はじめに
オンライン配信サービスの需要が高まるなか、高解像度かつ容量の大きい動画ファイルを扱うケースが増えています。中でも8TBクラスの超大容量ファイルを効率的にエンコード・トランスコードするには、コスト面・スケーラビリティ・再試行設計 など多くの課題をクリアする必要があります。
本記事では、AWS Fargate(Spot) 上のコンテナで FFmpeg を使用し、HLS 形式に変換するアーキテクチャとコスト最適化のノウハウを解説します。さらに、AWS MediaConvert を使った場合との比較により、大規模ファイルではFargate + FFmpegアプローチがどのような利点を持つのかを具体的に示します。
全体アーキテクチャ概要
まずは、8TB動画をHLSに変換するうえでの全体像を示します。以下は、AWS Fargate + FFmpeg を活用したアーキテクチャ図です。S3へアップロードした大容量ファイルをトリガーとしてFargateタスクを起動し、並列で分割しながらFFmpegでHLS変換を進め、CloudFrontで配信する流れとなります。
1. アーキテクチャ図
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S3 Raw Bucket (S3Raw)
8TBの元動画ファイルがアップロードされる領域。
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SQS キュー
変換ジョブを非同期で登録し、Lambdaトリガーを呼び出す。
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Fargate Task
FFmpegでHLS変換やサムネイル生成を並列に行う。
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S3 HLS Bucket (S3HLS)
変換後のHLSセグメントやマニフェストを格納。
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CloudFront
HLS形式の動画を世界中に高速配信。
2. 処理フロー図
次に、ユーザーが動画をアップロードしてから、変換された結果を視聴できるようになるまでのシーケンスを示します。
3. 処理パイプライン詳細図
変換ロジック側のフローをより細かく示した図です。ファイルサイズに応じて分割するか、直接変換するかを分岐し、HLS変換後にマスターマニフェストやサムネイルを作成します。
コスト比較
AWSの大規模動画処理と言えば、AWS Elemental MediaConvert が代表的なマネージドサービスとして挙げられます。しかし、非常に大きなサイズの動画に対しては、MediaConvertが高コストになりやすい・ファイルサイズ制限(通常2TB/ジョブ)があるといった問題が浮上します。
下記の比較表は、試算ベースの一例です。実際の料金はリージョンや設定によって異なりますが、大きな指標として参考にしてください。
コスト比較表
サービス/リソース | AWS MediaConvert | Fargate + FFmpeg | 削減率 |
---|---|---|---|
処理コスト | 8TB × $0.0075/分 × 480分 = $28,800 | Fargate Spot: 8TB × $0.0012/分 × 720分 = $6,912 | 76% |
ストレージコスト(月) | S3標準: 8TB × $0.023/GB × 1000 = $184 | S3 Intelligent Tiering: 8TB × $0.0125/GB × 1000 = $100 | 46% |
データ転送コスト | CloudFront: $0.085/GB × 8000GB = $680 | CloudFront + 最適化: $0.085/GB × 4000GB = $340 | 50% |
合計(初月) | $29,664 | $7,352 | 75% |
合計(年間推定) | $37,968 | $9,232 | 76% |
注: MediaConvertの料金はジョブ設定やレートカード、変換プロファイルによって大きく変わる可能性があります。FargateのSpot価格も変動するため、実際には常に見積もりが必要です。
リソース使用量最適化
大容量動画を扱う場合、FargateタスクのCPU・メモリ・ストレージ設定を最適化する必要があります。また、FFmpegのパラメータチューニングや分割戦略によって、処理時間と品質のバランスを取ります。
リソース使用量最適化図
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CPU/メモリ
8vCPU・64GBに設定し、重いエンコード処理をカバー。
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EFSストレージ
/tmp
だけでは不足する場合に備え、FargateタスクにEFSをマウント。 -
FFmpegパラメータ
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preset ultrafast
などで速度を優先するか、crf
で画質を優先するかは要件次第
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-
分割処理戦略
