概要
chatGPT plus(GPT-4) で村上春樹風の文章を自動生成できるか試行します。
また、chatGPT(GPT-3.5) との表現力の差を確認します。
背景
これまで私は、AIによって村上春樹氏の作風を自動生成できないか試行してきました。
※過去の記事は「参考」を参照
2022年11月30日に自然言語モデルGPT-3.5がリリースされ、chatGPTに搭載され、誰でも簡単に利用できるようになりました。
さらに、2023年3月14日にはGPT-4がリリースされ、chatGPT plus(有償版)で利用できるようになりました。
一体、GPT-4ではどのくらい精度が向上したのか体感的に確認してみようと考えました。
試行
試行内容は、これまでと同様です。
お題
もしも村上春樹氏が企業の採用面接を受けたなら、どのように回答する?
以下の3つの冒頭で始まる場合、それぞれで回答すること。
- 「志望動機は~」
- 「前職では~」
- 「職務経歴書にありますように~」
私の期待は、村上春樹氏の小説のような独特の文章表現を使って回答が生成されることです。
村上春樹氏について
私が思う村上春樹氏の小説の特徴は、状況描写が細かくて分かりやすいという点です。
言葉で伝えるのは難しいのですが、細かいニュアンスを的確な言葉で描写することによって、かなり明確なイメージを頭の中で描くことができます。
例えば、擬音語や擬態語などで描写することによって、状況が頭の中でイメージしやすいです。
私の耳に届くのは、ワイパーの劣化したゴムが立てるかすれた音と、タイヤが濡れた路面を進む、しゃーっという途切れのない音だけだった。
また、洋楽やクラシック、小説、映画、オペラまで幅広い芸術作品が登場します。
私はシェリル・クロウのCDをプレーヤーから取り出し、そのあとにMJQのアルバムを入れた。
『ピラミッド』。
そしてミルト・ジャクソンの心地よいブルーズのソロを聴きながら、高速道路をまっすぐ北に向かった。
時には、具体的な地名も多く登場します。
西麻布の交差点から外苑西通りを青山に向かい、青山三丁目を右に折れて赤坂に向かい、あちこち曲がった末に四谷に出た。
chatGPT(GPT-3.5)での試行結果
試行はchatGPTに質問するだけです。
ベースとなる質問文は上記の通りですが、微妙に質問内容を変て数回試しました。
最も村上春樹風だった回答を掲載します。
◆質問と回答
黄色のマーカーをつけた箇所で、いずれも「~のように」と比喩表現を使い、村上春樹っぽさが出ていると思います。
最後の回答は、自分のキャリアを「独自のドラマを孕むストーリー」と表現していますが、「孕む」というデリケートな表現を面接で使いこなすのは村上春樹氏くらいでしょう。(実際に小説『1Q84』で登場しそうな単語だと思います。)
冒頭の比喩表現でインパクトを与えつつ、後続の文へとうまく繋げています。
細かい減点ポイントとして、文全体が「だからだ。」「~だろう。」と断定系になっている点があるため、さすがに面接での採用には至らないかもしれません。
それでも全体的には、お手本のような日本語で構成されており、素晴らしい文章だと感じました。
chatGPT plus(GPT-4)での試行結果
次は、GPT-4の結果を見てみましょう。
◆質問と回答
まず1つ目の「志望動機は〜」の結果ですが、さっそく、比喩表現が出ました。
「志望動機は、まるで夢の中を彷徨うかのような感覚」と言っています。この表現だけを切り取ってみると、面接ではアウトな感じがしますが、この伏線を次の文でしっかりと回収しています。
「夜空を照らす満月のように」「希望や願いを呼び起こします」と言っています。つまり、自分は夢の中を彷徨っているが、素晴らしい企業が自分を呼び起こしてくれると表現しているのです。
最後には、この満月の「光の導きもと」で、「冒険に挑戦し」「扉を開きたい」と締めくくっています。
あなたは詩人でしょうか? と聞きたくなる程の表現力と構成力を兼ね備えています。
文章全体でも丁寧語で統一されており良い感じです。
細かい減点部分としては、面接では本来「御社」と言うべきところを「この企業は」と第三者の立場で言っている点です。
あとは、志望動機がふわっとしていて具体性がない点でしょうか。
厳しい面接官だと、結局、何が言いたいの? と指摘されるかもしれません。
流用する場合はこの辺りを注意しましょう。
続いて、「前職では〜」の回答です。
こちらも最初から強烈な表現が飛び出しました。
「前職では、まるで時計の針が逆回りするかのような不思議な出来事に遭遇」
一体全体何があったのですか? と聞きたくなるほどに興味深い表現です。話の掴みとしては十分でしょう。
