`"

    morphs = [f"- `f{cp}(x) = {cp}*x % {n} => {p}`" for cp, p in zip(cps, ps)]
    validity = f"Automorphisms: {all(is_aut(n, p) for p in ps)}"
    solvable = f"Solvable Group: {g.is_solvable}"

    r = range(len(ps))
    h1 = "|       |" + "|".join(f" {cps[i]} " for i in r) + "|"
    h2 = "|-------|" + "|".join("---" for i in r) + "|"
    lines = [f"| **{cps[i]}** |" + "|".join(f" {muls[i][j]} " for j in r) + "|"
             for i in r]

    out = (["", title, "", num, ""] + morphs +
           ["", validity, "", h1, h2] + lines + ["", solvable, ""])
    return print("\n".join(out))

実行可能なコード全体は、以下に置きました。

この結果は、以下になりました。


[Galois-Group of 2-root of unity (extended from rational)]

Element: a0 + a1r

  • f1(x) = 1*x % 2 => (1)

Automorphisms: True

1
1 1

Solvable Group: True


[Galois-Group of 3-root of unity (extended from rational)]

Element: a0 + a1r + a2r^2

  • f1(x) = 1*x % 3 => (2)
  • f2(x) = 2*x % 3 => (1 2)

Automorphisms: True

1 2
1 1 2
2 2 1

Solvable Group: True


[Galois-Group of 4-root of unity (extended from rational)]

Element: a0 + a1r + a2r^2 + a3r^3

  • f1(x) = 1*x % 4 => (3)
  • f3(x) = 3*x % 4 => (1 3)

Automorphisms: True

1 3
1 1 3
3 3 1

Solvable Group: True


[Galois-Group of 5-root of unity (extended from rational)]

Element: a0 + a1r + a2r^2 + a3r^3 + a4r^4

  • f1(x) = 1*x % 5 => (4)
  • f2(x) = 2*x % 5 => (1 2 4 3)
  • f3(x) = 3*x % 5 => (1 3 4 2)
  • f4(x) = 4*x % 5 => (1 4)(2 3)

Automorphisms: True

1 2 3 4
1 1 2 3 4
2 2 4 1 3
3 3 1 4 2
4 4 3 2 1

Solvable Group: True


[Galois-Group of 6-root of unity (extended from rational)]

Element: a0 + a1r + a2r^2 + a3r^3 + a4r^4 + a5r^5

  • f1(x) = 1*x % 6 => (5)
  • f5(x) = 5*x % 6 => (1 5)(2 4)

Automorphisms: True

1 5
1 1 5
5 5 1

Solvable Group: True


[Galois-Group of 7-root of unity (extended from rational)]

Element: a0 + a1r + a2r^2 + a3r^3 + a4r^4 + a5r^5 + a6r^6

  • f1(x) = 1*x % 7 => (6)
  • f2(x) = 2*x % 7 => (1 2 4)(3 6 5)
  • f3(x) = 3*x % 7 => (1 3 2 6 4 5)
  • f4(x) = 4*x % 7 => (1 4 2)(3 5 6)
  • f5(x) = 5*x % 7 => (1 5 4 6 2 3)
  • f6(x) = 6*x % 7 => (1 6)(2 5)(3 4)

Automorphisms: True

1 2 3 4 5 6
1 1 2 3 4 5 6
2 2 4 6 1 3 5
3 3 6 2 5 1 4
4 4 1 5 2 6 3
5 5 3 1 6 4 2
6 6 5 4 3 2 1

Solvable Group: True


[Galois-Group of 8-root of unity (extended from rational)]

Element: a0 + a1r + a2r^2 + a3r^3 + a4r^4 + a5r^5 + a6r^6 + a7r^7

  • f1(x) = 1*x % 8 => (7)
  • f3(x) = 3*x % 8 => (1 3)(2 6)(5 7)
  • f5(x) = 5*x % 8 => (1 5)(3 7)
  • f7(x) = 7*x % 8 => (1 7)(2 6)(3 5)

Automorphisms: True

1 3 5 7
1 1 3 5 7
3 3 1 7 5
5 5 7 1 3
7 7 5 3 1

Solvable Group: True


[Galois-Group of 9-root of unity (extended from rational)]

Element: a0 + a1r + a2r^2 + a3r^3 + a4r^4 + a5r^5 + a6r^6 + a7r^7 + a8r^8

  • f1(x) = 1*x % 9 => (8)
  • f2(x) = 2*x % 9 => (1 2 4 8 7 5)(3 6)
  • f4(x) = 4*x % 9 => (1 4 7)(2 8 5)
  • f5(x) = 5*x % 9 => (1 5 7 8 4 2)(3 6)
  • f7(x) = 7*x % 9 => (1 7 4)(2 5 8)
  • f8(x) = 8*x % 9 => (1 8)(2 7)(3 6)(4 5)

Automorphisms: True

1 2 4 5 7 8
1 1 2 4 5 7 8
2 2 4 8 1 5 7
4 4 8 7 2 1 5
5 5 1 2 7 8 4
7 7 5 1 8 4 2
8 8 7 5 4 2 1

Solvable Group: True

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