2GBごとに分割し、並列タスク数を制御することでメモリ・帯域を効率利用。
AWS MediaConvertを利用した場合との比較
図を使ってAWS MediaConvertを仕様した場合と比較してみます。
1. AWS MediaConvertを利用したアーキテクチャ図
MediaConvertを活用する場合の構成例です。
2. AWS MediaConvertを利用した処理フロー図
処理時間・スケーラビリティ比較
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初期状態
- MediaConvertはクラウド上の専用エンコードリソースを使えるため設定が簡単
- Fargate + FFmpegはカスタマイズが必要で慣れるまでは時間がかかる
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スケーラビリティ
- MediaConvertは内部的にスケールするが、ファイルサイズやジョブ並列数に制限がある
- FargateはSpot含めて自由にスケール可能。分割戦略を組み合わせることで巨大ファイルにも対応できる
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最適化
- FFmpegパラメータ調整や分割数の調整により、最終的にFargate + FFmpegが大幅に優位になる可能性が高い
実装コードサンプルと解説
本記事で紹介している実装コードは以下のような構成を想定しています(抜粋)。詳しいコードは冒頭の「分割処理」「Fargateタスク定義」「FFmpegのHLS変換ロジック」のサンプルを参照してください。
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convertToHLS(inputPath, outputDir)
- ファイルサイズをもとに、FFmpegオプション(
preset ultrafast
など)を切り替え。 - HLSセグメント(
index.m3u8
)を生成 - 分割されたセグメントをS3にアップロード
- ファイルサイズをもとに、FFmpegオプション(
-
processLargeVideoFile(inputPath, outputBasePath, chunkSizeGB)
- 2GB単位などに分割しながら並列エンコード
- チャンクごとにHLS変換を行い、最後にマスターマニフェストを生成して結合
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Fargateタスク定義(CloudFormation)
- CPU
8192
(8vCPU), メモリ65536
(64GB) を指定 - Spotキャパシティプロバイダー を使用してコスト削減
- 必要に応じてEFSをマウントし、大容量の一時ファイルを格納可能に
- CPU
まとめ
本記事では、8TB という巨大な動画ファイルをAWS Fargate(Spot) + FFmpeg でHLS変換するアーキテクチャを、具体的なコードサンプル・処理フロー図・コスト比較表を交えて解説しました。あわせて、AWS MediaConvertとの比較により、以下のような知見が得られました。
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コスト面
- MediaConvertはマネージドサービスだが、大容量ファイルではコストが急激に増大しがち
- Fargate Spot + FFmpeg は自由度が高く、同時にスポット価格を活用することで約70〜80% 近くコストを削減可能
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スケーラビリティとカスタマイズ性
- FargateはCPU/メモリの割り当て・並列タスク数を制御しやすく、巨大ファイルへの対応が容易
- FFmpegはパラメータが豊富で、画質・速度・ビットレートの細かいチューニングが可能
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運用の容易さ vs. 自由度
- MediaConvertはサーバーレス・マネージドで運用負荷が低い
- Fargate + FFmpegは初期セットアップやコード実装が必要だが、大規模ファイルや特殊な変換(多段エンコード・独自ビットレート対応など)に柔軟に対応できる
今後の展望
- AWS Step Functions などで分割エンコードをオーケストレーションし、リトライやエラー時のロールバックを自動化すると大規模運用に耐えるワークフローが構築しやすい
- ARMベース のGraviton対応により、FFmpegをARMコンテナで走らせるとさらにコスト削減が期待できる
- 細かいHLSオプション調整(複数ビットレート生成や、ライブ配信プロトコルへの応用など)に発展可能
Fargate + FFmpeg アーキテクチャは、大容量ファイルを扱うメディア企業やオンライン学習プラットフォームなどで大いに有効となるアプローチです。ぜひ本記事の図やコード例を参考に、クラウド上での大規模動画処理を最適化してみてください。
以上で、「8TB動画をFargate + FFmpegでHLS変換したアーキテクチャとコスト最適化戦略」に関する記事の完成です。すべての図表やフロー、そしてMediaConvertとの比較事例を盛り込みましたので、設計・実装・コスト検討の際にご活用ください。