しかし、次の文では「そんな出来事の中で」とまさかの内容スルーです。面接官は気になって次の内容が頭に入ってこないでしょう。
続けて、「人々の心に潜む深い感情や欲望に触れ」「ストーリーを紡ぎ出す術を学んだ」との事です。
「欲望」や「紡ぎ出す」なんて言葉は、面接ではまず使わないですが、村上春樹ならではといった感じがします。
最後の文も普通は「機敏に」だけの表現だと思いますが、「まるで猫のように機敏に」と例えることで、聞いている側も想像力を膨らませることが出来ます。
冒頭でびっくりする表現が出ましたが、全体的に村上春樹らしさが出ていて個人的にも高評価です。
最後は「職務経歴書にありますように〜」の回答です。
こちらも冒頭の掴みで「現実と夢が交差するような」と村上春樹のファンタジーさが十分に出ています。
次の文で「人々の心の中に眠る無数の物語を紐解いてきた」という訳でですから、
あなたは一体何者ですか? と聞かざるを得ません。
さらには「異なる世界の住人たちと共に」と完全に行き過ぎた表現を使ってしまい、
さすがに面接官からは「ご退室願います」と言われてしまうでしょう。
考察
GPT-4での回答は、これまでのどのモデルよりも村上春樹風になりました。
前提が異なるので単純な比較は出来ませんが、ReformerやGPT-3モデルと比較すると飛躍的に向上したことが分かります。
Reformerの回答 「前職は〜」
前職は、責任者として日本食の地下の駐車場から外苑西通りを世界戦略と感じております。
GPT-3の回答 「前職は〜」
前職では、私はたいてい時間をそのままにしていた。それは私が仕事を終えて出社した時に、最初に私が言う言葉だった。『時間はそのままにしておいて』と。
GPT-3.5の回答 「前職は〜」
私が前職で経験したのは、まるで嵐のような日々だった。それでも、私は卓越したチームワークと、クライアントとの緊密なコミュニケーションを重視し、一歩一歩ビジネスの成功に向かって歩みを進めた。私は、それぞれの個性や才能を尊重し、信頼関係を築くことで、チームの力を最大化しようと努めた。今後も、私が積み重ねてきたそのような経験を活かし、新たな舞台で更なる高みを目指して歩んでいきたいと考えている。
GPT-4の回答 「前職は〜」
前職では、まるで時計の針が逆回りするかのような不思議な出来事に遭遇することがありました。私は、そんな出来事の中で、人々の心に潜む深い感情や欲望に触れ、ストーリーを紡ぎ出す術を学びました。この経験を通じて、状況に応じて柔軟に対応する力を身につけ、まるで猫のように機敏に動くことができるようになりました。
ReformerやGPT-3ではそもそも日本語として通じない場合も多くありましたが、GPT-3.5とGPT-4では素晴らしい日本語が生成できるようになりました。
GPT-3.5とGPT-4の違い
GPT-4で表現力は、明らかに向上しています。GPT-3.5は冒頭の比喩表現あたりしか村上春樹っぽさがなかったのに対して、GPT-4は至る所に豊かな表現が散りばめられ、文章全体に村上春樹らしさが出ていました。
課題
GPT-3.5もGPT-4も同じですが、具体例が出てこなかったのが気になる点です。
例えば、GPT-3.5の最初の試行結果に以下の内容があります。
ここで働く人々が革新的で、常に先進的なアイデアを追求していることにも強く共感した。
良文だと思いますが、根拠となる具体的な事までは言ってません。何が革新的なのか?どのような先進的アイデアなのか?本当の面接ではそこまで求められるはずです。
望ましいのは、実体験に基づいて「100名のチームを率いた」「10億円の売り上げを達成した」など数字を用いて具体例を提示することで、より説得力がでますが、現在のchatGPTでは出現しませんでした。
つまり、2023/3/26時点でのchatGPTの課題は、「村上春樹風に」のような抽象的な質問では具体的な回答を得られないということです。(質問文に「数値で具体例を入れて」とすれば、具体例での回答は得られます。)
人間社会でも同じですよね。
誰かに仕事を頼む時に「良い感じにやっておいて」と曖昧に伝えても、期待する結果になっているか分かりません。
しっかりした結果を求めるのであれば、より具体的に仕事を依頼する必要があります。
今後の自然言語系AI
一体、今後のAIは一体どのようになっていくのでしょう。
これまでは、世界は生成AIの精度向上を競ってきましたが、現在は、生成AIから欲しい情報を取得するためには、どのような質問(入力)を行えばよいのかという課題解決を競っているように思います。
言い換えると、「生成AIに入力する内容」を生成するAIの精度向上 が求められています。
この精度が高まると、普段の生活や仕事で活用しやすくなってくるはずです。
今後は、「良い感じにやっておいて」と人間に対して頼むのと同じように言えば、AIが本人の表情や声のトーン、身振り手振りの動作から状況を察して対応してくれるようになるでしょう。
もしかしたら今年中に何か変わるかも?そのくらい急速に技術の進化が進んでいます。
感想
chatGPTが登場して以降、高精度な自然言語処理を使えるようになりましたが、正直なところ私の気持ちは憂鬱でした。
その理由は2つありました。
1つは、これまで自然言語処理技術を追いかけてきて、新たな技術が出る度にワクワク感に満ちていましたが、ここまでの完成度に達すると、さらなる進化はないと考え、ワクワク感を味わえないと思ったからです。
もう1つは、これまで人間が行ってきた文章作成やソースコードの生成が不要になってくることで人間の存在価値がなくなってきている不安も襲い掛かってきました。AIに仕事を奪われるとよく言われますが、2023年はそんな大転換期の序章になると予想しています。
現在、求められている人材像はどのようなものでしょうか。
おそらく、ここ数年は生成AIを使いこなせる人材が求められているということでもあります。
chatGPTを使いこなして様々なタスクを効率よく行えるような人材が必要になってきています。
ただ、これも一過性のニーズで、将来的にはいつでも誰でも気軽に使えるAIが世の中に溢れてくるはずです。
(既に、MicrosoftからはOfficeにchatGPTベースのCopilotを導入すると発表がありましたので爆発的に普及するかもしれません。)
IT世界の住人の私としては、この先、どこに進むべきかを最近、よく考えます。
世の中は何となく、タスクはAIに可能な限り任せて、人間は人間本来の姿に戻って、以下のようなことを求めていくような気がします。
- 自然と触れ合って安らぐ(登山、散策)
- 体を動かして爽快になる
- 音楽聞いてリラックス、高揚感を得る
- 食べて美味しい(農業、釣り、狩猟)
そんな中で人間が味わう感動や楽しさを満たすための何かを提供し続けたいと思います。
以上、最後までお読みいただきありがとうございました。
もし、共感いただける部分がありましたらコメントや評価いただけると嬉しいです。
補足1
2023年3月26日時点でchatGPTで使われているモデルはGPT-3.5(2023/3/14版)のため、GPT-4ではありません。
GPT-4を利用するためには、chatGPT plusの有償契約が必要です。(20ドル/月)
※人気がありすぎて、リリース後しばらくはchatGPT plusの新規受付停止していましたが、再開したようです。
補足2
「課題」の箇所でも挙げましたが、2023年3月26日時点でのchatGPTの特徴は以下の通りです。
質問文が「村上春樹風で作成して」のように抽象的な場合、回答は一般的な言葉を使って生成されることが多いようです。
この事実は、chatGPTでは、世の中でたくさん使われている単語(GPTモデルの学習データに多く含まれる単語)が出現しやすいという傾向を示していると思います。
一方、質問文が「プロジェクトを成功に導いた根拠として、数字を使った具体例で作成して」のように具体的な場合、回答は具体的な言葉を使って生成することが可能になります。
注意点として、質問文で限定し過ぎた場合、chatGPTは頑張って何か生成してくれますが、その結果の正しさを評価した方が良いというのは、押さえておくべきポイントでしょう。
イメージ的には、chatGPTは、限定した質問の回答が見つからない場合は、様々なWebサイトからの情報を組み合わせるような感じで回答します。その回答って本当に合っているの?と疑った方が良いかもしれません。
Google検索との比較で考えると、Google検索ではキーワードをたくさん入れて、絞り込み過ぎるとヒットしませんが、chatGPTは無理矢理にでも回答を作ってしまうと思います。間違ってはいけない厳密な調査をする時などは「ヒットしない」というのを教えてくれるGoogle検索の方が安心できるという場面もあると思います。
参考
過去にReformerモデルとGPT-3モデルで試行した時の記事を紹介します。
(1)Reformerでの試行(2020/10/19投稿)
(2)GPT-3での試行(2021/4/4投稿)
(1)の時は、なかなかうまくいかず、形だけの表現という状態で日本語としての意味はなしていませんでした。
(2)で大きな進化を遂げ、ようやく日本語として普通に読める文章を生成できました。
-以上-